3ー15 力の一端
再び場面は戻り、結たちは双花たちがいるであろう城の中心部に向かって進んでいた。
周りの風景は今だに変わらず、入り口からここまでずっと同じきらびやきな長い廊下を延々と走り続けていた。
「陽菜……」
「六花心配しなくても大丈夫だ」
「ですが……」
先ほどの玄武が現れた時に、残してしまった仲間、陽菜。
どうやら六花と陽菜は仲が良かった。ふざけ合ったりじゃれあったりしている、なんてことは見たことないが(どちらか一人だけだったとしてもそういう場面が想像できないが)会議の合間や、みんなで寛いでいる時間の時は良く喋ったりはしているようだった。
それにFランクでありながらSランクの守護者、火燐と同等の戦いを繰り広げた結を除けば、陽菜のランクはこの中でも一番低いAランクだ。
本来であればAランクというのは小隊の部隊長であったり、パーティの中でも信頼される力を持った実力者なのだが、如何せんこのパーティはメンバーがおかしい。
五人中三人がSランク、それもその内二人は一ガーデンの守護者という幻操師としてトップクラスの人間が集まっているのだ。
結も結でその守護者と同等の実力を持っているため、ここでは陽菜のAランクというのはどうしても見劣りしてしまうのだ。
そしてランクはそのまま実力に直結していると言ってもいいだろう。
もちろん戦いにはその個人の実力だけはなく、地形や属性の相性、使用武器の相性だってあるし、戦い方の相性だってある。
勝ちを絶対的なものに限りなく近付けるために、本来であれば相手の事を調べその相手に相性のいい幻操師をぶつけることによって勝率を限りなく上げる事ができるのだが、現在結たちに相手の情報は皆無と言ってもいい。
麒麟の主属性が雷だということが分かっているぐらいだ。
しかしそれだけで麒麟がどんな戦い方をするのかはわからないし、使用武器だってわからないし、前の戦いでの麒麟はおそらく、いや絶対に実力のほとんどを出している様子が無かったからだ。
そして、その守護者たちの情報なんてものはさらにない。
そんな相手の一人玄武の元にこの中でも最も実力で劣るかもしれない陽菜を置いて来たのだ。
その陽菜の仲の良い六花が心配するのも無理はない。
「陽菜だって生十会の一員だ。ほれに陽菜だって心装を会得したんだぞ。実力で言えばすでにSランクだろ?問題ないって」
「それにそんなに心配していては残った陽菜に失礼だろう?陽菜を信じてやれ」
「結……火燐様……」
結と火燐は珍しく不安気な顔をしている六花を励ましていると、延々と続いていた廊下の終わり見えてきていた。
「ふぅ、やっと終わったか」
「しかし、やけに広い場所に出たようだな」
「ホールっと言った所でしょうか?」
あの凄まじく長い廊下が終わり、その先に広がっていたのは、広さにして物理世界の東京ドームがそのまま一つ入ってしまうのではないだろうかと思ってしまうほどの、大きなホールだった。
「それにしても広過ぎるだろ」
「H•Gは歴史が浅く、そこまで大規模なガーデンでは無かったと思うのだがな。ここまで広いホールを必要とするのだろうか?」
「だだの趣味ではないのでしょうか?それかロマンでは?」
「……それってつまりただ大きなホール作ってみたかったから作ったって事か?」
「……麒麟の事だ。そうかもしれないな」
火燐が言うにはどうやら麒麟は派手好きらしい性格をしているようだ。
幻理領域という土地に関してはほぼ気にしなくていいとは言え、ここまで大きなホールを作るとは、本当に麒麟は派手好きのようだ。
あのやけに長い廊下ももしかしたら麒麟の趣味なのかもしれない。
無駄に長い廊下に無駄に広いホール。麒麟は派手好きというよりかは大きなものが好きなのではないだろうか?そういえば麒麟自身はどちらかと言えば小柄な少女だった気がするし、自分に無い物を求めてしまうのは人間にとって当たり前なのかもしれない。
「ん?あれはっ!!皆の者っ警戒を強めろっ!!」
ホールの入り口で立ち止まり、三人は呆れた感情を抱きながら、その広過ぎるホールを眺めていた。
しかし、突然何かに気が付いたらしい火燐は、大きく声を張り上げて、皆に注意を促すと、腰に差していた剣を引き抜くと、法具としての機能を起動し、全身に力を巡らせていた。
