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3ー16 偽りの氷


 結がホール内にいる全てのイーターを倒してから、火燐の提案によってホール内の探索をする事になっていた。


「結、何か手掛かりはあったか?」


「いや、今のところは何も見つからないな」


「火燐様、こちらも見つかりません」


 結たちが今探しているのは、H•Gがイーターを操っていると思われる術の手掛かりだ。


 未だその術の手掛かりが何一つ無く、それもイーターを操るなどという場合によっては世界の軍事バランスに影響を与えかねない技術だ。


 その術の解明は優先事項となるだろう。


 このホールでイーターが大量発生したこともあり、何かしらの手掛かりがあるのではないかと火燐ぎ提案し、そこまで本格的にはできないがか、多少の探索をする事になっていた。


 とはいえ、捜索を始めて十分前後。


 未だに手掛かり一つ見つける事が出来ずにいた。あれだけのイーターを呼び出すのならそれなりの規模の、それも結が描いた超大型幻操陣と同等のものが必要だと思われるため、十分程度の探索でも見つかると思っていたのだが、結果として何も見つけることが出来なかった。


「くっ、捜索はここまでにしょう。先を急ぐぞ」


「そうだな確かにこれ以上時間は使えないか……」


「結、火燐様、あれはなんでしょうか?」


 六花が指を指した先には、何か文字の様なものが刻まれた石壁があった。


「む?そんなものさっきまで無かった気がするのだが……」


「六花、なんて書いてあるんだ?」


「わかりました、読みますね」


『テスムフ、チアトデシイスヤ。ロニオオフ、オタアトデシ。ロエスウノ、リセハス、ユヨセエメャボ、ムマカタサ』


「は?」


「どういう意味だ?」


「ちゃんと日本語で読んでくれないか?」


「その、残念な事にこう書いてあるんです」


「マジ?」


 六花が真顔で言うため、真相を確かめるべく結自身が石壁を見に行くと、そこには六花が言うとおり、カタカナでそう描かれていた。


「本当に書いてあったよ……」


「だからそう言ったではないですか」


「……結。まさかとは思うが六花の言葉を信じていなかったのか?」


「……シンジテタヨ?」


「……」


 片言で語る結に、六花はジト目と無言で訴えていると、石壁に刻まれていた文字をメモしていた火燐は、二人に声を掛けると、探索の時に見つけた扉から次の部屋に向かった。


 扉の先に広がっていたの、さっきまでの長い廊下や広いホールとは違い、ごく普通の中庭だった。


「今回の場所はどうやら普通ですね」


「しかし、敵地でありながら中々綺麗な場所ではないか」


「そうかもしれないが……火燐、そんな事言ってるから俺に尊敬されないんじゃないか?」


「火燐様は意外と抜けてるの」


「か、関係ないだろっ!!」


 敵地であるH•Gの中庭を褒めただけで、理不尽にも結にここまで言われてしまい、あろうことか六花にまで抜けてると言われてしまった火燐はその場でぐったりと落ち込んでいた。


「さてと、冗談はこれくらいにして先を急ぐぞ」


「そうですね。……火燐様もいつまでも落ち込んでいないで早く行きますよ?」


「……最近、六花まで態度が悪い気がするのだが……」


 そう言う火燐を、結は軽く宥めると先を急いだ。


「この匂い、どうやらこの庭に植えられているのは薬草ばかりのようですね」


 フンッフフンフンッ


「ん?」


 この庭に植えられているのが薬草だと気が付いた六花は、みんなにそう声を掛けて、三人で、薬草を眺めていると、ふと楽しげな鼻声が聞こえてきた。


(新手か?……いや、それにしては声に緊張感が無さ過ぎる)


 三人は出来るだけ音を立てないように、音の発信源に近付くとそこには、青い龍の刺繍が縫われたチャイナ服を着た、長髪の可愛らしい少女がいた。


 その少女は、どうやらしゃがみ込んで薬草を摘んでいるらしく、手には籠を持っていた。籠の中にはすでに幾つかの薬草が種類に分けられて入っていた。


(あいつは確か……)


 その少女もまた、麒麟襲撃時に共に来たH•G守護者の内の一人だ。


(それにしても、警戒心皆無だな)


