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8ー48 ある金は使わなければ意味がないだろう?


「双花様? 今からあれの強襲しに行くんでしょ? でしょ?」


 そう言って麒麟は親指で空に浮かぶ船を指した。

 双花が言葉では無く、頷くことで返事をすると麒麟はニヤリとした笑みを浮かべた。


「なら手伝うよー。よー」

「麒麟様? お気持ちは嬉しいのですが……」

「大丈夫。大丈夫ー。手伝うのは僕ちんじゃなくてー」


 麒麟が指をパシンと鳴らすと麒麟の背後に一つのかげが落ちた。


「お呼びですかー。マスター」

「この子を連れて行って? それなら問題ないよね? よね?」

「それは……そうですね」


 しばし考えた後に双花は頷く。

 ここの守備にマスターが五人いれば良いのだ。そのため双花は強襲班に参加可能なのだが、そこに麒麟が加わることは出来ない。

 しかし、マスターではなくその守護者であれば関係ない。それに実力も折り紙付きだ。

 この六芒戦では初めての催しということで各校のマスターが結集している。しかし、この六芒戦はあくまで中等部二年の大会という規模の小さなものだ。

 にもかかわらず関係校の全マスターが来られている理由として守護者がいる。

 守護者はもともとマスターを護る者。護衛としての面が強いのだが、同時にサブマスターとしての一面も持っている。

 マスターが不在になっているガーデンでは代わりに守護者がいろいろと立ち回っているのだ。

 しかし、六校のうちたった一校だけ例外があった。それが【H•G(ハッピー・ガーデン)】だ。

 麒麟率いる【H•G(ハッピー・ガーデン)】だけはマスターも守護者も全員がここに来ている。

 なら現在【H•G(ハッピー・ガーデン)】はどうなっているのかというと、これは後に知ったことなのだが、なんと驚くべきことに夜月一花が言っているらしい。

 一花の娘である双花率いる【R•G(ロイヤル・ガーデン)】を攻めようとしていた【H•G(ハッピー・ガーデン)】の生徒たちにとっては実に居心地が悪いだろうが、それはそれで良い反省になるのではないだろうか。


