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8ー50 双極


「ふぅー。なんとか到着しましたねー」

「いやー。ほんとほんと。途中で指輪が壊れちゃった時はどうしようかと思ったけど、拾ってくれてありがとねーサクランっ」

「あれはちょっとびっくりしましたけどねー」


 飛んでいる途中で青龍が着けてい飛行幻操式指輪が壊れてしまい、落下しそうになるものの、桜のおかげで無事に失われた光(ロストブレイズ)が保有していると思われる飛空船に降り立った双花、桜、青龍の三人。


「さて。二人とも、ここはもう敵地の中ですからね? すぐに戦えるようにしておいてくださいね?」

「「はーい」」


 双花は鞘についている安全装置を外し、桜は背負っていた袋を手に持った。青龍に動きはない。


「そういえば青龍の武器って何?」

「あたし? あたしの武器はこれだよー」


 青龍が腕を振るうと袖の間から出てきたのは帯状の何かだった。


「これなに?」

「鞭だよ。知らない?」

「あー。あれでしょ? 女王様が使ってるって噂の」

「なんかその覚え方は不服なんだけど、まー、そんな感じ」

「鞭ということは中距離タイプですね」

「そうだねー」

「桜が使っているのは桜花の千針桜(せんしんざくら)でしたか? あれも鞭に近い性質を持っていますし、桜も中距離タイプですね」

「そうですね。双花様は双剣ですよね?」

「はい。私は幻操と双剣を併用した近距離寄りのオールマイティです。お二人とも乱戦になったら自由に攻撃していいですからね?」

「えっ。あたしと青龍は中距離だから大丈夫だけど、双花様は危なくないですか?」

「すべてかわしますので大丈夫です」

「でも……」

「サークランっ。双花様ってマスタークラスなんだよ? あたしたちごときの攻撃当たるわけないじゃん」

「あはは、そう……だね……」


 不安な様子を隠せていない桜の肩を後ろから抱きしめるようにしてくっついた青龍がそう笑うと桜の不安も少し薄らいでいるようで、笑みをこぼしていた。


「来ますよ」


 双花がそう言って目を細めた瞬間。唐突に周囲に無数の気配が現れていた。


「えーと。双花様? この気配ってもしかすると……」

「わーぉ。この気配って確実にイーターだねー。それも結構強力な」

「出ますよ」


 姿を現したのは青龍の言った通りイーターの群れだった。

 その群れを見て青龍は嫌そうに顔を顰め、桜は軽く青ざめていた。


「イーターの群れは群れでも。人型の群れかー」

「……ふむ。これだけの人型を操るとは。しかも、全てがおそらくは未完成の人型ですか……」


 人型イーターとは『死心界(ししんかい)』という異空間でただのイーターが束になり、重なりあり、進化したものとされている。

 そして、人型として完成することで世界を歪ませて作った穴からこちらの世界へと現れる。

 人型一体が作られるのに数十年は掛かるとされているのだが、さっきから現れているのは不恰好なものばかり、つまり、これらは人型としてまだ完成していないのだろう。

 謎の多い人型イーターだが、わかっていることの一つとして人型は完成しない限り穴を作ることが出来ないのではないかとされている。


(他に世界に穴を開けることが出来る者がいなければ不可能の芸当ですね。考えたくありませんでしたが、やはりあの一族が……)


