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4ー6 結の実力(1)


「よしっ終わり」


 結はずっと改造していた道具を机に置き、ふぅーっと溜め息をつくと、ふと壁にかけている時計を見た。


(もうこんな時間か……)


「あれ?美雪たちはどこにいったんだ?」


 結は道具の改造にそれほどまで集中していたらしく、美雪が雪乃を連れて部屋を出てった事にさえ気が付いていなかった。


 結は約一時間にも及ぶ時間、ずっとTの字の法具にある機能を加えていたのだ。


「それじゃ、これも記憶(・・)するか」


 結がずっと着ているのは、美雪や雪乃、小雪たちと同じタイプの和服だ。袖は長いタイプで色は黒だ。結は右手で左袖を捲ると、そこには銀色の腕輪をつけていた。


 左手の腕輪をつけたまま、チョンっとTの字の法具に当てると、激しい光を放ちその姿を綺麗に無くしてしまっていた。


「記憶完了っと」


(そういえば、美雪たちは姫の所か。……行ってみるか)


 結は美雪たちが姫の所に行ったことを思い出すと、おそらく六花衆(りっかしゅう)じゃどうにもならないと思い、両手に着けている腕輪型法具を確認すると、姫たちがいるであろう場所。姫の部屋に向かった。


(それに丁度良い。新作を試してみるか)


 結は姫の部屋に向かうスピードを上げてた。


 姫の部屋は、とある理由によって


 部屋の前につくと、部屋の中からは普通は聞こえてこないであろう音、何かと何かがぶつかり合う音や、破裂音、果てには爆発音まで聞こえてきていた。


(……ここって防音の部屋だよな?)


 姫の部屋は騒音がよく鳴り響くため、その対策として防音になっているのだが、防音なのに部屋の前にいる結にはその音がハッキリと聞こえていた。


 結はその音を聞いて、憂鬱そうに溜め息をつくと、両手でドアノブを握り、思いっきり扉を開けた。


「……やっぱりか」


 扉開けて結の目に映る光景は、結が思っていた通りだった。六花衆、つまり美雪、雪乃、小雪とあともう一人、合計四人の少女が、地面に突っ伏していた。


 この部屋は姫の私室なのだが、その広さはここの生徒たちが訓練をしている部屋と同じくらいの面積をもっていた。


「ゆ、ゆうー。遅いよー」


 結の声が聞こえていたらしく、ボロボロの姿で地面に突っ伏している少女の一人、雪乃は顔だけを起こすと、結にそう言った。


「遅いって、俺呼ばれなかったんだが?」


「ゆうが、作業に没頭してたからでしょー」


「……まさか来てた?」


 結は少し焦った顔で雪乃のそう聞くと、雪乃の結の目をまっすぐと見つめ、うんっと頭を縦に振った。


 結はマジかよと思いつつ、気まずそうな顔になると、再びはぁーっと溜め息をついた。


「……後は俺がやるから六花衆はみんな下がってくれ」


「了解っ!!」


「わかったにゃっ!!」


「承知しましたっ!!」


「了解だ」


「……おいっ」


 結が言った瞬間、今までボロボロの姿で倒れていた四人は、急にバッと立ち上がると、結に「後はよろよろー」「よろだにゃっ」「頑張ってくださいね」「楽しみだ」っとそれぞれ言うと、結と姫がこれからすることに巻き込まれないように、部屋の隅っこに移動していた。


 結は六花衆、つまり美雪たちの行動で思わす溜め息をつくと、早速両手首に着けている腕輪型法具を起動した。


「ほう。早速起動するのか?」


「当たり前だ。なんせ相手はお前だぞ?」


 結は突然目の前に現れ、そう言葉を掛けてきた少女に向かって、挑戦的な笑みを浮かべながらそう返した。


  結は両手首の法具に幻力を注ぐと、結の手元にさっきまでずっと改造をし続けていたTの字の法具が姿を現していた。


 結はTの縦のラインに当たる部分を、横のラインが小指側に来るように握った。


「ほう。それは初めて見るな、新作か?」


 結が発現させた法具を見て、少女は楽しそうに笑っていた。


「あぁ。ついさっき完成したやつでな。これはお前をモデルに作ったんだぞ?菜々(なな)


