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9-25 包囲網

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 陽花たちを連れ、解は慎重に進む。


 戦いになってもちゃんと守るつもりだが、戦いは無いに越したことはない。


 守れたとしては恐怖を感じさせる事になってしまうだろうしな。


(近くに敵の気配は感じられないが……油断は出来ないか)


 感知系統の技術は苦手なのだが、まったく出来ないというわけではない。


 九実との訓練で真っ暗闇の中での戦闘を想定したものもあったからだ。ある程度ならば肌で感じ取る事が出来る。


 視界ゼロの訓練を最初やった時はどんな無理ゲーかと思ったが、どうやら努力はちゃんと実を結ぶようだ。


「あ、あの……」


 ふと後ろから声を掛けられた。

 この声は陽花のものだ。


「どうかしたかい?」

「どこかで休む事はできますか?」


 ふと視線を陽花の後ろに向けると、どうやら少女たちの中にスタミナ切れを起こしている子がいるようだった。


(幽閉されてたせいで体力が大幅に落ちてるのか……)


 それにこの緊迫する状況。体力面はもちろん精神面では消耗してしまうだろう。

 むしろまだまだ幼いというのにパニックになったりしないのが凄い。


「そうだな。ここで少し休むぞ」

「はい」


 少女たちが幽閉されていた建物からは無事脱出する事が既に出来ている。


 元々少女たち以外の気配はなかったし、それはほぼ予定通りだ。


 今は青空に戻っているあの広場を歩いているのだが、ここならば視界も良いし、問題ないだろう。


 視界が良い。つまり向こうからもよく見えるという事なのだが、ここは元々敵側の施設だ。どこにいたってさほど変わらないだろう。


 体力面で不安になっているのは三人の少女だ。


 見捨てるつもりは毛頭ないが、困るのは事実だ。


 一人ならば自分が背負って行けば良いかと思っていたのだが、三人となるとさすがに無理だ。


 元々腕力には自信がないしな。


 体力は少ないが回復力は中々あるようだった。


 疲れてしまっても三分ほど立ち止まって休憩を入れればすぐに平気になるほどだった。


 そのため移動と休憩を交互に繰り返して進んでいるのだが。


(……不味いな)


 まだ青空の下から抜け出せていない頃。解は心の中でそう呟き、目を細めた。


「どうかしましたか?」

「陽花ちゃん。悪いけどみんかをまとめておいてくれるかな?」

「突然何を……っ!」

「おいでなすったな」


 刹那。周囲の空間が歪んだ。


 歪みの中から黒い影が蠢く。イーターだ。


 随分と厄介な奴らが現れたものだ。


 突如現れたイーター共を見て悲鳴をあげる少女たちを陽花が懸命に落ち着かせようとしているのを尻目に、解はボックスリングから己の武器を取り出した。


「そこから動くなよ!」

「はい!!」


 陽花の元気な返事に頷いた後、解は走り出した。


 解たち御一行を包囲するように現れた中型イーターどもだが、それなりに距離がある。


 見る限り移動速度が速いタイプでもないだろう。


 距離が離れているうちに一角を潰せばその間から包囲を抜けられるかもしれない。


 解と共に少女たちも走らせた方が突破のためには良いのだが、この状況で少女たちに全力疾走を強いるのはよろしくない。


 だから解は時間の猶予が短くなってしまうのを覚悟で、少女たちをその場に留めたのだ。


 両手に握られたトンファー。


 突進しつつ両のトンファーをクルクルと回し、そして二匹のイーターが間合いに入ると同時に、突進の勢いと遠心力を込めた打撃をお見舞いする。


(ちっ。やっぱり中型にただの回撃(かいげき)じゃ足りないか)


