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追憶のプロローグ


 戦いの後、和解し共に行動を共にすることになった七実と九実は、二人が戦いを繰り広げていた草原から移動し、最寄りの(とはいえ数十キロメートルは移動しているのだが)街に移動していた。


「どうやって姉を探すつもり?」


「とりあえず、片っ端から街を回ってみようかなぁーって」


 二人の旅の目的は七実の姉を探す事だ。九実は七実と出会い、自分と対等に戦える相手を見つける事が出来たため、すでに目的の半分は果たしているようなものだ。


「九実は対等に戦えるあたしを見つけた訳だけど、その後は?」


「私は元々、力がほしかったから。それで今の力を得たけど試す相手がいなかったから」


「……それであたしを見つけたってこと?」


 七実の言葉に九実は心から嬉しそうに「そう」っと微笑みながら言った。








 七実たちが寄った街は海に面しており、街のいたるところに取れたての魚を食べさせる屋台が出されていた。


「さすがは海近くの街だねぇー」


「うん。お腹すいた」


「あれ?九実ってそんなキャラだっけ?」


「おかしい?」


「……いや、可愛いけどさぁー」


 街の中を当てもなく歩き回る二人は、いたるところにから漂ってくる、美味しそうな匂いに二人とも、特に九実は食べたそうにしていた。


「まぁー、だけどさぁー」


 今の二人が持っているお金は正直言ってあまりにも少ない。結果、まわりにこれだけ美味しそうなもの、例えは取り立ての魚を豪快に一匹まるまる串で刺して、少し焦げ目がつくまで焼き上げた魚に、その店の特製ソースをたっぷりと塗ったものや、網焼きした魚に擦った大根をのせ、これまた海でとれた魚を使って作った魚醤をかけたもの、果てには新鮮な魚をそのまま切って、刺身にしたり、酢飯と握って寿司にしたりと、様々なものを目の前にして、お預け状態にされてしまっていた。


「……お腹すいた」


「……あんまり言わないでよ……あたしまでお腹すくじゃん」


「……お腹すいた」


 何度も何度もお腹すいたと連呼する九実に、七実は両手を挙げて「うがぁぁぁぁぁあっ!!」っと叫ぶと、その場でクルリと回って九実の方を向き、ピシッと独特な指の指し方をした。


「稼ぎに行こっ!!」


「?」


 わからないっといった感じで、首をちょこんと傾げる九実に、七実はもう一度同じことを言った。


「だから稼ぎに行こっ。お金をっ」


「……え?」












 七実の提案の元、お金を稼ぐことになった二人は、仕事を探すために、この街の中心部にあるギルドガーデンに向かっていた。


 ギルドガーデンとは、街に一つ以上設置されている組織で、ギルドガーデンは一般的にはギルドと呼ばれているが、ギルドに入会することによって、そのギルドに届いている依頼をもらう事が出来るようになる。


 ギルドに届いている依頼は、この世界のいたるところにいるイーターと呼ばれる化け物の退治や、行商人などの旅の護衛など、多種多様な依頼がある。


 それだけの豊富な種類があれば、その依頼の難易度もまた多種多様だ。ギルドとは依頼する側と受ける側の仲介役になるのだが、もし受けた側の実力が足りずに、任務を失敗してしまう可能性を少しでも軽減するために、ギルドにはクラスというものが存在している。


 クラスは上から順に、1st(ファースト)2nd(セカンド)3rd(サード)っと分かれており、新入会者はまず最下クラスの3rd(サード)に入ることになる。


「おっ邪魔しまぁーす」


「お邪魔します」


 七実は元気に高らかと、九実は静かにそれぞれギルドの扉を開き、中に入ると、そこには鼻がツンとしてしまうほどに漂うお酒の臭いと、ガンマンドラマに出てきそうな酒場のような空間が広がっていた。


「うわぁー」


「……臭いよぉ」


 ギルドに入った二人は思わすうっと声を漏らしてしまっていた。


 表情を悪くしながらも、二人は出来るだけ表情に出ないように我慢して、入り口から真っ直ぐ行ったところにある、カウンターに向かった。


 カウンターには一つの窓口につき一人の女性が座っていた。


「こんにちはー」


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」


 七実たちかカウンターにいる女性に話しかけると、今までなにかの書類を書いていたのか、手元を動かしながら下を向いていた女性は、パッと顔を上げると同時に、花が咲くかのような満面の笑みになって言った。


