9-26 あんたが言うな
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「ほれ。しっかりするのじゃ」
「……クルミ……」
「驚くのも感傷に浸るのも後じゃ、今はその傷を癒す事に集中せい」
解の身体を支えながら少女たちの元に向かっていくクルミ。
解は立っているのがやっとで、ほとんどクルミ任せになってしまっていた。
確かにクルミの言う通り呼吸法や意識の問題で傷の治癒スピードが早まるという話を聞いた事があるが、さすがに風穴までは塞がらないと思うんだよね。
そう言いたい解だったが、言ったところで変わらない。というより、喋るの辛い。
「解さん!」
解の元に走る陽花。そして他の少女たち。
「こやつの事をちと頼むぞ」
「は、はい!」
クルミから解を受け取り、とりあえず寝かせておいた方が良いと思い、膝枕で解を寝かせる陽花。
少し恥ずかしいけど、解さんのためだ。仕方がない。
「さて、妾は雑兵の処理でも終わらせようかの」
今の今まで高速回転を続け、イーター共を消し飛ばしていた何かが棒状の物を取り出したクルミの手元に返ってくる。
自分の腕を消し飛ばしてしまうだなんてお茶目な事は勿論なく、クルミが握った棒とつながったそれは、身の丈ほどもある巨大な大鎌だった。
ただの大鎌と言うより、どちらかといえば斧部分が小さめで、逆にピック部分が大きくなっているハルバートだ。
ハルバートのメインともいえる斧部分が小さくなり、サブともいえるピック部分が極端に大きくなっているため大鎌に見えるのだ。
「面倒じゃ。一掃してやろう」
クルクルと指先で器用に大鎌を回転させる。回転速度はみるみる内に速くなっていき、風を切る音からパシパシと炸裂するような音に変わった瞬間、クルミはクルリとその場で回ると大鎌を振るった。
「『断天』」
大鎌全体の回転が先端の刃部分だけに移り、三種の刃を持った先端部分だけが高速回転するノコギリのようになって撃ち放たれていた。、
それは地面を走るかのように床を抉り、まだ残っているイーター共に迫る。
全てのイーターが跡形もなく消え去るまで時間は掛からなかった。
死んでから塵のようになって消えるイーターだが、塵のように消し飛ばされて消える事なんて早々ないだろう。
あの攻撃にはそれだけの攻撃力が備わっているのだ。
「やっと見つけたわよ!!」
イーターの殲滅が終わり、連結され再び特殊大鎌に戻ったそれを携え、ゆっくりと解たちの元にクルミが歩き出した頃、解にとって見覚えのある顔が複数やって来た。
「随分とゆっくりしておったの。美花、楓」
「うるさいわね! あんたが急に一人で行っちゃうから悪いんでしょ!」
「そうだそうだー」
怒筋を浮かべて叫ぶ美花に対し、楓は完全なる棒読みだ。
「まあそれはいいわ……って解!?」
今更になって血塗れの解に気付く美花。楓は既に解の隣で傷口の様子を見ていた。
「こいつは綺麗な風穴だな」
「……楓」
「ちょっと楓。あんたこれ治せる?」
「あたしの氷はそこまで万能じゃないぞ?」
「……えっ?」
「えって……会長なら知ってるだろ? 回復系の魔法は激レアだぞ?」
「……し、知ってるわよ!」
これは知らなかった奴だな。だけどまあ、会長の名に傷を付けないためにも口に出すのはやめておこう。
そう思う事にした楓。
「……ごめん楓。認めるからそんな優しい目で見ないで……」
優しい視線を送っていたのだが、気まずそうな顔で視線を逸らされた。
「お主ら、意外と余裕じゃな」
「だってクルミが余裕そうにしてるからな。大丈夫なんだろ?」
解の胸に風穴が空いているという状況にもかかわらず、漫才をしている二人にクルミが呆れた様子で言うものの、楓は当然のようにそう言った。
「だってクルミにとっても、ゆ……解が死んだら困るんでしょ? それなのに冷静って事は解が死ぬなんてこれっぽっちも思っていない証拠じゃない」
