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3ー6 二重の幻


「驚きましたよ音無結」


 一花は、複数の氷の盾に守られ、氷のベットの上で寝ている陽菜に思わず、眠り姫のようだと思っていた。


 そしてその側に立っている少年、つまり結はまるで、陽菜(ヒメ)を守る騎士のようにも見えた。


「……守る……私が……守る」


「これは……」


 声を掛けたにも拘らず、全く反応を見せない……というよりかは、ずっと闇のように深く暗い、まるでどこか遠くを見ているかのような目をしている結はまるで


「どうやら、理性を無くしているようですね」


 理性を無くした、何かのようだった。


「……まも……る。守るんだ……私は……もう……死なせ、ない」


「……困りましたね」


 一花は別に、本気で陽菜を殺そうとした訳ではない。


 言うなればただの脅しのようなものだ。


 結は仲間がピンチになると、段階的にその強さを増す。


 一般的な幻操師はの実力は、例えるならアナログ周波だ。

 緩やかな弧を描くように、波のようにその実力を変化させるのに対して、結の実力はディジタル周波だ。

 緩やかな弧を描くのではなく、カクカクとした直線のようにその実力を変化させるのだ。


 アナログが一と一の間に連続的な変化があるのに対して、ディジタルの一と一の間には連続的な変化ではなく、一度の変化しかない。


 そして結の実力がディジタルのように急激に上がる時、それが仲間の危機だ。


 結の実力は元々、心装を発動していない一花に一方的にやられてるしまう程の実力があった

 しかし陽菜の危機をちらつかせた途端、結の実力は階段を駆け登ったかのように急激に上昇し、心装発動前の一花を今度は反対に、一方的に攻める事ができていた。


 しかし、その代償として、結は自分の意識を無くしてしまっているらしかった。


「これは私の責任……ですよね」


 暗い目でずっと呟いている結を見つめながら、一花はテンションが下がり気味で呟いていた。


(ずっと守ると呟いていますね。トラウマ……なのでしょうね)


 結の心をここまで乱している昔の記憶。その記憶の事が気になりながらも、取り敢えず、今の結をどうにかしようという考えに至った一花は、説得などは無駄だと判断し、一旦、圧倒的な力で結を叩き潰すことに決めていた。


「音無結。あなたなら死ぬ事はないでしょう?」


 一花は結に向けて、妙な信頼のようなものを一方的に感じると、完全に手加減なしで心装の攻守両方を発動した。


 一花は守式によって強化された身体能力を使い、結の背後に移動すると、長巻を上段より下段に振り下ろした。


 結は周りに発生させている、氷の盾を重ねて、頑丈な大盾を作り出し、一花の一太刀を防ごうとするが、一花の攻撃力は結の防御力を超えているらしく、まるでバターを切るかのように、あっさりと真っ二つになっていた。


 結の防御を突破することができ、自分の間合いまで入る事のできた一花は、取り敢えず近くに陽菜がいると戦い辛いと思い、蹴りによって結を陽菜のいる一角から追い出していた。


 結が戻ってこないよう、一花は即座に飛ばされいる結に追撃をすると、結は空中で体制を整えると槍の石突きを地面に叩きつけた。


(なるほど、それが幻操陣を作り出す条件という訳ですか)


 結が地面を叩いた瞬間、幻力の変化を感じた一花は急接近を止め、ある程度の距離をとった場所に降り立つと、一花の両足が地面につくと思った瞬間、一花の足元に前にも見た巨大な幻操陣が現れた。


 一花の足が幻操陣の中心についた瞬間、陣が発動し灰色の光がきらめいていた。


「もう直撃はしませんよ」


 一花は心装守式を一瞬強めて、結の攻撃を完全に防ぎきると、そのまま結に向かって一直線に向かっていた。


 結が再び地面を叩くと、今度はまるで一花を自分に近づけさせないかのように、大量の土柱が発生していた。


 大量の土柱は一花の動きを遮るかのように、絶妙な配置で発生し、土柱の間を抜けていくように一花が移動すると、今度は一花の周りにある土柱たちの側面に幻操陣が描かれ、一花に向けて一斉に雷柱を伸ばした。


「甘いですよ」


 探知能力が格段に上がっている一花はそれらの攻撃をあまりにもあっさりと避けると、今度は長巻を振るい、土柱を斬り倒しながら進んでいた。


(どうやら、地面を叩いたとしても、陣を作り出す事ができるのは面だけのようですね)


 結の作り出す幻操陣が全て、地面や土柱の側面などの、ちゃんとした面に描かれていることに気が付いた一花は、それもまた発動条件だと考え、土柱を斬り倒していくことによって結の攻撃地点を地面からだけに限定していた。


