3ー21 四人の女神
麒麟の心装『電磁加速中黄砲』の発動と同時に、麒麟の持つ二丁拳銃は激しい雷撃を纏い、雷撃が消えると、そこには黄色い龍の彫り込みのある銃が姿を現していた。
「これが私の心装『電磁加速中黄砲』だよ」
麒麟は結に自分の心装を見せびらかすようにすると、小さく「行くよ」っとつぶやいた。
「ちっ!!」
麒麟は結に、変化させた拳銃で即座に発砲した。結は麒麟の構えている拳銃の銃口からあらかじめ銃弾の弾道を予測して、発砲よりも速く回避の行動に移ることによって、麒麟の弾丸を回避した。
(今の弾速……やばいな)
「くすくす、気付いた?そうだよ私の心装を発動することによって、未完成品であるレールガンは完全なものになるんだっ!!」
麒麟の心装『電磁加速中黄砲』は、不完全品である麒麟の法具、レールガンの足りない部分を補うための心装だ。
今の弾速は前の倍はあった。およそ秒速一キロメートルっといったところだろうか。音速の約三倍という驚異的な数値だ。
発砲されてから避けるのではまず間に合わない。麒麟の射撃を避けるにはたった今結がやったように、相手が撃つ前に回避行動に移ってなくてはいけないのだ。
「行くよ?行くよ?」
リニアモーターとは、軸のない電気モーターのことだ。通常のモーターが回転運動をするのに対し、基本的に直線運動をするモーターの事であり、麒麟はその原理を利用し、雷と特殊な構造をしているブーツを併用した高速移動で、結の背後に回り込むと、結の背中に向けてレールガンを発射した。
「ちっ!!」
結は二丁拳銃を用いた『火速』でレールガンを回避し、麒麟の頭上まで移動すると、二丁拳銃を仕舞い双剣に持ち変えると双剣を同時に振り下ろした。
「ねえねえ忘れてる?これ契約法具だよ?レールガン以外の術が無いとでも思ったの?」
『雷操、雷地翔龍』
麒麟は前とは違い、移動せずに自分の足元で術を発動すると、現れる電撃の一本一本を精密にコントロールしているのか、麒麟自身には少しも掠らせることなく頭上の結に襲っていた。
結は即座に双剣を仕舞い、糸を自分の周囲に卵の殻のように展開することによって致命的なダメージは避けるものの、結構なダメージを受けてしまっていた。
「くそっ!!」
結は卵の殻状に展開させた糸を地面まで伸ばして、糸を巻き取りながらその場から移動し、地面に降り立っていた。
(遠距離攻撃はまず効かない。双剣による近距離攻撃はむしろ当たらない。ルウで四番幻操術を連続発動するか……。そのためには今の状態じゃ無理だな。解除後の疲労が極端に大きいこれだけはやりたくなかったが、死んでしまっては元も子もないしな)
「結、聞いていいかな?」
「なんだ?」
「結の能力、『ジャンクション』は別の己に切り替える時には、もう一度儀式、つまり合掌が必要だよね?でも、さっきから見ている限り合掌したのは最初の一回だけ」
そうだ結はこの戦闘中、いちいち合掌なんてしていなかったのだ。
「それに『ジャンクション』発動中は口調が変わるはずだよ?口調を変えずに力を引き出す『セミジャンクション』ってのがあるはずだけど、それじゃここまで強くなるはずがない」
どういうこと?っと麒麟が続けると、結は大きく溜め息をついた。
「おいおい、嘘だろ……『ジャンクション』だけじゃなくて『セミジャンクション』まで知ってるのかよ……」
結が両手を挙げて、わざとらしくやれやれと首を振っていると、そんな結の行動にイラついたのか、麒麟はレールガンを構えて、ほとんど脅すように聞いた。
「まぁーあれだ。つまり『ジャンクション』でも『セミジャンクション』でも無いって事だ。俺たちはH•Gに来る前、一花さんと修行している。心装に至ってる奴は個人でそれを強化した。至っていない奴は、そこで心装に至った。そして心装に至れなかった俺はこれを目覚めさせた」
結の能力『ジャンクション』、その第一階層に存在する四つの扉、その扉を全て開き、その中に眠った力を己に接続、『ジャンクション』する。そうすることによって生まれた力それがーー
「『ジャンクション=四人の女神』だ」
「四人の女神?」
四人の女神という言葉に不思議そうにする麒麟に対して、答えを教えてやるかのように結は続けた。
「『ジャンクション=四人の女神』の能力は、四人の女神、つまりカナ、ルナ、サキ、ルウ、四人の力をこの能力発動時において、合掌をせずに自由に行き来することができる」
四人の女神はそれぞれが違う分野の特化だ。
二丁拳銃による高速移動と銃撃による中距離戦闘を得意とするカナ。
双剣を使った素早い体裁きと剣術による近距離戦闘を得意とするルナ。
糸を使った高い身体能力と糸を使った盾による超近距離戦闘及び緊急防御を得意とするサキ。
槍を杖のように使い強力な幻操術を無数に繰り出し遠距離戦闘を得意とするルウ。
その分野においては、Sランクの上位と同等の戦闘能力を持っているものの、それ以外ではFランクより少しマシ程度の実力しかない。
だから万能型の相手と戦う時は、状況に合わせて『ジャンクション』の相手を変える必要があるのだが、戦闘中にいちいち合掌するのはリスクが高い、しかし『四人の女神』を得た事によって、その合掌をしないで済むようになったのだ。
「へぇー。なるほどねー。でもその四人の女神が全員通用しない訳だけど、どうするのかな?かな?」
「まあー慌てるなよ」
「ん?なになに?まだ奥の手があるのかな?かな?」
「そういうことだよ」
結は挑発的にニヤリと笑うと、再び指を絡ませた合掌をした。
「いくぞ『フルジャンクション=四人の女神』」
結が術を発動させると、同時に全身を真っ白の眩い光が覆った。
「なに、それ……」
「同じ第一階層である四人の女神にも力の序列があってな」
フルジャンクションでは対応した姿に変わるのだが、四人を同時に扱えるといっても良い『ジャンクション=四人の女神』で『フルジャンクション』をした場合、その姿はどうなるのだろうか?
