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追憶のプロローグ

 七実と九瑠実は、各々の武器である、刀と大鎌を構え、静かい向かい合っていた。


「どうした?来ぬのか?小娘」


「行きたいのはやまやまなんだけど、隙が無くてね」


 七実は慎重に九瑠実を観察していると、まずその隙の少なさに驚いていた。


 正直な話、九実はとても強かった。しかし、その強さは洗練された強さではなく、がむしゃらな、そうまるで力任せな子供のような戦い方だったのだ。


 それに比べて九瑠実が使う武器は大鎌という本来、武器には向いていないと言われているものを使っているが、その構えは正に洗練されたものだった。


「経験と知識のチートだったっけ?……こりゃ九実よりやりづらいなぁ」


「ククク、そうかもしれないの。じゃが加減はせんぞ?」


「あはは、当然っしょっ。手、抜いたら許さないよっ」


 七実は話出した時の苦笑いから、一変してニヤリと笑うと、刀の握りを手の感覚だけで確認すると九瑠実に向かって走り始めていた。


『月読=三日月』


 七実は三日月の形をかたどった斬撃を飛ばしながら、その影に自分の姿を隠しながら九瑠実に向かって行くと、九瑠実は大鎌から片手を離すと、すっと三日月に向かって握りしめたその手を向けた。


烈天(れつてん)


「ん!?」


 九瑠実が術を発動すると、同時に握りしめていた手の前に強烈な衝撃波が発生し、その衝撃波は七実の三日月を吹き飛ばしていた。


 隠れ蓑に使っていた、三日月をかき消されてしまい一瞬驚く七実だったが、即座に刀をもう一振りして三日月を放つと再びその影に隠れていた。


「なんじゃ?同じ手なぞ面白みがないんじゃがな」


 九瑠実はつまらなそうに、掲げていた手から、さっきやったように烈天を発生し、三日月をかき消すとそこには七実の姿が消えてしまっていた。


「む?いないじゃと?」


「こっちだよっ!!」


 三日月を使い九瑠実の視界を潰し、一発目のようにその影に隠れるように見せかけて、上に飛んでいた七実は、九瑠実の真上に陣取ると、そのまま九瑠実の頭上目掛けて、三日月を発動し、斬撃を飛ばしていた。


「ほう、なるほどの。一発目は囮じゃったか」


 九瑠実は七実に振り返りながら、感心したように言うと、大鎌を両手で握り締め、矛先で円を描くように一回転させると、七実に向かって大振りで大鎌を振るった。


「なっ!!」


 九瑠実の持つ大鎌は、振るうと同時に、三種類の刃がついた先端部分が外れると、外れた先端部分がまるで、回転ノコギリのように超速回転を始めるとそのまま七実の放った三日月を切り裂き、その先にいる七実に向かって飛んでいった。


六天法(りてんほう)の一つじゃ、そうじゃの九実が使っておる六月法で言うところの斬月と同じく、圧倒的な切断力を持つ、断天(だんてん)っと言う名の技じゃよ」


 九瑠実が得意気に、技の説明をする中、七実は半月を連続発動して防御をしようとするが、完全に断天の威力を防ぎ切る事は出来ずに、吹き飛ばされていた。


「ん?どうしたのじゃ?」


 分離していた先端部分は、九瑠実の持つ棒と鋼糸によって繋がっていて、棒の中に仕込まれてある仕掛けを使い鋼糸を巻き取り、元の大鎌の姿へと戻した九瑠実は、大鎌を肩に担ぐと己の発動した術、断天によって地へと落ちた七実に向かって静かに、ゆっくりと歩き出していた。


「……強過ぎじゃないかな……」


「弱音か?つまらんのぉ」


「いやいや、仕方ないでしょ。技の威力高いわ、速度は速いわでどうしろと?」


「……どうにかせい天才」


「無責任じゃない?」


 珍しく弱音をはいている七実だったが九瑠実が見る限り、怪我らしい怪我はほとんど見つける事ができないでいた。


「さて、次じゃ」


「ちょっ!?」


 九瑠実は大鎌の柄頭を七実に向けると、今だ発動していない新たな術を発動させていた。


牢天(ろうてん)


 術の発動と同時に九瑠実の持つ大鎌の柄頭が、七実に向かって飛んでいき、七実を中心にして円を描くように螺旋回転すると、九瑠実の持つ棒と飛んでいる柄頭の間に繋がれている鎖によって七実の全身を巻き上げ、その動きを完全に拘束していた。