「……面白い小娘どもじゃな」
手を口元に当てて小さく笑うクルミ。
「さて、無事に解も見つけたことじゃし、それを見る限り救出も終わったのじゃろう? ならば後は残りは雑草どもを刈って終いじゃな」
チラリと視線を少女たちに向けたクルミはそう結論付けると、大鎌を構えた。
「ちょ! ちょっと待ちなさいよ! この中に陽花ちゃんって子いるかしら?」
「は、はいっ。私ですが……」
「そう。無事で良かったわ」
咲夜の姉を無事に救出出来ている事を確認した美花が優しい笑みを少女たちに向けた。
「他に誰か捕まってるとか聞いたことあるかしら? ここにって意味よ?」
「私たち以外に捕まっている子はいないはずです」
「それは確か?」
「はい。この命をかけても良いです」
ジッと陽花の目を見て一切の迷いが無いことを読み取った美花は「わかったわ」と視線をクルミに向けた。
「妾の言った通りじゃったろ? 証人は十二分にいるのじゃ、この施設を残す必要もあるまい」
「……ええ。そうね。ゆ……解の事も心配だし、クルミに任せるわ」
「ならば遠慮なく行くのじゃ」
大鎌をクルクルと指先で器用に回すクルミ。まるでバトンでもやっているかのようだった。
「危ないから全員この中に入ってろー」
楓が氷で大きな箱のような物を作り出した後、けが人である解や、少女たちを箱の中に収容した。
「……ねえ。クルミってば何をするつもりなのかしら?」
「さあな。わからん」
六花と対峙していた時に楓がクルミに感じた印象は自分を超える規格外だろうなというものだった。
自分が一般とは言えない大きな力を持っている事は知っている。
だけど、クルミのそれは自分レベルの才能をさらに努力で研磨したような輝きを放っていた。
つまり何が言いたいかというと、想像が全く出来ないという事だ。
とりあえずわかると事があるとすれば、規模が大きい事……なんだろうな。とあたりをつけていた。
「行くぞ『断天』」
回転を武器の先端に移し、回転ノコギリのように射出するクルミ。
それは偽物の青空に突き刺さり、そして空を貫いた。
「やはり天井に空を映したおったか。理由は想像がつくが、なんとも無駄な事をするやつらじゃな」
偽物の空を消し飛ばす事だけにとどまらず、大鎌の先にある天井を破壊していく。
「……ねえ楓?」
「……なんだ会長」
「あれ、空よね」
「空、だな」
上を見上げると見えるようになった本物の空。つまり。
「屋敷ごと穴開けたって事よね?」
「そうなるな」
「……はぁー」
ここが地上からどれくらいの深さなのかはわからないが、結構な距離を潜っていたはずだ。
地下六階とかのレベルだったと思うのが、その距離間で瓦礫を全く作らないで穴を開けるほどの威力。
「あたしの炎でも結構な力溜めないと出来ないわよ?」
「炎属性を超える破壊力か。えげつないな」
穴の大きさは中々にでかい。少女たたちや解を収容している氷ごと抜けられる規模だ。
「……えーと、穴開けサンキュー?」
「後はこの穴を登るだけじゃな。さすれば外じゃ」
「あー、そうだな」
「……そうね」
クルミは色々と規模がおかしいし、楓も楓でちょっとズレている。一般的な実力とはいえないが、それでも二人に比べれば普通というものをちゃんと心得ている美花の心にのしかかる圧は中々に大きかった。
「二人とも氷の中に入ってくれないか? そうすれば氷ごと上に運ぶから」
「……そういえばあんたの氷って操作出来たわね」
「このレベルの大きさでも可能なのか?」
「ああ。問題ない」
「……この小娘、随分と規格外じゃな」
「……あはは……」
あんたが言うな、と思った美花は苦笑いするのであった。
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次回更新日は11月30日を予定しております。
それでは!




