3ー13 二人目の刺客
待たせてしまった方々は誠に申し訳ありませんでしたっ!!それでは最新話をどうぞっ楽しんで頂ければ幸いです。
場面は変わり、春姫を除いた結たち一行は、未だに長い廊下を延々と走っていた。
「春姫様は大丈夫しょうか?」
「無論、大丈夫に決まっている」
六花は走りながらも敵の出現によっ一人置いて来てしまった春姫の事が気になり、チラチラと後ろを気にしてしまっていた。
そんな六花のつぶやきを聞き、六花を安心させるかのように自信ありげにそう言った火燐は、走るペースを変え六花の隣を並走するように近付くと六花に向かって二カッと笑かけていた。
「火燐の笑顔……似合わないな」
「なっ!!結っ貴様っ!!、一体それはどういう意味だっ!!」
「そのままの意味だよ」
「くすっ」
春姫の安否が気になり不安になっている自分を、安心させるためにこんな茶番を繰り広げてくれている結と火燐を見て六花は思わず頬を緩ませていた。
そんな六花を見て、今まで茶番を繰り広げていた二人は、目を合わせ、六花が元気になってくれて良かったと小さく静かに笑い合っていた。
「へぇー、笑ってる暇あるんだぁー。あたくしが思ってたよりも薄情なんだねぇー」
「っ!!貴様はっ!!」
結たちの前に立ち塞がるのは、現在春姫が戦っているはずの白虎同様、H•G守護者の一人だった。
(こいつは確か、頑丈そうな装備をして麒麟の正面にいたな)
結は麒麟たちがR•Gに突入して来た時の事を思い出しながら、今目の前にいる敵について考えていた。
今目の前にいるのはあの時同様、黒を基調とした衣を纏い、背中には亀の甲羅を思わせるようなものを背負っていた。
「久し振りぃーの人もいれば、はじめましてぇーの人もぉー、いるねぇー。あたくしの名前は北の玄武だよぉー。まぁよろしくぅー」
玄武と名乗った少女は、語尾を伸ばす独特な口調で話すため、本来ならば緊張感に満ちた雰囲気が流れる筈なのだが、その場にはどこか間の抜けたゆったりとした空気が流れていた。
「全く、やれやれですね。つい先ほど白虎と名乗る少女が現れたというのに、こんなにも早く次の刺客が現れるとは……」
「まあねぇー、仕方がないじゃん?こっちもこっちで忙しいんだよねぇー、だからそう時間掛けてらんないのぉー」
現在、春姫と戦っているはずの白虎が現れてからまだそこまで時間は経っていないというのに、すでに次の刺客である、玄武が現れてしまったことに対して、思わず溜め息をついてしまう六花だった。
しかしどうだろう、今の玄武の様子を見る限り、玄武自身も何かに対して文句がある、そんな風に見て取れていた。
「あぁー、めんどぉー。さっさと一人置いて消えてくれるぅー?」
「なるほどな。つまり白虎同様、こちらと貴様の一対一を望むということか」
「あぁー聞き返さないでよぉー。だからこんなめんどぉな事したくなかったんだよぉー。あぁーそう、そうだよぉーだからさっさと一人置いて他の奴はいらないからさっさと消えてってばぁー」
玄武は首筋を掻きながら、本当に面倒くさそうに言うと、頭の動きだけでシッシッとでも言うかのように催促のジェスチャーを送っていた。
「そうかならばこちらも早々に残る人間を決めるとしよう。先ほどは春姫が残ったのだ当然次はこの私で良いな?」
「却下します」
あちらは何かの予定、そしてこちらは一分一秒でも早く双花を助けたいという、両者共にあまり時間を無駄に出来ない事がわかったため、ここに残る、つまり目の前に立ち塞がる敵、玄武の相手を決めようとした時、先ほど自分と同じR•Gの同志、春姫が残ったため、今度こそは自分だと思い、名乗りを挙げる火燐だったが、それは即座に六花の言葉によって却下されていた。
「何故だ?」
「先ほど火燐様が言った言葉をそのまま使うことになりますが、先ほど春姫様が残ったからです」
「だからこそ私がっ」
「R•Gの人ばかりに活躍されてしまってはF•Gの名に傷が付きます」
「F•Gの名に傷が付くがどうかはわからないが、つまりそろそろF•G側もなにかしたいって事だろ?なら俺が残る」
「却下します」
「なんでだよっ」
「そんなの決まっているではないですか。私がーー」
「私が残る」
残るっと続けようとした六花の言葉を遮り、自分が残ると言い出したのは、この地味に長い会話の中で今だに一言も喋っていなかった無口な少女、陽菜だった。
「……ここは私が残ったほうがいい」
「それはどういう意味ですか?」
「……説明する時間はない、信じて」
陽菜の真っ直ぐな眼差しを受けた六花は、最初の少し困惑した表情から陽菜の事を心配しているかのような表情に変わると、静かに目を瞑り、小さく溜め息をついていた。
「……わかりました。結、火燐様、先を急ぎましょう」
六花に対して文句を言う結と火燐を制しながら、六花は二人を無理やり連れて走り出すと、一度も振り向く事も無く先へと向かっていた。
「あぁー、やっと決まったんだぁー。それじゃぁーやろっかぁー」
「っ!?」
玄武は結たち三人が時間の隣を通り過ぎ、立ち去って行くのを確認すると、残った者、つまり陽菜の事を見定めるかのようにじっくりと見つめていると突如として纏う雰囲気が一変した。
はっきり言って口調に変化はない。
しかしどうだろうか、その間延びした口調とは裏腹に、今玄武から感じる空気はまるで針で刺されているかのように鋭く痛い、そんな強い殺気が感じられていた。
「……先手必勝」
一瞬その強過ぎる殺気に飲み込まれてしまった陽菜だったが、即座に我に返ると懐から苦無をそれぞれ両手に一本ずつ、計二本を逆手で構えると、陽菜の性質である金曜の光の特性、加速を利用した高速移動によって、一瞬のうちに玄武の裏手に回り込むと、移動のスピードを生かしたまま、右手を玄武の首目掛けて振るっていた。
「ふぁぁぁぁあ」
玄武は欠伸をしながら、リズムを取る時にやるかのように、つま先で地面を叩くと、他にもなにも動かずに防御もしないまま、無防備に陽菜の苦無をそのまま首に喰らっていた。
陽菜は攻撃をし終えると、即座に後ろに飛び下がり、思わずといったふうに斬りつけた右手を眺めていた。
「っ!!」
陽菜は玄武に攻撃した際に違和感を感じていた。
人間というものはその身の中に骨があるため、切断しようとするのであればかなり硬い感じを受ける事は知っているだろうか?
