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4ー5 一年後の今

 結がT•G(トレジャーガーデン)に入学してから、約一年の月日が経っていた。


 結が奏と始めて出会った部屋、第一訓練館の隣に設置されている部屋、第一作業館の一部屋で結は机と向かい合っていた。


 机の上には工業用の様々な道具が置かれており、机の中心にはTの字の物体が二つ置かれていた。


「結ぅー。出来たかにゃ?」


「ん?小雪(こゆき)か。どうしたんだ?」


「そろそろ出来たかにゃーっと思って、来ちゃったにゃー」


 後ろから首に手を回し、頭を結の首元に埋めるように抱きつく小雪に、結はデコピンをして離れさせると、Tの字の道具をもって、小雪に見せていた。


「んーまだまだ完成じゃないかな?もう少し幻操式を刻みたいからね」


 小雪は結にデコピンされた額を両手でさすりながら「結は本当に頑張り屋さんだにゃー」っと言った。


 にゃんという口癖と、真っ白の和服を着て、癖っ毛なのか、まるで猫耳のようにたっている、黒色の綺麗な長い髪を持った少女。


 結がT•G(トレジャーガーデン)に入学してから出来た友人の一人だ。


 トントン


 結はTの字の道具を小雪に渡し、小雪が丁寧な手使いでその道具を様々な角度から観察していると、室内にノック音が響いた。


「結さん。いらっしゃいますか?」


「ここにいるにゃー」


「なんでお前が返事するんだよっ」


「あうっ……」


「あっ。小雪もここにいらっしゃいましたか」


 道具を結に返した小雪は結にチョップされた頭を両手でさすりながらも、結の代わりに扉を開けていた。そんな小雪の頭をよしよしと撫でながらやって来たのは袖の短い、水色の和服を着て、黒髮のロングヘアを靡かせた美しい少女、美雪だった。


「そういえば小雪?」


「にゃあ?どうしたのにゃ美雪?」


「お嬢様がお呼びでしたよ?」


「にゃにゃっ!それは大変だにゃっ!結っ。にゃにゃ(私)は行くにゃっ」


 お嬢様に呼ばれていることを美雪に教えてもらった小雪は、猫耳をピーンと立てながら慌てると、わたわたしながら慌ただしく部屋を出て行った。


「完成したのですか?」


 結は小雪から返されたTの字の道具を再び弄っていると、美雪は結の後ろから首を伸ばして覗き込んでいた。


「まだだよ。なんか物足りないんだよなぁー」


 そう言いながら作業を中断した結は、椅子の背もたれに体重を乗せて思いっきり伸びをした。


「わたしの知識が必要でしょうか?」


「そうだなぁー。今欲しいのは知識というよりアイデアかな?」


「アイデアですか……」


 美雪は手を顎に当てながら腕を組むと、深い思考の世界に閉じ籠ってしまった。


「美雪?……はぁー」


 自分の世界に入ってしまい、声が一切届いていない様子の美雪に、結は溜め息をつくと、結もまたアイデアをひねり出そうと考えていた。


「バユウ。美雪見てないー?」


 考えること数分、ノックも無しに堂々と部屋に入って来たのは、結が奏と初めて出会った時に、世話係が奏に決まった際に文句を言っていた少女だった。


 美雪同様、袖の短い黄色の和服を着た、長い黒髮をサイドテールにしている少女、雪乃だった。


「入る時はノックしろよ。それと俺の名前はバユウだなんて名前じゃねえよ」


「はいはい、ごめーんちゃい?」


「ふざけるな。それと何故に疑問形?」


「なんとなく?」


 雪乃は、初対面の時のこともあってなのか、結の事を馬鹿プラス結でバユウという妙なあだ名で呼んでいた。


 とは言え、別に仲が悪い訳ではなく、いい意味で喧嘩友達のようなものだ。


「それで美雪に用があったんじゃないのか?」


「へ?あっ、そうだった。……って、まさか美雪はいつものアレ?」


「……アレだ」


 美雪の可愛らしいが悪い癖、それがこの長考だ。何かを聞かれてそれに応えられないと長い間考え込む癖があるのだ。ただ考えているだけならよく考えることはむしろ良い事なのかもしれないが、美雪の場合行き過ぎているのだ。なんせ長考している間は周りの声、いや音が何も伝わらないのだ。頭にチョップしても、肩を揺すっても気が付かないレベルだ。


