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9ー23 壊れ欠けているモノ

 こちらではお久しぶりです。

「六花……」

「……会長」


 消えてしまった六花の痕跡を見つめながら呟く美花の肩に楓がそっと手を添えた。


「お主らとあやつがどういった関係なのかはなんとなく把握したが、まあ今は良い」

「何がいいのよ! それにさっき言ってたのって本当なの?」

「あやつが奏を刺したという話かの? そうじゃとすれば事実じゃ」

「そ、それじゃあ何? 三年前まで結は……」

「そうじゃな。宿敵と同じ組織にいた事になるの」

「そんな……」


 あの時、結と六花は中々良い仲を築いているように見えた。

 結としてはそれは本当だったのだろう。しかし、一体六花はどんな気持ちで結の側にいたのだろう。

 奏は結の側で死んだと聞いている。

 つまりその時、六花は結と会っているはずなのだ。結がその時の生き残りだと知っているはずなのだ。

 あれ? 六花が奏を殺した張本人だとすれば、六花がエンジェルガーデンに攻め込んだ犯人という事になる。

 エンジェルガーデンの強さは当時誰もが知っているほど有名で、巨大なものだった。

 確かに六花は強い。だけど、それでも一人であのエンジェルガーデンに攻め込もうとだなんて思うだろうか?

 その作戦は現実的だろうか?

 答えは否だ。


「……ねえ。クルミ」

「何じゃ?」

「クルミは六花が奏を刺した現場を知ってるのよね?」

「……そうじゃな」


 どうして知っているの? と聞きたいところだが今は我慢だ。

 今聞くべきはそれじゃない。


「もしかしてそれって、協力者がいたの?」


 必要な情報はこっちだ。

 もしもそうだとすれば、おそらく。


「エンジェルガーデン内部に六花と繋がってる人がいるって事?」

「はぁー、その可能性はなくもないがの。今それについて論議する意味は無しじゃ」


 美花のまっすぐな眼差しにクルミは諦めるようにため息をつくとやれやれと風に言う。


「けど……」

「それよりも今は早く音無結のところに行くぞ」

「えっ?」

「九実からの情報によればもう直ぐじゃ」

「もう直ぐ? 何がだ?」


 眉を顰める楓を一瞥した後、クルミは何も言わずにくるりと回る。


「話は終わりじゃ。さっさと行くぞ」


 そのままさっさと先に行ってしまうクルミ。

 美花と楓は顔を見合わせた後、もやもやとしたものを心の中に宿しながら彼女の後を追い掛けた。


   ☆ ★ ☆ ★


「……ここは」


 九実が消え、一人になってしまった解は一人先に向かっていた。


 足を止めた彼の先にあるのは巨大な門のようなもの。扉というよりも、門だ。


「……嫌な予感しかしないな」


 手を頭に当てながら解はやれやれと呟く。


 どうもさっきから身体の調子が悪い。

 やけに頭痛も酷い、もしかすると侵入者に不調を呼ぶ罠でもあったのかもしれないな。


「まっ。気にしてても仕方ないか」


 頭痛なんてぶっちゃけいつもの事だ。今更どうにかなったりしない。


 ということで、解は気にせず門の奥に進んだ。


「……ここって地下だよな?」


 目の前に広がる光景に解は両目を大きく見開いた後、冷や汗を流しつつつぶやいた。


 何故ならそこには青空があったのだ。


 いつの間にか外に出てしまったのか?

 いや、違う。これは偽物だ。


 あまりにも本物に似ているがジッと見つめていれば違和感を感じ取る事が出来る。


 何故建物内にこんなものを作る必要があるんだ?

 目的、意図が全く読めない。


「おやー。こんな所に来客とは珍しいですねぇー」

「ーーっ!?」


 突然降ってきた声に解の全身に電撃が走る。

 慌てて周囲を見渡すものの誰かがいる様子はない。


「どこだ!」

「おやー。私が何処にいるのかわからないんですかーぁ? なーんだ。どーんな強者かと思えば、ただの雑草でしたかーぁ」

「雑草だと?」


 静かに、しかし確かに煮えたくり始めた解の心。そんな彼を弄ぶかのように様々な方向から声が途切れ途切れ届く。


「そう」「でーす」「あなたは」「私の」「居場所」「すら」「掴めない」「下等な」「雑草でーす」

「……そうかよ。だったら雑草の底力見せてやろうじゃねえか」


 己の得物であるトンファーを取り出した解は周囲に注意を払いつつ腰を下げる。


 最初はゆっくりと、少しずつ勢いをつけて二つのトンファーを円を描く。


「九実がいなくなっちまったからな。加減は無しだ」


 解は今までずっと加減をしてきていた。

 それは何故か。

 理由は単純。見られたくなかったからだ。

 解は全力になると理性が飛び掛ける一種の戦闘狂だった。


 敵を壊す事だけに意識を向けて、まるで破壊神の如くの状態を九実には見られたくなかったのだ。


 高速回転させている両方のトンファーをピタッと止めると同時に解は叫ぶ。


「超えろ」


 それは解放の呪文。


 我が破壊の本能よ。我が知性を、理性を超えろ。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 握られていた一組のトンファーがその姿を霧のようにして消していく。


