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3ー1 彼女の母

第三章本編、開始しました。

物語が加速し始める三章をどうぞよろしくお願いします。

 双花がH•Gマスター、麒麟に攫われてから三日が経っていた。


 この三日前に戦い、気を失ってしまっていた結は、今だに眠りに付いたままだった。


「……」


 結はR•Gの一室、双花から与えられていた自室のベットで眠っており、そこにはすでに治療の終えた、桜、火燐、春姫の三人も集まっていたのだが、それぞれ自分の仲間である、双花と目を覚まさない結が心配で、暗く落ち込んだ雰囲気が流れていた。


「ゆっち……」


 小さく、弱々しい声で結のあだ名を呟く少女、桜は結の眠るベットの隣にあるソファーの上に両足を揃えた体育座りで座り、ずっと結の寝顔を見つめていた。


「……まだ、起きないのか?」


 結と桜のいるベットとソファーから、少し離れた位置にあるソファーに座っていた火燐は、突然立ち上がると寂しそうに結を見つめる桜に声をかけていた。


「うん……これっぽっちも動かない……」


 この三日、共に仲間を失ってしまい同じ喪失感を覚え、互いに近親感を感じていた桜、火燐、春姫の三人は友人としてある程度は打ち解けあっており敬語が時々抜けるようになっていた。

 実際には桜の心に他の事を気にしている余裕がないため、雲の上の存在である二人とも普通に喋れているのだが、正直なところいい事なのでいいだろう。


「……その、F•Gから返事は来たのですか?」


「……残念な事に返事はまだなの」


 H•Gの襲撃を受けて、そして双花が攫われてしまってから死者はいなかったものの怪我人が多く、絶大な損害を受けてしまっていたR•Gは双花の両親であるF•Gのマスター夫妻に救援を要請していたのだか、どうやらその返事はなにも来ていないらしい。


 双花がいなくなり、結が目覚めなくなり、F•Gから返事も来ない。


 すでに桜は精神的に絶大なダメージを負ってしまっていた。


(麒麟と戦った時、あたしは恐怖で動けなくなっていた。……はは、人型イーターとやった時と同じだなぁ。あたし……成長してないのかな)