 遠心力をたっぷり掛けているとはいえただの打撃では生命力の高いイーターを一撃で沈める事出来なかった。


「疲れるからあまり使いたくないけど、しゃーないか」


 九実から教えて貰ったのは戦い方の基礎だけじゃない。


 暗闇での戦闘方法や一対多を想定したもの。


 片腕が使えない状況を想定したものや、体力がほぼ尽きた状況での戦闘訓練などなどだ。


 そして、最たるものは。


 継承式だ。


「行くぞ『斬月(ざんげつ)(てん)』」


 武器に純白の光を宿らせ、強烈な斬撃を放つ技。それが六月法(りげつほう)斬月(ざんげつ)だ。


 その斬撃を単発ではなく、打撃武器に纏わせる事によって擬似的な刃を付ける。それが六月法(りげつほう)応用編。(てん)だ。


「はっ!」


 先ほどは一撃で倒す事が出来なかった中型イーターだが、光を纏ったトンファーは容易くそれを二つに隔てていた。


 一匹。二匹。三匹。四匹……中型イーターたちはその全てが例外なく一撃で真っ二つになっては塵のようになって空に消えていた。


「……凄い……」


 まるで踊ったいるかのように回転しながら次々とイーターを分断していく姿を見て、陽花は小さくつぶやいた。


 イーターを見るのは初めてではなかった。

 街の近くでイーターが出現する事はある。あの時に見たのは黒くて小さい、確か護衛の人たちは下位イーターと呼んでいた。


 あの時見たイーターよりも、今彼が戦っているイーターの方が強そうだった。


 それなのに、護衛の人たちよりも簡単にイーターを倒していく。


 他の子達もその光景に見入っていて、あんなにも騒いでいたのが嘘みたいだ。


 既にイーターは半分以上が消えていた。


 だけど、唐突に彼の動きが止まった。


「……えっ?」


 彼の足が止まった瞬間。背後から向かってきた鋭い爪にくし刺にされていた。


「うグっ」


 彼の口から苦痛の声がもれた。


 彼を背後からくし刺にしている熊のようなイーターの爪に赤い液が流れているのが見えた。


「あ、ああ」


 血だ。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 気がつけば陽花は走り出していた。

 驚いた表情でこちらを見る彼の口元が動いた。


 読唇術なんて使えないけど、彼がなんて言っているのかはそんなものできなくてもわかった。


 クルナ。


 止まらない。走り続けた。


 何かが出来るわけじゃない。それはわかっている。それでも。


「お主に死なれては困るといつも言っておろじゃろうが。この阿呆めが」


   ☆ ★ ☆ ★


 解は焦っていた。


 打撃武器であるトンファーに強力な切断力を与える応用編、纏だが、六月法(りげつほう)は元々消費魔力が大きいのだ。


 基本的に単発の技であるそれを維持し、強化技として使う応用編、纏の消費魔力量は洒落にならないレベルだ。


 現代魔力、幻力とも呼ばれるが、これはゆっくりと消費するのであれば何の問題もないのだが、戦闘などで急激に消耗すると一緒に体力まで消費してしまう事が多い。


 ズバリ。解のスタミナが限界に近付いていた。


(くそっ。後半分ぐらい残ってるってのに……もう……体力が……)


 体力の激しい消耗は足への負荷としてのしかかり、そしてある時。


 足が言うことを聞かなくなった。


「なっ!」


 突然の事で動揺する解。その瞬間。己の胸から熱い何かが湧き上がるのを感じた。


 熱い? それとも冷たい?


 熱いけど冷たい。違う。表面は熱いけど、中は冷たい。


 違う。身体の中から熱が外に漏れ出しているかのような。


 視線を下に落とす。


 そこには漆黒に染まった何かが飛び出していた。


「うグっ」


 後ろから爪で突き刺されたのだと理解した。


 微かに残っていた体力さえも血と共に流れ出していくかのようだった。


(やばい……意識が……)


 かすれていく意識の中、解はその声を聞いた。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 音のする方に目だけを向ける。


 そこには大粒の涙で顔を濡らし、懸命に走る陽花の姿があった。


 クルナ。


 声にはなってくれなかった。


 やめてくれ。


 来ないでくれ。


 ……来ないでくれ?


 どうして?


 危ないからだ。


 何がいるから?


 イーターがいるじゃないか!


 あなたが消えたらどうなるの?


 あっ……。


 変わらない。変わらない。変わらない。


 来る来ないなんて関係ない。


 ここで終われば、彼女たちも終わってしまう。


 良いの?


 良くない。決まっている。


 そう。だったらわかるよね?


 わかる? 何を?


 あなたが生き残らなければ彼女たちは生き残れない。


 そうだな。だけど……。


 欲しい?


 ……欲しい。


 力が。助かるための力が、欲しい?


 欲しい!


 ならばくれてやろう。


 余のーーーーーーーー。


「お主に死なれては困るといつも言っておろじゃろうが。この阿呆めが」


 突然どこかからか飛来した高速回転している何か。


 回転速度があまりにも早くて何が回っているのかは識別出来ず、少女たちの目には円盤のように見えた。


 それは今まさに解にさらなる数の爪を突き立てようとしていたイーター共を一瞬で、文字通り消し飛ばしていた。


(……この感じ……九実? いや、違う)


 解の身体を支えていた爪もまた無くなり、床に倒れていた解。

 立ち上がろうとするものの身体から力という力が抜けてしまっているせいで立ち上がる事も出来ないでいた。


「しっかししろうて、解」


 そんな解の腕を肩に回し、抱き起こしたのは昔、解たちの元から離れ、一人別行動を取っていた九瑠実だった。


 次回更新日は11月25日です!

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