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9ー4 決意とこれから


 美花の提案によって集まった旧生十会の三人。

 楓の言葉によって美花は過去にすがることをやめ、あたらしいシナリオにその足を踏み出そうと、決意を新たにしていた。


「そうかい。君の決意は固いみたいだね」

「ええ。今までお世話になったわね」


 神崎美花は一人。【F•G(ファースト・ガーデン)】のマスター、夜月賢一の元を訪れていた。

 理由は単純明解。生十会からの脱退申請だ。


「ふふ。それじゃまるで私のガーデンをやめるみたいだね」

「そうね。場合によってはそうしてくれて構わないわ」

「ふふ。君を私がやめさせるわけがないだろう? 期間はどれくらいかな?」

「……さすがね」


 長期の休暇を貰うことになる。だから場合によって辞めざるを終えないと思っていたのだが、賢一はそれを見据えていたようだ。

 全てを知っているかのような賢一の態度に美花は小さく息を吐くと、真剣な面で言う。


「正直わからないわ」

「……ほう。いや、なるほどと言うべきだろうね」

「そこまでお見通しってこと?」

「ふふ。そうだね。ここ三年動かなかったというのに、今となってそこまでの覚悟を決めたのは彼女の進言かな?」

「進言って……まあ、そうね。彼女からのアドバイスよ」

「ふむ。ならばこれを受け取りたまえ」


 賢一は机の引き出しに手を入れると何かを取り出してそれを美花に投げる。

 投げられたそれは一通の封筒。

 小さな疑問符を浮かべた美花は賢一の顔を見て確認した後、封を切った。


「これは……」

「君は私と同じ向こうの出身だからね。ならばこれくらいの手助けはしてもいいだろう?」

「……そう。ありがとう」

「ああ、そうだ。忘れる所だった。今回の長期休業の申請は三人分でいいのかい?」

「ええ。神崎美花、望月楓、雨宮桜の三名分よ」


 今の生十会に自分たちの席を残す意味はすでにない。ならば桜もまた離れることになるのはある意味当然の話だった。


「ふふ。嬉しそうだね。美花君」

「……ええ。そうかもしれないわね」

「三人ならば君の実家に戻ることも出来ないだろう。ならばそこに向かうといい」

「何から何までありがとう」


 封筒の中に入っていたのは地図。他でもない。【幻理世界】の地図だった。

 頭をさげた美花にまるで孫を見るおじいちゃんのような視線を送っている賢一は背を向けて立ち去ろうとする美花の背中に声を掛ける。


「美花君」


 美花の足が止まり。ゆっくり振り返る。その目は、濡れていた。


「気を付けなさい」

「……ええ」


 最後に笑みを見せた美花。

 扉を開き、部屋外へと到達した美花は振り返ることなく、扉を閉める。

 扉の両脇にはなんともいえない表情を浮かべた二人の仲間がいた。


「安心しなさい。ここは君のーー」


 扉の先に消えた少女のことを思いながら、賢一はつぶやく。


「ーー居場所なのだから」


   ☆ ★ ☆ ★


 【F•G(ファースト・ガーデン)・ゲート前】


「なあ。これって他園に行くときの門だよな?」

「ええ。そうよ」

「これで向こうに帰れるのか?」

「普段は無理よ? けど、これを預かってきたわ」


 美花が取り出したのは金色に輝く小さな鍵。これも賢一から渡された封筒の中に入っていたものだ。


「それにしても、会長ってマスターと仲良いよねー」

「そうかもね。夜月家は賢一の世代になってからあたしたち【神崎】や【神夜】、始神家(ししんけ)との交流を深めていたからね。あたしにとっては賢一はもう一人のお父さんみたいな人よ」

「へぇー」


 ゲート前でこれでしばらくは見なくなるであろう【F•G(ファースト・ガーデン)】の校舎を眺めながら話す三人。

 その顔にはそれぞれ決意が表れているように見えた。


「さてと」


 美花はふとつぶやき、三人は視線を校舎からゲートへと移す。

 ゲートのサイドについてある小さな穴。そこに先ほどの鍵を差し込むと何のためらいもなく回す。


「おー。さすがは会長。ためらい無し無しだねっ」

「まっ。だな。これで最後じゃないんだ」

「そっ。ちょっと長くなるかもしれないけど、ただ、旅に出るだけだもの。ためらいなんて……ないわ……」


 最終的に俯いてしまった美花にあえて視線を向けない隣の二人。

 擦り、赤くなった目を開けて、美花が先頭としてゲートに入る。


「またね。F•G(ファースト・ガーデン)


   ☆ ★ ☆ ★


「……行ったようだね」


 学園長室にある大きな窓から小さく見えるゲート。その先に消えて行った三人の少女をここから見送った賢一は小さく息をこぼす。


「シナリオが崩れてしまったあの日から、あの子は何を思っているんだろうね」

「さあ。私にはわかりかねます。彼女の能力は我々をそれを遥かに凌駕しておりましたので」


 いつの間にか賢一の背後に控えている黒服の男性に賢一は小さく笑い掛ける。


「確かに、そうかもしれないね。けど、あの子とて万能じゃないんだよ。だからこそ彼のような存在がうまれてしまったんだからね」

「うまれてしまった? 何を仰いますか。我らがマスターが作り出したのではありませんか」

「ふふ。私じゃない。私は手助けをしただけだよ。あの子たちには到底かなわないよ」

「……でしゃばった発言、誠に申し訳ありませんでした」

「ふふ。気にしてないよ。さて、仕事に戻ろうか。私の守護者、宝院(ほういん)竜次(りゅうじ)君」

「了解しました」


   ☆ ★ ☆ ★


 次回は21日です。

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