1ー5 揺らぎ
白い部屋、薬品の匂いの漂う、所謂保健室に備え付けられているベットで結は眠っていた。
戦うこともある幻操師にとって怪我は日常茶飯事だ。
この幻力が一つの概念として存在する幻理領域内ではその身に宿る幻力が無意識に体を強化し、回復力すらも強化しているのだが、怪我はするし、その怪我が一瞬で治ったりすることはない。
そのため保健室は従来のものよりも大きく設計されておりカフェと同様に沢山の個室が用意されている。
名前は保健室ということになっているが、設備や規模、ありとあらゆる面ですでに実質、病院と何ら変わりはなかったりする。
会長はそんな保健室の個室を一つ借り、そこに結を寝かせていた。
「んっ……ここは?」
結は目が覚めると、ぼんやりする頭を軽く手で押さえながら起き上がろうと、身をよじるもののすぐに優しげな手つきでそのまま寝かせられてしまっていた。
「やっと起きた?」
結の目に映ったのはベットの隣に備え付けてある椅子に座った会長の姿だった。
「二人を、そして生徒を助けてくれたらしいわね。ありがとう、あたしからも礼を言うわ」
会長は優しく微笑むと長い髪が顔にかからないように手で押さえながら結に向かって頭を下げた。
Sランクという上の存在である会長が頭を下げる姿を見て心から凄いと思う結だった。
「頭、上げなよ。そういうのあまり似合わないぞ?」
「むぅ、失礼ね」
頭を上げてほしく、苦笑いしながら冗談っぽく言うと会長は拗ねたように頬を膨らませ、そっぽを向いてしまった。
「結が起きたことみんなに伝えてくるから、あんたはもう少しおとなしく寝てなさい。これは命令よ」
「その前に一ついいか?」
「何かしら?」
「俺ってどれくらい寝てたんだ?」
会長が立ち上がりながら結に命令というか警告をすると結はどれだけ眠っていたのかを尋ねた。
お腹の空き具合からそこまで時間が経っている気はしないが少なくとも十分やそこらではないだろうと推測していた。
起きたタイミングで丁度よく偶然会長がそこに居たとは考え難い。
きっと会長はずっとそこにいてくれたんだ。一体どれだけ会長に迷惑を掛けてしまっていたのか心配する結だったが、会長はそんな気持ちが表情に出ていた結の頭を一撫でし、
「気にしなくていいわ。そうね、まぁ一時間前後よ」
「……色々ありがとな」
一時間前後、それだけの間、起きない結のことをずっと看病していてくれていのだろう。他にも後始末のことを考えれば楽ではなかっただろう。にもかかわらず、恩着せがましい態度を全くとらない会長を少し見直す結だった。
「べ、別に音無君のためじゃないわよ。生十会長として当然のことをしたまでよ」
「そうかい」
「じゃあね。おとなしく寝てるのよ?」
ストレートに礼を言われて照れてしまったのか、頬を赤くしながらも会長は照れ隠しをしつつ保健室を出て行った。
(ツンデレだとしてもベタ過ぎじゃないか?)