 素手になった両腕を眼前でクロスさせた後、前方をX状に切り裂くかの如く、両腕を振るう。


「ななっ。何という力」


 凄まじい突風が周囲に撃ち放たれ、まるで台風のようなそれの直撃を受けた敵の声が解の耳に届く。


「があっ!!」


 もやは人の言葉ではない。


 理性も知性も欠片もない。獣のような叫びと共に四足となっていた解は一点に向かって跳ぶ。


「がぁっ!」


 まるで野獣の如く腕を振るう解。その瞬間、解の周囲から鮮血が舞う。


 それは解のものではない。敵のそれだ。


「ううぐっ」

「がぁっ!」


 そのまま空中で高速回転した解は、その勢いのまま鋭くかかとを振り下ろす。


「がはっ」


 姿はない。だが手や足から伝わる感触。それから周囲に飛び舞う鮮血が敵の存在を解に確信させていた。


 敵そのものの姿は未だ見えていないものの、解のかかとを受け、真下に落下した何かが深いクレーターをそこに作る。


 立ち込める粉塵の中心に、解は何もない部分があるのを見る。


 即刻そこに向かって跳ぶ解。蹴るのは大地でも天井でもない。


 おそらく天井の裏に描かれているだけであろう晴天。しかし、それは遥か上にあるもの。


 解が蹴ったのは、己の内部から放出され、操作され、一時的な踏み場として顕在された、解自身の幻力だった。


 隕石が落ちた後のようなクレーターの中心に、再び隕石の如く解が降る。


 固く握られた解の拳が地面ではなく、見えない何かを捉えていた。


「うぎゃぁぁぁぁあ!」


 醜く、聞き難い断末魔が広がる。

 直後、解はもう一つの拳を振り下ろす。

 断末魔と鈍い打撃音が交互に、一定のリズムを刻むかのように続く。


 いつしか断末魔はなくなり。響く音は鈍い打撃音だけとなっていた。


 それに気付いた解が、いや、解であったものは真上に飛び上がる。


 天上から地に這い蹲るそれを見下ろす解であったモノ。


 敵の姿はそこにあった。なんの変哲もない。ただの雑草。解であった何かはそれをそう認識した。


 手のひらを重ね、地に向けるナニカ。


 そして小さく、人の世の言葉で紡ぐ。


「……シネ」


 瞬間。ナニカの手のひらから眩いほどの()が溢れ出す。


 溢れ出した闇はまるで光線のように直進すると、地に這い蹲るそれに当たり。周囲に黒を撒き散らす。


 既にそこに青空だなんてものはなくなっていた。

 青空ではなく、偽物の天空を覆うのは夜空。

 美しい黒によって空は包まれていた。


 黒の奔流が止まったクレーターの中心にナニカはゆっくりと、ありもしない翼をはためかせているかのように、ゆっくりと降りていく。


 重力を考えれば明らかにありえない遅さで着地したナニカの眼に光が戻る。


 ナニカのそれは対象者を決定する事で発動し、その後はとある条件を満たさない限り解除されることはない。


 解除の条件は対象者の破壊。


 つまり、一度発動すれば敵を破壊し尽くすまで止まらない。

 殺戮兵器と化すのだ。


 その力のルーツがどこにあるのか。

 解はそれを知らない。


「……ふぅ」


 人としての輝きをその眼に再び宿した解は、周囲を見渡した後、引いた顔でつぶやいた。


「……やり過ぎたな」


 最初の光景と比べれば変化は歴然としていた。


 まず、今立っている場所。

 こんなクレーターはなかったはずだ。


 そして空は晴天だったはずだ。だけどそこにあるのは漆黒の夜空。


「前もそうだったけど、この黒いのはなんなんだ?」


 殺戮モードの事は知っているし、自覚している。

 むしろ困った時は殺戮モードに助けて貰っているほどだ。


 だが、元々殺戮モードを使うことを避けているため、この状況には謎が多かった。


「まっいいか」


 気にしたところで答えはでない。


 解は割り切ると先に進んだ。

 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

 次回更新日は未定とさせていただきます。申し訳ございません。


 それでは、一ヶ月は経たないうちにまたこちらで会いましょう。

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