すこし違う話をしようか。皆さんは数学の第一象限というものを知っているだろうか?
左から右に向かって数値が大きくなるX軸とX軸の零地点と重なり、X軸と垂直に伸びる、下から上に向かって数値が大きくなるY軸の、XとY、二つの数値から決まるグラフ(平面上の直交座標系と呼ばれるものだ)で、XとYの両方が正の数である範囲のことを第一象限と呼ぶ。
グラフで言うところの第一象限の左側の範囲、Xが負の数でYが正の数の範囲のことを第二象限と呼ぶ。
これと同じように、第二象限の下は第三象限。第三象限の右で、第一象限の下の範囲を第四象限と呼ぶ。
第一象限と第二象限はXの値において対になっており、第一象限と第四象限はYの値において対になっている。
結の四人の女神はこの関係に似ている。
第一象限がカナ。
第二象限がルナ。
第三象限がサキ。
第四象限がルウ。
Xの値による対はその戦闘スタイルに関係している。X=正の数である第一象限と第四象限である、カナとルウは銃と幻操術という遠距離戦闘。
X=負の数である第二象限と第三象限である、ルナとサキは近距離戦闘。
Yの値による対は、それぞれの力の特異性だ。
Y=正の数である第一象限と第二象限である、カナとルナはそれぞれ銃と剣という、物理世界でも十分に操る事ができるのに対して、Y=負の数である第三象限と第四象限である、サキとルウはそれぞれ糸と幻操術という、物理世界では十分に操る事が出来ない。糸を操って盾にすることなんて出来ないし、幻操術なんて物理世界では存在すらしていない事になっている。
そして四人の女神たちの力はこの象限の数が増えるに従って増して行くのだ。だからこそまだまだ幻操師として未熟だった結は、四人の中でも最も強い力を持つ第四象限、ルウの力をコントロールする事が出来ずに暴走させてしまったのだ。
『ジャンクション=四人の女神』を得た時に全ての力は一旦一つになって、均等に分配されたため安定しているのだが、やはり第四象限のルウの力は色濃く残ってしまったのだ。
結果、『フルジャンクション=四人の女神』を発動するとその姿はーー
「最上位の格である、ルウの姿になるんだ」
光が収まると、その中にいたのは、茶色の長い髪を風に靡かせ、純白の槍を携えた、結の面影のある少女だった。
「美人さんだね。その姿には元となった人間はいるのかな?」
「教える必要なんてないでしょ?」
外見上は茶色のロングヘアの美少女になっている結に、麒麟はからかうようにそう言うのに対して、結は怒ったかのように返事をしながら、槍を振るうと、麒麟の足元に幻操陣を描いていた。
「おっそーい」
幻操陣が描き終える前に、麒麟は結にレールガンを発射すると、結はそれを避けるべく幻操陣を描くのを中断すると、レールガンの弾道に槍を添えることによって、麒麟のレールガンを弾いていた。
「すごいっ!!すごいっ!!その法具すごいねっ!!私の『電磁加速中黄砲』を弾くなんてねっ!!」
麒麟は『電磁加速中黄砲』を結に標準を合わせて連射するが、結はその全てを槍で弾くことによって防いでいた。
(フルジャンクションのルウでは、今までは出来なかった『身体強力』などの強化系幻操術も発動可能になる。『身体強力』による超人的反射神経と『物質硬化』による槍の硬度上昇。この二つの強力があれば麒麟の『電磁加速中黄砲』にだって十分対応できる)
「次いくよ」
結は外見を変えないまま、武器だけを槍から二丁拳銃に切り替えると『火速』によって麒麟の背後に移動した。
(なっ後ろっ!?)
麒麟の背後に回り込んだ結は武器を二丁拳銃から双剣に切り替えると、麒麟が『電磁加速中黄砲』を構えるよりも早く麒麟に斬り掛かった。
「痛っ!!」
「掠っただけか」
麒麟の黄色いワンピースドレスの左肩の部分を斬り裂いた結は、すぐに武器を二丁拳銃に切り替えると麒麟が体制を整え反撃して来る前に、さっさと『火速』によって距離を取っていた。
麒麟は『電磁加速中黄砲』を下ろし、顔まで俯かせていた。
(……震えている?)
麒麟の腕がプルプルと震えていることに結が気が付いた途端、麒麟はバッと顔を上げた。
「よ……くも、許さない……、許さないっ!!私に傷を付けるなんて許さないっ」
そこには憤怒の表情を浮かべる麒麟がいた。
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