「あれ?これやばくない?」


「そうじゃの。これはピンチじゃな」


地天(ちてん)


 九瑠実は七実を拘束したまま、大鎌の鎌を地面に突き刺すと、突き刺した地点を中心にして幾何学的な円状の模様、そうまるで魔法陣……いや幻操陣が発生し、同時に鎖によって拘束されている七実の足元にも似た模様の幻操陣が発生していた。


「えーと、九瑠実?……これはあたし死んじゃわないかな?」


「……七実。今までありがとう……なのじゃ」


「雑かっ!!」


 九瑠実の演技っぽい仕草と台詞に思わず七実が大声でツッコミを入れてしまうのと同時に、七実の足元より巨大な光が溢れ、光の柱となって天に向かって伸びていた。


「……生きておるか?」


「……なんとかね……」


 光の柱が消失した後、そこには全身ボロボロになった七実の姿があった。


 七実は鎖によって全身を拘束されながらも、その身に秘める圧倒的な幻力を全身から多量に放出することによって致命的なダメージだけは避けていたのだった。


「……流石じゃな」


「……お褒めに頂き光栄ですっ!!」


 九瑠実は七実を拘束している鎖を巻き取り大鎌に戻すと、九瑠実の言葉を聞いた七実は若干やけくそになりながら叫んでいた。


「……そろそろ満足した?」


「……そうじゃな」


 全身に疲労とダメージが溜まってしまい、これ以上、戦いを引き伸ばしたくなかった七実は、ここまで戦って満足気にしている九瑠実に、残り一発で終ろうと提案すると、九瑠実はそれを快く承諾してくれていた。


「最後か……さみしいの」


「……そうかもね……」


 互いにその強過ぎた実力のため、同い年で好敵手というものがいなかった両名にとって、この戦いはとても辛く、激しいものであると同時に、とても楽しくて、幸せなものだったのだ。


 九瑠実は最後の一撃ということもあり、最高の技を発動させるための準備をしていた。


「妾の術、六天法はその名の通り、六種の形があるのじゃ。見せてやろう、六天法、第六の形」


化天(かてん)


 化天。

 術の発動と同時に、九瑠実の背中より二枚一対の純白の、とても神々しい翼が生えていた。


 化天とはつまり、天化。

 己を()使と()す術。

 それが化天なのだ。


「……変わったのは見た目だけじゃないようだね」


 変わったのはその姿だけではない。

 九実の使った朧月と同じように、己の全ステータスを飛躍的に上昇させ、さらには空中を自在に舞うことを可能とする、自己強化幻操術だ。


 幻力もまた遥かに増大しており、その質、純度までもがあまりなに段違いに増大していた。


「六天の零式(ゼロしき)を見せてやるのじゃ……光栄じゃろ?」


「そう、だね」


 九瑠実は大鎌の先端部分を分離させると、まるでヌンチャクを操っているかのように、棒の部分を持ったままグルグルと回転し始めていた。


「うわー、それやばそうだね」


「これの切断力は断天よりも遥かに上じゃぞ?」


 九瑠実の言葉に若干、引いていた七実は刀を右手一本で持ち、自分の左側に携えるかのように構えていた。


 それはまるで鞘のない、抜刀術のような構えだった。


「ほう……」


「あたしのとっておき、見せてあげる」


 七実の言葉に九瑠実は「光栄じゃな」っとつぶやくと回転を自分の右側ではなく、左側に移動させると、先端部分を回転させたまま、七実と同じように、まるで抜刀術のような構えになった。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 二人は己を鼓舞するかのように、大声で雄叫びを上げると、その手を互いに、同じタイミングで振るっていた。


『六天法=死天(してん)

『月読=満月』


 九瑠実が腕を振るうと同時に、回転させていた先端部分がその回転スピードをさらに加速させると地面を転がるようにして、スピードを上げながら七実に向かって突き進んでいた。


 対して、七実が腕を振るうと同時に刀が纏っていた輝きが大きくなると、巨大な月のような形へと姿を変えて、九瑠実に向かって突き進んでいた。


 九瑠実と七実、二人の大技がぶつかり合うと、それを中心にして大きな衝撃波が周りに広がり大きな土煙を起こしていた。


 土煙が晴れるとそこには互いに全身ボロボロの姿になっている二人の姿があった。

 



 

 

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