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3ー20 黄色の雷撃

 結が『ジャンクション』を発動する時、合掌の形にはいくつかの種類があった。一つは通常の合掌。もう一つは性格だけではなく、外見までも変わる『フルジャンクション』を発動するための合掌で、左手の甲に右手の掌を重ね、両手の親指をつけた独特のもの。そして今回新たに見せた合掌、指組合掌だ。


「なになに全力?今までは全力じゃなかったって事?負け惜しみだねー」


「ちげーよ。そんなんじゃねえ。ただ、今まではここまで出来なかったってだけだ」


「ふーん。あっそっか、これから心装するんだね。結君の心装かー面白そうだねー。早くしてよ」


「それもちげーよ。残念ながらな俺は心装に至れなかったんだ」


 心装に至ればその後は一人で修行するしかない。しかし、一花との修行の際、結だけはずっと一花と一対一での修行をしていた。それはつまり結は心装に至る事が出来なかったことを示すのだ。


「心装に至れない?くすくす、お笑いだね。僕ちんたち幻操師にとっての奥義を修得しないまま、幻操師の頂点の一人である僕ちんに勝負を仕掛けるなんてね」


「そうかもな。目には目を歯には歯を、心装には心装。本来ならばそうで無くちゃいけない。でもよだからって諦める訳にはいかねえよ」


「へえー。そりゃ立派だー」


「行くぞ『カナ』」


 結は二丁拳銃を呼び出すと、標準を即座に麒麟に向けて、左右六発ずつ、合計十二発を連射した。


「おっそーい」


 麒麟はさっきの事もあってか、弾丸を逸らそうとはせずに、全ての弾丸を見切り十二発全てをスレスレで避けていた。


「次はこっちの番っ番っ!!」


 麒麟は再び『雷操、雷地翔龍(らいちしょうりゅう)』を発動し、結の足元から攻撃をするが、結は即座に『火速』でその場を離れると、そのまま麒麟の周囲をグルグルと回りながら、今度は散烈弾を連続で発砲した。


 周囲三百六十度からの全方位攻撃のため、この場で避ける事が不可能と判断した麒麟は、頭上高くに跳んで避けた。


「それしかねえよな?」


「っ!?」


 麒麟が跳ぶと、その背後には何も持っていない(・・・・・・・・)結が既に待ち伏せていた。


 結はそのまま、麒麟の背中に肘打ちをし、麒麟を地面に叩き付けると、今度は純白の槍(・・・・)を取り出していた。


「っ!?これってあの時のっ!!」


 地面に叩き付けられ、地に伏せながら麒麟が感じているのは、双花を攫う際に、暴走状態となった結と対峙した時と同じ感覚……いや似た感覚だ。


 あの時の結には理性と呼ばれるものがほとんどなかった。しかし今の結からははっきりとした理性が感じられた。あの時の麒麟が結に感じた感覚は、野生の獣。抵抗するための術を一切持たない時に百獣の王と出会ったような感覚だった。それはつまり純粋な恐怖心、絶望の混じった感覚だ。


 しかし今感じているのは、なんと言葉にすればいいのだろうか。人間と同等の理性と知性を兼ね備えた百獣の王と対峙しているような感覚。恐怖心や絶望でもない、もっと上の感覚だ。


 あの時はコントロール出来ていなかったため、あの力を発揮することなく倒れていたが、今の結はこの力を完全にコントロールしているようだ。


 結は取り出した槍を早速振るうと、麒麟の足元に直径三メートル程度の幻操陣が描かれていた。


「ちっ!!」


 麒麟はすぐにその場を離れようとするが、地面に這いつくばっている格好だったため、初動が遅くなってしまい、幻操陣が発動して立ち上った火柱に軽く炙られていた。


 火柱からすぐに脱出した麒麟は、黄色のワンピースドレスを少し焦がしているようだが、麒麟自身にほとんどダメージは無いようだった。


「あぁー。これお気に入りだったのにー」


 焦げてしまったワンピースの端をつまみ上げながら、残念そうにする麒麟は、すぐにはっと顔を上げると、結の姿を見失っていた。


「ありゃー?どこいったのかな?かな?」


 麒麟は杖を構えながら、周囲を警戒していると、周囲三百六十度、どこを探しても結がいない事に気が付き、上を見上げると、そこには純白の剣を二本構えた・・・・・・・・・・・結の姿があった。


