表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/358

9ー21 知る者

 大変お待たせしました。

「……ほう。思っていた以上じゃな」


 大鎌を肩に担ぎながら嗤うクルミ。そんな彼女に向けて三人は複雑な顔を浮かべる。


「ちょっとあんた! いきなり襲ってきてどういうつもりよ!」

「そうだ! それに裏切り者ってどういうことだ!」


 実際に戦いが始まったからなのか、感情が高揚していることで三人は当初感じていた恐怖の大部分を乗り越えていた。

 叫ぶ二人の言葉にクルミは不愉快そうに顔を顰める。


「何を今更言っておるのじゃ。そこにある娘と共にいる。それが裏切りの何よりの証明ではありゃせんか」


 鋭い眼差しを向けたままそう言うクルミが指したのは、柊六花。


「お主らは知っておるのか? その娘が過去に何をしたのかを」

「……何をって……」


 美花や楓にとって六花は、ただ生十会が大変な時に居てくれなかったというだけなのだ。

 そしてそれから消息不明になってしまった人物。

 居てくれなかったというだけ。その時に助けてくれなかったというだけ。直接何かをされたわけではない。その事実が、認識が、現実が今こうして三人が組むということを可能にしていた。

 むしろあの時、結が消えてしまったあの日。

 あの時六花は誰よりも結のことを心配しているようだった。

 結が消えてしまったと思い、我を失っている姿を美花はその目で見ていた。

 だからこそ、裏切られたという気持ちは多少あったとしても、六花にも六花の事情があるのだと割り切っていた。割り切れていた。

 だが、それはあくまで知らなかったからだ。

 クルミの表情から言葉に出来ない不吉を感じ取った二人。

 知りたくないような事実を聞かされるかのような。だけど、耳を塞ぐことは出来ない。

 それが人間の好奇心。


「そこにおる小娘は昔。お主らの仲間だった音無結の恩人であり、恋人のような存在であった少女。如月奏を刺した張本人じゃ」

「「ーーっ!?」」


 クルミの口からもたらされた情報は、真実は、二人を固まらせるのに十分。十ニ分過ぎた。


「……ほ、本当なの?」


 震えた声で六花に問い掛ける美花。

 しかし、六花は何も言わない。

 ただただ。

 まるで感情の抜けてしまったような人形の如く眼で、まっすぐとクルミを見据える。

 やがて六花の口が動き、短い息を吐く。


「やれやれ。出来れば知られたくありませんでしたね」


 息を吐くと同時に閉じられていた彼女の目が開くと、その目は黒く光っていた。

 その光を、否、闇を見た瞬間。美花の記憶が呼び起こされていた。


(あれは! あの時の!)

「楓! 全力で幻力を纏って!」

「なんでだよ!」

「いいから!」


 わけのわからないまま美花の言う通り全身から膨大な量の幻力を放出する楓。美花もまた放出していた。


「仕方がありませんか……『心装、真式(・・)氷を纏う天使アイス・プト・エンジェル


 その瞬間。六花の全身からおびただしい量の幻力、そして冷気が放出された。

 それらは彼女の全身を覆い隠し、一瞬の間を置いた後、中から現れた彼女の背中には氷で出来た透明の翼。全身を覆うのは純白の見事な和装。


「……ほう」


 それを見てクルミが感心したように声を漏らす。

 六花から放たれている冷気はまるでクルミの周囲を避けるかのように流れていた。


「感心するのはこちらのセリフです。まさか心装もせずにこの冷気を身体から放出している幻力だけで押しのけるとは。心操師に幻操師は勝てない。その現実の例外ですね」

「ふん。妾らは例外的存在じゃからな」


 二人が話している間、美花と楓は固まっていた。

 恐怖によって身体が硬直してしまっているのではない。

 六花の冷気を完全に防ぎる事が出来ていなかったのだ。

 炎の力で身体を温めている美花。

 己の冷気で他の冷気を押しのけている楓。

 どちらも六花の冷気を防ぎる事など、出来るわけがなかった。

 上位心装に無装状態で勝てるわけがない。防げるわけがない。その現実をたった今目の前で打ち砕いているクルミという存在に二人は動揺を隠せなかった。


「……ふむ。その様子ではどうやら二人は知らんかったようじゃな」


 一瞬視線を二人に向けたクルミが小さくつぶいた瞬間。


「……この眼でも姿をはっきりと見えないとは……まさに例外的強さですね」


 一瞬で二人の前に現れたクルミに六花は感情を一切感じさせない声で言う。


「「ーーっ!?」」

「怯える必要はないぞ小娘ども。お主らも知らんかったのじゃろう? ならば妾は敵にはならんよ」

「……あんたは……一体……」


 自分たちに背を向けて、安心させるように言うクルミに美花が動揺しながらも問う。


「妾か? 妾はただの出来損ないじゃよ」

「……出来損ない?」

「言い換えるのであれば、モドキじゃ」


 二人の顔をチラリと見た後、クルミは小さく笑い言葉を付け足す。


「ならばこれで理解出来るかの。妾はお主らの探しているあの者の旧友じゃよ」

「……えっ」

「音無結の仲間と言えば良いかの?」


   ☆ ★ ☆ ★


 次回更新日は9月15日です。

 また、同じく9月15日より新作の連載を開始します。

 よろしければそちらもご覧ください。

 それではお気に入り登録、感想、評価などよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