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3ー22 麒麟の過去

 麒麟は今までのどこか子供っぽい雰囲気とは一変し、その顔に激しい憎悪を浮かべていた。


「私に傷を付けるなんて許さない。万死に値するっ!!黄龍」


「ちっ!!」


 麒麟は今まで以上に激しい電撃を『電磁加速中黄砲(セイレールガン)』に纏わせると、今まで以上の弾速でそれを撃ち出した。


「間に合えっ!!『土白壁(どはくへき)』」


 結は麒麟が攻撃しようとしているのを素早く察知すると、さっきまでとは桁違いに幻力が上昇しているため、『物質硬化』の掛かった槍だけでは不安が残ると考え、防御用の幻操術を発動した。


 結の前方に白い光を纏った土の壁が現れるのと、麒麟の『電磁加速中黄砲(セイレールガン)』が雷撃を放つのはほぼ同時だった。


「ああああああっ!!」


 狂ったように『電磁加速中黄砲(セイレールガン)』を連射する麒麟だったが、結は麒麟のレールガンによって壁が削られるたびに、その上から再び壁を出現させて補強するを繰り返していると、落ち着いたのか、麒麟の叫び声と銃撃音が止んだ。


「はぁー、はぁー、はぁー」


 結は壁の端から、息切れしている麒麟の姿を目視すると、観察をしていた。


(怒りで一時的に幻力が上がることはあるっちゃあるが、それにしては上昇率が桁違い過ぎる。それになにより、麒麟の力が爆発的に上がる瞬間、麒麟はなにかをつぶやいていなかったか?……まさか、麒麟のやつ名持ち(・・・)か?)


 結は麒麟を観察して、とりあえず思ったことを纏めると、麒麟に対して対話が可能かを確認しようとしていると


「全く、私もまだまだ子供だなー」


 そんな麒麟のつぶやき声が聞こえた。


「はぁー、全く嫌になっちゃうよ。ちょっと傷付けられちゃっただけでこんなに我を失っちゃうなんてさー」


 結は、たった今自分がとった行動に落ち込んでいるかのように小言を漏らしている麒麟と対話が出来そうだと判断すると、今まで隠れていた土白壁(どはくへき)の後ろから出ると麒麟に声を掛けた。


「本気で戦っている相手にこんなこと言うのもアレなんだが、大丈夫か?」


 たった今、ガーデン同士の抗争として本気で戦っていたにも拘らず、しかも相手は結にとって大切な人である双花を連れ去った張本人だというのに、自分の心配をする結に若干毒気を抜かれてしまった麒麟は、「こんな奴相手にマジギレしちゃうなんて……私のばかばかばか」っと力無くつぶやいていた。


「はぁー、本当に君が相手だと調子が狂うなー」


「敵とは言え麒麟も女の子だからな、それに双花は無事らしいしな」


「……え?なにそれ私が女だから手を抜いてるの?しかも双花様が無事だって私の言っていることを信じたの?」


「麒麟と戦っていてわかったんだ。お前は本来、こんなことをする人間じゃない、誰になにを吹き込まれた?」


「っ……さあね」


 麒麟は結の全てを見透かすかのような目に一瞬強張ると、すぐに結から視線を逸らし誤魔化すかのようにつぶやいた。


「麒麟、一体なにを考えている?」


「……いいよ。そこまで言うなら教えてあげるよ。私の過去を」


 麒麟は、結の真っ直ぐな眼差しに負けたかのように、自分の過去を話し始めた。


「私には一つ年下の妹がいたんだ。私たちは仲が良くて、いつも一緒幻操師として互いを高め合っていたんだ。幸せだった、まだ幼くてガーデンには所属してなかった私たちは自分たちでガーデンを作ったんだ。皆が幸せになれますようにと願いを込めたガーデン、それがこのH•Gだよ。私たち姉妹の名前は一部ではそれなりに有名になっていった、そしてH•Gも少しずつだけど繁栄し始めてたんだ。それなのに……あの事件が起きたんだ……」


 麒麟はそこまで語ると、悔しそうに強く握り拳を作りながら続きを話し出した。


「今から約一年前のある日、いつも通り私と妹は二人で訓練してたんだ。そうしたら突然ロングコートと仮面を着けた集団が現れるたんだ。突然の侵入者に私たちは抵抗した。最初はどうにか渡り合っていたけど、突然奴らの背中から天使の様な翼が生えてんだ」


「……天使の……翼……っ!?」


 天使の翼、それは三年間前から二年間だけ活動していた幻操師のグループ、通称A•G(エンジェルガーデン)のシンボルとも言えるものだ。


(まさか……A•GがH•Gを襲撃した?……いや、ありえない……そんな訳……)


「翼が生えた途端、奴らの力はありえないくらいに上がったよ。そして奴らは突然撤退を始めたんだ……最初は良かった思った、正直これ以上やっても勝ち目なんて見えなかったもん……けど仲間の安否を確認していたら、ある報告が入ったんだ。白い仮面(・・・・)を着けた奴に、妹が……私の妹が殺されたったねっ!!」