 あの時、麒麟と戦っていた四人の内、桜だけが死の恐怖によって怯えてしまっていた。


 あの四人のなかで残酷な事だが最も弱いのは桜だ。だからその桜だけが格上の存在である麒麟に対して、一番恐怖を感じてしまうのは仕方がないことだ。


 桜はその事に気が付いていた。気が付いた上で、弱い自分を悔しく思っていた。


「……桜……」


「ゆっちっ!?」


 落ち込み、俯く桜の耳に届いたのは、自分を救ってくれた友の声だった。


 結の声が聞こえて、思わず顔を上げると、そこには


「っ!?……ほんとに……結なのか?」


「……あぁ」


 ベットから体を起こし、桜達を見つめるのは確かに結だった。

 しかしその目には、いつもあった輝きが失われていた。まるで死んだ目をしていたのだ。


 感情を感じさせない瞳、全てを吸い込んでしまうような漆黒の瞳、桜達、三人はその目に意識をもっていかれそうになっていた。


「……ちょっ、正気になってよゆっちっ!!」


 結が正気を失っているように見えた桜は、相手が怪我人だということも忘れて、頭をおもいっきり引っ叩いていた。


「……あっ」


 頭を引っ叩かれたおかげなのか、結の目に輝きが取り戻され、魔性の瞳が姿を隠し、いつもの結に戻っていた。


「……結、大丈夫なのか?」


「あ、あぁ……」


 結は首をくるくると回しながら、体の状態を確認するが、あれほどの力をジャンクションしたというのに、異常の一つも見つからずにいたため、頭を傾げていた。


「ゆっち、あれから三日経ってるの」


「三日っ!?……双花は、双花は助けられたのかっ!?」


「それが……」


 三日が過ぎていると聞き、慌てる結に、桜はF•Gに救援を頼んだ事、そして今だに返事が来ないことを話した。


「そうだ、最後に俺が麒麟に渡された五つの法具のことはなにかわかったのか?」


「あぁ、あれか。勝手ながらこちらで調べたのだが……」


 火燐は結の質問に答えようと、ベットに座っている結の隣に座ると、説明を始めた。


「簡単に言えば、あれの中には使い捨ての転移術が刻めれていてな、行き先はどうやら……H•Gらしい」


「そ、それってつまり?」


「五つ、つまり五人で来いと言っている訳だな」


 結の出した結論に、火燐は無言で頷くと春姫が続きを話し出していた。


「それでその五人を考えたの。メンバーの中にはF•Gの幻操師もいるから、F•Gマスターに許可を申請してるって訳なの」


「それで、その返事がこないからなにも出来ずにいると言う訳か……」


 結はなにも出来ないという、今の状況に思わず舌を鳴らすと突然立ち上がり火燐に転移の法具がどこにあるかを聞いていた。


「ゆっち、どうするつもり?……まさかっ!?」


「そんなの待っていられない、俺は一人でも良い、今すぐ双花を助けに行く」


「待ちなさい、音無結」


 麒麟と対峙していた時まで強くはないが、その時のような、冷たく、鋭い雰囲気を纏い始めた結は、止めようとする桜や火燐、春姫の言葉も聞かずに一人、H•Gに向かおうとしていると、突然ドアが開き、そこから現れたのは双花に似た、しかし双花よりも大人の魅力と言うべきか、双花の十年後を見ているような美しい女性が立っていた。


「あ、あなたは……」


 その女性を見た桜は、目を大きく見開き、言葉を失っていた。


「なっ!?夜月一花(やづきいっか)様っ!!ど、どうしてこんなところに?」


 珍しく火燐までも慌てふためいている中、美しい女性、改めF•Gマスター夜月賢一の妻、夜月一花は結の前に立つと結に話し掛けていた。


「音無結、あなたですね。夫の弟子というのは」


「えっ!?」

「なんだとっ!?」

「なのっ!?」


 一花の言葉に驚いた桜、火燐、春姫の三人は結が賢一、つまりマスタークラスの弟子だということを知り目を見開き、言葉を失っていた。


「こうして会うのは初めてですね」


「……はじめまして、一花様」


「ゆっちが敬語使ってるっ!?」


 結が一花に敬語を使っているという事実に対して驚く桜を置いて、結と一花の話は続いていた。


「あなたの娘、双花を助けに行きたいのでそこをどいてくださりますか?」


「断ります」


「……それなら無理矢理押し通る事になりますがよろしいので?」


「ふふ、出来るものならやってみなさい?」


「……消えろ」


 結は手早く両手を合わせると、ジャンクション=サキを発動し、一花に向かって拳を振るっていた。


「……無駄ですよ」


「えっ?」


 ジャンクション=サキを発動させた結の拳は本来、硬いイーターの装甲さえも貫く威力がある。


 それなのに一花はその拳をたった指一本(・・・)で完全に受け止めていた。


 そのあり得ない光景に桜は思わず、声を漏らしていた。


「……嘘、だろ?」


 驚きのあまり、ジャンクションが解けてしまった結はその予想外の状況に、全身を硬直させてしまっていた。


 格上相手にその隙は、あまりにも致命的なものとなっていた。


 一花は結の拳を受け止めている人差し指を曲げ、親指と中指で結の拳を掴むと、そのまま腕を捻じりながら地面に叩きつけるとそのまま結を無力化していた。


「……たったの指三本で、あの結を無力化するとは……流石は我らがマスターのお母様だ」


 実際にジャンクション=サキ状態の結と戦い、その強さを身を持って知っている火燐は、フルジャンクションではないとは言え、その結をたったの指三本で完全に無力化している一花に、ただ、ただ純粋に尊敬の意を示していた


