3ー23 花の名を冠する者
見た者全てに、思わず天使を想像させてしまうような、純白の美しい翼を背中から生やしている結は、翼を一度、バサリっとはためかせると、突然翼は光り輝いたかと思うと、次の瞬間、翼の色と同じ純白の光の粒子となって拡散してしまっていた。
「……結、それはなに?」
天使の翼。A•Gを思わせる姿になっていた結に向かって、麒麟は無理やりにでも答えを今すぐ聞きたいと、高ぶる心を押さえつけながら冷静に、しかしどこか苛立ちを感じる口調で言った。
「……」
結はなにも答えなかった。結は麒麟を無視しようと思ったのではない、麒麟の言葉が結に届いていなかったからだ。今の結は、周りを気にする余裕が無かった。結自身、今の状況に混乱していたからだ。
(言葉にしようとすると口調が変わる。自分であって自分ではない感覚。これはジャンクションなのか?だが、こんなジャンクションが四人の女神の中にあったか?)
結は混乱する心を抑え、今の自分を分析していた。
(……いや、ない。これは四人の女神じゃない。これはーー)
「結っ!!私を無視するなんていい度胸だねっ!!」
麒麟の言葉に気付かず、思考の渦に捕らわれていた結の態度に、無視されていると思った麒麟は、苛立ちを隠せていない口調と態度で、『電磁加速中黄砲』の銃口を結に向けた。
「っ!?」
麒麟はそのまま、結に、狙いを定めて引き金を引くと、それに気が付いた結は、回避しようとするが
(だめだ。回避はもう間に合わない。……それならっ)
結は手の中に、刀身も鍔も柄も全てが純白の刀を呼び出し、その刀を片手で握った右手を自分の左手側にもっていくと、右に払うように刀を振るい自分に向かっている麒麟の『電磁加速中黄砲』の弾丸を斬っていた。
「なっ!!」
絶対の自信を持つ『電磁加速中黄砲』による攻撃が、回避されるならまだしも、斬られるという想定外のことに驚き、麒麟が固まっていることを利用し、結は自分自身に起きていることの分析を続けていた。
(この身体能力。……俺はこれを知っている。そう、これはーー)
「ーー結花」
「……結花……」
「そう、私の名前は結花。花の様に咲き誇る。才能を持った結、それが私」
「結花……結花……そっか。そういうことか。結、君のジャンクション状態。そうだね名付けて『ジャンクション=結花』。その姿こそ、A•Gのボスってことだねっ!!」
麒麟は結のジャンクション状態、結花こそが、自分が探していたA•Gのボスだと考えると、『電磁加速中黄砲』を構え、結に向かって連射した。
(麒麟の『電磁加速中黄砲』の攻撃スピードはあまりにも高い。だが、結花は戦いに才能を集中させた、幻操師として咲き誇るために、俺が最初に作った幻人格だ。その程度じゃ止まらない)
「なんでっなんでっ!!なんで当たらないのっ!!」
結は結花の身体能力の使い、麒麟の銃撃をいとも簡単に斬り落とすことによって防いでいると、自分の攻撃が通用しないことに苛立ちを隠せずにいた麒麟は叫び始めていた。
「当たれっ当たれっ当たれっ!!」
「どうしてA•Gを狙う?」
「そんなの決まってるっ!!妹の敵討ちだよっ!!」
「復讐?」
「そうだよっ!!復讐だよっ!!」
「それならどうして、犯人ではなくA•Gを狙うの?」
「えっ?」
結の言葉に、目を見開き驚く麒麟をおいて、結はさらに続けた。
「あなたの妹を殺したと言っている時期ではすでにA•Gは存在していません」
「ど、どういうこと?」
「念のため確認しますが、あなた方が襲撃を受けたのは今から一年以上前ですか?」
「……ううん、違う。まだ、一年は経ってないよ」
「ならばそれはA•Gの犯行ではありません。何故なら今から一年と少し前に、A•Gもまた何者かの襲撃を受けてしまいましたので」
「……襲撃?……でも……あっ、そ、そうだ。生き残りが……」
「A•Gのメンバーはその時全滅しました」
結の言葉に、麒麟は両手で頭を抱え、何度も何度も首を横に振りながら、「違う……そんなわけない。嘘だよ……私は……」っと虚ろな目をして、ぶつぶつとつぶやいていた。
「ど、どうして?」
「なにがですか?」
虚ろな目をしたまま、顔だけを結に向けると、麒麟はそう結に問い掛けた。
「どうして、そんな事言い切れるの?」
麒麟の問い掛けに、結は小さく「……仕方がありませんね」っと小さく溜め息をつきながらつぶやくと、その理由を麒麟に話し始めた。
「私は、元A•Gの主要メンバーの一人でしたので」
「っ!?……いや、驚くこともないよね……そっか、そうなんだ。でもそれじゃ信憑性は一気になくなるね」
「……どうしてですか?」
結の問い掛けに、麒麟は少し壊れたかのような笑みを浮かべると、どこも見ていないかのような目で答えた。
「だって、それじゃただ仲間を庇ってるだけかもしれないよ。それに結、君が実行犯かもしれない。あの白い仮面の者の正体かもしれないでしょっ!!」