会長の反応に心の中でそうこぼし、結はおもしろそうに笑ってしまっていた。
「……はぁ。身体、辛いな」
結の作り出した幻操術『ジャンクション』は自身に掛ける幻術、自幻術によって本来以上の力を無理矢理引き出すものだ。
発動中、その実力は通常時と比べて段違いの差があるが当然のことデメリットがある。まずは能力の解除後に起こる過度の疲労感だ、そして身体にも負荷がかかるため疲労感と痛み、二重の苦しみを味わうことになる。
デメリットはもう一つのあって、一定時間ブーストをかける代わりに通常時は本来よりも実力が下回ってしまう。それに結の発動したいタイミングで発動できなり理由もある。
結のFランクでありながらF•Gに入学できたのはにはこういうカラクリがあった。
結がそのまま横になっていると会長から結が起きた事を聞いたらしく、生十会メンバーがこぞってやってきた。
「音無さんっ先程は助けてくださりありがとですっ!!」
真冬は結の姿を見ると、目から大量の涙を流しつつ結の手を両手で優しく握り何度も何度もお礼をした。
「僕からもお礼をさせてください、音無君のおかげで真冬も僕も無事に助かりました」
「二人ともそんなにお礼しなくていいって」
「いえいえ! そんなわけにはいきません!」
「あはは……」
皆が来る前に起き上がることはどうにかできるようになっていた結は、日向兄妹から連発されるお礼という名の機関銃を連射されつつ、二人が落ち着くまでされるがままになっていた。
「ねえねえ、結が無事だったってことはわかったんだし、これ以上は迷惑じゃない?」
偶然、保健室に他の病人はいなかったため多少の私語は平気だと思われるが、ここが保健室であることに変わりはない。静かにするのが当然だ。
桜が結の身体のことを気遣って皆に退出するように言った結果、結以外の皆は生十会室に戻ることになった。
「お身体にお気をつけて」
六花が最後にそう締めると皆、帰っていき結はまた眠りについた。
トントン
軽く仮眠を取り、だいぶ体が楽になってきた頃。結が休んでいる病室に静かなノック音が響いた。
結が「どうぞ」と声をかけると「し、失礼します」と、なんだか慌てた様な声を出して、昔のロボットのようにぎこちない動きでやってきたのは日向兄妹の妹、日向真冬だった。
「どうした? まぁ取り敢えず座んなよ」
もじもじしていて、なにかを言おうと口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す真冬に取り敢えず座るように促すとやはりぎこちない動きで椅子に腰を下ろした。
「えーとですね……」
体を起こして待つこと数分、ずっと口をパクパクさせた後、決心がついたのかおずおずと言った風に真冬は話し始めた。
「た、助けてくださってありがとですっ!!」
「へ?」
こんなどうも深刻そうな状況から一度されたお礼の言葉をまた言われるとは思っておらず、面食らってしまった結はすぐに笑顔になるとお礼を言った途端恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまった真冬の頭を優しく撫でた。
「さっきも言ったろ、お礼なんていいってさ。可愛い女の子を助けるのは男として当然だろ?」
結はすっかり縮こまってる真冬を元気づけようと少しキザッぽく言うとそんな結にびっくりしたのか思わず顔をあげた真冬にウインクをした。
「……そんなのずるいです」
「え? なんだって?」
真冬の呟きが小さ過ぎて聞き取れなかった結が聞き直すと、真冬は突然椅子から立ち上がり結の座るベットの縁に腰を掛けると両手を胸の前でもじもじとさせると覚悟を決めたかのような表情になると突然、結に体を寄せ始めた。
「ちょっ真冬!?」
突然の奇行に驚く結を置いていき真冬はどんどん結にしなだれかかってきていた。
「……真冬は音無さん……いえ、音無様に命を助けてもらったです。だから真冬の全てを音無様に捧げようと思いますです」
真冬は結を誘惑するかのように十三歳になり育ち始めている胸を腕に押し付けるように腕に抱き着くとそんなことを言い出した。
「真冬……」
真冬は結の腕に抱き着きながら手をそっと結の胸におくと結の首筋にそのすべすべとした頬をすりつけ始めた。
「音無様……」
真冬は結の耳元で甘えるような声を出すと結も我慢が出来なくなったのかずっと下ろしていた手を真冬を抱き締めるようにあげると、
「ていっ」
「あうっー」
真冬の頭にチョップをお見舞いした。
「たくっ、命を助けてもらったから自分の全てを捧げるだと? 自分をそんなに安くするな」