火燐に言われた結と六花もまた、それぞれ結は両手首に着けた法具、六花もまた手首に着けた法具を起動して、臨戦態勢を取っていた。
「……っ来るぞっ!!」
火燐は叫ぶのとほぼ同時に、まるで蜃気楼のような歪みがホールの至る所から出現していた。
「これは……イーターかっ!?」
突如、空中に生まれた歪みはどうやらその全てがイーターが出現する際に現れる予兆のようだ。
歪みからは次々と沢山のイーターが溢れ出しており、すでにその数は数える事の出来ないほどにまで増殖してしまっていた。
「何故イーターがこれほどにいるのだっ!!……っ!!まさかH•Gはイーターを御する術を持っているのかっ!!」
「……認めたくないが、その可能性もあるな」
「……やはりF•Gのイーター出現事件もH•Gが関わっているのでしょうか?」
「そうだろうな」
H•Gの中心部にこんなタイミングを計っているかのようなイーターの大量発生、これは明らかに人為的のなにかがあるとみていいだろう。
それにF•Gのイーター出現事件。
あれも人為的要素が高いという結論に至っていたため、これもまたH•Gの仕業なのだろう。
(それにしてもイーターを御する術……まさかな……)
「くっ!!大型や中型はいないようだが、下位イーターだけでなく、小型イーターもそれなりの数が混ざっているようだな。結っ六花っ手分けして片付けるぞっ!!」
「そうですね。流石にこの数は……」
「待ってくれ」
すでにホール中にイーターが溢れてしまい、下位イーターだけでなくどうやら上位の小型イーターもそれなりの数が出現してしまっているらしい。
その数は数万はくだらないだろう、そんな光景を見て火燐がイーターの討伐を手分けして始めようと声を掛けると結が制しの言葉を言った。
「結っこれ以上時間を無駄にするわけにはいかないのだっ!!話なら後にしろっ」
「だからこそだっ!!」
結の言葉を無視して、いざイーターの群れの中に突っ込もうとしている火燐を結は大声で制した。
火燐は不満の声を上げながら、結に振り抜くと、そこには両手の掌を合わせ、合掌している結の姿があった。
「火燐様、冷静になってください」
「くっ……結、なんだ言ってみろ」
一刻でも早く双花を助けたいと言うのに、それを邪魔するかのように突如イーターが大量に現れ、頭に血が上ってしまっていた火燐は、六花に言われ、冷静さを取り戻すと、合掌し『ジャンクション』をしている結の言葉を促していた。
「早く終わらせるため、二人は下がっていてくれ」
「なっ!!結っいくらジャンクションした貴様が強いとは言え、この数だ三人でやった方がいいだろうっ」
結の下がっていてくれ宣言に六花は冷静に話を聞いていたが、火燐はその言葉に反論をしていた。
火燐の反論は当然と言うべきなのだが、結はそこで言葉を切ると、ジャンクションに集中していた。
「おいっ聞いてーー」
「火燐様」
「なんだっ六花」
「結を信じてあげて下さりませんか?」
「しかし……」
「お願いします」
六花は真っ直ぐな眼差しで火燐にお願いをすると、火燐はその真剣さに負けたのか「……わかった」っと言って、結の言うとおり下がっていた。
「終わった……」
「ん?」
「……それが修行の成果ですか」
『ジャンクション=四人の女神=ーー』
麒麟出現時と一花の修行の際に、一花が陽菜の命を狙うふりをした時に現れた、暴走した結。
結が一花との修行で身に付けた力、それは暴走時の力をジャンクションの一つとして完全に御したのだ。
その名も『ーールウ』
「行く……」
結は一歩前に出て、手を目の前に翳すと、そこに純白の槍が出現していた。
結は槍を掴むと、即座に石突きで地面を叩いていた。
地面を叩いた瞬間、イーターの群れの中心に大きな幻操陣が出現していた。そう暴走時に使っていた幻操陣の高速展開、それが結の新たな『ジャンクション』ルナの特化能力だ。
「っ!?あの一瞬であれほどの規模の幻操陣を描いてしまうとはな……確かに我々は下がっていたほうが早く終わりそうだな」
結は出現させた超大規模幻操陣を発動すると、巨大な火柱が巻き起こり、それだけで群れの中心部に居たイーターたちは全て綺麗に蒸発していた。
「……凄まじく威力ですね。……流石は……」
