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9ー14 先にいる純白


 非合法の奴隷商人と関係を持っていると思われる資産家の屋敷の地下で美花たちが見たのは、古くからここにあるような神秘的な雰囲気を漂らせている遺跡らしきものだった。


「これ……遺跡よね?」

「……だな……」


 屋敷の地下に広がっていた巨大な遺跡。

 さっきまでいた通路は一般的な地下と言える程度の高さしかなかったが、この屋敷がある場所だけ巨大な洞窟のようになっていた。

 高さにして六階ぶんはあるだろう。


「広いな」

「どうする? いっそのことまた二手に分かれる?」

「美花に賛成」

「チーム分けはどうするんだ?」

「さっきと同じで良いんじゃないか? ぶっちゃけあたしに合わせられるの美花だけだと思うし」

「九実に出来ないわけないだろ?」


 拗ねたようにそう言う解。

 そこで自分と言わないあたりがなんとなく残念だ。


「んー。まー、九実なら出来そうだけど、その場合あたしが大変かなーって」

「素直に慣れた相手とチームを組みたいって言えばいいだろ?」

「それはこっちのセリフだ。解も九実と組みたいだろ?」

「まあ、俺としてはそっちの方がやりやすいけどな」

「はい。この話は終わりよ。チーム分けは突入後と同じ。あたしたちは左側、九実たちは右側をお願いするわ」

「オッケー」「ん」


 四人は頷き合うと同時にその場から消えた。


   ☆ ★ ☆ ★


 Aチーム。

 楓、美花ペアは狭い廊下の中を走る。

 廊下のサイドには壺だったり、彫刻だったり、置物だったりと何かしらか飾られているのだが、それがどういうものなのか、値打ちがあるのかないのかはわからない。

 お家柄、こういうものを見る機会の多い美花だが、日常の中に飾られているというだけでそれについて勉強したことはない。

 そのため目利きの能力は皆無だ。


「ねえ。楓はそこらへんに飾られてるものの値打ちとかわかる?」

「いいや。あたし、法具ならわかるけどただの置物には興味ないからな。というか、もし値打ちあるものだったらどうする気だ? お持ち帰りか?」

「……そんなことしないわよ。ちょっと気になっただけよ」


 ジト目気味に視線を向けてくる美花に楓は苦笑する。


「それにしても、なんだろうなこの遺跡」


 屋敷の下にあるものとしては場違い過ぎるこの遺跡。

 見る限り材質はほぼ石のようだが、石壁一面には何かの絵らしきものも描かれていた。


「この壁の絵。何か意味でもあるのかしら?」

「さあな。まあ、ないんじゃないか?」

「そうなのかしら?」

「仮に意味があったとしてもあたしたちにはその意味を知る術はないだろ? 考えるだけ無駄だ」

「……まあ、そうね」


 ここまで広範囲に広がっている壁画だが、もしこれら全てに意味があるとすればちょっとした悪夢だ。主に解読の労力を考えるとだが、


「今はそれよりも奥に進むことだな」

「ええ。何よりも捕まった人たちを助け出す時よね」


 心の奥に生まれていた疑問。

 その疑問を二人が自覚することはなかった。


 この街に来て出会った幼女。咲夜の姉を助け出すために屋敷に潜入した楓たち。

 しかし、屋敷の中にそれらしき気配はなく、楓が見つけたのは屋敷の下にある複数の気配だった。

 おそらくそれらが非合法的に捕まり、奴隷として売られようとしている人たちだと判断し、地下に向かう一同。

 そこで目にしたものは巨大な遺跡だった。

 外観からしてわかる通り、内部は相当の広さだろう。そう思い、再び二チームにわかれた楓たち。

 長く続く細い廊下を歩き続け、Aチーム、楓と美花のペアは怪しげな扉の前にいた。


「んー。なにこのいかにもこの先はやばいですよって主張してるかのような扉」