「でも……」
結は溜め息をつくとなかなか引こうとしない真冬を突き放すのではなく優しく抱き締めた。
「ふぇ?」
拒否されていたのに急に抱き締められて困惑してしまう真冬をよそに結は真冬の耳元で囁いた。
「恩のある相手を困らせていいのかな?」
一瞬考えてしまい動きが止まった真冬の耳元から顔を離すと胸に抱き締め頭を優しく撫で始めた。
「そんなに急がなくていいよ。俺に恩を感じる感じないは真冬次第だよ。でも俺は今返されることを望んでいないだから今は貸しってことにしておけばいいんじゃないか?」
「ですが……」
今だに引く気を見せない真冬を胸から離し、潤み始めている瞳を真っ直ぐ見つめながら結は次にどうするかを考えていた。
「じゃあ今後は俺の言うことを聞いてくれないか?」
気が付けば自然にそんな言葉が出ていた。
なんでそんなことを言ったのか結自身驚いていたがそんな結の意識を置いて次々と溢れるように流れる言葉を真剣な目で真冬を見つめ話していた。
「今後は俺が言った時に力を貸してくれそれが俺にとって一番の恩返しになるんだがどうだ?」
真冬を頭を下げ考えるような仕草をすると決心したように小さく頷くとぱっと頭を上げて「わかりました音無様がそう言うのであればそうするです」と言うと自然な笑顔になってくれていた。
結は真冬を見ていて気が付いていた。
真冬は心から全てを差し出そうとしていたわけではなかった。あの出来事がきっかけで真冬は結に確かな好意を抱いていた、それは確かだ。しかしそれはまだ恋愛感情にまで育っているわけではない。
友達に対する好意と恋人に対する好意。その二つの間に真冬はいたのだ。しかし真冬はまだまだ幼い十三歳の少女、それもまだ恋人のできたことがない真冬にとってそれがいったいどちらの好意だったのかわからなかった。
だからそれが恋愛感情だと誤認した真冬はこの気に結に自分を差し出そうとしたのだった。
結に諭されそれに気が付いた真冬は感謝の気持ちを伝えるための別の方法を与えてくれた結に感謝をしたのだった。
顔を上げた真冬の顔はさっきまでのどこか悩んでいるような表情ではなくスッキリした表情をしていた。
「音無様いろいろありがとうございましたです」
真冬はベットから立ち上がるとくるっとその場で回ってまだベットの上に座っている結に合わせるように屈むと結の顔を覗き込んで微笑みながら言った。
「それとその様って言うのはやめてくれ」
「嫌です」
真冬は笑顔とで言うとまるで何かを催促するかのように結の目を見つめた。
「……はぁ〜、じゃあやめろ」
「嫌です」
真冬は笑顔でまた拒否すると次の言葉を促すように首を傾げた。
「真冬は俺になにを求めてるんだ?様付けは嫌だぞ?」
「真冬は今後、音無様の奴隷あるいは部下みたいなものなのですよ? 上官が部下に言うことを聞かせるためにはあれしかないです」
結は視線を斜め上に向けて考えているが真冬は今だにニコニコと笑っていた。というよりさりげなくとんでもないことを言っているような気がする結だったがあえて完全にスルーすることにしていた。
(それよりもなにを求めてるんだ? ……いえ、なんとなくわかったような気もするが……)
真冬の顔をもう一度見るとやはり何かを期待しているような目をしていた。
「……はぁー、それじゃ命令だ。今後様は抜くように」
「了解ですっ」
真冬は待っていましたっと言わんばかりに最上級の笑顔になると片手を挙げて敬礼のポーズをとった。
「えーと、迷惑かけてごめんなさいです」
真冬は病室から出ようと出口に向かうと途中で振り向き謝罪の言葉を口にした。
「退屈してたし、問題ねえよ」
そう言うと真冬は「良かったです」と言うと再び出口に向かい扉を開け部屋から出ると閉じる際、最後に一言「お大事にです」というと扉を閉めた。
「……はぁー。最近の中学生はませてるなー」
見えなくなった真冬のことを思い、深く息を吐く結だった。
次の日、身体の調子が大方元に戻った結は昨日の報告をするため既に何度も通っている生十会室に向かっていた。
生十会室に初めて行った時も結はジャンクションを使っていたがここまで体調を崩すことはなかった。
理由はもちろんあってジャンクション=カナは二丁拳銃を使った遠距離タイプであるのに引き換えジャンクション=ルナは二刀流を使った近距離タイプだ。
カナと比べてルナは全身を激しく使用するため体力はもちろんのこと全身の筋肉の消耗があまりにも激しいのだ。
「失礼しまーす」
生十会室に着いた結は既に自分の定位置になりつつある席に座ると報告を始めた。
