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3ー14 陽菜の心装


 心装攻式、雷忍苦無刀。

 一花との修行によって陽菜が目覚めさせた力。それが雷忍苦無刀だ。


 心装の発動と同時に、二本の苦無が一つに組み合わさることによって、通常の苦無よりも、刃が長い苦無となっていた。


 そして、それだけじゃない。

 一花との修行で修行が目覚めた時、陽菜が持っていたのは雷で出来た刃を持つ剣の様だった。


 つまり心装によって変化した苦無は、その刃に雷を宿す。


「へぇー。まるで光の剣ねぇー。でもそれでなにぃー?」


 刃から迸る雷は、本来の刃を完全に覆っていた。玄武の言うとおり、その姿はもはや苦無じゃない、激しい雷を纏う光の剣だ。


「……行く」


 陽菜は心装することで、今まで以上に雷を上手く操る事が出来るようになっていた。


 雷でレールを作り、その上を電磁石の力を利用して高速移動する幻操術『雷伝速(らいでんそく)』を使って再び玄武の背後に、それも『雷伝速』の効果によって、一撃目の時よりも遥かに速い速度で回り込むと、再び玄武の首を狙って苦無を振るった。


「んんー!?」


 陽菜の振るう苦無が玄武に当たる瞬間、玄武はそれを避けた(・・・)


 苦無が当たる瞬間、いつもは少し眠たそうにしているのんびりとした表情が、目を見開き、一瞬にして焦りの表情へと変わっていた。


「んんー、びっくりぃー。今のは危なかったかなぁー」


 玄武は元々は避ける気が無かった、それはもちろん自分の幻操術『身体硬化』にそれだけの自信があったからだ。


 しかし当たる瞬間に、玄武は苦無の斬れ味が自分が思っていたよりも遥かに上昇しているのを感じていた。


 感じていたと言っても何かの確信があった訳じゃない。言ってみればそれは戦士の勘とでも言うのだろうか。


 のんびりとした空気醸し出している玄武だが、玄武だってH•Gの守護者。


 幻操師として高い実力を持つ立派な戦士の一人なのだ。


「それにしてもぉー。避けるのが間に合って良かったよぉー」


 玄武は当たる瞬間、本来ならば絶望的とも言える圧倒的な短い時間で戦士の勘を頼りに体を正面に投げ出したのだ。そのおかけで玄武は致命傷を避ける事ができていた。


 そう致命傷(・・・)は。


「……避けれた?当たってるよ?」


 玄武の姿、玄武は左肩から先に掛けて衣服が全て弾け飛んでしまっていた。


 そしてその左腕は原型はとどめているいるものの、大小さまざまな傷が付いていた。完治は出来るだろうが恐らくこの戦いの中でその腕を動かすことはもう叶わないだろう。


「ふぅー、いいのぉー。あたくしの心の代わりに一時的な腕一本の犠牲なら安いよぉー」


 玄武は右手で左腕を優しく撫でると、左腕に何かの幻操術を掛けていた。


 幻操術を掛け終わった瞬間、左腕を怪我してから微かにだが、その痛みによって歪んでいた表情に安らぎがはしっていた。

 おそらくあの術は鎮痛作用のある麻酔に似た効果を発揮するのだろう。


「……でも驚き」


 陽菜に自分のスピードに自信があった。だからこそ最初の一撃目の時に玄武が避ける素振りを全く見せなかった時、それは自分の動きに目すら追い付いていなかったからだと思っていたのだ。


 実際の理由は玄武の幻操術『身体硬化』による防御力に絶対の自信があったからだったのだが、それでも玄武にとって自分のスピードは速いものだと思っていたのだ。


 しかし、玄武はあの刹那、後手だったにも拘らず、陽菜の一撃を躱したのだ。


 左腕がやられてしまったとは言え、そのスピードは陽菜と同等、いや後手であれだけ動けたのだ、もしかしたらそれ以上かもしれない。


「ふぅー、それはこっちのセリフよぉー。まさかあたくしの鎧が突破されるなんてぇー」


 玄武は右手を挙げて、右手だけでやれやれと言った風に首を振ると、「仕方ないかぁー」っと言いながら、右手を背中に伸ばし、背中に背負っていた、甲羅を取り出していた。


「ふぅー、あたくし個人としてはぁー、動いて戦うのいやなのにぃー。はぁー、面倒くさいよぉー」


「……それは何?」


「んんー、これぇー?これはねぇーあたくしの盾だよぉー」


「……盾?」


 その姿は亀の甲羅、確かに甲羅だけを見れば盾に見えないこともない、しかし、この状況で武器ではなく、防御の道具を出すとはどういう事だろうか?