「あまーい、あまーい、バーカっ!!」


 麒麟はその場から、空中から突撃をしている結の剣が届かない位置まで移動すると、さっきまで自分が居た場所、つまり結の着地点で『雷操、雷地翔龍(らいちしょうりゅう)』を発動した。


「それはこっちのセリフだよっ!!」


 結は剣を仕舞い、即座に二丁拳銃に持ち変えると、『火速』で地面から自分に向かって昇る雷の龍を躱し、麒麟の後ろへと着地していた。


「なっ!!」


 結は再び双剣を呼び出すと、双剣に純白の光を纏わせながら麒麟に斬り掛かっていた。


『六月法=斬月』


 生十会に入会させられた、F•Gイーター同時出現事件の際に、高い硬度を持っていた人型イーターを斬り裂いた技だ。


 麒麟は振り返ると、身を引きながら己と刃の間に杖を滑り込ませていた。


「ふぅー。危ない危ない」


 杖を盾にすることによって、尻餅をつきながらも身を守ることに成功した麒麟だったが、その代わりというべきか杖は真っ二つに斬られてしまっていた。


「それじゃ法具として使えないよね?降参して双花を返してくれる?」


 尻餅をついたまま、頭を伏せてプルプルと震えている麒麟に、観念したのかと思い、剣を構えながら麒麟に降参するように言う結だったが、そこに突如一筋の光が、麒麟から結に向かって放たれていた。


(幻操術っ!?)


 結は双剣を消し、光が当たると思われる場所に糸による盾を作るが、あっさりと糸による盾を貫通されてしまい、その身に受けてしまっていた。


(危なかった……。サキによる糸の鎧がなかったら今ので終わってたな)


 糸を纏ったことによる鎧で体に風穴が空くのを防いだ結だったが、糸の鎧は防弾チョッキの役割を果たしているだけであり、防いだのはあくまで風穴が空いてしまうことであり、結の体にはハンマーで殴られたような強い衝撃が伝わっていた。


「はぁー、こんなはずじゃなかったのになー。まさか()がこんな奴相手に、メインウェポンを取る事になるなんてな」


 突如口調が変わった麒麟は、静かに立ち上がると、大きな溜め息をついていた。


 やれやれと首を横に振りながら立ち上がる麒麟の手には二丁の拳銃(・・・・・)が握られていた。


(違和感の正体はこれだったか。こいつ今までずっと、特化法具で戦っていたのか。……それにこの口調の変化、こっちが素か)


 結が今まで麒麟に対して抱いていた違和感の正体はまさにそうだった。


 今までの麒麟はどこが芝居がかっていたのだ。それに麒麟はこの戦いずっと『雷操、雷地翔龍(らいちしょうりゅう)』しか使っていなかった。マスタークラスはたった一つの幻操術でも凄まじい戦闘能力を持っているものだが、その真価は契約法具による複数の様々な幻操術による戦闘だ。だからこそ麒麟の戦い方に違和感を感じてしまっていたのだ。


「へぇー。それがあんたのメインウェポンか」


「あれ?大して驚いて無いようだね?気付いていたのかな?」


「まあな。確信は無かったけど違和感は感じてたよ」


「そりゃ凄い」


 麒麟は今までの馬鹿にしたような笑みではなく、女性らしい美しい笑みを見せていた。


(今までつけていた仮面を取ったんだ。元は可愛いし魅力的になって当然か……)


