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9ー12 女心は難しい


 Aチーム。美花、楓ペアはまっすぐと廊下を走っていた。

 ほぼ全力で走っているというのにほとんど足音が聞こえないという不思議は今更なような気がする。

 先導しているのは楓。

 美花と違い、楓には感知タイプとしての能力もあるからだ。

 曲がり角を見つけるたびに敵兵らしい気配が多い方(・・・)に進む二人。

 どうしてわざわざそんな危険なことをしているのかというか、理由は単純明解。

 守りが厳重ということは、それだけそこに立ち入られたくないということだからだ。

 ずっと止まることなく前を走り続けていた楓。

 しかし、ふとその足が止まった。


(楓……?)


 突然立ち止まった楓に疑問符を浮かべている美花。

 今いるのは変わらず廊下のど真ん中だ。

 止まる理由として思いつくのは正面に敵がいるとかだが、もしもそうだとしたらただ止まるだけでは意味がない。

 まあ、だからと言って隠れられる場所があるわけではないのだが、それでもだ。


『どうしたの? 楓?』


 隣に移動してコンタクトをする美花。

 そんな美花を一瞥した後、楓は手話によって返事をする。


『この下。何かある』

『何か?』


 ある程度決めたとはいえ、ありとあらゆるパターンを決めたわけではない。楓が見つけたらしいそれをどうやって美花に伝えようかと楓が思考していると、ふと思いつき指を一本立てた。


『楓?』

『見ろ』


 首を傾げる美花に楓は反対の手でそう伝える。

 次の瞬間。楓の指先から冷気が漏れ出し、その冷気は氷となって形になった。

 器用に氷で作られたのは文字。

 指先に浮かぶその文字の内容は、


(……無数の……人っ!?)


 その内容に驚愕を露わにする美花。

 そんな美花を見て楓は文字を消すと次の文字を作り出した。


『地下一階ってレベルじゃない』

『深さ的には多分違い六階ぐらいの位置』


 今度は両手を使って二つの文章を作った楓。


(くっ。今のあたしじゃそんな器用なことまだ出来ないわよ!)


 自分も同じようにして話せれば楽なのだが、そんな芸当美花には出来ない。

 形を成す氷という属性だからやりやすいというのもあるかもしれないが、しかしやはり、楓のレベルの高さが何よりの理由だ。


(……まったく。本当に楓と会ってからは自信をなくすことが多いわね)


 ジト目をし、若干拗ねてるような様子を見せる美花に楓は疑問符を浮かべていた。

 疑問をとりあえず今は置いておくことにした楓は文字を消すとまた新たに文字を作る。


『地下の存在を九実たちに教えるか? それとも先に入り口を探すか? 前者なら右手、後者なら左手をあげろ』


 なんとも気が利いたことに、今度は回答の選択肢を先に提示した楓。

 美花はそっと右手をあげた。


『わかった。なら今から探す。少し待て』


 今度は頷いて返事をする美花。

 楓は文字を消すと指先を宙で立てながら、目を閉じる。

 数秒の間の後、楓は美花にアイコンタクトをし、そして共に歩き出した。


   ☆ ★ ☆ ★


 一方。

 Bチーム。九実、解ペアは二人仲良く、


「…………」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 追いかけっこの真っ最中だった。


(くそ、九実の奴。全力疾走じゃねえか!)


 足音を立てることもなくずっと前を走っている九実の後ろ姿を息を切らしながら追いかける解。

 速力では解が劣っており、二人の距離は少しずつ開いていた。

 前を走り、速力の高い九実はまっまく息を切らしている様子はない。しかし、そんな九実を懸命に追いかける解の息は既に切れ切れだ。


(あの野郎! 毎度のことだが俺のこと気にしてなさ過ぎだろ!)


 解が九実と出会ったのは二年とプラスアルファ。約三年前だ。


 きっかけとしては倒れていた俺のことを保護してくれた。そして看病してくれた。その時はもう一つ九実の連れが居たのだが、その娘とは二年くらい前に別行動をとることになっていた。

 九実が俺のことを鍛えてくれるようになったのも確かその頃だったような気もする。

 むしろ俺を鍛えるために時間を使うようになり、結果もう一つが一旦別れるようになった。そんな感じだった気がする。

 助けられた恩を、返すためにこうして今までついてきたのだが、何も返せていない。

 他人に興味を持つことが少ない九実。

 その九実が珍しく興味を持った三人組。

 九実があいつらを助けようとしている。ならば、俺も頑張るさ。


(それに……なんでかな。あいつら、どこかで会ったような気がするんだよなー)


 考え事をしながら走っていると突然デコに衝撃が走った。


(痛っ!)


