表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
353/358

9-24 発見

 お久しぶりです! ブックマーク、評価、感想、いつもありがとうございます!

 どうぞ。

「……ここは」


 偽物の夜空の下をずっと歩いていた解はポツリと建っている一棟の建物を発見していた。


(……まっ。突入するしかないか)


 一人で大丈夫か?

 まあきっと大丈夫だろう。そう思う事にした解はその建物の中へと入っていた。


(暗いな」


 照明らしきものはない。

 だが、真っ暗というほどじゃない。確かに視界は悪いが、黒に覆われて随分と光量の落ちている擬似太陽の光でそれなりに見えている。


(これくらい視界があれば平気だな)


 解の心配事は戦闘になった時大丈夫かというところだ。


 九実たちといた時に暗闇での戦闘訓練は一応受けている。


 完全にマスターしたのかと問われると困るが、何もしてないよりかはマシだ。


 それにあの時と違って完全な暗闇ではないのだ。それに、視界が悪いのは敵側も同じになるだろう。

 問題はない。


(まるで集合住宅だな)


 よくあるマンションみたいな場所だった。

 一本の廊下と左右に並ぶたくさんの扉。

 扉と扉の感覚はあまりに長くない。つまり部屋の中はそこまで広くないのだろう。


 廊下をずっと歩いていると階段があった。


(上に行くか下に行くか……さて)


 とりあえず上に行っておこう。そう決めた解は階段を上がった。


 階段を上がった先にあるのはやはりというべきかさっきと同じような廊下だった。


 だが、一つだけ違うところがあった。


 廊下を真っ直ぐ行った所に道と垂直にある扉があった。


 階段を上ってすぐからもそれを確認出来た。


(大部屋だったら当たりかもな)


 ドアノブを捻ってみるもののどうやら鍵が閉まっているみたいだった。


 解は少し迷ったが鍵を探したところで見つかるような気もしなかったため、虚空からトンファーを取り出した。


「……ふぅー……はっ!」


 脱力の後に力を込めて自身とトンファーを回転させた勢いを同時に扉へと叩き込む。


 二重の遠心力を加えられたその一撃は容易に扉を外し、原型を保たせたまま弾丸ように吹き飛ばしていた。


「……さて、行くか」


 トンファーを虚空へと仕舞った解は先に進む。


「……あたりだったな」


 先の光景を見て解は小さくつぶやいた。


 そこは沢山の牢屋が並ぶ大部屋だった。


 一番近くの牢屋に近付く解。箱状の、まるで猛獣なんかを入れる牢屋の中を見るとそこには一人の少女が横になっていた。


「おいっ。生きてるか!」


 微かにだが肩が上下している。大丈夫だ、生きている。


 白い、というより、元々は白かったであろう簡易的な衣服を着ている少女。


 髪は短く、顔立ちは綺麗に整っていた。将来美人になるのは確実だろう。


「……んっ……んん」


 俺の呼び声で目を覚ましたようだった。


「おい。大丈夫か?」


 上体を起こしてキョロキョロとしだした少女。解と目が合うと数度パチクリと瞬きをし、そして。


「ひ、ひぃーっ! い、いや! 私、売られたくない!」


 顔を真っ青にして出来る限り解から離れようと後退する少女。


 どうやら解を奴隷商人と間違えているらしいな。


「安心しろ。俺は君たちを助け出しに来たんだ」

「……えっ? ほ、本当?」

「ああ。今出してやる」

「け、けど鍵は……」

「ちょっと下がってな」


 少し安心した様子で前に出てきた少女に解はそう言って下がらせると、再びトンファーを呼び出した。


 両腕をクロスさせるようにして腰まで引く解。

 武器が刀ならば二刀流抜刀の構えなのだが、解の武器はトンファーだ。


「……『六月法(りげつほう)斬月(ざんげつ)』っ!」


 光を纏ったトンファーを同時に振るう解。


 トンファーとは普通打撃武器なのだが、光を纏ったその一撃は鋭利に牢屋を斬り裂いていた。


「……すごい……」

「ほらっ。出ておいで」


 牢屋の一部を四角に切り取った後、解は開いた穴から中に手を差し伸べた。


 少女は少し迷ったような素振りを見せた後、優しい笑みを浮かべる解の表情を見て彼の手を握った。


「君。名前は?」

「わ、私は万理(まり)です!」

「そうか万理。とりあえず君のことはちゃんと助ける。今は他の子たちを解放してあげたいんだけど、ここで待っていられるか?」

「お、おいてかないでくださいっ!」


 解が一時的にだがその場からいなくなろうとすると同時に涙目になって抱き付く万理。


 そんな万理の頭を優しく撫でながら、解は悲しそうに目を細めた。


「わかった。それじゃあついておいで。だけど、今見たいに牢屋を斬る時は危ないから下がるんだよ?」

「は、はいっ!」


 最後に「良い子だ」ともう一度万理の頭の一撫でした後、解は次の牢屋に向かった。


 パッと見て牢屋の数は大体三○くらいだろうか。


 その牢屋一つ一つに一人がいるとすれば中々の団体になってしまう。そうなると守備や移動が不安になるが、見捨てるという選択肢は解の中に存在していない。


 万理を解放してあげた時と同じように斬月(ざんげつ)の力で次々と牢屋を破壊していく解。


 解放し、待っていられるかと問うたびに抱き着かれるのだが、そのことで解が興奮することはない。

 解はロリコンではないのだ。


 確かに、解はどちらかと言えば年下が好きだ。だが、それはあくまでも愛でるとか、可愛がるという意味合いであってそういう対象ではないのだ。


 解の後ろからゾロゾロとついてくる少女たち。今の所少年は一人もいなかった。


(抵抗力の低い幼い少女だけ……それに容姿が整った子ばかりだな)


