9ー13 ソコにあるもの
なんとなく入った部屋にあった地下に続く道。
隠されていた道だったのが、それもまた九実の勘によって突破され、四人は地下一階。最初の部屋にいた。
九実が地面を壊すという冗談のようだが、本気であろうのことを言っている中、楓の視線は周囲に向かっていた。
「どう楓。見つかった?」
そんな楓に視線をやり、問う美花。
「いいや。無いな」
楓が探しているのはさらなる階層に行くための道だ。
地下一階にあたるこの部屋への道をすんなり当ててくれた九実の勘が発動してくれないため、楓が目視でらしきものを探していたのだが、この部屋に来た階段を除き、この部屋には何もなかった。
「もしかするとこの部屋は地下とかじゃなくて、ただの床下収納だった。そんな感じだったんじゃないか?」
「んー。そうね。上の部屋の持ち主が作った倉庫ってこと?」
「まー。作ったのが本当にそうだとは限らないけど、次に進むための道なんてないぞ?」
「どうする?」という意味を持たせて視線を九実へと送る楓。
そんな楓と目を合わせた後、九実は小さく頷き、腕を胸元まであげて、拳を握る。
「……えっ? まさか九実?」
「壊す」
「ちょっ!!」
楓が九実を止めようと動くが、先手だった九実の方が早かった。
硬く握り締めた右拳をそのまま床に叩きつける九実。
「……あれ?」
来るであろう衝撃。
正確には九実の拳が床を打ち砕き、崩れることによって起きるであろう衝撃に備える楓たちだったが、
「何も起こらない?」
九実の拳は確実に床にあたっている。しかし、そこにはヒビの一つも入ってはいなかった。
「……もしかして、冗談?」
解と違って楓たちは九実の無表情になれていない。
そのため、もしかするとさっきのは解の言う通り本当に冗談だったのかもしれないと思い始める二人。
「いや、違うぞこれ! お前ら跳べ!」
焦った表情で叫ぶ解に首を傾げる二人。しかし、一秒もしないうちに楓が不吉な音を聞き取った。
「美花跳ぶぞ!」
「え? わ、わかったわ!」
理由はわからないが楓が焦っているのだ、そこに思考を挟む必要性はないと判断し、わからないままだが美花は楓の言う通り跳んだ。
次の瞬間。
「……内咲き」
床が崩壊した。
正確には、消滅したのだ。
瓦礫の山なんてものはない。あるのは砂漠の如く存在する細かい粒子だけ。
「これなら大きな音は出ない」
普通に床を砕き、多くの巨大な瓦礫としてしまえば落下した時に轟音が遠くまで響いてしまうだろう。
そのため床を壊すのは敵が人質に取れる存在を持っている限りアウトとしていたのだが、落ちるのがふわふわとした細かい粒子だけならそこまでの轟音は鳴り響かない。
「……今のって衝撃流しの一種か?」
「そう。昔見て覚えた。拳圧を床全体に浸透させて同時に拡散させた」
「めちゃくちゃ細かい爆弾を中に仕込んで同時に爆発させたようなもんだろ?」
「そう」
「……見て覚えたって……そんな簡単な技術じゃないわよね?」
「……そうなの?」
首を傾げている九実にため息をつく美花。
こんな平和とも取れる話をしている四人だが、現在進行中で落下していた。
「……ねえ。そろそろ聞いてもいい?」
「何?」
「……長くない?」
「面倒だったから一番下まで直通」
「…………」
今度はため息すら出なくなる美花だった。九実が小さく「そろそろ。準備して」と言ったことで着地の準備を始める四人。
準備とは言っても四人の身体能力ならただタイミングを合わせて受け身を取るだけなのだが、
「……さて、大変なのはこのあとね」
シュタッという効果音と共に無事着地した四人。
美花は吹き抜けのようになっている上の方の方に視線を向けた後、前に戻しつつ言う。
「これだけ大きな穴だと割と早く発見されるんじゃないか?」
「……確かに一番したまで来るには手取り早いけど……あれ、詰んだんじゃないかしら?」
「問題ない」
この後の行動に二人が困っていると、九実が小さく言った。
一体この子は次にどんな規格外を披露するのだろうという心持ちで九実に視線を向ける二人。
何故か解がドヤ顔で頷いていたがそんなことは無視しておく。
「……今度は何しても驚かないわよ?」
「そう。なら良かった」
今まで九実にとってはごく普通となっていることをすると周囲にいた人は大抵目をまん丸にして気絶してしまうことが多かった。というかほぼそうだった。
そのためそう言ってくれる美花に九実は自分でも気付かないほどに小さく笑みをこぼしていた。
「行く」
そう言って合唱をした九実。
(……結もやっていた擬似強化術……)
そんな九実の姿に懐かしさを覚える美花。
九実は両手を開くと今度はその手を床につける。
「『土操、土壁創造』」
土の属性によって穴になっている場所の円周部分からまるで穴を塞ぐように壁が、というより床が伸び始めていた。
