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9ー15 再会と再会?


 他の誰でもない。

 そこにいる彼女こそ、旧生十会の副会長。

 美花の親友だった少女。


「……えっ? ……なんで?」


 二つの動揺が美花の心を襲っていた。

 一つは六花とまた会えたという嬉しさからくる動揺。

 もう一つは、どうしてここにいるのかという動揺。

 もしかして今回も、奴隷騒ぎもあんたが犯人なの?

 その問いが口から出ることはない。出したくなかった。

 なんせ、六花がここにいるということ、それが答えだ。


「……まさかここまで堕ちたとはな」

「堕ちた? ああ、そういう事ですか。上の人たちがやっている奴隷云々に関して私は一切干渉していませんよ?」

「今さら信じられると思っているのか?」


 厳しい視線を送る楓。

 視界の端で、美花の肩が揺れたのが見えた。


「……それじゃあ。なんであんたがここにいるのよ」

「ならば聞き返しましょう。私が素直に言うとでも?」

「……そう」


 俯いた状態で、プルプルと震えながら言った美花は残念そうに続けると、腰に指している愛剣に手を伸ばした。


「会長。やるつもりか? ここで、この状況で」

「……ええ。仕方ないでしょ」

「……そうか」


 美花の手が剣の柄を掴んだ瞬間、楓もその手に氷で刀を形作る。


「……はぁ。相変わらずのようですね。会長。剣を抜かないでくださいね? 仕方がありません。話しましょう」

「聞く耳持つとでも?」

「あなたがたがここにいる理由はさっきの話からして推測できます。ここで私と戦えばあなたがたにとっても良くないと思いますよ?」

「そうね。確かにあんたレベルの幻操師と戦うことになれば十中八九、騒ぎになるわ。けど、あんたのせいであの日。みんな死んだのよ」


 伏せていた顔を上げる美花。

 その瞳は燃えるような緋色を宿していた。

 その瞳を見て六花は小さく「ほう」と感心するように声を漏らした。


「随分と良い眼をするようになりましたね。まだまだ発展途上のようですが、それでも一戦士として良い覚悟です。ですがあの日のことは私たちにとっても想定外なんですよ? まあ、彼の所在がわかっただけでも良しとしましょう」

「ーーっ!? 彼が何処にいるか知ってるの!?」

「おや? おかしいですね。彼はあなた達と行動を共にしているのではないのですか?」


 不思議そうに首を傾げている六花。

 そんな六花に二人は困惑を隠せなかった。


「どういうこと?」

「おや? おやおや、これはこれは、まさか気付いていなかったのですか?」


 彼女の口から続けられた言葉に二人の動揺はさらに激しさを増すことになった。


「あなたがたと行動を共にしている彼。確か解と名乗っていましたか。彼こそ、過去、音無結と呼ばれていた幻操師の成れの果てですよ」


 成れの果て。

 それが何を示しているのかはわからない。

 ただ一つ。たった今六花が言ったこと。

 それはつまり、解が結だということだ。


「そ、そんなわけ……」

「ないと言い切れますか? 私たちも彼のことはずっと探していました。ですがまさか彼女に拾われ、さらには過去の記憶を失っているなんてことは想定外過ぎますがね」

「記憶が……ない?」

「ええ。だからこそ彼は本来使っていた名前である結の文字を失い、仮の文字を、おそらくはあの少女がつけたであろう解の文字を刻んでいるんですよ」


 共通点は確かにあった。

 一番最初。解の顔を見た時、もしかしたらとは思った。

 だけど解は自分たちを見ても一切の反応がなかった。名前も違かった。だからただ似ているだけだと、そう、思った。思うようにしていた。

 解が使っていた武器だって、結が昔使っていた武器の一つだった。

 共通点なら、ヒントならばあったのだ。


「だけど記憶がないなら証明できないじゃない」

「……それもそうですね。彼の幻力から個人を特定することは不可能ですし、ですが彼女に確認することは出来ると思いますよ?」


 さっきから六花が名前を呼ばないでいる一人の人物。

 それが九実であろうことは直ぐにわかった。

 だけどどうして名前を呼ばない?

 知らない?

