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3ー7 地獄への扉


「知ってる天井だ」


 どこかで聞いたことのある、定番のセリフ……に似たセリフを呟きながら、彼は……音無結は目を覚ました。


 目が覚め、今の状況を探ろうと体を起こし辺りを見渡した結は、自分がR•Gで過ごしている間、寝泊まりしている一室で寝ていたという事がわかった。


 なぜ、こんなところで寝ているのか疑問に思い、寝る……というより、おそらく気絶していたと思われるため、気絶する直前のことを思い出そうとしていた。


(確か……一花さんと、一花さん?……そうだ、一花さんが陽菜を殺そうとして、それで俺は……)


 コンコン


「失礼します」


 結が気絶する前の事を思い出すのと同じく、ちょうどドアからノック音が響いた。


 結がまだ眠っていると思ってなのか、控えめの小さな声と共に入ってきたのは、生十会副会長、柊六花だった。


「どうやら、目覚めたようですね」


「ああ、六花か……」


 六花は体を起こしている結を見て、安堵しているかのような、優しい声と表情で声を掛けると、結は寝起きだからなのか、はっきりとしない口調で返事をした。


 結はぼんやりとした頭のまま、自分がどれだけ寝ていたのかを聞いていた。


「気絶したのは、一昨日ですよ。ですので丸々一日眠っていたことになります」


「……っ!?陽菜はっ!!陽菜はどうしてる!!」


「陽菜ですか?」


 気絶する前、一花が陽菜の命を狙っていたことを思い出し、陽菜を守ろうとしていた結が気絶していたため、もしかしたら陽菜の身に何かあったのではないかと思い、六花に慌てて聞いた。


「陽菜でしたら今まで桜が使用していた部屋で眠っていますよ?」


 それがどうかしたのですか?六花はそう続けると、六花の言葉を聞いて、驚いているようなそしてなによりも安心しているような表情をしている結に、もう少し寝ているように促すと、ベットの隣に備え付けられているソファーに腰を下ろしていた。


「六花の修行はどうだ、順調か?」


 陽菜が無事だとわかり、さっきまで無意識の内に緊張してしまっていた、全身の筋肉から力が抜けリラックスし始めていた結は、六花もまたこの一週間、心装の修行をしていることを思い出し、六花はどうなのかと聞いた。


「私は元々Sランク、つまり心装はすでに会得済みですので、今は心装の持続時間の強力と、心装発動中でしか使えない心操術、つまり私の固有術の訓練をやっていますよ」


「会得済みか……、羨ましいな」


「なにを言っているのですか?あなたはもう……」


 コンコン


「あっ、どうぞ」


 ノック音が聞こえ、なぜか結の代わりに返事をした六花は、ソファーから立ち上がるとドアの前まで行き、来客者を出迎えに行っていた。


「……大丈夫?」


「陽菜っ!!」


 六花に案内され、一緒に入って来たのは今日、六花との最初の話題で中心人物となっていたクールな美少女、陽菜だった。


 無事だった事が六花から伝えられわかっていた結だったが、予想外の本人登場により、思わずベットから起き上がり、声を荒げてしまう結だった。


「……結?」


 結が突然大声を出した事によって、驚いてしまった陽菜は、当然のことというべきなのか、首をちょこんと傾げ、その姿はなんというか、とても愛らしく、愛おしいと思ってしまうほどの魅力を放っていた。


「ゴホンッ。結、なにを固まっているのですか?」


 陽菜の魅力に思わず見惚れてしまっていた結に、六花は咳払いを一つしながら陽菜と共にソファーに腰を下ろすと、ジト目で結を見つめていた。


「え?いや、そのあれだ陽菜、体の調子はどうだ?」


「……体?まぁ、特に異常はありません」


「そ、そうか。ならいいんだが」


 一花が結と陽菜の二人に、死を予感いやむしろ死を確信させてしまうほどの殺気を向けていたのは、すでに一花と陽菜が戦い、陽菜が心装を覚醒させたことにより疲労が限界に達してしまい気絶してしまっていた後の話だ。


 気絶していたため、あの殺気を感じることはなかっただろうし、気絶も外傷的なダメージではなく、ただ慣れないことをしたことによる疲れってだけだ。


 気絶した後は、陽菜目掛けて攻撃しようとする一花を抑えていたため、それ以上のダメージは防ぐことができていた。


 だから本来、多少疲れは残っているかもしれないが、あくまでそれ以上の異常が有るわけないのだが、それは結の陽菜に対する過保護過ぎるほどの、守るという感情によって生まれた訳であって、誰かが悪いということはないだろう。


「まるで、恋する乙女のようですね」


「なっ!?」


「……」


 六花の小さな、本当に小さな呟きを聞き取った、というより聞き取れてしまった結は、同じく聞き取れていた様子だが、これっぽっちも反応を示さない陽菜と違って、思いっきり慌てた様子で口をパクパクと開けたり閉めたりしていた。


