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9ー19 「進まないわね」


 その組織名に聞き覚えはなかった。それは美花、楓、どちらも同じだった。

 二人とも世界の裏側ともいえる幻操師社会のさらなる裏を知っている存在だ。

 そんな二人が知らない組織。ありえない……とは言い切れない。

 人型の人間と同等の知能があることは知られている。それはつまり言葉も通じるということ、問答が出来るということ、ならば、手を取り合うことも出来る?

 それは、本当に?

 幻操師にとって人型とはいえイーターは敵。天敵なのだ。

 そんな化け物と手を取ることなんてありえるのだろう。

 いや、こんなことを考えることに意味はない。なしていない。

 答えがこの場にはないのだ。答えの無い問題に意味なんてあるのか?

 場合によってはその思考にこそ意味があるのだと宣うかもしれない。しかし、現状においては無駄。それ以外のなにものでもない。


「ずいぶんと混乱しているようですね。それも仕方がないことかもしれませんね。なんせ今まで思考を挟まずにただ機械的にイーターを斬って捨ててきたあなたたちにとって、同じイーターが仲間になりうるなんてことは、信じたくない事実というやつですね」

「……それ、本当なの?」

「ええ。本当ですよ」

「……証拠あるの?」


 そういいながら美花は期待などしていない。ただ、証拠があれば納得出来る。単純な思考。何を出されればそれが証拠となるのかも良くわかっていなかった。

 そんな美花の問いに六花は手を口元にあてて思考する。考察する。どうするべきかと、

 やがて小さく頷き、頭をあげる。


「これ以上の問答は無駄です。それよりも今重要なのは消失してしまった二人の捜索です」

「……そうね」


 六花の出した答えは保留。それを美花たちも肯定し、三人は共に進んだ。


 どこに進む?

 方向としては、斜め上。


「……何これ……」


 突如として目の前にあらわれたそれを見つめながら、美花は息を吐いた。楓の表情は変わらない。


「氷の階段ですが?」


 とってもツルツルして滑ってしまいそうな階段だ。

 このホールは広く、二階らしき場所に続く階段もあった。しかし、それは途中から崩れてしまっており、登ることは出来ない。ならばと六花が自身の氷で崩れている部分を補修したのだ。


「……まあいいわ」


 これぐらいのことで驚いていたらダメだ。それに楓なら息するようにできそうだし。そう思い、驚愕することさえも放棄した美花は、他二人と共に上に向かった。

 何故二階に向かうことになったのか、その理由は割と簡単。六花がとあることに気付いたから。


「どうやら床と天井に探知を阻害する式が刻まれているようですね」


 ふと六花がそう漏らしたことで楓も気付く。探知が一切出来ないのは二人の気配だけじゃない。この階以外の全てだと。

 しかし、ここで一つの疑問がうまれた。ならばどうして上にいたとき、下から気配を感じることが出来たのか。

 その答えもまた単純。

 楓たちが中に入ってきたことによって阻害の式が起動したから。


 式を起動するにはどうしてもエネルギーたる幻力が必要だ。

 しかし、この幻力は本来生物の中からしか、心からしか発生しない力だ。

 一体阻害の式を起動させた幻力はどのからきた?


 単純明快。


 阻害となると消費幻力は凄まじい。空気中のそれではまず足りない。であれば、他の式によって他の場所から幻力を獲得するほかない。

 そう。弱化の式に紛れて刻まれていた吸収の式によって、美花と楓。二人の幻力を吸収することによって阻害の式を起動させていたのだ。


 六花の言葉によって二人はそれに気付いた。

 そこからの動きもまた単純。

 この階に気配を感じないということは、他の階にいるということ、ならば上にいく。それだけのことなのだ。


 半壊している階段の先へと進んだ三人。目の前にあるのは扉。ごく普通の扉。だけど、


「逆に嫌な予感がするわね」

「同感」

「どういうことですか?」


 頷く二人に六花だけが首を傾げていた。


「あら。ノリ悪いわね」

「この場でノリを求める意味がわからないのですが」

「あら。この三年でずいぶんと冷たくなったのね」

「冷たくなったというより、美花の影響が抜けたって感じじゃないか?」


 迷い。戸惑い。そんなものは現状では邪魔なだけだ。そのため、二人は完全に六花のことを割り切っていた。

 そもそも六花は具体的に何か危害を加えてきたわけではない。ただ、生十会から去った。必要な時に居てくれなかった。それだけだ。

 しかし、会長だった美花にとって副会長である六花の離脱は精神的に大きな打撃だった。

 だから彼女に向かう感情が歪んだともいえる。

 もしも美花の六花に対する思いが一方的なものではなく、危害を加えられたという明確な理由を伴ったものだったのであれば、必要とはいえ割り切ることは不可能だっただろう。

 そこまでは大人になれない。それが美花という少女だった。


 対して楓は一つの策略を巡らせていた。

 内容は単純。

 六花の生十会復帰。

 そのためには現在六花が所属しているらしい黒天界とやらの情報が欲しかった。だから探る。探りを入れる。

 そう簡単に情報が出てくるとは思っていない。六花がその程度だとは到底思っていない。しかし、それでも、諦めることはない。


「まあ、それもあるかもしれませんね」

「良かったな六花」

「……ふふ」

「ねえ。それどういう意味かしら?」


 拗ねたように頬を膨らませている美花のことは一回放置し、二人はこの扉を素直にあけて良いものかと思案する。

 時間にして一秒未満。


「えい」

「ちょっ!」


 考えるのが面倒とばかりに楓が拳をぐっと握り込む。それを見て美花が拗ねている場合ではないと焦った様子で六花の手を引いて後ろに跳んだ。


「とうっ」


 掛け声としてはあまりにもやる気のない声。勢いがあまり感じられない声と共に、楓は右拳を壁に向けて叩きつける。

 まるで鞭を振るったかのような音が炸裂し、一瞬の間をおいて扉は理解した。

 自身がすでに死んでいるということを、


「ほら。先いくぞ」

「……雑ね」


 ただの瓦礫となったそれを見て、美花は疲れたようにため息をついた。


「……会長。もしかして苦労してますか?」

「……ええ。してるわ。だから帰って来なさい」

「……申し訳ありません」

 次回は8月27日です。

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