 鼻声まで歌って、楽しそうに、不用心にしている少女に呆れる三人だったが、どうもその光景を見ていると不意打ちをする気も出なかったため、三人は正々堂々と正面から少女の前に出ていた。


「ん?誰かいんの?ちょっと悪いけど手伝ってよ。これと同じ薬草があと三束ほど必要なんだよね」


 結たちの足音で誰かが近付いているのがわかった少女は、相手が結たちであることにも気が付かないで、結たちの方を見ないまま、籠の中から薬草を一本取り出して、結たちに見せると手伝ってとまで言い出していた。


「もー早く取ってよー!!見ただけじゃ覚えられないでしょっ!!まったくノロイんだか……ら……え?」


 結たちが無言で何も動こうとしないため、イラついた少女は、怒鳴りながら振り向くと、結たちと目が合い、その瞬間目を丸くして、驚いた表情でアワアワと口元を動かしていた。


「え、えぇー!!あんた達ってまさか、襲撃者っ!?」


 少女は籠を置くと、大声で叫びながら、バッと凄い勢いで立ち上がると、プルプルとした指で結たちを指していた。


「あっ!!な、ならあたしが撃退しなけゃっ……でもあれ?こんなに早くここまで来るなんておかしくない?白虎と玄武とあの人はなにやってるのさー!!」


 少女は両手で頭をわしゃわしゃと掻き毟ると、一人で勝手に混乱していた。


「……取り敢えず落ち着けよ」


「え?あ、うん。ありがとう……ってありがとうじゃないよっ!!君たちのせいでこうなってるんだよっ!!」


 少女は両手を上げて、まるで怒ってますよっとでも言いたげな表情で怒鳴ると、一応結が言ったように落ち着こうと深呼吸をしていた。


「ふぅー、落ち着いた。それじゃやろっかっ!!」


 少女はニパッとした笑顔でそう言うと、すぐに真剣な表情になると、左手を前に突き出し、右足を顔付近に、右足を後ろに引いた構えを取ると、すぐに「あぁー」っと呟きながら、慌てたような表情になった。


(……さっきから忙しい奴だ。見てて面白いけど)


「ちょ、ちょっとタイムっ!!お願いだから場所変えよ?ねぇっねぇっこの通りっ!!」


 少女は両手で待った待ったと合図をしながら、そう言うと今度は両手を合わせて本気の懇願をしていた。


 どうやら本気でここで争いたくないらしく「土下座でもなんでも言う事聞くからお願いしますっ!!」っとまで言われてしまった結果、結たちは流石に折れてしまい、少女の言う通り場所を移す事にした。


 結が「わかったそれじゃ移るぞ」っと言うと、本気で土下座をしていた少女はパッと顔を上げると、満面の笑みで「ありがとうっ」っと言った。


 三人は呆れつつ、少女は楽しそうにスキップで歩くこと数分、結たち四人は少女の先導の元、中庭を抜けると、どうやら隣の部屋はちょっとした広間になっているらしく、そこで戦う事になった。


「よーし、今度こそやろっか?一人だけここに残って、残りの二人はあっちの扉から次に進めるよー」


 少女は広間に着くと、クルリとその場で回って後ろからついて来ていた結たちに振り向くと、指で広間の先にある扉を指差すと、「こっちのお願い聞いてくれたし、サービスサービス」っと楽しそうにしていた。


