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3ー4 結死す?


「殺す……だと……?」


 結は嘘だと、思いたかった。しかし、一花の声が、表情が、そしてその身に纏う雰囲気が、嘘などではないことを物語っていた。


「えぇ、彼女を殺せば、怒るでしょう?そして純粋な怒りや敵意、殺意は第四幻人格の発現に必要な感情、ためしてみますか?」


「なぜ、そんなことを知っている」


 結の能力、ジャンクション=四人の女神は実のところまだ、会得してからたったの一年という短い期間しか、存在していないのだ。


 そのジャンクション=四人の女神の事を、ここまで知る一花を警戒してしまうのは、至極当然の事だった。


「さあ?なぜでしょうか?」


 一花はわざとらしく誤魔化すと、刀を両手で握り直し、上段へと構えていた。

 そしてその構えの先には眠っている、陽菜の姿があった。


「さようなら、宝院陽菜」


「陽菜っ!!」


 一花が刀を振り下ろした瞬間、刀より飛ぶ斬撃が放たれ、その斬撃は陽菜に当たると同時に、凄まじい煙を巻き上げていた。


 一花は静かに、冷静な目で煙の中を見つめていた。自分の夫がマスターを務めるガーデン、F•Gの生徒である陽菜を殺めようとしている様にはまるで見えないほど、落ち着いた雰囲気でそこに立っていた。


 一花はチラリと横目で先程まで結が立っていたところを見ると、すぐに視線を煙の中へと戻していた。


 煙の中をずっと見ていると、その中から何かが動く影が二つ(・・)見つけることができた。


「本当に、他者の危機になると発現するのですね、音無結……いえ音無ルウっと呼んだほうがよろしいですか?」


 煙が晴れていき、その中には陽菜を庇うような形で立っている、灰色(・・)の槍を持った結の姿があった。


「あら?おかしいですね。確か報告では、漆黒の槍だったと聞いていたのですが」


 灰色の槍を持ち、己に強く、純粋な殺意を向ける結に疑問に思ったのか、そんなことを問いかけると、すぐに「まあ、それは後でいいでしょう」っと呟くと、刀を改めて握ると、その切っ先を結へと向けていた。


「少し、確かめてみますか」


 一花はそう呟くと、結にへと向けた刀の切っ先に、多量の幻力を込め始めていた。


 一言、いきますっと呟くと一花は結に向けて、切っ先より極太の光線のようなものを撃っていた。


「甘い……『氷操、氷結=(シールド)』」


 結は極太の光線を冷静な目で見つめていると、ゆっくりとした動作で刃の逆側、石突きを地面にトンっと当てると結を守るかのように、氷で出来た盾が正面に作られていた。


 氷結。

 その昔、結と六花の漫才のようなやりとりをしている時、逃げようとする結の動きを止めたこの術は、ただ対象を凍らせるという、実にシンプルな術であるにも拘らず、いやむしろシンプルだからこそ、強い応用性を持っていた。


 自分の正面を凍らせることによって即席の盾を作り出す、こういった芸等も可能にするのだ。


「なるほど、氷結ですか。ですがそれで私の攻撃を防ぎきる事が出来るのですか?」


 結の作り出した氷の盾と、一花の作り出した極太の光線がぶつかった時、一花の疑問の答えが出ていた。


 光線の持つ、高温によって氷の盾が、多量の水蒸気となり両者の視界から、両者を隠していた。一花はこれで終わる訳がないと思い、周囲の警戒を強めているがなぜか結の気配を感じることが出来ずにいた。


(気配が……無い?気配を抑えることを出来たとしても、完全に気配を消す事なんて出来る訳がない……まさか本当にやられてしまったの?)


 心の内でそんな事を思いながら、正直な話、想定外の状況で慌ててしまっている一花をおいて、視界を覆っていた水蒸気は徐々にその姿を消していっていた。


「こ、困りましたね……」


 水蒸気が晴れた先、先程まで結と陽菜、二人の姿があった場所、本来二人の影があるはずの場所には、誰もいなかった(・・・・・・・)


 一花が気が付かない内に、室外へと移動した?いやそんなことはありえない。一花の実力は陽菜だけじゃない、結さえも遥かに凌駕しているのだ。気が付かない内に部屋から出る事なんて出来る訳がない。

 しかし実際に、室内に他の気配がしない以上、考えられる事は一つ。


「……私が……消してしまったのですか?」


 一花がその美しい顔を絶望したような表情に変え、その場に崩れ落ちてしまっていると、一花はふと、ある変化に気が付いた。


「これは……幻操陣っ!?」


 突如として、一花の足元に多数の幻操陣が描かれると、次の瞬間、全ての幻操陣から術が発動させていた。


「くっ!?」


 火柱を発生させる幻操陣に、気が付くのが運良く早かった一花は、すぐさまその場から離れ、間一髪で発動させた幻操術を回避すると、これをやったと思われる術者を探そうとするがいっさい気配を感じ取ることが出来ずにいた。


「一体これは……」


 想定外の二人の死、そして気配の全くない術師からの攻撃、驚愕すべき事が二つも同時に起きてしまい、動揺を隠せずにいる一花は周囲を、特に足元に注意を払いつつ、警戒を強めていると、そこにどこからか声が聞こえてきた。