「新規登録者を二名分お願いしまぁーす」


「新規登録ですね?承知しました。ではこちらの書類に必要筆記事項の記入をよろしくお願いします」


 受付の女性から書類を受け取った二人はそれぞれ「はーい」「ん」っと返事をすると、同時に渡されたペンで必要筆記事項を埋めていっていた。


「終わりました」


「それでは次にこちらに手を乗せて、幻力を注いで下さい」


 受付の女性は、そう言うとカウンターの端に設置されている、水晶に手をやっていた。七実と九実は「分かりました」っと言いながら、七実、九実の順で順番に手を乗せて、幻力を注ぐと、受付の女性がなにかの操作をした後、「どうぞ」っと言いながら、二人に一枚ずつカードを渡していた。


「そちらはステータスカードと言いまして、ギルドガーデンに所属していることを証明するためのものです。同時に所有者のランクを示すものともなりますので、管理はしっかりとよろしくお願いします」


 渡されたカードには、二人とも同じようにローマ数字の三が刻まれていた。一度目の発行は無料だが、二度目からは有料になるらしい。


「おいおい、いつからここはお嬢ちゃんが来るような遊び場になったんだ?」


「誰?」


 カードを受け取り、カウンターとは別の場所に設置されている依頼の詳細が書いてある紙が貼られているボードに行こうとすると、突然後ろから声をかけられていた。


 七実はいざっこれからお金を稼ぎに行こうと意気揚々としているところに、突然声を掛けられてイライラしながら振り返ると、そこにはニマニマとした癇に障る表情を浮かべた三十歳ぐらいの男が立っていた。


「悪りぃーことは言わねえ。お嬢ちゃんみたいな子供が来るような場所じゃねえぞ?んん?」


「うるさいなぁー。あんたに関係ないでしょ?」


「ほほう。なかなか生意気なお嬢ちゃんじゃないか。現実というものを教えてやった後に、じっくりと可愛がってやろうか?んん?」


 七実の言葉に怒ったのか、男は苛立ちを露わにした表情で七実にそう言うと、ニマニマとしたいやらしい目で七実のことを見ていた。


「ねえ」


「なんだいお嬢ちゃん?お嬢ちゃんも来るか?」


 九実はそんな男に声を掛けると、スッと右手を上げて男の顔を指差していた。


「邪魔」


 九実は静かにそう言うと、すぐさまその指に幻力を集中させ、一つの術を発動していた。


指月(しげつ)


「ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 九実が術を発動すると同時に、九実の指の前に直径三センチほどの小さな幻操陣が出現すると、そのなかから細長い純白の光が溢れ、その光は男の顔に真っ直ぐ伸びていき、次の瞬間、男を真後ろに大きく吹き飛ばしていた。


「私の女に手を出さないで」


 吹き飛んだ男に九実は静かに近付くと、倒れている男の頭を足で踏み付けながらそう言い捨てると、最後に男の腹を蹴って気絶させ、スタスタと七実の元に戻っていた。


「うわぁー。九実ってば、えげつないことするねぇー」


「加減はしたよ?加減抜きならあそこに頭はない」


「……まぁー、そうだと思うけどさぁー」


 最初の一撃をモロに喰らって、すでに戦意喪失していた男の頭を踏みつけるどころか、追い打ちまでして気絶させた九実の鬼畜加減に、七実は少々呆れていると、二人は何事もなかったかのように、当初の目的だったボードで気に入った依頼がないか、探していた。


 ちなみに、ギルドの中にいた他の人間は、男が声を掛けた時は「またかよ」「また新人イビリかよ」などと心配そうにしていて、九実が声を掛けると「あの子はなんて馬鹿な事をっ!!」「あら、あの子好みだわー」などと、一つおかしいのがあるような気もするが、とりあえず心配そうにしている声が確かにあったのだが。


 九実が男の顔面に『指月(しげつ)』を放った瞬間、皆、口を顎が落ちるんじゃないかと思うほどに開けて、驚愕していた。


 そして、九実が男の頭を踏み付け、最後に気絶させるのを見た瞬間「悪魔だっ」「踏まれたい」「な、なんでしょうかこの感覚は……」「……ポッ」などと、狂気とも感じられる事を囁かれていた。


 そんなこともあり、周りの人間が固まっているのをいいことに、七実と九実の二人は、じっくりとボードを見ていると、突然ギルド内に大きな声が響いていた。


「ねぇ。君たち初日からなに暴れてんの?」

 

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