「なになに?私に見惚れてたの?」


「そりゃあんたは外見だけで言えば超の付く美少女だからな」


「なっ」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべ、からかってきた麒麟に結は思っていることをストレートに言うと、そんな返しは想像していなかったらしく怒ったように顔を赤く染め上げていた。


(おいおい、悪戯に悪戯で返しただけでこんなに怒ることないだろ)


「なんだよまったく、結ってばもしかして天然のたらしかよ」


 麒麟は顔を赤く染めながら、俯きぶつぶつと結に聞こえないほど小さな声でつぶやくと、顔をブルブルと左右に振り顔を上げると、そこには前の余裕ある笑顔に戻っていた。


「はぁー。調子狂うなー。……まあいいや、続きしようよ」


「その前に一つ聞いていいか?」


「……なに?」


「なんで自分を隠してるんだ?」


 結は、いざ戦いの続きを始めようとする麒麟にストップをかけると、麒麟に自分を隠す訳を聞いた。結の問いかけを聞いて、麒麟は目を見開き驚きを露わにすると、少し拗ねたように表情になった。


「そんなの結に関係ないよ?」


「麒麟は素のほうが可愛いけどな」


「なっ!?……本当やり辛いよ」


 結の言葉にまた赤くなり掛けた麒麟は「あぁーもう話は終わりっ!!」っと大声で叫ぶと先手必勝とばかりに、結に拳銃の標準を合わせると即座に発砲した。


「危なっ!!」


 拳銃の標準から弾道を予測した結は、拳銃とは思えない程の初速と加速力を持った弾丸を躱すと、お返しとばかりに、二丁拳銃を呼び出し、結もまた麒麟に発砲した。


(この速力ありえない。ただの拳銃じゃないな)


 そう思った結は麒麟と撃っては躱し、撃っては躱しという、互いに譲らない激しい銃撃戦を行いながら麒麟の持つ拳銃を観察していた。


(撃つ瞬間、銃口の中から激しい雷が見える。それに拳銃の発砲音にしては違和感のある音。……麒麟の属性は雷ーー)


「レールガンかっ!!」


「良く気が付いたねっ!!」


 レールガンとは物体を電磁誘導によって加速して撃ち出す装置の事だ。物理世界では拳銃サイズだなんてコンパクトでこれほどの性能を持ったレールガンを作るなどほぼ不可能だが、ここは幻理領域。幻操術を使えばそれも実現可能だろう。


 つまり、今麒麟が使っているのはレールガンを搭載して銃弾を通常以上に加速させて発射する超化学武器だ。


 レールガンは秒速数キロメートルという凄まじい速さで弾丸を撃ち出すこともできるらしいが、今麒麟が撃った弾速は拳銃の弾より少し速い程度だ。


 拳銃の弾速は秒速三百メートル前後、今麒麟が撃ったのは秒速四百メートル程度だろう。わざわざ手加減する必要などない、つまりーー


「そのレールガン、未完成か?」


「それも気付くかー。結は凄いね」


 互いに譲らない激しい銃撃戦をしながら、会話する二人だったが、麒麟は体に雷を纏って身体能力を上昇させると、その場から消えていた。


「なんだ、終わりか?」


 結は後ろに振り返って拳銃を構えると、そこには同じく結に拳銃の標準を合わせている麒麟の姿があった。


「結が言う通りこれはまだまだ欠陥品だよ。なんせ今の状態(・・・・)じゃ拳銃よりちょっと速い程度だもん。でもねそれをカバーする方法ならあるよ?」


 結と麒麟は互いに拳銃の標準を合わせながら会話をしていると、麒麟は小さく笑い、全身から立ち上るほどの力を放出し始めていた。


「見せてあげるよ。これが完成形のレールガン」


 麒麟は放出していた力を一気にレールガンに注ぎ込むとニヤリと笑った。


『心装攻式、電磁加速中黄砲(セイレールガン)

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