「ふっ、次こそは私だな」


「いえ、ここには私が残ります」


 今度こそ自分の番だと思い、腰から剣を抜こうとすると火燐の手を遮った六花は、手首の法具を起動すると、一人前に出ていた。


「六花っ今度こそ私ではないのかっ!!」


「やはり最後のメンバーがF•Gだけになるのはどうかと思いまして」


「まあまあ、いいじゃないか」


 六花と結の言葉に不満は残っているらしいが取り敢えず納得した火燐は「必ず勝つのだぞ」っと六花に言うと結に声を掛けて、二人先を急いだ。


「やっと決まったんだ。君があたしの相手ってわけだ」


「はい、F•G中等部二年、生十会副会長、柊六花です。よろしくお願いします」


「へ?あ、うん。ご丁寧にどうも」


 六花の礼儀正しい挨拶に、思わず姿勢を正して、頭を下げている少女に対して、六花は「あなたの名前はなんでしょうか?」っと続けた。


「あたしの名前は青龍(せいりゅう)、東の青龍だよ。まあ一つよろしくね」


「そうですか。それでは青龍、守護者であるのですし『心装』は使えますね?」


 突然の六花の問い掛けに、少女、青龍は頭にクエスチョンマークをたくさん浮かべながらも「使えることけど?」っと答えた。


「よろしければ今すぐ『心装』をしてくれませんか?」


「ん?なんでさ」


 疑問を浮かべる青龍に六花は、満面の笑みになるとはっきりとした口調で言った。


「でなければ一撃で終わってしまいますので」


「へぇー」


 六花の挑発とも言える言葉に青龍は真顔になると、六花はそのまま言葉を続けた。


「全力を出さずにやられてしまうのはかわいそうですので」


「随分あたし舐められてるみたいだね」


 青龍はイラついた表情でそう言うと「あっ」っと何かを思い出したかのように、掌に拳をポンッと叩くと、今度は青龍が話し始めた。


「そういえばさっき、副会長って言ってたっけ?」


「それがなにか?」


 青龍の意図がわからない問い掛けに、六花はチョコンと首を傾げながら答えると青龍はそのまま話し続けた。


「確か生十会ってその学年のトップ集団だよね。その中で副会長ってことは、その学年の中じゃ二番目に強いって訳だ。それでそんなに自信があるって言うのなら、大間違いだよ。そんなの所詮はシードのレベル。あたしたち守護者とはレベルが違うよ」


 青龍は一気にそう言い終えると、静かに聞いていた六花に、どう?っとでも言いたげな表情で、六花の言葉を待っていた。


 そんな青龍を見ていた六花は、小さく、くすっと笑うと、挑発されているのをまったく気にしていない風に笑顔で返事をした。


「確かに本来ならそうですね」


 六花は左手を右手首に当てると、その動きに思わず身構える青龍を無視して、起動していた法具を止めていた。


 その行動に舐められてるいるのかと青龍はイラつきを見せていたが、六花はどこに吹く風の如く、着ているセーラー服のポケットに手を入れると、そこから小さな携帯端末のようなものを取り出していた。


「そうイライラしないで下さい。カルシウム足りないのではないですか?あっ、知っていますか?良くイライラするのはカルシウムが足りないからと言われますが、実際にカルシウムの不足でイライラするケースは少ないらしいですよ?確かにカルシウム不足でイライラすることもありますが、大抵の場合、原因は他にあるらしいですよ?ですので、今の発言は正確には正しくないかもしれませんね」


「長いよっ!!無駄にセリフが長いよっ!!逆にイライラするよっ!!」


 その場で地団駄を踏んでいる青龍を見て、六花は楽しそうに微笑むと、取り出した携帯端末を起動した。


「やっぱりそれって法具だったんだ。でも契約法具を複数持つのって珍しいね……いやむしろあり得ないよね」


「確かにそうですね。契約法具を複数持つのは本来なら悪手ですよ」


 契約法具とは、幻操師の幻操領域を引き出し、そこに幻操式を刻むための法具だ。


 幻操師が使う法具は大抵がこの契約法具だ。


 契約法具を複数使うのが何故悪手なのかと言うと、例えば十の幻操領域があるとして場合、二つの法具を使うと十の幻操領域を五と五や七と三などに分けなければならず、一つの法具であれば十全てを使う事が出来る。


 この幻操領域が大きければ大きいほど、強力な幻操術やたくさんの幻操術を刻めるのだが、量であれば法具を何個使おうが変わらないのだが、強力な幻操術を刻む事が出来なくなってしまうからだ。