 違う。六花の顔を見ればなんとなく感じる。六花はあえてその名を呼ばないのだ。まるで、呼びたくないかのように。

 六花の言う通り解の過去についてを聞けば少なくとも記憶がないかもしれないということは確認できるだろう。

 しかし、他人の空似という言葉もある。記憶がないのは偶然ということもありえる。

 可能性としては上がるかもしれないが、それでも決定にはなりえない。


「どれも推測だ。確証がない」

「ふむ。どうやらお二人は戦う気満々のようですね」


 ため息をつく六花に二人はそれぞれ武器を構えた。

 美花の中にあるのは、焦り。

 なんせ、六花は自分よりもはるかに強い。

 この三年間で美花は強くなった。

 だけど、いや、だからこそわかる。

 弱さ故、未熟故理解できなかった六花の力。

 記憶から思い出されるその力でも畏怖を覚えたというのに、今、目の前にいるのは本物の六花本人だ。

 常日頃からリミッターを掛けて溢れ出す力を抑えていた昔の六花とも違う。今の六花は将来戦うべき敵として、そこに完全なる力を持って立っていた。

 美花はちらりと楓の表情を伺う。

 強くなったことでもう一つ自覚したこと。

 それは楓の強さだ。


(あたしなんかより強い幻操師がゴロゴロいるわね。……ほんと、何が神崎の次期当主よ。何が会長よ)


 悔しさから強く唇を噛んでいる美花に楓は一瞬だけ視線をやっていた。


「……六花。本当に戦う意思はないのか?」

「ーーっ!? ちょっと楓! 何を言ってるのよ!」


 楓の発言に両目を限界まで見開く美花。

 それも仕方がない。今の発言はまるでーー。


「……ええ。私はここで戦うことは反対ですよ」

「そうか。なら一先ず休戦だ」

「楓っ!」


 感情のまま叫んでいる美花に楓は鋭い視線を向ける。


「会長。大人になれ。今重要なのは奴隷たちの救出だ」

「……けど!」

「会長!」

「……なるほど。やはりあなた達の目的はそれでしたか」

「ーーっ! 邪魔する気!?」

「いいえ。そんなつもりはありませんよ。むしろ逆ですね」

「……逆だと?」

「はい。上からとある命令を受けまして。ここで行われてる事が邪魔なんですよ」

「……何を企んでいる?」

「それを言うつもりはありません。いろいろと想定外はありましたが、それでも私たちは完成を目指していますので」

「……完成?」


 意味深な言葉に目を細める楓。


「……少し余計なことを話過ぎてしまいましたね。ともかく、現状では我々の目的は同じ。ならばここは一つ共闘しませんか?」

「共闘だと?」


 さっきから何度も感情的になりかけている美花を抑えてながら楓は怪訝な顔を浮かべる。


「私はここにある組織が邪魔です。あなた方は組織が非合法的に捕らえている奴隷たちを解放したい。ならば一緒に戦おうと言っているんです」

「ーーなっ!」


 六花の言いたいことはわかる。

 確かに彼女の言っていることは理にかなっている。合理的だ。六花の実力は未だ未知数と言っても良い。仲間になるとすれば心強いことこの上ない。


「断るわ」


 感情がそれを否定する。

 自分たちをずっと騙してきた六花を許すという気持ちにはなれなかった。感情とは、心とは厄介なものだ。


「会長……」

「楓。あんたが何を言おうとあたしの意見はかわらない」


 この頑固者め。という言葉をどうにかのみ飲んだ後、楓は深いため息をついた。


「……だったらこういうのはどうだ?」

「聞きましょう」

「どうもうちのお姫様が共闘は嫌らしくてな」

「そのようですね」

「妥協案として、互いに邪魔をしない。これならどうだ? 会長もそれならいいだろ?」

「……そう、ね」


 しばし考を挟んだ後、そう答える美花。


「……はぁー。仕方がありません。私もそれで構いませんよ」

「だが先に言っておくが、邪魔をしないってのは目的が一致しているってのが前提だからな? もしもお前と、いや、お前らとあたしたちの目的が違えた時は、あたしは全力でお前を止めるぞ」


 強い殺気を込め、冷たく六花を射抜く楓。

 その覚悟を感じ取ったのだろう。六花は息を一つこぼした後、小さく頷きながら答える。


「わかりました」

 次回は8月15日です。

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