「誰が乙女だっ!!誰がっ!!」


「フルジャンクション発動中は完全に乙女ですよね?」


「お前なっ!!」


 結の必至の訴えに、六花はクスクスと笑いながらそうやって結をからかっていた。


「たくっ、人をおちょくりやがって……ってなんで陽菜まで笑ってんだ?」


「……六花と結の漫才が面白かった」


 結と六花のやり取りを隣で見ていた陽菜は、なにが面白かったのかはわからないが、いつもクールな表情を珍しく微笑ませていた。


 そんな陽菜に気がついた結は、少し怒った風に呟くと、一瞬その頭をこずこうとするが、どうせ手が届く訳がないと思い、行動には移さずにいた。


「火燐と春姫はどうしてる?」


「はぁー、結は本当に敬語というものを知りませんね。相手は一ガーデンの守護者ですよ?」


「で、どうなんだ?」


 ガーデンの守護者という、F•G生十会の一員とはいえ、その身分は歩兵と将軍と言っていいほどに離れている相手に向かって、敬語を少しも使おうとしない結に、呆れたように咎める六花だったが、変える気はこれっぽっちも見えなかった。


「お二人とも私と同じように、心装はすでに会得していますので、おそらくは私と同じですね」


「そうか……」


 六花の返事を聞き、ならば一花のあの変貌っぶりを知っているのは自分だけだと思った結は、この事を二人にも伝えるか悩んでいた。


「どうやら目覚めたようですね」


「っ!!」


 たった今、考えていた相手が突然現れた事によって慌てる結のことを一瞥した六花は、心の中でどうしたのだろうっと思いながらも、一花に声を掛けた。


「一花様、こんなところにどうしたのですか?」


「柊六花、ここはR•Gの一室ですよ?こんなところとは失礼です」


 六花の言い方に注意した一花は、そのまま未だに固まっている結に視線を向けた。


「音無結」


「っ!!」


 一花が低いトーンで声を掛けたことによって結の全身に思わず緊張がはしってしまっていた。


「体は治りましたか?」


「えっ?」


 低いトーンと冷たく、どこか鋭さを帯びている口調とは裏腹に、結を気遣う言葉に思わず驚きを隠せずにいた結は口をポカンっと開けて固まってしまっていた。


「……はぁー、悪いのですが。柊六花、宝院陽菜の両名は席を外してくれませんか?」


「……はい、わかりました。陽菜、行きますよ」


「……了解した」


「えっ、ちょっ待てってっ!!」


 一花に言われた六花と陽菜は、まるで行かないでっとでも言いたげな顔をしている……むしろ声に出している結を放置して、二人揃ってさっさと退出してしまっていた。


「待て待て待て待てっ!!」


「落ち着きなさい音無結」


「落ち着けるかっ!!」


「……私には敬語だったと思うのですが」


 一花の呟きは一花を警戒しているため、慌ててしまっている結に届くことはなかった。


 まだ疲労が抜け切っていない結は正直ベットから降りるのも辛いため、ベットから離れる事も出来ずにただ一花にある感情を抱いていた。


(……殺られる)


 それは恐怖。

 結はまだ、一花が本気で陽菜を殺そうとしていたと勘違いしているのだ。そして陽菜が生きていることから考えてそれを邪魔したのは自分、つまり次に狙われるのは結だと、勝手に勘違いしているのだ。


「あれは冗談ですよ」


 とりあえず誤解を解くために、あの時の殺す宣言はフェイクだということを伝えようとしていた。


 説明すること数十分、完全に勘違いしてしまっていた結は、最初はこれっぽっちも一花の言葉を信じようとしなかったが、実際に結と陽菜、その時の当事者である二人が生きているという事実を突き付けることによって、ようやく信じてもらうことができていた。


「……ご面倒お掛けしました」


「いえ、元はと言えば、私があなたの力を引き出すためにしたことですので」


「それ、遠回しに俺の責任って言ってますよね?」


「……さあ、それはどうでしょうか」


 いろいろと面倒をかけてしまったことに対しての謝罪をする結だったが、一花は自分が悪いと言っているようでさりげなく根本的な原因は結にあると言われてしまい、思わずジト目で見つめてしまう結だった。


 一花はそんな結に対して、クスクスと小さく笑っていた。















「つまり、俺の力を引き出すためにあんな事をしたって事なんだよな?」


「はい、そうですね」


 冷静になって結は、改めて一花からあの時の話を聞くと、思い当たる節が多々あるのか、ほぼ納得していた。


 心装は一度会得してしまえば、後は個人が磨くしかない。


 すでに心装を会得しているSランク三人と、一花によってほぼ強制的に心装を開花させられた陽菜の結を除く、合計四人は一花の手を離れているため、今後は結と一花の一対一の個人授業になるため、敬語ではやりづらいという、一花の言葉により、結は一花に対する敬語をやめていた。


 結自身、あまり敬語に慣れていないため、やりづらかったので結にとってはありがたい話だった。


「音無結、あなたの心装を引き出すのはおそらく至難の技となると思われます」


「……まぁ、そんな気はしてたよ」


 俺はあいつらとは違って劣等生だからなっと、結は少し影のある表情で呟いていた。


「残り五日、時間がありませんので、今後は休み無しで私と修行しますよ」


 少し暗い表情をしている結を気遣ったのか、一花はそう言葉を続けて結を少し焦らせると、結を連れて訓練室へと向かった。


 こうして、結にとっては地獄への始まり。


 地獄への門が開いた。


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