「ですが、契約法具にだって限界があります。法具の質によっては、使用者の幻操領域を全て引き出す事が出来ない事もあります」


「……それが君だってのかい?」


 契約法具にだって引き出す事の出来る範囲に限界がある。とはいえ普通ならば法具の質が足りなくなるだなんて事は滅多にない。


 だからこそ、まるで自分は一つの法具では自分の力を引き出し切れないと言っている六花に青龍は警戒していた。


 しかし六花の答えは否定。六花の言い分はあくまでそういう可能性があるってだけという事らしい。


 しかしそれならば六花が法具を二つ理由は何なのか、その疑問を六花にぶつけると六花はその答えを快く答えてくれた。


「いつも使っているのは、特化法具です」


 特化法具。

 一つだけ式が刻まれており、契約も必要とせずに幻力を注ぐだけで幻操術を発動できる道具だ。


 今まで六花はたった一つの式しかない法具で戦ってきたのだ。


「あなたに『心装』をして頂きたいのには他に理由があります。今私は急いでいまして、つまりスケジュールが詰まっているのですよ」


「……つまり互いに様子を見るのは無しにして、最初からクライマックスが良いって事?」


「はい。そういうことですね」


 六花の言葉に青龍は(それなら挑発みたいな言い方しなくてもいいじゃん)っと心の中で拗ねていた。


「先ほど言いましたね。私は二番手だと。それは違いますよ」


「ん?何が違うの?他にも強い人がいるってこと?」


「いいえ。私は事情がありまして、会長にはなりたくないのです」


「ん?それじゃぁまるで」


 六花が言おうとしていることに気が付いた青龍は少し焦ったような表情になると、その表情を見た六花はニコリと美しい笑みを浮かべた。


「私の実力は現在の会長を遥かに凌いでいます。知っていますか?この世界は広いのですよ。この世界には私たち幻操師ならば法具が必要だという常識を覆す人間がいます。その人は法具無しで法具を使っている幻操師を遥かに超えた実力を持っています」


「まさか、それがあなた?」


「いいえ、残念なことに私程度の幻操師ではありません」


 六花が自分の実力は現在の会長を遥かに凌いでいると言った瞬間、六花の纏っていた幻力の質が大きく変化していた。氷のように冷たく、名刀のように鋭い、凄まじい純度を誇るその幻力を見て、青龍はあることを確信した。


 それは自分の終わり。


 自分の人生はここで終わってしまうのだと感じてしまった。心が折れかけてしまっていた。


「どうしましたか?『心装』、早くしてくれませんか?」


「くっ」


 青龍は恐怖ですくんでしまう自分の体に鞭を打つと、スカートの中から鞭を取り出すと、恐怖を払い除けるかのように大声をあげて『心装』を発動した。


『心装攻式、青東龍鞭(ブルードラゴン)


 青龍の取り出した鞭は、その姿を変え、まるで青い龍のような姿になっていた。


「励ます訳ではありませんが、あなたは強いですよ?ですので私は自分の法具を取り出しているのですから、それにあなたは守護者であり『心装』を操る者。その力に答え、私も心を纏いましょう」


『心装守式』












 結と火燐は広間から出ると、そこに広がっていたのは、最初のような長い廊下だった。


 結と火燐の二人は、長い廊下を走りながら、六花について話していた。


「結、六花の実力はどうなんだ?」


「それがわからないんだ」


「どういうことだ?」


「生十会の誰に聞いても、誰も六花の全力を見たことがないらしい。それに会長は言っていたんだ」


「なんと?」


「六花は自分より遥かに強いって。なんで実力を隠しているのかはわからないけど、いつか教えてくれるのを待ちなさいって」


「……そうか」


 結自信、六花の実力は知らなかった。しかし会長はそう言っていた。だから今の結に六花を心配する気持ちなど欠片も存在していなかった。


 六花ならやってくれる。そう心から信じていた。


「そういえば結は知っているか?」


 六花の実力についての話が終わり、黙って走り続けていた二人だったが、火燐は突然、結にそう問い掛けた。


「心装に種類があるのは知っているな?」


「法具に心力を纏わせる攻式と体に心力を纏う守式だろ?」


「そうだ。それでどちらが難しいか知っているか?」


「さあな?」


 結が知らないと聞いて、何処か楽しげにしている火燐に、結はさっさと答えを言えと目で訴えると、火燐は「まあまあ、慌てるな」っと言って、続きを話だした。


「攻式と守式では、心装の核となる部分が存在しない守式のほうが難易度が遥かに高いとされている。それに攻式よりも守式のほうが効力も高いのだ」


 火燐の説明を聞いて、火燐に対する認識を少し変えて、評価を上げる結だった。


 途中で出てきたカタカタの文は読めなくても全く問題ありません。

 

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