 周囲を取り囲んでいる人型どもに動きはない。

 三人は互いの背中を合わせて様子を見続けていた。

 その時……。


「正解だ。運命を定められし哀れな少女たちよ」


 心を読まれたかのような言葉に双花は振り向いた。

 明らかに人の声だったそれに桜と青龍は目を細める。

 しかし、双花だけは二人とは違い、やっぱりかとでも言いたげな表情へとなっていた。

 人型の群れの一ヶ所が割れ、割れた先から歩くのは一人の男。


「やはりあなたでしたか。キーの一族。【鍵山家】」

「途中で戻ってきて正解だったな。下は人型どもで事足りる。しかし、貴様は違うぞ。夜月双花。双極の力の一片を授かりし者よ」

「双極……ですか。私はそんな大層なものではありませんよ」

「貴様も会ったことがあるのだろう? 双極の片割れ、真なる世界最強の存在。双極、七実に」

「! ……桜、青龍。あなた方は先に行ってください」

「双花様!? 何を言ってるんですか!?」

「そうだよー。この不気味な人型の群れだけでも面倒そうなのに、あの人すっごく強そうだよ?」

「ええ。そうでしょうね。おそらくこの船にいる敵の中で最も強いのはこの者でしょう。だからこそ、この者の相手を私がするです」

「三人で相手をすればいいじゃないですか」

「敵はこの者だけではありません。二人は他の者たちをお願いします」

「……了解」

「青龍!?」

「ほらっ。いっくよん、サックランっ」


 双花の考えに賛同し、青龍は嫌がる桜の腕を掴むと、強引に飛び上がり、人型の包囲網を飛び越えていた。

 鍵山はそんな二人には目もくれず、双花だけを見つめていた。


「あいつらには聞かれたくなかったか?」

「……ええ。嫌な予感がしましたので。それにしても、随分とすんなり行かせてくれましたね」

「俺としてもあいつらは邪魔だ。俺は貴様と話がしたい」

「……なるほど。呼び出したこれらは私を逃さないためですか?」


 双花は周囲の人型どもに視線を一瞬やった。


「そうだ」

「……何故ですか……どうして世界と世界の壁を守る使命を持っているあなた方【キーの一族】がこんなことに参加しているんですかっ!」

「これが我ら一族の使命だからだ」

「あなた方の使命とは逆のことをしてるではありませんかっ!」


 激情を隠しきれていない双花に対して、鍵山は冷静に、無表情に、淡々と言葉を連ねていく。


「木を見て森を見ていないな。貴様は」

「……あなたは……あなたは知っているんでしょうっ! 今、【物理世界】で連続して起こっている集団失踪事件の原因を、世界と世界を隔てる壁が壊れかかっているせいで【物理世界】の人間が他世界に落ちてしまっているということをっ!!」

「我ら一族の使命は壁の死守ではない。世界の秩序だ」

「これのどこに秩序があるというのですかっ!!」


 双花は手を大きく仰ぐ。これだけの高度にいる飛行船だろうが、大き過ぎる【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】はその姿を隠すことは出来ない。

 下では今も戦いが起きているのだ。

 空から大量に降ってきていた人型の群れは【R•G(ロイヤル・ガーデン)】の守護者二名が確実に数を減らしてはいるのだが、それでも全てとはいかない。

 何割かは地上に着いてしまっているのだろう。

 ここからでも感じることが出来るほどの力。

 マスターたちが戦っている。

 それは戦力で考えれば安心することだが、しかしそれはつまりマスターが出なくてはならない状況になってしまっているということだ。

 これではまさに戦争ではないか。

 双花の瞳は涙によって濡れている。しかし、その言葉は何一つ鍵山の心には響かなかったようだった。

 変わらずに無表情のまま鍵山は言葉を続ける。


「秩序には二つの存在が必要なのだ。創造と破壊を司る二柱の神【双極神】。

 その力を宿した二人の大天才。それが【双極】だ」

「……しかし、【双極】は今……」

「やはり知っているんだな。そうだ。常に二人存在していた【双極】は今やゼロ。双極七実はどこかに消えてしまい、もう一人は未だに誰だか判明しない。

 しかし、どちらかがいなくなるわけにはいかないのだ。ならば、

 作るしかないだろう?」

「双極を作る? ……まさかっ!」

「そうだ。過去に行われた計画を、人工双極計画の再来させようではないか」

「で、ですが人工双極は不可能だとわかったではありませんか! あの村にいた娘は誰一人双極として覚醒しなかった……双極を人工的に作ることは不可能なんです!」

「ふっ。やはりお前たちは何も知らないのだな。つまり、お前たちは計画に参加していないということ。

 感情は人を強くする。

 怒りは感情の中で最も燃えやすく、高まりやすい感情だ。

 その身滅ぼし計画の一部となれっ!」

 

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