「私がモデルか。それは光栄だな結」


 菜々は左手を胸に置き、わざとらしく頭を下げた。


 六花衆は一人一人がSランク相当の実力を持った強者の集団なのだが、この少女、菜々はその美雪たち六花衆をいとも簡単に倒してしまうほどの強者だ。


 その外見を一言で言うとそれは『女神』に尽きる。世界中の男が望むような女性の姿。個人差はあれど全ての男を虜にしてしまう程の美貌。彼女の年齢はまだ結と同じ十歳だ。十歳にしてこの美しさ。その美しさは少女独特のあどけなさと共に、大人の女性が持っている色っぽさ、強さだけではない、この菜々という少女はありとあらゆる意味で規格外の存在なのだ。


 菜々は長い黒髪をポニーテールを靡かせていると、その手元にはいつの間にか、少女が持つとは思えないような剣、それも大剣が握られていた。


「さて、私から行かせてもらおう」


 菜々はそう言った瞬間、地面を力強く蹴り、一瞬、まさに刹那の間に結の懐に飛び込むと、両手で握った大剣を結に向かって振り下ろした。


「はっ!!」


 菜々は声を上げながら大剣を振り下ろすと、すでに結の姿はそこから消えてしまっていた。


「甘いっ!!」


 菜々は振り下ろした大剣の軌道を途中で変え、腰を回しながら大きく横になぎ払った。


 キンッ!!


 激しい金属音が鳴り響き、菜々の背後に移動していた結と菜々は鍔迫り合いをしていた。


「……やはり新作はそれか」


「あぁ。無力だった俺にお前が一から教えてくれた武器」


 菜々が大剣を振り下ろす際に出来る僅かな意識の隙をついて、菜々の背後に回り、まるでそこから消えたかのように移動した結は、Tの字の横のラインを伸ばしていた。片方は拳よりも数センチ前に出る程度。もう片方は肘よりも少し長い程度まで伸ばしていた。そう、その形は


「トンファー。出来るだけ早く自己防衛出来る程度の力を得させるために、防御を主体に戦闘を行うためにこの私自ら進めた武器だ」


 賢一の好意により、このT•G(トレジャーガーデン)に入学することになった結について、賢一はある不安を抱いていた。


 その不安とは零王についてでは無い。奏と共にいれば強いストレスや怒りなど感じるわけがないと賢一は奏のことを強く信頼していたのだ。


 賢一が感じていた不安。それはB•G(ブラッドガーデン)だ。


 十中八九B•G(ブラッドガーデン)を潰し回っていたのは結だろうと検討つけた賢一は、B•G(ブラッドガーデン)からの報復を警戒していたのだ。


 B•G(ブラッドガーデン)の本部は崩壊し、多くの支部も潰したとはいえ、それは全てでは無い。B•G(ブラッドガーデン)の残党が結のことを恨み、復讐をする。賢一はそのことを警戒していたのだ。


 だから賢一は奏にある指令を出したのだ。それが結の特訓。最低限自分の身を守ることが出来るほどの実力。


 残念なことに当時の結にあの圧倒的な強さを持っていた零王の面影は一ミクロンも無かったのだ。完全な素人。出会ってからたった数時間で、結の歩き方や癖、意識の運び方などからそのことに気が付いた奏は結にある武器を渡したのだ。


 それがトンファー。


 トンファーは元々攻撃よりも防御に向いている武器だ。主に刀を相手にする時に有効と言われているのだが、慣れれば結の防御能力が遥かに上がる。そしてその扱いを極めればそれは強力な武器にもなるのだ。


