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3ー10 少女の名前


 助け出した少女の提案の元、結たちを含めた六人は、場所を移動していた。


 さっきのナンパたちに見つからないように、裏道を通っている六人は少女、火燐、結、六花、春姫、陽菜の順で、一列となって走っていた。


「それでどこに向かっているのだ?」


 少女の後ろを走っている火燐は、走るペースを落とさないようにしながら、少女に聞いていた。


「はいっ、えっとこの近くに私の家があるので、とりあえずそこに行こうかと思ってます……だめですか?」


「そうか……いや大丈夫だ。問題ない」


 火燐の許可を正式にとると、少女は走りながら後ろ向いて、にぱっとでも効果音が出るような、花が咲いたかのような可愛らしい笑顔になった。


「ここですっ」


 走ること数分、見えたのは決して大きくはないが、小さくもない、一般家庭が住んでいるような一軒家だった。


 少女がどうぞっと言うので、結たちは各々お邪魔しますっと挨拶をしながら入っていった。


 どうやら中は洋室らしく、取り敢えずということで結たちはダイニングに案内されていた。


 部屋の中心近くにあるテーブルを囲って座ると少女が開始一番に口を開いた。


「あっお腹空いてませんか?ちょうど買い物に出掛けていたところなので、有る程度の食材はありますよ?要望があれば作りますっ」


「そうか、ならば料理が食べたいな」


「へ?」


「この子時々馬鹿なの、だから気にしなくていいの」


 春姫に馬鹿と言われ、反論する火燐だったが、どうやら口では春姫の方が圧倒的に強いらしく、言いくるめられるそう時間は掛からないだろう。


「あわわ、どうしよう。私のせいで喧嘩になっちゃった……」


「大丈夫だって、そもそも君のせいじゃないよ。火燐はなんというか、若干天然が入っているからな」


「そ、そうなんですか?」


 火燐と春姫が口喧嘩を始めてしまい、自分のせいだっと慌てふためいている少女を宥めていると、二人の口喧嘩は終わり、結果は当然と言うべきなのか、春姫の勝ちだった。


 火燐はどちらかと言えば口とか、策略を組んでなにかをやるのではなくその絶対な幻力と技術を使った、言って見れば力押しで、考えるよりも感じろが似合う少女だ。


 それに比べて春姫は、水属性の幻操術を基本に様々な作戦を考えながら戦うタイプ、つまり感じるより考えるが似合う少女。


 感じるタイプと考えるタイプじゃ、そりゃ口喧嘩なんてものは考えるタイプの方が強いに決まっている。


「あなたを含めて六人分もの料理を作るのは大変ではないですか?」


「ふぇ?あっ、だ、大丈夫ですよっ」


「とは言え、こちらとしても、ただご馳走になるだけでは気が引けますので」


「助けてくれたお礼ですからっ」


 料理を手伝うか手伝わないかという戦いが二人の間で行われた結果、結局六花の希望と言う事で、六花が手伝うことを承諾させられていた。


 とは言え。犬猿の仲っといた感じではなく、それなりに仲良くやっているようだ。


 結局なんの料理になったのかはわからないが。まぁ六花のセンスなら問題ないだろう。


 少女と六花が料理をしている間、結たち、残りの四人は少女に聞こえないように気をつけながら小声で今後の事を相談していた。


「この後はどうするのだ?」


「腹が減っては戦はできぬですの。取り敢えずはここで腹ごしらえをした後にするの」


「具体的には?」


「……後で考えるの」


「それではダメだろう。やはり今考えるべきだ」


「それじゃ火燐が案出してよ」


「むむ。そ、そうだな陽菜はどうだ?」


「……正面突破」


 結に話を振られ、回答に困った火燐は、ちょうど陽菜が何も喋っていなかったことを利用して、陽菜に話を振っていた。


 陽菜の回答はなんというか、作戦もへったくれもないような、正面突破っという答え。さすがにアウトだろう。

 陽菜は案外、作戦などは考えないタイプらしい。


「……双花様がどこにいるかわからない。でも潜入とかはこのメンバーじゃ不可能。そもそも幻操師にとって数の利はほとんど存在しない、相手で厄介なのは相手のトップである麒麟とその守護者達。つまり相手は五人、こちらも五人、正面突破が一番いいと思う」


 思いっきり考えるタイプだった。


「しかし、それではマスターに危害が加えられる可能性が高くないか?」


 助け出す相手である双花になにかが、あったのでは本末転倒だ。そう思い陽菜にそう言う火燐だったが


「……向こうにとって、双花様は人質。最後まで危害を加えるとは思えない。それに麒麟は自分たちの有利を確信している。おそらく麒麟の性格からして、五対五の戦いではなく、一対一の五回戦。それも、突入した時に一人ずつ刺客を送る感覚でやるはず。それなら一人目が戦っている間に残りは次に進んでいれば戦況を相手が知ることは少ない。有利を確信していて、戦況がわからない状況、双花様には十中八九なにもしないと考えられる」