「っ!?」


 憎しみの篭った声で叫ぶ、麒麟の瞳からは涙が流れていた。


「それだけじゃないっ!!奴はっ、奴はっ、妹の亡骸までも幻操術で消滅させたんだっ!!」


「……それをやったのは、もしかして……」


「そうだよっ!!私は調べたんだっ!!天使の翼を持つ集団をね。そしたら一つの答えに辿り着いた。そう……私の妹はA•Gに嬲り殺しにされたんだっ!!」


 麒麟の目からは大粒の涙が滝のように溢れていた。


「他のみんなは無事だったのに……どうして?どうして妹が死ななければいけなかったの……。だから私は決意したんだ。必ず、必ずこの手でA•Gに復讐をするって!!」


「な、なんでA•Gに復讐するためにR•Gを、双花を襲ったんだっ!!」


 A•Gが憎いはずなのに実際に麒麟が襲ったのはR•Gだった。そんな筋の通らない話に結は問いただすと、麒麟は答え始めた。


「情報をもらったんだ。R•Gのマスター、夜月双花は昔、A•Gと交流があったってね」


「なっ!?」


「それだけじゃないF•GにA•Gを統べるリーダーがいるって情報も貰ったっそのリーダーは夜月双花と親しかったって情報も貰ったんだっ!!だから私は夜月双花を囮にしてそのリーダーを炙り出そうとしたっ!!それなのに、それなのにっ!!なぜ、なぜ現れないっ!!なんで現れないんだっ!!」


 麒麟は『電磁加速中黄砲(セイレールガン)』に膨大な心力を注ぎ込むと、A•Gのリーダーが現れず自分の思い通りに事が進まないことに対するイライラをぶつけるかのように、結に向かってレールガンを発射した。


「ちっ!!」


 結は身を投げ出すようにしてレールガンを躱しながは、様々な事を考えていた。


「もういい、もういいんだ。囮なんてもういらない。一年も我慢したんだよ。我慢できないよ……もう私が直接F•Gに乗り込むしか無いのかな……」


(……麒麟、心が壊れかけている?……あれ?そういえば麒麟はなんて言った?……白い仮面?)


 結は麒麟の心が壊れてしまったのではないかと危惧するが、それと同時に自分の心が大きく揺らいでいることに動揺していた。


「もう出し惜しみなんてしない、見せてあげるよ。これが私の真名解放『黄龍』」


 真名解放。それは訓練次第で血の滲むように努力すれば大体の幻操師が至ることのできる心装とは違い、特定の人物だけが行うことのできる技術。


 人の名前というものには様々なものが刻まれている。それは運命であったり、魂であったり目には見えない大きな流れのようなものを刻まれている。


 その中でも特定の名前を持つ人間のことを『名持ち』という、幻操師にとって心とは力の象徴だ。この名持ちや二つ名と呼ばれるものはこの心に関わるもされている。


 特定の文字が名前に入っていると、その子には力が宿ると言われている。幻操師にとっての特定の文字とは『花』や『実』などの文字、そして『龍』という文字にも力が宿っていると言われている。


 どの程度の力が宿るのかは未知数、もしその宿った力がその子の器を超えるようなものなら、その子は無意識のうちに力に封印を掛けることがある。そういった子はそもそも幻操師として目覚める事もない。


 しかし、そういった子であっても幻操師として目覚めさせる方法があるのだ、それが真名の封印。


 己の本当の名を伏せ、別の名、仮の名前を与えてもらう事によって、名と共に文字に宿った力を封印するのだ。こうすることによって幻操師としての力の核を一緒に封印することなく暴走を食い止めることができるのだが、真名の封印をした者の中には、晩成型もいる。そういった人物は成長することによって名前に刻まれた力さえも使いこなす事ができるようになることがあるのだ。


 そしてそれはその者にとって大きな力となるのだ。


 麒麟はまさにそれだった。龍の名を持ち、一度その名を封じた者。そして今、麒麟はその力を解放したのだ。


「黄龍、それが私の本当の名前」

 

「おいおい、流石にこれはやばいな」


「今の私はさっきまでとは次元が違うから……諦めて」


 麒麟は冷徹な目で結にそう語りかけると、すぐさま銃口を結に合わせると一切の躊躇無しに引き金を引いていた。


 そのスピードは今までのさらに倍はあるだろうか。毎秒二キロメートルという、圧倒的なスピードを前に結はなす術もなくに、直撃してしまっていた。


「うがっ……」


 結は無残にゴロゴロと五メートルほど転がると、うつ伏せの格好になりそのまま動けなくなってしまっていた。


「ごめんね。結の事は嫌いじゃないけど、君も可能性(・・・)あるからね」


 麒麟は吹き飛ばされた結の側まで、テクテクと歩くと、うつ伏せに倒れている結の後頭部に銃口を当てていた。


 ゴメンねーー。

 麒麟はそう、悲しそうに小さくつぶやくと、目を瞑りながらレールガンの引き金を引いた。


















 麒麟は自分が結を殺してしまったと理解してしまうと、瞑ったままの目から一筋の涙が零れていた。


(君の事、嫌いじゃなかったのになぁー)


 麒麟はせめて、結の亡骸を丁重に埋葬してあげてから、仲間達の手助けにいこうと思い、ゆっくりと目を開けると……。


「……あれ?」


 麒麟の目の前には、誰もいなかった(・・・・・・・)


 バサリ


「え?」


 大きな翼がはためくような音が麒麟の耳に届き、思わず驚きの声を漏らしてしまう麒麟の手に、フワリフワリと風にのってユラユラと純白の羽が舞い落ちていた。


 麒麟はハッとなり、翼のはためく音が聞こえたほうに急いで振り返ると、そこにはーー


「天使の、翼?」


「どうしましたか?続きをしませんか?」


 大きな純白の、まるで天使のような翼を背中から生やした、結の姿があった。

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