昨日遭遇した、蟹型イーターはどうやら幻操術を無効化する能力、いや無効化というより弱体化させる能力があったのだろう。日向兄妹の術はもちろん、カナの銃弾も全て一種の幻操術だ、だから弱体化されてしまい弱体化した術は蟹の甲殻に弾かれてしまったのだろう。
そのことに気が付いた結は幻操術による遠距離攻撃ではなく、幻力によって強化した刀によって戦うことにしたのだ。
結果、幻力で強化された刀は弱体化によって幻力による強化を弱くされてしまっても多少でも強化された刀の切れ味と結のルナの力によって切断することができたのだ。
「なるほどね、お手柄よ音無君、このことは教務課に伝えておくわね」
「いや、結構だ」
会長は今回の結の功績を上に報告して結のランクを上げようと提案をするが結はそれを迷いなく断っていた。
「……理由を聞いてもいいかしら?」
「俺は評価されるためじゃなくてただ、目の前で大切な人が死ぬのを見たくないだけですから」
「あぅ……」
幻理領域での死は物理世界での死ではないにしても、それは心に傷を残し傷付いた心ではもうこちらに来ることはできない。
幻理領域での知り合いと物理世界で出会ったとしても頭にもやがかかり気が付くことができないため幻理領域にこれない、つまりそれは永遠の別れになってしまう。
心が傷付き苦しんでいる大切な人の安否をただ祈ることだけしかできないそれはある意味死よりも双方にとって恐ろしいものかもしれない。
結がそう言うと同時に真冬が恥ずかしそうに縮こまっていた。
結の揺るぎない覚悟を悟った会長はそれを認め、誰がやったかは公にせずに正体不明の誰かということにしあの時の女子生徒にも黙っていてもらうことになった。
イーターの出現で歓迎会は中止になってしまったため、今日はまた歓迎会をやることになっているらしい。ここの連中はこういう賑やかな事がきっと好きなんだろうな。
結は皆に休んでいるようにと言われ、まだ疲労が残っている結としてはお言葉に甘えることにした。
(ん? そもそも俺って入会してないぞ)
まるで結のことを会員よ様に扱う生十会に対して心の中で愚痴る結であった。
暗い部屋の中、手術室にあるような台の上に綺麗な銀色の長い髪をした少年が横になっていた。
腕からは何本ものチューブが繋がっており、眠っているのかその目は閉じていた。しかし、安らかな寝顔を見せながらも時折苦しそうな唸り声をあげていた。
少年の眠っている手術台の前には沢山の子供が、まだ幼い少女が大勢倒れていた。
少女達は皆まるでイーターのように足先から徐々に消えていっていた。
消えながらも少女達の表情に絶望や恐怖はなくどこか幸せそうな、どこか誇らしげな顔をしていた。
「まだだ、まだ至っていない。これはまだ私ではない、私こそーー」
ふと呟き、目を開けた少年の目には銀色に光り輝く六芒星が刻まれていた。
少年が目を開けると同時に倒れていた少女達の内、一人が目を覚ましてたようで、消えつつある自分の身体を一瞥すると満足げに微笑み
「あなたこそ王です、我らが主よ。あなた様の糧となれることを心より感謝いたします」
少年に向かって話し掛け、少年が少女を見つめ返し目で返事をすると少女は言いたいことは言ったとばかりに口を閉じると幼くも十二分と魅力的な笑顔になった。
「ーー王だ」
少年の呟きと動揺、少女達の姿は完全に消えてしまっていた。
「いつまでも我らはあなた様のお側に」
身体の疲労が抜けていなかった結は生十会の隣にある休憩室で横になるとすぐに眠りについてしまっていた。
「んっ……いつの間にか寝ていたのか」
結は眠っていたせいでぼんやりする頭を頬を叩くことによってスッキリさせると治らぬ身体の疲労感に任せそのままベットに横になっていた。
(あの少年は誰だったんだ? 何処かで見たような……記憶の混乱、これもジャンクションのリスクか)
結は横になりながらさっきまで見ていた夢を思いだすと自分の心がざわつくのを感じると同時にジャンクションによる記憶の混乱というリスクに対して憎らしげ鼻を鳴らした。
けど、同時に所詮は夢だと片付けていた。
「あっ、今度は起きているようですね」
気配も無く、音も無く、気が付けばそこにいたかのように、どっかの忍、あるいは暗殺者のように入室していたのは、生十会、副会長柊六花だった。
今度はということは来たのはこれが初めてではないだろうと思い意外に六花が結のことを気遣ってくれていたことに気が付いた結はなんだか照れ臭くなり身体を起こすと目を逸らしながら六花に用件を尋ねた。
「なんか俺に用か?」
「用が無くては来てはいけませんか?」