 陽菜は恐らくあの盾にはなにかの仕掛け、いやそもそも見る限り玄武は他に道具を持っている様子はない。それに手首に腕輪型の法具を着けたりもしていない。


(法具無しでの幻操術、不可能ではないけど正直無意味でしかない。それなら……)


 あの盾こそが、今まで玄武が幻操術を使うために使用している道具、法具だということだろう。


 心装を発動しなければ突破することのできない頑丈な鎧。


 そして恐らくその鎧をも超える防御力を誇っているだろうその盾。


 二重の絶対的守りによって己の身を守り、幻操術による攻撃、恐らくそれが玄武の戦術なのだろう。


「ふぅー、それじゃぁー行くよぉー」


 玄武を盾を正面に向け、防御の構えを取ると、その状態のまま、リズムを取るかのように、つま先で足元を叩き始めていた。


(……来るっ!!)


 陽菜は何かが来るのを感じ取り、即座にバックステップをしていた。


 陽菜がその場から立ち退いた瞬間、地面から巨大な針のようなものが何本も突き出ていた。


(……もう少して串刺しだった)


 陽菜は串刺しにならなくて良かったと、心の中で安堵していた。


 陽菜は視線を地面に生えている針から、玄武本人に移すと、玄武は相変わらず盾を構えたまま、つま先でリズムをとっていた。


 後ろにバックステップで飛んでいた陽菜が地面に降り立つと、その瞬間、再び先ほどと同じような針が地面から何本も突き出してきていた。


「……くっ!?」


 陽菜はすこし掠ってしまっていたが、ほとんど無傷と言っても言いぐらいの軽傷で再びその場から立ち退くと、針がさらに伸びて、追撃をしてきていたため、苦無刀で針を切断していた。


(……地面は全て敵の領域と考えるべき、それなら……)


 陽菜は地面に降り立つのは危ないと判断すると、『雷伝速』で空中を滑るかのように移動すると、スピードで優っている訳ではないため、後ろからだなんて事はせずに、真正面から玄武に斬り掛かっていた。


「……ちっ」


「ふぅー、その刃でも私の盾を断つ事なんてできないよぉー」


 陽菜の一撃は玄武の持つ盾によって完全に防がれてしまっていた。


 陽菜の一撃を防いだ盾には小さな傷一つ付いていないようだ。


(……攻撃力が足りない。一撃では無理。……それなら連続でやる)


 陽菜は玄武に斬り掛かった後、地面には降り立たないで、『雷伝速』を使って、距離を取っていた。

 玄武から離れながら、即座に戦術の方針を新たに決めると、陽菜は苦無刀を強く握り締め、また『雷伝速』で玄武へと一直線に向かっていた。


「ふぅー、わからない子だなぁー。無駄だよぉー」


 陽菜は再び正面から玄武に斬り掛かるが、またもや玄武の盾によって防がれてしまっていた。


 しかしそれで終わる陽菜では無かった。


 陽菜はさっきと同じように『雷伝速』で距離を取ろうとフェイントを入れると、苦無刀と盾が触れ合っているところを支点に、体制を回転させると、玄武の首に向かってサイドから蹴りを繰り出していた。


「ふぅっ!?」


 陽菜の入れたフェイントのせいで反応が遅れてしまい、避ける事が出来ずに、蹴り飛ばされてしまった玄武は、空中で即座に体制を整えると、足踏みをするかのように、力強く両足で地面を踏み付けていた。