(陽菜っていつも口数が少ないから、クールな子だと思っていたが、話す時は良く喋るんだな)


 いつもとは違った陽菜を見て、少し意外に思う結だった。


 それにしても陽菜の言葉は一つ一つにやけに自信がこもっていた。そうなることがわかっているような口振りだ。


「お待たせしましたっ!!」


「料理ができましたよ」


 話に一区切りがつくと、ちょうど料理が出来たらしく、両手にそれぞれお皿を持った、少女と六花が現れた。


 少女に至っては片手に料理の乗ったお皿を一枚ではなく、頭の上や肘の上、さらには両手に持っているお皿の間にさらにもう一枚お皿の引っ掛けていたりと、全てを合わせて合計六枚もの大皿を運んでいた。


「こりゃすごいな」


「美味しそうですの」


「なかなかではないか」


「……六花と、料理上手」


 テーブルの上に並んだのは和洋折衷どころではない、和風、洋風、イタリアン、中華料理などをはじめ、様々な料理が並んでいた。


「その、結局要望がわからなかったので思いつく限り作ってみました……こんなに作って大丈夫でしたか?」


「ああ、問題ないこれだけの量があるのだ。遠慮をしなくて済む」


「そういうことだ。ありがとな……えーと?」


「あっ!!自己紹介が遅れてしまいましたっ!!私の名前は月村菜美(つきむらなみ)です」


「菜美ちゃんか、ありがとう菜美」


「あ……は、はい」


 結が微笑みながらお礼をすると、礼を言われ慣れていないのか、頬を赤く染め上げていた。


 陽菜は白いワンピースを着た、儚いイメージが良く似合う、十三歳の綺麗な、というよりかは可愛らしい少女だ。


 まるで六花と対になっているかのような、綺麗な長い黒髪を靡かせているその姿は、その可憐のこともありまるで天使だった。


「それでは召し上がりましょうか」


「「「「いただきます」」」」


 六花の号令の元、食事を開始する御一行。少女改め菜美と六花が二人で作った料理の数々はどれもが正しく極上の一品だった。


 そのレベルはまさに三つ星レストランにも劣らないかもしれない。


「なんでこんな料理上手いんだ?」


「ふぇ?あっ、えーとそうですね。私もいつかはその、す、好きな人とですね、け、結婚して家庭を築いていきたいと思っていますので、やっぱり大好きな人には美味しい手料理を食べさせてあげたいじゃないですか?」


 菜美は顔を真っ赤にしながら、両手の指をもじもじと恥ずかしそうにしながらそう言うと、恥ずかしさのあまり俯いてしまっていた。


「結、レディーに向かっていきなり言葉責めをするとは女の敵ですね」


「……敵」


「敵だな」


「敵なの」


「いやいや、そんなことしてないだろ?なぁー菜美?」


「あぅー」


 女性陣からからかわれる結は、からかうためのネタの対象となっている菜美本人に誤解を解かせようと、賛同を得ようとするが、結が話し掛けた途端、また顔を真っ赤にさせて小さくなってしまっていた。


「声を掛けただけであそこまでなってしまうとは……結あなたは一体、何をしたのですか?」


「なにもしてないっ!!」


 そんな事を話ながら、六人の食事を賑やかに進んでいた。











 料理を食べ終わった一同は、食器を片付けるとどうやってここを離れるかを相談していた。


「しかし、突然いなくなる訳にもいかないだろう」


「だからと言って正直に言うのもあれだしな」


「それでしたらーー」


「あのー」


 相談をしていると、後ろから声がかけられ、そちらを向くとそこには、五人以外には一人しかいないため、やはりというべきか最後の一人、菜美がいた。


「その、六花ちゃんから話は聞きました。皆さんは目的があってはるばるここまで来たのですよね?」


「あ、あぁ」


「おい、どういうことだ全部話したのか?」


「いえ、ただやることがあると言っただけですよ」


 菜美の予想していなかった言葉をきき、動揺を隠せぬまま取り敢えず返事をしながら、小声で六花に訳を聞くと、どうやら料理を一緒に作っている間に話をしていたらしい。


「ですのでどうか、私の事は気にしないでくださいっ」


 出会い方がアレだったため、心配する一同だったが、結局菜美に押しきられ、結たち五人はここを出発することになった。


「それじゃあな菜美。気を付けろよ?」


「は、はいっ」


 最後に結があの時みたいにならないように気を付けるように念押し、菜美の元気な返事を受けながら、結たちはH•G本部、中心の城へと出発した。


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