 手の中でトンファーを回し、その遠心力を利用した一撃はなかなかの威力を誇っているし、そもそもトンファーを武器にしている人は少ない。相手としてはトンファーを使った人間を相手にするのは慣れていないはずなのだ。慣れていないタイプと戦うのはだいぶやり辛いだろうし、そういう意味でも結にとってトンファーは最適だったのだ。


 この一年間の前半。半年間は奏と賢一の二人に朝から夜までみっちりと修行をしていたのだ。


 しかしT•G(トレジャーガーデン)にいる生徒たちと比べ、結の武術的センスはあまりにも低かった。結が特別低いわけではないのだが、このT•G(トレジャーガーデン)は賢一自ら才能ある子供を招いていたりするため、二組のほうは凡人も多くいるのだが、上位クラスの一組は天才の集まりだった。一組の平均的な実力はAランク相当だ。幻操師は本来Cランクで一人前とされるのだ。このT•G(トレジャーガーデン)一組がどれだけ異常な場所なのかは分かっていただけるだろうか?


 結のセンスは平均程度だったが、賢一と奏という世界レベルでトップクラスの実力を持つ二人に半年鍛えられた結果、その実力はCランク相当までになった。


 しかしCランクは幻操師の平均。B•G(ブラッドガーデン)の残党の中にはSランクの幻操師が少なくとも三人いるはずなのだ。もし彼らが来た場合、結は一瞬でやられてしまうだろう。


 しかし結のセンスではこれが限界だったのだ。


 Cランク相当の実力を得てからの結の実力はグラフにすると平行線。山も無ければ谷もない状態だったのだ。そしてその頃、賢一はT•G(トレジャーガーデン)を奏に任せ、F•Gに帰っていた。それと同時に奏は結の担当から外れていた。


 奏と賢一との修行が無くなった結は、美雪ら六花衆のところにいた。六花衆の四人。美雪、小雪、雪乃、雪羽(ゆきは)は四人で法具のブランドを作っていた。そのブランドの名前はスカイクラウド。この名前には、空に浮く雲のように自由な発想で作り出される法具という意味を込められていた。


 まだ結にだって伸び代はある。しかし体の出来上がっていない結は、幻力の量の関係もあって、この年齢での幻操師としての限界を迎えてしまっていた。


 だから結は幻操師としてではなく、六花衆の元、法具を作る幻操師。幻工師の修行をしていた。


 結は幻工師としての知識。幻操陣や幻操式などの専門的なことを教えて貰っている間、六花衆がスカイクラウドとして作った法具をよく分解していた。


 普通は法具を分解したとしてもその幻操式はその幻操式を書いた者が暗号化しているためそうそう簡単には知ることはできないのだが、これを作ったのは六花衆。つまり作った本人がそばにいるのだ。結果、結は六花衆の誰かを誘いよく法具の分解をしていた。


 これは何処かで聞いた話なのだが、日本人はどうやら一から作るよりも、すでに形になっているものを弄ること。つまり改造するほうが得意らしい。


 結は法具を分解している内に、それを改造するようになっていた。


 それから結はスカイクラウドの法具を片っ端から改造していっていた。


 今の結が両手首に着けている腕輪も結がスカイクラウドの法具を改造したものだ。


 そして結が奏から貰ったトンファーを改造して作った法具こそ、だった今結が使っているトンファーなのだ。


 トンファーとして展開させた結は、菜々の背後から一撃を加えようとするが、結が後ろに移動したことを意識ではなく勘で気が付いた菜々が振るった大剣を防ぐために、断念することになっていた。


「今まで様々な法具を使った結と戦ってきたが、トンファーを使った結とやるのは半年ぶりだな」


「そうだな。今までずっと負けてきたんだ。今日は勝たせて貰うぞ?」


「ふっ。出来るものならやってみろっ!!」

 評価やお気に入り登録、アドバイスや感想などどうぞよろしくお願いします。


 次の更新予定日は明日、25日の午前12時です。

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