六花の勘違いを起こしそうになるセリフと微かに首を傾げた姿に見惚れる結だったが六花が笑みを堪える様にしている事に気が付き我を取り戻していた。
「私に見惚れていたのですか?」
六花は微笑むとクスクスと小さく笑っていた。
(こいつ本当に並の中学生かよ、いやそういえばSクラス、並じゃないか)
結は中学生とは思えないほどにどこか大人っぽい姿に呆れながら話を促すとピタッと笑うのを止め真面目な顔になって話し始めた。
「前回あなたが討伐した蟹型中級イーターですが不審な点がありまして、念のために警戒をレベルを引き上げることに決定しましたのでそのご報告をと思いまして」
「報告って……俺は役員じゃないんだが?」
「前回の事件を解決したのですからどうせなら最後までやってください」
「……」
不審な点は確かにあった、結が不調だったため結の前で今まで話題にしていなかったが前回のことは人為的なものがある可能性あった。
ガーデンには結界が張られておりイーターの侵入を妨害する作用がある。侵入を防ぐことが出来ない場合でも侵入された時にその位置などを知らせる効果がある。
あの時警報が鳴っていたがそれも結界による効果だ。
しかしAランク相当の力を持つ中級イーターだとしても結界を通り抜けることは不可能だ、最初は幻操術を弱体化させる能力でどうにかしたのかと思ったがその程度の小細工ではSランク以上であるマスターランクの結界を通り抜けるのは到底無理だ。
「とはいえ、無理をなさってあなたが壊れてはこちらにも不都合がありますので何かに気が付き、尚且つ動けそうなら動く程度でいいですよ」
「……言い方がなんとなくムカつくが言いたいことはわかった、頭の片隅にでも置いておくよ」
六花はそれだけ言うと「では」と残しさっさと退出していった。
「……不審な点ねぇー」
結はベットに横になりながら六花の言葉を思い出していた。
不審な点に対しての心当たりが結の中に三つあった、いや正確には二種類と一つというべきだろうか、そしてその一つとは……
(あの時の、誰か。……あれ?あの時ってなんだ? くそっ記憶の混乱がまたっ……)
思い出そうとするが思い出せず己の編み出した幻操術で受けた反動に対して憎らしげ愚痴を漏らしていた。
「身体もほぼ治ったしそろそろ歓迎会の様子でも見てくるか」
ベットから降りると念のため両腕に付けた法具を確認すると講堂に向かった。
結はすでに三度目になり、悲しいことながら定位置になりつつある二階の空中廊下からあまり興味なさげに頬杖を付きながら下の様子を見ていた。
「……暇そう……」
言われた通りまさしく暇そうにしていた結に声を掛けたのは生十会の中でも最も冷静で最も表情の変化に乏しい少女。
「陽菜か、どうしたんだこんなところに、見回りはいいのか?」
「……問題ない、私の受け持ちはここの下、ここからでも十分監視できる……」
「そういえばそうだっな。……いやいや、なにかあったらどうすんだ?」
「……この高さなら飛び降りても問題ない、余裕……」
陽菜は珍しくサムズアップしながら表情は全く変わらないまま誇らしげに言うと話を変えた
「……生十会には慣れた?」
陽菜は相変わらずの無表情っぷりを発揮しながらも首を傾げていた。 陽菜はもともと顔立ちは整っており無表情だとしてもそれは十分過ぎる程の可憐さを持っていた、そしてその陽菜がちょこんと首を傾げてその姿はあまりにも、そうあまりにも
(か、かわいい)
結に動揺させるほどの可愛さだった。
「……って! 俺は生十会には入ってないぞっ!!」
「……説得力皆無……」
「……あぁー聞こえない、聞こえない」
動揺から復活した結はすかさず発言に対してツッコミをすると、陽菜もまたすかさずにどこか納得できる、いや、しちゃいけないのだか納得してしまいそうになる発言をし、逃避しかすることのできない結だった。
「……本題、調子どう?」
「調子?あぁ身体のことか?」
陽菜はよく見ていないとわからないほど小さく頷くとさっさと答えろと言わんばかりにまったく逸らさない綺麗で真っ直ぐな目で結を見つめていた。
「……そうだな、大体七割ぐらいだな」
「……そう、あまり無茶しない……」
陽菜はそれだけ言うとさっさと下に降りていった。
「……はぁー最近は心配されてばかりだな。まっみんなの前で派手に倒れちまってるし、しゃーないといやしゃーないか」
出会ってまだ間もない生十会の皆にここまで心配されていることに対しびっくりするのと同時にどこか喜び、懐かしく感じる自分をおかしく思った結は短く笑うと昨日、イーターが現れた場所に向かった。