麒麟は大声で叫ぶと、今まで降ろしていた、『電磁加速中黄砲』を構え、しっかりと標準も合わせないまま、連射を始めた。
「アハハハハハっ!!」
(……どうやら、自分の心を見失ったようだな)
「アハハハハハ、私の『電磁加速中黄砲』は最強っ!!結っあなたに勝ち目なんてないよっ!!」
麒麟の心装『電磁加速中黄砲』は確かに強力だ。しかしどんな強力な武器だって、それを操る者の実力が低ければ意味がない。心装とは己の心を纏い装備すること。心が壊れかけている今の麒麟ではそもそも『電磁加速中黄砲』の力を引き出す事なんて到底できない。
そして、心を見失っている麒麟は技術を行使せずに、ただ力任せに武器を振るっているだけの子供だ。
だから、脅威にはならない。
(とはいえ、スピードは拳銃とは比べ物にならないぐらい速い。力任せってことは言い換えると、がむしゃらということだ。あのスピードの弾は予め弾道をある程度予測しなければ回避も斬るのも間に合わない。だが、がむしゃらな相手ではそれも難しい。……仕方ない)
結は安全かつ確実に麒麟を抑えるための覚悟をすると、心力を背中に集中させながら、刀を握っていない左手を胸の前で固く握りしめていた。
『心操、六月法=朧月』
結が固く握りしめていた左手を、開きながら勢い良く外に向かって振るうと、その動きに誘われたかのように、結の背中から二枚一対の純白の翼が生えていた。
(朧月の効果は、俺の全ステータスを数段階上昇させることだ。今の俺なら予測無しの後手になったとしても十分対応できるっ!!)
「アハハハハハっ!!」
結は未だに、『電磁加速中黄砲』をがむしゃらに撃ち続けている麒麟の銃弾を時には避け、時には斬り落とし、全ての銃弾を捌き切っていた。
そして自分の刀の届く間合いまで近付くと、刀を一閃した。
「あなたにはその白い仮面の者について聞きたい事があったけど……仕方がありませんね」
麒麟は結に自分の心装を真っ二つにされた反動で、気を失うと、その場に倒れる前に結は優しく抱きとめ、その場に寝かせていた。
(心装は己の心の一部を武器として装備すること。その心装が壊されれば術者は心にダメージを受けることになる。壊れることはないけど、次目覚めるのはいつになるのか……)
F•GのFランク幻操師、音無結とH•Gのマスター、麒麟、……いや黄龍との戦いは、こうして結の勝利で終わった。
一方その頃。H•Gの守護者たちを倒した春姫と火燐の二人は合流することに成功していた。
「しかし、結は大丈夫なのか」
「きっと大丈夫なの」
春姫と合流する寸前まで、すぐにでも結の手伝いに行こうしていた火燐は、余程心配なのかソワソワと不安そうにしていた。
そんな火燐に春姫は安心させるため、強く結の勝利を信じて疑っていなかった。
そもそも二人がなにをやっているのかというと、火燐は結の手伝いに行こうとしていたのだが、その前に合流した春姫の提案で、麒麟のことは結に任せて、その間に今回の目的R•Gのマスター、双花を探すことにしていたのだった。
「しかし、陽菜と六花はどうしたのだ?まさか……」
「それは大丈夫なの。戦闘の形跡があった部屋にH•Gの守護者が二人別々の場所で倒れてたの。つまり二人とも戦いには勝っているの」
「ならばあの二人はどこで何をしているのだ?」
「わからないの。でも多分私たちと同じなの」
「つまり、陽菜と六花は二人で一緒に、または別々で双花様を探しているということか」
春姫の「きっとそうなの」っという返事を聞き、納得した火燐は春姫と二人、双花のことを探していた。
春姫と火燐の二人は所構わずに扉という扉を全て開き、中の確認をしていくと、ある疑問に思い至っていた。
「春姫これは……」
「そうなの。これはあまりにも人影がなさすぎるの」
春姫と火燐が双花を探し始めてから、すでに三十前後の扉を開いているのだが、双花はもちろんのこと、H•Gの生徒にすら一人として会わないのだ。
「麒麟が予め避難させたということか?」
「……もしくは」
春姫の不安気な顔を見て、はっと春姫と同じ可能性に気が付いた火燐もまた、不安そうな顔をしていた。
「R•GかF•G、あるいはその両方に奇襲をかけているのか?」
「その可能性が高いの」
「しかし、R•Gにはアリスがいるはずだ。アリスはSランク、相当の実力者だ。H•Gのマスターと守護者はここにいるからな。ただの生徒になら負けることはあるまい。それに一花様だっておられるはずだ。F•Gに至っては全学年の中で最強と呼ばれているらしい、中等部一年の生十会がいる。心配する必要などないな」
不安そうにしている春姫に、火燐は無理やり笑顔を作ると、安心させるかのようにしていた。
「くす、大丈夫なの」
「ふっそうかならばいい」
「早く双花様を見つけるの」
火燐の言葉が効いたのか、笑みを浮かべた春姫は、火燐にそう言うと、二人で双花の探索を再開していた。
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