 すると今度は、地面から伸びてくる針を警戒して、空中を走り回っていた陽菜にまで届くほどの、太く大きい、今までの針よりも遥かに巨大な針、いや棘が伸びていた。


「……くっ」


 陽菜は自分に向かってくる棘にサイドから苦無刀を叩きつけることによって棘を躱すと、『雷伝速』で天高く空中に飛び上がっていた。


(……これ以上ここで時間を掛けるわけにはいかない。これで決める)


 陽菜は空中で自分の足元に『雷伝速』を応用した足場を作ると、その上で己の心装、雷忍苦無刀にさらなる心力を注ぎ込むと、鞘はないがまるで今から居合切りをするかのような構えをとっていた。


「ふぅー、どうやらあたくしの防御は簡単には突破出来ないと分かったみたいねぇー。んんーなるほどぉー、その一撃が終わったら何も出来なくなってしまうほどの力を注ぎ込めば突破出来ると思ったぁー?残念ー」


 玄武は陽菜がやろうとしていること、玄武の防御力を超えるために、全身の力を全て、これが終わったら少しの間は動けなくなってしまうほどの力を己の心装、雷忍苦無刀に注ぎ込み強化しようとしていることを言い当てると、陽菜に絶望を与えるかのように、楽しそうに次の言葉を呟いた。


「行っくよぉー『心装攻式、北壁装甲(ロックタートル)』」


 玄武が陽菜に与える絶望、それはさらなる防御力の強化、つまり心装だ。


 玄武が心装を発動すると、玄武が持っていた甲羅のような盾がその姿を変えていた。

 今までは少女でも背中に背負うことで出来る程度の小さな盾だったのだが、今の大きさは決して小さな物では無くなっていた。


 たった今玄武の真横にあるその物体は、直径三メートルにも及ぶ巨大な盾となっていた。


 その盾の見た目は大きくなってはいるが、今まで通りまるで亀の甲羅のような姿をしているのだが、その甲羅の表面には岩のような突起が幾つも飛び出していた。


 その姿はまるで崖の一部を甲羅の形にくり抜いてきたかのようだ。


「これの硬度は今までの比じゃないよぉー、早く自滅してねぇー」


 玄武は余裕そうに欠伸をすると、その巨大な盾を構え、陽菜の攻撃に対して備えていた。


(……確かにあれは固そう。でも斬れないことはない)


 陽菜の頭に巡るのは恩人との約束。


 自分を助けてくれた人。

 

 行く当てもなく彷徨っていた私を拾ってくれた人に対する恩義、そしてその絶対的信頼。

 あの人のためならなんだってできる。

 あの人が双花様を助けろと言った。

 あの人の望みは私の望み。


 だこらかならず、勝つ。


 あの人ために、またあの人のお側に要られるように。


「……負けないっ!!」


 陽菜はいつも眠たそうにしている目を珍しく、真剣に開き、そしていつもは出さないような大声を出して気合を入れると、天高くから大盾を構えた玄武に向かって一直線に向かっていた。


 そして


「そ、んなぁー」


 陽菜の斬撃は、玄武の大盾を綺麗に真っ二つにしていた。


 陽菜は心装を解除しながら、その場に崩れ落ちている玄武に近付くと

、自分が絶対の自信を持っていた大盾を真っ二つにされ、半ば錯乱している玄武の首に手刀を落とし、気絶させていた。


「……疲れた」


 玄武を気絶させ、戦いに勝利した陽菜は、力のほとんどを消耗してしまった今の自分では、みんなを追いかけても足手まといになると思い、今の戦いで消費してしまった自分の力を少しでも早く回復させようと、廊下の隅に座り込んでいた。


 コンッコンッ


(……誰?)


 座りながら目をつぶっているとふとそんな足音が聞こえてきていた。


(……近付いてる?)


 その足音の持ち主が、自分に近付いてる事に気付いた陽菜は、いつでも動けるように体に緊張をはしらせながら、制服の裾で隠すよう苦無を握ると、ようやく足音の持ち主の姿がぼんやりと視界に映り始めていた。


 そして、その姿がぼんやりではなく、完全に露わになると


「……あ、あなたは……」


「久しぶり、陽菜」

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