8ー65 崩れたシナリオ、そして終戦
8ー65
柊六花。
それが彼女の名前だった。
生十会のクールな副会長。
しかし、結には彼女が本当に六花なのか自信がない。
一切の感情が抜けてしまっているかのような表情。
六花のクールとは、無表情であり無感情ではなかった。
それに、最近は笑うことだって、感情を露わにすることだって多かった。
だけど、今の彼女は……。
「ひっさしぶりだねぇー。ゆう、さーん?」
「ーーっ!?」
それは確かに六花の口から聞こえた。結の全身に雷が落ちたの如く、緊張が走った。
見た目は六花その人だ。しかし、その話し方、声。
それはどちらもあいつ、ノースタルのものだった。
「どう……いう……え?」
頭の整理がつかない。
どういうことだ? いや、そんなこと考えるまでもない。悩むまでもない、それが答え、答えなのだ。
「お前が……六花が、ノースタル?」
手を頭に当てながら結はつぶやく。
ひどい痛みだ。
今まで感じたことのない強烈な頭痛。
過去の点たちが一つの線につながっていく。
「……お前が……」
「お前様! 落ち着くのじゃ!」
結の両眼が色を放つ。
灯った色は純白。
しかし、徐々にその色を暗く変えていく。
「アノ子を……」
「待つのじゃ! 今はそれよりも!」
「……ふふ。とうとうバレてしまいましたか」
結が彼女の名前をつぶやいたことで彼女の表情に心が蘇っていた。
しかし、まだどこかおかしい。
狂ったかのように、壊れたかのように、笑う。
「今まで中々楽しかったですよ?」
ただただ笑う。
だけどその笑みは、六花のものじゃない。
あれは、ダレダ?
「やはりこうなってしまいましたか。プロローグ。序章の終わりが近付いていることはわかっていました。
あの人ほどではありませんが、私も多少の推理は出来ます。
この月だとはわかっていました。
ですが、まさかこういう形になるとは……」
疑惑。
さっきのは見間違いじゃないのか?
「ふふ。なんですかその顔は。私が信じられませんか?」
そうだ。そうなのありえないじゃないか。
六花がノースタルだなんて、いま、そもそもこんな、壊れた目をした少女が本当に六花なのか?
こんな壊れた目で、壊れた心で、奏を殺せるわけがない。
ありえない。
ありえないじゃないか。
「それとも、認めたくないのでしょうか? あぁ、楽しかった。楽しかったですよ結? いえ、ゆうさん?」
あいつの声で話す六花。
これはなんだ?
一体これはなんの冗談なんだ?
「あなたとの会話。それは私にとってとても楽しかったです。
この人は何故、自分の恩人を殺した張本人とこんなにも仲良くしているのだろうと」
こ、ろ、し、た?
ダ、レ、オ?
「汝の目的はなんじゃ! 何故こんなことをする!」
珍しく慌てている零。
零はチラチラと結の状態を確認していた。
これはマズイ。
ダメだ。
これでは、結の心が壊れてしまう。
「目的ですか? 決まっているではないですか」
ニターっと、あの六花が歪んだ笑みを浮かべた。
その笑みに結は怯えたような声を漏らした。
「主人の願いを叶えるため。宿願、大命のためです」
そう言って微笑む六花。
だけど、結にはそれが笑みに見えなかった。
六花の笑顔はあんなんじゃない。あんなもの、笑みじゃない。
「あ、ぁ……」
「お前様やっ!!」
「あぁぁぁぁぁぁぁーー」
「ふふ。『氷操五番、天上氷結地獄』」
その日。
【F•G】にある東西南北全ての幻城院を含めた、わかる限り全てが描かれている地図の上から、一つの建物が姿を消した。
その原因は天災とされている。
未だ嘗て、天災など起きたことがないというのに、何故その日にそれが起きたのかはわからない。
その場所の跡地を見た目ものは皆同じことを言っていたらしい。
偶然にもそこで六芒戦なるものを行なっていたものたちは不幸中の幸い、天災によって消滅者を出すことは無かったと聞く。
しかし、原因不明の行方不明者が三名いた。
生十風紀会役員、木村剛木。
生十風紀会役員、日向春樹。
生十風紀会役員、音無結。
元々九名しかいなかった生十風紀会のメンバーがさらに三名減り、六名になってしまい、尚且つ新メンバーの目処が立たないため、下記三会の合併を決定とする
旧、中等部一年生十風紀会。
旧、中等部二年生十風紀会。
旧、中等部三年生十風紀会。
新設、中等部総合生十風紀会。
to be continued
これにて第八章は終了となります。
次章更新の前に長期休載とさせていただきます。
どうかこれからも天使達の策略交差点をよろしくお願いします。
次、追憶のエピローグです。
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