「もう、誰も死なせない。私はもう……見たくない……だから……」


「っ!?」


 声が聞こえてきたと思った途端、一花の足元に再び多数の幻操陣が描かれると、再び同時に術が発動していた。


 足元に注意を払っていたおかげで、すぐに回避へと行動を移すことのできた一花は、それでもスレスレで突然伸びてきた、氷柱を避けると、今度は一花を中心にした円の円周に、無数の幻操陣が描かれていた。


「一体、これは……」


 術者がわからないという、本来であれば、ありえる事なんて、ありえない事がこうも連続で続き、困惑しきっている一花の周りに描かれた幻操陣は、また一斉に発動すると、今度は今までのよう一花に直接何かをしようとするのではなく、一花を囲うように土柱がそびえ立っていた。


「……逃げ場がなくなりましたね」


 周囲、三百六十度を全て、土の壁によって囲まれてしまった一花は、すこし慌てた風に呟くと、小さく溜め息をつくと「仕方がありませんね」っと呟き、次に何かがあれば、避けるのではなく、全て斬り捨ててしまおうといったふうに、刀を中段に構えていた。


「……また、足元ですかね……っ!?」


 すでに逃げ場を失っているため、今度こそ、足元から術を発動してトドメをさしにくると思っていた一花は、予想外の事に、なんと周囲を囲っていた土柱の表面に幻操陣が描かれ、驚いてしまっていた。


 予想外の事に驚いてしまい、一瞬行動が遅れてしまった一花に、周囲から一斉に、計三十六本にも及ぶ、本来使われるようなものよりも、随分と太い、雷で出来た針のようなものが、伸びていった。


 行動が遅れたせいで、刀で斬り裂く事が間に合わなかった一花は、体を捩り、針の間に体を通すように、華麗な動きで、三十六本全ての針を避ける事に成功していた。


 しかし、その針たちのせいで、全く動く事の出来なくなってしまった一花は、自分に向けられた術の数々を思い出して、警戒を露わにしていた。


 本来、一人の幻操師が使う属性は、基本的に己の性質にあった属性一つだ。Sランク以上の者は良く、自分の性質と相性の悪い相手に出会った時のために、他に一つか二つ、別の属性を使えるようにすることが多いのだが、今使われた属性は一体、何種類だった?


 最初に発動されたのは、火柱を発生させる術、つまり火属性だ。


 次に発動されたのは氷柱、つまり氷属性だ。


 その次に発動したのは土柱、これは土属性。


 そして今のはとても細かったが、雷柱、つまり雷属性。


 少なくともすでに四種類の属性が使われた事になる。

 属性を複数覚える事もあるが、実際の話、Sランクになれるほどの幻操師はその才能だけを伸ばそうとする傾向がある。


 だから覚えたとしても、自分の主属性を活かすためか、牽制に使うようなもの、たまに囮のために使われることあるが、それでも基本的に一種類だ。二種類以上、他の属性を覚えるのは稀だ、しかし、今の状況はなんだ?最低でもすでに四種類の属性を使われているのだ、しかも今の四つは全て、同じ程度の威力、熟練度だった。


 この事から推測されること、それは四種類全てが主属性と同じ力を持っているということ。


 またはわざと主属性より劣る副属性の力に合わせ術を発動しているということ。


 そして、今だに主属性を使っていないかもしれないということ。


 一つ目だとしたらまだ安心できる。全ての属性が主属性並みと聞けば、一見最も厄介そうに見えるが、今見た威力が最高だと過程すれば、さほど脅威ではない。確かに四種類全てがなぜ、主属性と同等のレベルで使えるのか疑問ではあるが、まだ安心できる。


 問題なのは残った二つの可能性だ。


 まず二つ目の仮定、副属性にわざわざ威力を合わせて、主属性の威力を抑えているという可能性。


 四種類の内、一つが主属性だとしても、まだ三種類の副属性があるということになるのだが、その副属性全てが同じレベルだというのは考え辛い、つまり主属性より数段劣る副属性の中でも、最も威力の低い一つに合わせているのだとすれば、少なくとも、今使われた術よりも、威力の高い属性が三つもあるということになる。

 まだ威力の上限がわからない上に、実戦に使えるレベルが三種類もあるとすれば、これは明らかな脅威だ。


 そして最後の可能性。

 今だに主属性を使っていないとすると、実戦で使えるほどの四種類という、豊富な副属性に加えて、今だに見ていない、そして威力の数段上だと思われる主属性がある、これは他の二つよりも厄介な脅威になり得る。


「……流石に不味いですね」


 雷で出来た針たちによって、動きを封じられてしまっている一花の足元に、再び……いや今までよりも大きく、そしてより多くの力が込められた幻操陣が描かれていた。


「……不味いというより、これは……詰みましたね」


 一花は、口先だけは諦めたような事を言いつつ、冷静な無表情でいると、小さく溜め息をつき、全身に幻力……いや、心力を纏い始めていた。


「仕方がありません『心装守式、花鳥風月(かちょうふうげつ)』」


 

 

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