もちろんそれは首であっても例外ではない、とは言えその強度は例えば格闘術や剣術などの技術を心得ている者にとっては然程苦労せずにへし折れてしまうような、繊細とまでは言わないが、決して折れないものではないのだ。
だからこそ武道を習う人間はむやみにその技術を他人に使う事を禁じられる事が多いのだが、陽菜は幻操師でAランクを取れるだけの高い実力を持っている。
つまりそれはその力を無防備な人間に使ってしまえば、簡単に相手を殺めてしまうという事だ。
だからこそ、玄武が一切の防御をしようともしないのを見て最初は自分の動きについて来られなかったのだと思っていた。
しかし実際に攻撃してみてどうなったのだろうか、攻撃の後、陽菜は思わず右手を眺めていた。そしてその手に握られていた苦無にはある変化があったのだ、それは
「……欠けてる」
陽菜の持つ苦無はその刃が欠けてしまっていたのだ。
生身の人間に斬りつけて刃が欠けるなんてあるだろうか?
そりゃまともな手入れもしないまま、何度も何度も斬りつけていたら刃こぼれだってするだろう、どう名剣や名刀だってそうだ。
しかし陽菜は苦無の手入れを怠っていなかった。
物理世界でだってその昔、日本には侍というもの達がいたのだ。そして侍は腰に日本刀を指していて、その刀を己の命かのように大切にし、手入れを怠る事などなかったとされている。
物を大切にする昔の人間の中でも侍にとって刀とはそれほど大切なものだったのだ。なぜなら侍とはその町の治安を守るため、他にも戦争のためだったり、大切な人を守るためだったり、他にも様々な事のために己の命を懸けて刀を振るっていたのだ。
刀とは侍にとって自分の命を預ける大事な相棒なのだ。
幻操師にとっての法具というものはそれと同じと言っても過言ではないのだ。
幻操師はこの世の歪みから生まれし者、イーター達と戦うために日夜己の心を懸けて戦っている。
心も命同様、人間にとってとても大切なものだ。
そんな大切な心を預ける戦いを勝ち抜くために幻操師が振るっている法具とは正に侍にとっての刀と同じなのだ。
その法具である苦無の手入れを怠る訳がないのだ、しかしただの一度でその刃はこぼれてしまったのだ。これは明らかに異常な事だ。
そして、この手から伝わった感覚、感触はなんだろうか?
その感触を一言で例えるのであれば
「……岩?」
「そうだよぉー。自分で言うのはアレなんだけどぉー、あたくしはとっても面倒くさがり屋なんだぁー。だから戦いにおいても動くとかしたくないんだよねぇー。だから考えたんだぁー、動かないで済む方法ー」
玄武は自分の背後にいる陽菜に振り返りながら、またリズムを取るかのようにつま先で地面を叩き始めていた。
「……膜?」
そしてそれと同時に、玄武の体になにか薄い膜のようなものが張られていっているのが見えていた。
陽菜はその膜を見て、一つの仮説を立てていた。
「んんー?その表情ー気が付いたみたいぃー?そうだよぉーこれは鎧だよぉー」
そう、それは鎧だった。
玄武はニコニコと楽しそうにしながら次々と自分から術についての説明を始めていた。
術の名前は『身体硬化』
剛木の得意とする『身体強化』と同様、己の身体能力に変化を与える術なのだが、もちろん違いがある。
その名称からして薄々、それどころか確信と言ってもいいほどに気が付いているとは思うが、とりあえず『身体強化』はその対象者の身体の能力を全て上昇させている。
それは握力であり瞬発性であり脚力、つまり膂力だ。
それに比べて『身体硬化』は全ての能力値を上昇させるのではない、たった一つの能力値を上げるのだ。
それはもちろん硬度だ。
つまり今の玄武は、見た目こそ薄い膜を纏っているだけに見えるが、実のところその膜は頑強な岩にも劣らないほどの硬度を誇っているのだ。
あまりにも硬過ぎる物を無理やり斬ろうとしたため、陽菜の苦無は欠けてしまっていたのだ。
「さてぇー?自慢の苦無も通用しないよぉー?どうするのぉー?」
玄武が「降参してみるぅー?」っとニコニコと楽しそうに言った瞬間、場の空気が変わった。
「……誰が降参するって?」
「んんー?まだやるのぉー?」
「『心装攻式、雷忍苦無刀』」
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