「…………」
「ねえ楓?」
「…………なんだ」
「土壁って横方向に伸ばせたっけ?」
「……一応は橋みたいに伸ばせたと思うぞ?」
「けど、柱なんてないわよね」
「ないな」
「……断面見てるからわかるけど、すっごく薄いわよね?」
「薄いな」
「……普通なら無理よね?」
「少なくともあたしには出来ない芸当だな」
まるで上の景色が侵食されていくかのようにして再生していう床。
「……氷でなら?」
「出来る」
「……そう」
氷属性ならば空気中の水分を直接凍らせることによって、柱もなく、橋をかけるように床を再生させることが出来る楓だが、どうしても直接空気中には発生させることが出来ず、氷と比べると薄い状態では硬度を保てない土属性ではこの作業は至難……もはや神業だ。
「出来た」
息を入らせることもなく淡々とつぶやく九実。
そんな九実に視線をやったあと、上に視線を戻すとそこにはまるで穴なんて最初からなかったと言わんばかりの天井がそこにあった。
視線の端でなにやら肩で息をしている解の姿があったが、とりあえず落ち着け。
「…………はぁー」
楓と九実の間を何度も視線を巡らせた後、美花は深い深いため息をついた。
☆ ★ ☆ ★
四人がたどり着いたのは廊下らしき場所の中だった。
本来は一本道なんだろうが道を壊すというズルをしてここに直接来たためある道は二つ。
「どっち?」
二つの道に視線を送った後、楓を見詰めて首を傾げる九実。
「いや、ここは九実の勘の方が良くないか?」
「そう?」
「賛成の人は挙手をお願いしまーす」
なんとも緊張感のない声で手を挙げる楓。そんな楓に続き九実を除く全員が片手を上げた。
「わかった。……んー、こっち」
「おけー。ならそっちだね」
九実としては適当に言っているんだろうがそれでも当たるのが九実という少女だ。
九実の持つ勘というのか運というのかわからないものを頼りに道を進む一同。
しばらく歩いている細い廊下から突然道が広がった。
そしてそこにあったものに四人の表情が変わる。
「これって……」
小さくつぶやいたのは美花だった。
目の前にあるそれはどこからどう見ても、
「門?」
まるで街の八方についているような門がそこにあった。
何製かはわからないが少なくとも木製ではない。
門の表面をコンコンと叩いてみるが返ってくる音は冷たい。
「……とりあえず金属製ね」
手のひらで触れてみればひんやりとした冷たさが伝わる。
光沢からしても金属製っぽいのだが、重要なのはこれが何製かってこと。
「何製とかはどうでも良くない?」
「……そうね」
「重要なのはなんでこんなところにこんな門があるのかってことじゃない?」
「……重ね重ねそうね」
少し顔を赤くして後ろに下がる美花。
美花が下がると同時に九実が数歩前に進む。
「……壊す?」
「九実? 言うと思ってたけど、なんでもかんでも壊せばいいもんじゃないぞ?」
手のひらに光を集めながら最早いつも通りと感じてしまう物騒なことを口にする九実に呆れを含んだ息をもらす楓。
「けどよ楓。ぶっちゃけ壊すしかないだろ?」
「…………まあ、そうだけど」
解に言われ探知をしてみると楓が見つけた複数の気配はどうやらこの奥のようだ。
けど、なんか解に言われたのを理不尽なことにムカついている楓だった。
「……よし。やっちゃえ九実」
少しの間考えを巡らせた後、笑顔でそう言う楓に解は苦笑を漏らす。
九実は頷いて返事をすると、その手に集まっている光を前方に翳した。
「……名無しの幻操」
少し迷った素振りを見せた後、手のひらの光を解放する九実。
見た目的には九実の手のひらが懐中電灯のように光っているだけのように見えるのだが、照らされている門の一部には変化がすぐ見られた。
「……うわー。光に変えた熱ってこと? えげつないわね」
美花がつぶやくのも仕方がない。
なんせ照らされた門の表面が凄まじいスピードで溶け始めたのだ。
金属製らしき門をこれほどまで一気に溶かし始めるほどの熱を持った光。
……物騒ってレベルじゃないな。
レンズで圧縮した光ならわかるがそのままで門を溶かし尽くすレベルの熱。ここまでその熱が伝わってくる。
門に穴が開くまでそこまで時間は掛からなかった。
「……なんか。まるでアイスね」
「会長ー。現実逃避はいいから行くぞー」
「……わかってるわよ。ええ、わかってるわ」
トボトボと先に歩き出した楓たちの後を追う美花。
その背中にはなんとも言えない哀愁が漂っていた。
出来た穴を潜り抜け、強固な門を突破した四人。
門を見たときにもその場違いな雰囲気に飲まれ、言葉を失っていたのだが、
今度はそのレベルじゃなかった。
「……遺跡?」
次回は8月9日です。
8月7日は休載となります。申し訳ございません。