 一花の行動の意味を的確に理解した結は、一花の行動を妨げる用の土柱とほかの幻操術に繋げるための土柱、二つの役割に分けた土柱を近距離と遠距離、二つに分けて作り出していた。


「対応が速いですね」


 自分のやっている事が、想定していたよりも早く気が付かれてしまった一花は、長巻に心力を込めると近距離の土柱は刃によって直接斬り倒し、遠距離の土柱は心力を込めた、飛ぶ斬撃によって斬り倒していた。


 近距離と遠距離、二つの距離を両方うまく対応することができるようになった一花は、次々と現れる土の柱をモグラ叩きないし、ハシラ斬りをしながら結との距離を縮めようとするが、結は自分の足元とその周囲を一時的に凍らせることによって、まるでスケートをしているかのように、華麗に距離を詰めさせないようにしていた。


 相手の一花は長巻という近距離武器、そして自分は槍という武器を使っているが、実際に使っている武器は、幻操術という遠距離武器を使っていることから、距離を取っているため、自分が優勢だと感じている結だったが、自分の攻撃の始点としている土柱が全て綺麗に捌かれてしまっていたため、攻撃の方法を変えることにした。


「これはっ!?」


 今まで結が作ってきたのは実態のある土の柱だ。しかし今度の結が作ったのは水の柱、水を切ることはできない、結果、一花は結の作り出した水柱を処理することができずに、二人の距離はさらにひろがっていた。


 広い訓練室とはいえ、その広さは有限だ。結はこの面積を最大限に利用するために、たった今一花が斬る事が出来ないと判明した水柱を使い、まるで迷路のように大量の水柱を作り出していた。


(斬ることのできない水柱は確かに厄介ですが、水柱の側面に幻操陣を描かないところを見ると、水面という不安定な面ではやはりダメらしいですね)


 一花は壁となっている水柱からそれ以上の攻撃が無い事に気が付くと、そちらへの警戒を緩めその分の警戒を結に向けていた。


「なっ!?」


 しかし突然、一花にとって想定外の事がおきてしまっていた。それは


(水の壁から雷が飛んできた!?)


 てっきり水柱からは次の幻操陣が描けないと思っていた一花は、突然の襲撃に驚きながらも、その探知能力の高さと身体能力の高さを武器に、雷の針全てを綺麗に避けていた。


(しかし、水面に幻操陣を描くなんて聞いたことがない……あれはっ!!)


 水面に幻操陣を描くという本来ならあり得ない状況に対して焦る中、偶然、雷柱の発射地点を見つける事の出来た一花は、その幻操陣を見て、ポーカーフェイスを一転目を見開き驚いていた。


「水面の一部を凍らせて面にするとは……考えましたね」


 結は水柱の一部を凍らせることによって、側面の一部を氷柱にすることによってそこに幻操陣を描いていたのだった


 一花がその事に気が付き、一瞬驚愕によって動きを止めてしまった瞬間、その足元より新たな幻操陣が描かれていた。


「しまっ!!」


 幻操陣が発動し、巨大な火柱が一花を飲み込んでいた。それだけじゃない、周囲の一部氷版、水柱の側面に追加の幻操陣が描かれると、火柱が消えない内に激しい雷鳴が鳴り響いていた。


 複数の別々の幻操術を組み合わせ、強力な一つの術として発動する技術、これを二重の幻(ユニゾンファントム)と呼ぶ。


 今のは火柱と雷柱の複合技、雷火柱(らいかちゅう)とでも呼ぼう。


 火柱が燃え盛るなか、その内部を高圧電流が流れるという、二重の地獄を与える幻操術、それが二重の幻、雷火柱なのだ。


 雷火柱が消えさると、その中にいたのは、自分の身を守るように、長巻を正面に翳し、その身をボロボロにしてしまっている一花の姿があった。


「……この強さ……生け捕りは難しいかもしれませんね」


 一花はボロボロの身に鞭を打って、暴走状態にある結を止めようと動いていた。


「大丈夫ですか音無結?」


 結の次の攻撃のタイミングを知るために、結の槍に意識を集中していた一花はとある異変に気が付いていた。

 

(音無結の体から発せられる力が極端に落ちている?)


 一花がそう感じた瞬間、結は灰色の槍を落としてしまうと、灰色の槍は灰色の光となって消えてしまっていた。それだけじゃない、結はそのまま力なさげに目を閉じるとそのまま前のめりに倒れ込み、そのまま気絶してしまっていた。


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