「仕方ないなー。バユウいつものよろしくー」


「はぁー、分かったよ」


 結は椅子から立ち上がると、側で立ったまま固まっている美雪の正面に立つと、未だに考え込んでいる美雪の耳元にそっと顔を近付けると


「ふぅー」


 美雪の耳を傷めないように優しく息を吹き掛けていた。


「ひゃぁんっ!?」


「帰ってきたか?」


「ふぇ?あぅっ……うぅー」


 急に耳元に息を吹き掛けられて、思わす変な声を漏らしてしまった美雪は、思考の渦から出て来た途端に目の前に結の顔があることに気付き、俯いてしまっていた。


「おーおー。相変わらずやるねーバオウはっ」


「誰がバオウだっ」


 バオウ。これもまた雪乃が結につけたあだ名の一つだ。バユウというネーミングセンスからして、恐らく略された言葉は『バカ』と『オウ』つまり『王』だ。


「それはそもそも前提がおかしいだろ。俺は王じゃない。ただの平民だ」


 手を口元に当てて、ニシシと笑う雪乃の頭にチョップすると、雪乃の用件を聞いた。


 雪乃は、結に言われて自分が何をしに来たのかを思い出したらしく、突然慌て始めると、美雪に言った。


「姫が呼んでるー!!」


「はて?呼ばれていたのは小雪ではなかったのでしょうか?」


「最初はそうだったけど、小雪じゃダメでさー。アタシも役不足だしさー」


「何のために呼ばれているのでしょうか?」


「……一言で言うとそうだなー。……うん……姫の欲求不満(フラストレーション)対策?」


「……またか」


「……またなのですか」


「……またなんだよ」


 雪乃たちが姫と呼んでいる人物。彼女は幻操師としてこの世でトップクラスの力を持っているのだが、その年齢はまだ十歳だ。十歳といえば、物理世界では小学五年生だ。


 この世の中、才能を持った人間は個性が強いことが多い。いや、普通だから、それが常識だから、みんなやっているから、そういったものから抜け出し、本当の己を見つけた人間。それが才能ある人間というのではないだろうか?


 秩序無き個性は犯罪に繋がる可能性があるため、それは絶対にいけない。しかし、一般的に言われる普通なこと。みんながしていること。常識。そういったものを全て分かった上で、個性を出すことは良い事なのだ。


 普通を知る、それは良い事だ。


 常識人、それも良い事だ。


 皆と同じになる、それはつまり『全』になるということだ。


 しかし『全』でありながら、己がこの世にたった一人しかいない『一』であるということを忘れてはいけない。


 『全』でありながら『一』となる。『一』いやここでは『個』と表すのが正しいかもしれない。


 『全』というどこにでもあるような形にハマりながらも『個』を持っている人間、それこそが『天才』などと言われる人間なのではないだろうか。


 彼女は十歳という若さで『全』と『個』を知った存在。


 即ち『真の天才』だ。


 そしてその『真の天才』である姫の性格は『七変化』。つまり一つではなく、時と場合によって性格が七つを行ったり来たりする、ある意味特異体質だ。


「……あっ」


「ん?どうしたのバユウ?」


(姫の性格は『七変化』。時と場合によって変わる性格。そして性格とは心、幻操師にとって心とは力の源)


「雪乃ありがとなっ!!」


「え?な、なに?」


 雪乃のおかげで、いいアイデアが浮かんだ結は、雪乃の両手を両手で握りしめ、激しく上下に振った。


「痛いってばっ!!」


「あ、悪い……」


「よく分かりませんが、どうやらいいアイデアが浮かんだ様ですね?」


「ああっ」


 生き生きとしている結の表情を見て、美雪は満足気に頷くと、状況について行けずにオロオロしている雪乃の手を取って「結さんの邪魔はしたくありませんので、早く姫の所に参りましょう?」っと言うと、雪乃を引っ張って部屋を出てって行った。


 結が思い付いたのは今改造している道具の完成形だ。


 基本的な形態は一つ。しかし状況によってその能力を大きく変化させる。幻操師の戦いにおいて、最も大切と言っても過言じゃない要素。それは相性だ。相手によってより相性のいい力を発揮する法具。


(やってやる。俺は俺が出来ることを精一杯やり尽くしてやるっ!!)


 結は心の中で決意を新たにすると、たった今思い付いた事を実行するべく、作業に移っていた。

 評価やお気に入り登録、アドバイスや感想など、どうかよろしくお願いします。


 次の更新は次の月曜日。24日の午前12時を予定しております。

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