「音無結、夫の弟子とはいえ、その程度では麒麟率いる、H•Gから私の娘を取り戻すことなんて、到底叶いませんよ」


「……さい」


「?」


 結は一花に押し倒されながら、その拳を強く握り締めるとただ、子供の様に叫んだ。


「うるさいっ!!俺はあいつを助けないといけないんだっ!!」


「何故そこまで?」


「もう、もう俺は……大切な仲間を……大事な人を失いたくないんだ」


 結は泣いていた。

 いつも、強く、皆の前で堂々していた結が、大粒の涙をその目から零していた。


「……ゆっち」


 自分が泣いていた時、優しく励ましてくれた結が、泣いている事実に桜は心に針を刺すような痛みを感じていた。


「……そうですか……」


 一花は目を瞑り、暫し考えるとゆっくり目を開け、結の腕を押さえ付けたまま、一花は結に問い掛けた。


「強くなりたいですか?」


「え?」


「あなたは、今よりも高みの力を望みますか?」


 力がほしいか?それが一花の結に対する問い掛けただった。


「……ほしい、力がほしい」


 力無く答える結に、一花は次の問いを聞いた。


「なぜ、何のために力を望みますか?」


「そんなの決まってる、失わないためだ、大切な仲間達を、俺の手で救え者を、この手で護れる者、一人でも増やしたい、もう仲間が死ぬのは見たくないから」


 結は泣いていた。しかしその目に映るのは力が無い事に対する悲しさや悔しさ、辛さや絶望、そういったマイナス感情だけではなく、芯のある強い覚悟が映っていた。


「……そうですか、なら」


 一花はドアに向かって、一言「入りなさい」っと言うと、二人の少女が部屋に入ってきた。


「六花?……それに陽菜?」


「ボロボロですね、結」

「……情けない」


 二人の少女、六花と陽菜はすでに上から一花がどいているものの倒れたままでいる結を起こすと、結をソファーに座らせ、一花の言葉を待っていた。


「R•GにF•Gからの返事を今伝えます。返事は……」


 R•GがF•Gに出した、救援要請の答え、それは


「却下します」


「え?」


 R•Gが出した救援要請とは、F•Gの中でも先鋭三人と、R•G守護者である、火燐と春姫の五人で、H•Gに突入し、全力で双花を助け出すという策だったのだが、一花はそれを却下していた。


「な、何故ですかっ!!」


「報告内容にF•GもH•Gの攻撃目標になっている可能性が示唆されていました。よってF•Gの戦力を双花のために割く余裕がありません」


「じ、自分の娘なんですよっ!!」


 自分の娘である双花を見捨てると言っている一花に対して、動揺を隠せずに、大声を出してしまう火燐に、一花は落ち着くように言うと続きを話始めた。


「見捨てる訳ではありません。ですが私達は一ガーテンのマスターです、ガーテンにいる皆を護らなくてはならない責任があるのです。双花も今では私達と同じガーテンのマスター。理解してくれます」


 一花の落ち着いた姿に驚きを隠せない火燐と春姫に対して「ですので」っと繋ぐと話を続けていた。


「先鋭は無理ですが変わりにこの子達、三人を使って上げてください」


 一花がそう言って示したのは、一花と共にこのR•Gへと来た二人、六花と陽菜だった。


 一花はこの子達、三人っと言っていた。もう一人誰だろうとあたりを見回すがそこには誰もいなかった。


「六花はSランク、陽菜もSランクに近い実力を持っています。そしてもう一人は」


 そう言って一花が示したのは、六花と陽菜、二人間に座る、結の姿だった。


「お、俺?」


「はい、双花を助けたいのでしょう?あなたの力を貸してくれますか?」


 一花からそう言われた結は拳を一花に突き出すと一言「おうっ」っと言ってそれを承諾していた。


「とはいえ、今のあなた方では助けることなんて到底無理な話です」


「え?」


 一花は結、六花、陽菜、火燐、春姫の順に見回すと五人に対してあることを言った。


「一週間、私と修行しませんか?」

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