結の起こした火柱の圧倒的威力に思わず感嘆してしまう六花と火燐はなにもせずにただその光景を眺めていた。
すでに火燐の中にあった焦りは影を残さずに消えていた。
「やはり多い……」
結はホールを一通り見渡して、イーターのいる配置をだいたい頭に叩き込むと、今度は石突きで地面を叩かずに、まるで槍を指揮棒のように目の前でサッと振るっていた。
結が槍を振るうと今度は空中に、しかも大量の幻操陣が描かれていた。
「……これはもはや何も言えぬな」
「……そうですね」
一つ一つはさっきの超大規模幻操陣と比べれば明らかに小さい。
さっき超大規模幻操陣は約直径二百メートルという反則的な巨大さだったのだが、今度の幻操陣の直径は小さいものは一メートル程度、大きくても三メートル程度しかないのだが、その数があまりにも異常だった。
なぜならその数はあまりにも多くて数えることが出来ないほどなのだ。
幻操陣が重なり合って、それはまるで幻操陣によって出来た壁のようなのだ。そこまで多くの幻操陣が結の一振りによって描かれたのだ。
「あたしは幻操術の特化型……幾つもの陣を描くなんて造作もない……」
暴走状態の結は、陣を平面の地面などのなにかに接した面でなければ陣を描く事が出来ないでいた。
しかしそれは暴走状態でありそこに結の意識がほとんどなかったため器用な事が出来なかったのだ。
しかし今は結の意志で『ジャンクション』を発動させている、結果ルウの圧倒的幻操術の特化能力を最大限に発揮することができているのだ。それがこの空中幻操陣だ。
「死んで……」
結が槍をもう一度振るうと、今度は空中に設置された数多の幻操陣が同時に起動し、様々な属性を纏った弾丸がまるでシャワーのように、イーターの群れに向かって注ぎ込まれていた。
一つ一つは二番の幻操術なのだがその数があまりにも異常なのだ。
『火弾』『水弾』『風弾』『雷弾』『土弾』他にも様々な色の、様々な属性の弾丸が撃ち込まれる中、結は両手で槍を握り締めると、今度は槍を翳すかのように、正面に構えていた。
「あれは……一体結はなにをするつもりなのだ?」
「……さあ?凄まじく幻力があの槍に注ぎ込まれていることぐらいしかわかりません」
結が槍への幻力供給を終わらせると、ちょうど同じく設置していた幻操陣か尽きたのか、色取り取りな弾丸のシャワーもまた終わってしまっていた。
結が最初に発動した超大規模幻操陣による巨大な火柱と今結がやった、色取り取りな弾丸のシャワー。
この二つの攻撃によってすでに数万は居たであろうイーター達は弾丸程度の攻撃力では倒せないほどの力を持った、小型イーターの中でも上位クラスだけを残して、全て消滅していた。
残ったイーターの数はたったの十二体、最初の数と比べると結の殲滅能力の高さに思わず溜め息が出てしまうほどだ。
結は幻力の供給が終わった槍を今度は両手で、天に向かって翳すと結の真上に直径三メートル程度の幻操陣が平行に重なり合って出現していた。
「今度はなにをするのだ?」
結が描いた幻操陣の数は十二、ちょうど生き残ったイーター達と同じ数だ。
結は幻操陣を描き終えると、今度は描いた幻操陣を槍飛ばすかのように、サッと槍を振るうと十二の幻操陣が生き残った十二体のイーターへと向かっていき、それぞれの頭上でピタッと動きを止めていた。
「……なるほど、ピンポイントですか」
結が槍の石突きを地面に叩きつけると同時に幻操陣が起動しイーターの頭上から眩い純白の光が降り注いでいた。
この光は暴走時に一花に大きなダメージを与えたのと同じものだ。
あの時は制御が完璧には行えていないようだったのだが、今度のそれは完璧にコントロールされているもので、どうやら生き残ったイーター一体一体に合わせて適切な威力調節までされているようだった。
そして光が消えるとそこにイーターの姿は影も形も残ってはいなかった。
「超大型幻操術で大半を仕留め、残ったものには幻操術の雨あられ、最後にはピンポイントな幻操術でトドメとは……恐ろしいな」
火燐はたった今結が呼吸をしたかのように当然のごとくやったことに対して、小さな恐怖心まで感じてしまっていた。
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