 幼い頃から特別な教育を施せば時間を掛けた暗示によって都合の良いように精神的な改造が出来るからだろう。


 それに容姿が優れているということはおそらく将来そういう目的で使えるようにするため。


 奴隷としての教育が施され、従順で若く、美しい少女は高く売れるからな。


 九実と共に解は奴隷商人を潰してきた。無論合法奴隷を扱っているモノどもではなく、非合法的な奴隷を扱う社会の雑草どもをだ。


 今のところ解たちは知り得た範囲であれば全ての少女たちを助ける事に成功していた。


 否。たった一人だけ。助ける事が出来なかった。


 その少女は誇り高く。精神的に改造されてしまう前に、その身を穢されてしまう前に、自らの命を絶ったのだ。


 解たちが到着したのはその少女が自害をしてから数分後の事だった。


 解たちが進入したことで起きた混乱に乗じての事だった。


「怖がらなくていいぞ。絶対に助けるから」


 また一人牢屋から少女を助け出した解。


(……あれ? この子……)


 他の子たちが大丈夫だよと伝えてくれたおかげで奥の方からやってきたその少女を見て解は息をのんだ。


「……もしかして君の名前は、陽花(ひばな)ちゃんかな?」

「え? ど、どうして」


 解の言葉に驚いた様子の少女。

 一人だけ他の子たちより年上に見えた。そして顔立ち。


 この子は陽花。咲夜の姉だ。


   ☆ ★ ☆ ★


 解と九実の目的は非合法の奴隷を扱う社会の雑草を刈り取る事。


 今回共闘する事になった美花たちの目的はたった今助け出した少女、陽花の救出だったはずだ。


 美花たちの性格からして途中から目的が非合法奴隷全員の救出になっていたような気もするのだが、本来はそうだ。


 あの大部屋にいた子たちを全員救出した事で解は団体行動を余儀なくされていた。


 人数は約三○人とちょっとぐらいなのだが、解の戦闘スタイルでは守りきる事が出来るのかちょっと怪しい。それが本人の自己評価だった。


(出来れば九実と……いや、美花たちと合流したいな)


 もう九実はいない。

 解はそれを己の目で見たはずなのだが、解にとって九実はいつもそこにいる存在とまでなっていた。


(……はぁ。なんなんだろうな。この気持ち)


 己が九実に向けていた感情は一体何だったのだろうか。


 好意である事に違いはない。だけど、それは恋愛感情だったのか?


 ……違う。これは。


「その、大丈夫ですか?」


 思考の渦にハマっていた解の意識を外に引き戻させたのは陽花の声だった。


 心配そうな表情を浮かべて解の顔を下から覗き込む陽花。


「悪い。大丈夫だよ」

「……あっ……」


 ポンポンっと陽花の頭を叩くようにして撫でる解。


 解たちは今、大部屋の中央に集まって作戦会議をしていたのだ。


 理由? それはこれから先がソロではなく、団体行動になるから。至極単純な話だ。


「君たちの事は必ず全員救い出してやる。だから何があっても慌てるな。それと、逃げ回るな」

「ど、どうして逃げちゃいけないんですか?」


 代表して質問してくれたのはどうやらこの中で年長者らしい陽花だった。


「スピードにはそれなりに自信があるんだが、遠距離攻撃はそこまで得意じゃなくてな。守備範囲が広がると守り切れなくなるからだ」

「……わかりました」


 真剣な声でそう良い。一度みんなの顔を見回す陽花。


 全員が陽花に頷き返していた。


「わ、私たちを助けてくれたのはあなたです。この命、お預けします」


 覚悟を決めたように言う陽花だが、皆その顔に消しきれない不安を宿しているようだった。


 同じ恐怖を共有した者同士、少女たちの繋がりは例え期間が短くても深い。


 元々は一つの大きな牢屋にいたらしく、皆陽花の事は信用しているらしいが、まだ皆幼い少女なのだ。


 それを覚悟と呼ぶには不完全だ。だが、それも仕方ない。大人と違って心のままにある子供では難しい事だ。


「ふっ。そんなに緊張しなくてもいいよ。必ず守るから」


 少しでも少女たちの心に安らぎを与えるため、解は笑うのだった。

 


 感想や評価、ブックマーク登録などよろしくお願いします!

 次回更新日は11月20日です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