「……ええ。まるでゲームとかに出てくるボス戦前の門ね」

「けど、まあ鍵がついてるな」


 そうそう見ることなんてないだろう巨大な扉に、サイズ的にもふさわしい錠前ががっちりと極太の鎖と共についていた。


「どうする? ぶっ、壊すか?」

「……あんた。ちょっと九実に似たんじゃない?」

「そうか?」


 あははっと笑っている楓にため息をつく美花。


「まあ、けど。それしかないわね」

「おしきた」


 右手を左腰辺りまで引く楓。

 美花は一歩下がり、ゆっくりとそれを見た。


「んじゃ。斬るぞ」

「ええ。どうぞ」


 横目で美花が間合いから離れたことを確認し、念のため口でも警告をした後。眼前を見据えて腰を落とす。

 動きとしては剣術の抜刀術と等しい。

 ただ一つ違うのは、その手に何も握られていないということ。

 しかし、楓の状態が振り終えた後の格好になった後、そこに無いはずの刃は錠前を綺麗に切断していた。


「お見事。相変わらず早いわね」

「んー。あたしとしてはもっと早くなりたいんだけどな」

「……あんた、満足してなかったの?」

「ああ。あたしが目指した地点と比べると今のあたしはまだまだ弱いからな」

「……あんたの目指すレベルって、どんだけよ」

「まあ、言葉にするなら、神の領域ってか?」

「……あんたが言うと洒落に聞こえないわね」


 やれやれと首を振った後、ため息をもらす美花。

 今楓がやったことは比較的単純だ。

 ただ、楓の十八番(おはこ)である氷を作り出し、それを刃として斬っただけ。

 ただ一つおかしい点は、まだ存在していない刀身が錠前に触れるその一瞬だけ刃が具体化されたということ。

 対象に当たるまで刃として形を為さずに、一瞬だけ刃としてそこにある。

 一切の空気抵抗の無い正に神速の一太刀だ。

 しかし、この速度でも、この造形スピードでも楓は満足していないらしい。

 向上心の高い天才というのは随分と厄介だ。

 美花はそう、諦めも近い息をもう一つ。


「ほら会長ー。ため息ついてないで先行くぞー」

「……あんたのせいでしょ……」


 がっくりと肩を落としている美花。

 比較的人を振り回す方だった美花だが、楓と組むようになってからというもの、楓の気まぐれとか、非常識加減に振り回されることが多くなっていた。

 錠前を壊すと同時に勝手に開き出した扉。

 なんとなく胸騒ぎがするその先に一人先に歩き出していた楓を美花は追い掛けた。


   ☆ ★ ☆ ★


 あれはエピローグなんかじゃなかった。

 壊れた、崩壊してしまったシナリオを結ぶエピローグじゃない。

 壊れているかもしれない。

 崩壊してしまっているかもしれない。

 だけど、それでも、これが私たちの物語だから。

 だからきっと、


 プロローグだったんだ。


   ☆ ★ ☆ ★


 扉の先にあったのはダンスホールのような場所だった。

 とても広い空間。

 それは面積だけではなく、体積。つまり高さもそうだった。

 目測でははっきりしないが、五階相当あるのではないだろうか。

 この遺跡の高さは元々それくらいだったはずだ。

 つまり、一階から一番上までを使った大ホール。

 何かこう、大切な何かがある。

 そんな予感を与えた。

 さっきの胸騒ぎはこれだったのだろうか?

 美花は一瞬だけ、そう思った。

 だけど気付く。

 それは違かったと。


「……おや? 随分と懐かしい顔ですね」


 ホールのほぼ中心。

 天を見上げる形でそこにいたのは、漆黒に染まったロングコートと、その上に垂れる。純白の髪。


「……あんた……なんで……」


 柊六花がそこにいた。

 次回は8月13日です。

 何度も休載となってしまい、誠に申し訳ありません。

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