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3ー17 氷の彫刻

 『心装守式』

 それは、幻操師にとっての奥義とも言える技術、『心装』の一つだ。


 『心装』を覚える時、それはなにか強い覚悟を持った時、己の命に危機が及んだ時、様々あるが、その全てに共通するのは心の荒ぶりによって発現するということだ。


 『心装』を最初に発現させる時、幾つかの種類がある中で、最も最初に発現させやすいのは『攻式』だ。


 人間とはいうのはこの世にいる全ての生き物の中で、道具を使うという事に特化した生き物と言っても過言ではない。


 だからこそ、人間は強い覚悟を持った時、何かの道具を必要とすることが多い。


 己の方具を核に新たな法具を作り出す『心装』それが『攻式』だからだ。


『心装守式』


 H•G守護者の一つ、青龍と対峙している六花はそうつぶやくと、携帯型法具を持った右手を自分の正面に翳した。


「知っていますか?」


「……何をさ?」


「天使は実在しますよ」


氷の天使(アイスエンジェル)


 なぜだろうか、この広間一帯の室温が明らかに下がっていた。


 室温の変化はあまりにも著しくあり、変化起こした張本人である六花は特に何も感じていないようだったが、その部屋に一緒にいる青龍は、その変化に対し、寒そうに体をプルプルと震わせていた。


「何これ……寒い……」


 六花が心装を発動すると、姿はセーラー服姿のままだったが、六花の背中にあるものができていた。


 それは翼。

 氷で出来た翼のその姿はまるで、天使の翼だ。


 氷の翼を持った六花の姿はさながら天使のようだ。


「……て、んし?」


 六花のその姿はあまりにも神々しく、それを目の当たりにした青龍は思わず見惚れてしまっていた。


「それでは、行きますよ?」


「うっ。こ、来いっ!!」


 青龍を自分を鼓舞するべく叫ぶと、先手必勝っとばかりに、青き龍の如く変化した鞭を、六花目掛けて振るった。


「無駄ですよ」


 六花は氷の翼をはためかせ、青き龍へと変化した鞭を弾くと、携帯型法具を持った手を、青龍に向けた。


『氷操三番、絶対氷結(フリーズ)


 『絶対氷結(フリーズ)』は六花が良く使っていた幻操術、『氷結』の上位版だ。


 『氷結』と比べると、その温度は遥かに冷たく、規模だって広い。


 あくまで一部分を凍らせる『氷結』とは違い、『絶対氷結』の効果範囲は自由だ。対象者が人であれば、六花が結に生十会室でやったかの様に、靴の底だけを地面に貼り付ける事だって出来るし、逆にその全身を凍らせる事だって出来るのだ。


「うわっ!?」


 六花は『心装』発動時から、氷の翼から溢れ出していた冷気と『絶対氷結』を併用し、構えた右手から冷気の弾丸を青龍目掛けて飛ばすと、氷の弾となった冷気は、自分の心装を使った攻撃が氷の翼によってあまりにも簡単に弾き飛ばされてしまい、それが予想外だったため、驚きのあまり硬直してしまっていた青龍の左手にヒットしていた。


「フンだっ!!こんなのっ!!」


 青龍を凍ってしまった左手を、左手周囲で激しく心力を放出することによって、その衝撃を利用して氷を砕いていた。


「流石は守護者ですね。これでは終わりませんか」


 六花は「それなら」っと続けると、次の術を発動した。


『氷操三番、氷結爆弾(フリーズボム)


 六花は左手の掌に、氷の玉を作り出すと、その氷の玉を青龍に向けて、軽く手を最低限動かすだけで、放り投げた。


「うわっ!!」


 青龍は鞭によって、綺麗な放物線を描いて投げられた、氷の玉を弾き飛ばすと、鞭の先端、つまり龍の顔を模した部分が、飲み込むかのように咥えると、真っ白に輝くの冷気を周囲にぶちまけながら、爆発(生じているのは熱気ではなく、冷気なので精密には違うが)した。


 爆発によって、青龍の鞭は完全に凍りついてしまっていた。


「なにこれ……」


 自分の心装が凍らされてしまい、一瞬固まってしまう青龍だったが、すぐになんとかしようと、強引に鞭を力の限り引っ張ると


「……う、そ……あたしの鞭が」


 粉々に砕け落ちてしまっていた。


 幻操師にとって最たる攻撃手段は幻操術だ。


 そして一般的な幻操師、いや一流の幻操師でさえ、法具が無ければ幻操術を使用することができない。


 特に今見る限りでは、青龍は幻力と心装によって強力に強化された龍の鞭を使った戦術を組み立てているらしい。


 青龍にとって唯一の法具であり、武器である鞭が六花によって壊されてしまった。それはつまり、青龍の攻撃力はほぼゼロになったのと同じだ。


「ひっ……いや……消えたく、ない」


 法具を失い、武器を失い、抗う全てを失ってしまった青龍は、今自分の目の前にいる、氷のように冷たく鋭い目をしている天使を前にして、はの心を恐怖一色に染め上げていた。


「かわいそうですね」


「えっ……?」


「あなたは一人の少女に仕える戦士。しかしその少女もまた、ただの駒。クスクス、かわいそうですね」


「ど、どういう……意味?」


 混乱した表情で、六花に聞く青龍に六花は笑いかけると、氷の翼をバサッとはためかせ、すぐに冷静な無表情になると、右手を青龍に向けた。


「さようなら、憐れな龍さん」


『氷操四番、氷結地獄(コキュートス)


 氷結地獄(コキュートス)それは正にその名称の指す通り、術者が指定した範囲の熱を奪い尽くし、冷気によって支配された地獄を作り出す、四番の幻操術だ。


「うわーー!!」


 六花が作り出した氷結空間は、この広間全域に広がると、その空間内にいる、術者にとっての敵対者、青龍の足元から、徐々に凍り付かせていた。


 自分の足から徐々に凍えてしまうという、恐怖心を覚える事が起き、青龍は思わず叫んでしまっていた。


「いや、止めて……嫌だよ」


 そして青龍はとうとう全身を完全に凍らされていた。


「さて、そろそろ行きますか。思っていたよりも時間を使ってしまいました」


 六花は氷の彫刻のように凍えてしまった青龍の顔を優しく撫でていた。


「流石は守護者ですね」


 六花は楽しそうに呟き、心装を解除すると、氷の翼が光を反射させながら綺麗に砕け散っていた。










 長い廊下を走っていた、結と火燐はとうとう、次の部屋に辿り着いていた。


 次に辿り着いた部屋は、面積自体は、今まであった以上に広い部屋などとは違い、物理世界の体育館と同じ程度の広さだった。


 とはいえ一つだけ異常とも言えるところがあった。それは


「それにしても、やけに高い天井だな……」


 天井までの高さは二十メートルはあるだろうか?あまりにも高い天井に火燐は少し呆れ気味につぶやいていた。


「さて、今までのパターンからして、どうせここにもいるんだろうな……出てこいっ!!」


 結は今までのパターンから、十中八九守護者の誰かが現れると思い、大声を出すと、「ほう、私がいることに気が付くとは、たいしたものだな」っと声が降ってきた。


(ん?降ってきた?)


 声が上から降ってきた事に驚き、思わず頭上を見上げるとそこには、両肩に翼のような飾りの付いた真っ赤の服を着た少女が、空中に(・・・)立っていた。


「それで?私の相手は誰だ?」




 

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