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9ー16 箱型の式


 約束。というよりかは取引なのだろうか。

 六花と取引をした後、美花、楓の両名は彼女と別れ、大ホールの先に進んでいた。


「一応六花とは取引した形になってるが、どこまで信用できるかはまだわからないな」

「……ならどうして取引なんてしたのよ」


 どうやら、というかやっぱり美花は先ほどの取引の件、いろいろと納得できていないようだ。

 頬を膨らませながら口を尖らせる美花に楓は苦笑と共に息を吐く。


「正直言って力の上限が見えなかったんだ」

「……負ける可能性があるってこと?」

「まあ、そうとも言えるな」


 自身の圧倒的強さを誰よりも自覚しているのが楓という少女だ。

 同年代、いや、全年齢を含めた全ての幻操師の中でも楓の実力はトップクラスだろう。

 六花が強いということは美花も知っていた。少なくとも自分よりも格上だとは理解していた。

 だが、それがもしかすると楓以上の規格外かもしれないと他のだれでない、楓自身の口から告げられたことで動揺はより激しく身体の中を巡っていた。


「……そう。なら、理解できるわ」

「悪いな」

「いいのよ。楓の強さをあてにしていたあたしが悪いわ」


 自嘲気味な笑みを浮かべる美花に楓は何も言わなかった。

 先の見えない廊下を走り続けること何分だろうか。

 結構な時間を走っているように思えるのだが、その実たいして時間は経っていないのだろう。


「なあ会長……」

「何よ……」

「なんかおかしくないか?」

「……そうね」


 二人の額に滲んでいるのは大粒の汗だった。

 その顔は酷く疲労に満ちている。

 これは明らかにありえない速度の疲労蓄積だ。

 二人は幻操師としてのレベルは高い。その身に秘められし幻力の量は並の幻操師数百人分を優に超える。

 内在幻力が多ければそれだけ無意識下に行われてきる身体強化のレベルも高まる。そして同時にスタミナやそれの回復スピードも高まる。

 二人のレベルならばたとえ半日間ずっと全力疾走をしていたとしても多少息を乱す程度で明らかな疲労に、消耗に繋がることなどありえなかった。

 しかし、一つの確然とした事実として二人の息は酷く乱れていた。

 二人は歩みを止めると周囲を見渡した。


「……敵の気配はないわよ?」

「……だな。あたしも探知出来ない」

「けど、これは明らかに普通じゃないわね」


 ありえない疲労蓄積速度に疑問を浮かべる二人。

 美花は楓の視線がどこかに注がれていることに気付いた。


「どうかしたの?」

「……いや、この壁……」

「綺麗な彫刻よね。けど、ここって遺跡みたいだったじゃない。内装は西洋のお城みたいだけど、それでも遺跡であることに変わりはないわ。壁画の一枚や二枚、普通じゃない?」

「会長の先入観は置いといてっと」


 目を細めてなんだかよくわからない壁一面に広がっている彫刻を見据える楓。

 この彫刻はこの廊下の壁全域に直接刻まれているように見えた。

 現にここまでただの背景として気にしなかったのだが、これはもしかすると、


「……まさかこれ、式か?」


 幻操師であれば日常的に使っているものだ。とはいえ、目にするのは組み立てた後の陣がほとんどで陣を成すパーツである式の方はほとんど見る機会がない。

 見る機会がないということはそれ単体がどういったものなのかわからないということだ。

 そもそも陣を構築する時その全てを有意識でやっているわけではない。陣構築の工程の中には自動がある。幻操術はまだまだブラックボックスが多いのだ。その中でもパーツたる式についての情報は少ない。

 特化型が契約型に劣る理由の一つでもあるが、一から人工的に作ることが難しいのだ。

 式そのものはただのパーツでしかなく、それ単体に何かしらの効力を発揮することはない。

 それが超技術の賜物としてその役割を自覚し、発揮してくれるのは組み立てられ、陣となってからだ。

 その陣は大抵が、円形を基盤としているものだ。

 壁一面に刻まれているのは天井も含めて平面化すれば長方形になる。

 だからこれは陣ではないと、つまり式でもないと思っていたのだが、


「珍しい……というより、初めて見るな」

「円形じゃない陣ってこと?」

「ああ。円形の発展で球体の立体幻操陣は見たことあったが、これはまた……」

「……けどまあ、遺跡ならどんなものがあってもおかしくないわよね」


 物理世界でだって同じだ。過去の技術では到底作ることなどできなかったであろう精巧なものが遺跡として残ることがあるからな。

 有名なところだとピラミッドとかか?


「幻力は空気中のを吸収して使ってるんだろうな。効力は疲労速度アップとかそんな感じか?」

「ありえない話じゃないわね」


 これだけの面積を陣としているのだ。ならばそれくらいのことは出来るだろう。


「けど、なんでこんなものを刻んでいるのかしら?」

「さあな。どうせ考えたところで無駄だろ?」

「……楓? あんたならわかるんじゃないの?」

「いやいや。さすがにこれは無理だって」

「……本当に?」

「本当だ」


 なんで美花はこんなにも疑ってくるんだ? そんな疑問が浮かぶ楓だったが、即座に結論に至っていた。


(あたしだからか)


 まあ、事実。多分だがわかろうと思考を巡らせればわかるだろう。けど、あれだ。めんどい。

 楓は基本的に面倒臭がり屋だからな。


「んー。これだけ大規模だから一部を壊せば止まると思うけど、どうする?」

「……そうね。確かにスタミナ減少加速は面倒だけど、それは向こうも同じでしょ? だったら残しておいて後で解析した方がいいんじゃないかしら?」

「そう、だな。万が一相手には効力がないものだとしたらそん時壊せばいっか」

「そういうこと」


 とりあえずの結論を出した後、二人は少しペースを落として先に進み始めていた。


 次回は8月19日です。

 何度も申し訳ありません。

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