 どうにか声に出してしまうことだけは避けたものの、攻撃された!

 発見されてしまったのであれば騒がれる前に沈黙させる。

 そう思い、目の前にある影を目をやると。


(……あっ)


 ジト目を向けている九実の姿があった。

 同時にほぼ無意識で手に集めていた幻力を引っ込める。

 よく考えればすぐにわかることだったはずだ。

 なんせこの道は一本道。後ろからならまだしも、前には九実が走っているのだ。その九実が敵を逃すか?

 ……ありえん。

 助けてもらった恩を返したいと思って付き従うこと三年。

 その恩に報いることはまったくと言っていいほどに出来ていない。

 旅といえばいろいろと大変なはずなのだが、この娘。なんとも万能なのだ。

 俺なんかが助けることなんて。助けられることなんてないのだ。

 口パクで何かを言う九実。

 九実に仕込まれた読唇術を使って読み取ると、


『死にたいの?』


 解は無言で土下座していた。

 そんな解に小さく息を吐いた後、九実は身体を正面に戻し、さっきと同じように、いや、少し速力を下げて走り出した。

 なんとか息を激しく乱すこともなくついていけるほどのスピードとなり、解は九実の隣を走っていた。

 きっかけはなかったと思う。

 突然九実がその足を止めた。


(九実?)


 少し先まで行ったところで振り返り、首を傾げる解。


『どうしたんだ?』


 九実に仕込まれたということは、当然九実も読唇術の心得がある。

 彼女の方に歩きながらそう口パクで伝える解。


『楓たちが呼んでる』

『……一応聞くが、なんでわかる?』

『……女の勘?』


 それはまた随分とはっきりとした勘ですね。だなんて言わない。

 それに九実の勘は良くあたる。

 というか、九実は勘だって言っているが、実際のところは違うと解は思っている。

 確かに女の勘も関係してないわけではないと思うが、そこには確かな推理が混ざっている。

 計算されつくした推理と、女の勘。それを混ぜたものがこの良くあたる九実の勘だ。多分、そんな感じだと思う。


『それで? あいつらはどこにいるんだ?』

『こっち。来て』

『はいはい。お姫様』


 言うなり即座に走り出した九実。

 音のない解のつぶやきが九実に届くことはなかった。


   ☆ ★ ☆ ★


 美花たちが九実を探し始めた頃、ちょうどそのことを九実が女の勘という最強の能力をもって察知していたため、四人の合流にさほど時間はかからなかった。


「なあ、女の勘ってそんなに当たるものだったか?」

「あー。ちょっと九実の場合は例外的だな」


 九実の場所を察知しようとしたらこっちに向かってくる気配を見つけ一瞬慌てたものの、すぐにそれが九実たちだとわかったからいいのだが、楓としてドッキリを仕掛けられた気分だった。

 少し拗ねているようにも見える楓に、解は苦笑しながら言う。


「それにしても、まさかこんなところがあるとはなー」


 今四人がいるのは楓が見つけた地下室らしき場所。

 既に入り口も見つけ侵入しており、さっき察知した時には敵兵の気配がなかったため声出しも解禁だ。


「解。もう大丈夫だとしても喋り過ぎ。死ぬ?」

「無表情で怖いこと言うなよ……」


 若干本気で怖がっている解。無表情が基本装備のため冗談なのか違うのかわかりにくいのだ。

 しかし、九実とずっと一緒にいた解からすれば、


(ふふふ。その顔。俺にはわかるぞ。冗談だと!)


 普通に考えてセリフと状況から冗談だとわかるのだが、九実の表情だけでそれを悟り、密かにドヤ顔になる解、哀れな解だった。


「にしても、ここ、結構な広さがありそうね」

「だな。一階をこの高さだとするとあたしが複数の気配を察知したのは七階くらいだな」

「遠いわね」

「遠いな」

「それならいっそ地面破壊して一気に行く?」

「二人とも安心しろ。九実なりの冗談だ」


 首をちょこっと傾げて言う九実に少し汗を掻いている二人。

 そんな二人に慌てて言う解だが、


(いや、これは本気の目よ!)


 どこまでも九実のことをわかっていない解だった。



 次回は8月5日です。

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