「えーと、マスター? ドユコト?」

「青龍にはー、双花様と桜と共にあの船に強襲してほしいんだよー。だよー」


 状況がわかっていなかったらしい青龍が疑問符を浮かべていると、麒麟はニコニコと何処か楽しそうに教えた。


「えー」

「えー、じゃないよー。張り切って行ってらーだよ。だよー」

「うへぇー。まぁ、マスターの命令なら仕方ないかー」

「こんなのだけど実力は確かだよ。だよー」

「マスター? こんなのって酷くない?」

「事実だよ? だよ?」


 変わらないその扱いに不服らしく、青龍は頬っぺたをプクリと膨らませるとやがて諦めたかのようにため息を一つ。


「えーと。【H•G(ハッピー・ガーデン)】の守護者やってる青龍でーす。それとえーと、その……」


 双花たちの方に振り向いた青龍はそうやって自己紹介をするものの、途中からチラチラと双花の様子を伺っているようだった。

 そんな青龍に傾げる双花だったが、やがてその理由に思い至り、ふふっと優しげな笑みを浮かべた。


「その……」

「青龍でしたね?」

「は、はいっ」

「この前のことは恨んでいませんよ? そう緊張することはありません」

「えと、本当に申し訳ありませんでしたっ!!」

「ふふ。麒麟様? あなたの守護者も良い子ですね?」

「それは保証する。するっ」


 頭を下げた青龍の肩に手を置いて頭を上げさせた双花は柔らかい笑みを浮かべた。


「過去は過去です。これからは未来に向かって歩いて行きましょう?」

「は、はいっ!」


 あれだけのことをしたのにもかかわらず許してくれた双花に青龍は憧れにも似た感情を向けていた。


「さて。それではそろそろ行きましょうか」

「はーい。って言いたいところなんですけど、どうやってあそこまで行くんですか?」

「ふふ。それは心配いらないよ」


 桜の疑問に答えたのはずっと影が薄くなっていた【F•G(ファースト・ガーデン)】のマスターこと夜月賢一だった。


「どういうことですか?」

「行き限定になってしまうがこちらでも船を用意することは可能ということだよ」

「……お父様? まさか……」

「ふふ。実の父にジト目を向けるものではないよ? 安心したまえ、安心と信頼のナイト&スカイモデルだよ」


 賢一の返事に双花は小さく「それならいいですが」と小さく安堵の息をついた。

 そんな二人のやり取りを見て桜が疑問符を浮かべていた。そんな桜を見て賢一は懐から三つの指輪を取り出した。


「えーと、これはなんですか?」


 賢一に指輪を一つずつ渡された双花、青龍、桜の三名。質問するのはやっぱりこの子だろうということで、桜が賢一に問い掛ける。


「それはナイト&スカイの新製品だよ」

「えっ? ナイト&スカイって活動を停止してるんじゃ……」

「あら? 桜は知らなかったのですか? ナイト&スカイは最近活動を再開しましたよ?」

「そうなんですか!?」


 それが事実なら春樹がとんで喜ぶだろう。ちなみに春樹とは日向兄弟の兄の方で、法具大好きっ子だ。


「この法具の特化型でね。中に刻まれている式は簡単に言えば飛行幻操と言ったところだろうか」

「飛行幻操!?」


 賢一の言葉に目を大きく見開いて一番驚きを露わにしていたのは桜ではなく、青龍だった。


「飛行幻操って極一部で使われてるやつでしょ? 多分アレも飛行幻操で飛んでるんだろうけど、飛行幻操にはそりゃ大きなコアが必要になるってあたし聞いたよ!?」


 飛行幻操というものは既に存在はしている。実際に今空を飛んでいるあの船にも十中八九、飛行幻操の式が使われているだろう。

 しかし、それを可能にするには大型の法具が必要になってしまい、あの大きさの船だからこそ飛ばせると言っても過言ではない。

 それを知っているからこそ、指輪の大きさまで小さくすることに成功しているらしい飛行幻操式を見て青龍は驚いたのだ。


「確かに、通常であればこのサイズでは飛行幻操式は無理だろうね。しかし、ナイト&スカイという者たちの技術力はそれだけレベルが高いということなのだよ。

 それに、これはまだサンプル、試作品でね。残念ながら幾つかの欠点が残ってしまっているんだよ」

「欠点ですか?」

「細かい欠点を挙げてしまうとキリがないのだが、特に重大な欠点としてあるのが消費幻力だね。

 消費幻力が一秒あたりでとんでもない数値になってしまっていてね。マスタークラスでもそう長く使うことは出来ないだろうね」

「そ、そんなにですか?」


 楽しそうに、無邪気な笑みを浮かべたまま言われた賢一の言葉に桜は苦い笑みを隠せなかった。

 マスタークラスでも長時間が無理だということはそこに至れていない桜では数秒さえも難しいのでないだろうか。


「桜君。そう心配することはないよ。欠陥品とは言えこれはあのナイト&スカイの製品なのだよ」

「それは、そうかもしれないですけど……」


 今までもとんでもない製品を次々と発表してきてナイト&スカイ。桜にとってはライバル店のようなものなのだが、だからこそその技術力は良く知っている。


「他にもコントロールが難しいという欠点もあるのだが、少々私自ら手を加えてみたのだが」

「……えっ?」

「……はぁー。お父様? またなのですか?」


 やはり楽しそうに笑みを浮かべている賢一の言葉に桜は目を丸くし、双花はこのやり取りに覚えでもあるのが呆れの混じったため息を吐いた。


「それで? 今回はどんな改悪をしたんですか?」

「改悪とは酷いな。私がしているのはいつも改良だよ。双花」

「何を言ってるんですか? お父様はいつも六六六の未知(イクスモデル)並に改悪をするではありませんか」

「ふふ。あの六六六の未知(イクスモデル)と同じ扱いをするということは褒めてもらっていると受け取ってもいいね?」

「……はぁー。それで? 結局変更点はなんですか?」


 これ以上の言葉は無意味だと悟った双花が諦めたを帯びた声でそう問うと、賢一は待っていましたと言わんばかりに目を輝かせた。


「ふふ。聞いて驚きたまえ。なんと使い捨てにするのことで消費幻力の多さという点を改良したのだよ」

「……もう一度、今度は多少噛み砕いてからでお願いしていいですか?」

「ふふ。つまり、一度使用すると法具本体が壊れてしまう代わりに消費幻力を誰でも使えるレベルまで下げることに成功したのだよ」

「……使い捨てですか?」


 法具の使い捨て。法具の値段は日本円に直すと大体一つあたり数万円程度だ。

 しかし、飛行幻操式を刻むためのコアを用意していると考えると、一つで数十万円はすると考えても良い。

 それを使い捨て?


「……ちなみに、壊れるのは外装だけですか?」

「そんな訳がないだろう? コアが崩壊する」


 つまり修復は不可能ということだ。


「お父様にこんなことを言いたくないのですが、一ついいですか?」

「なんだい?」

「バカなんですか?」

「ふふ。私はこう見えても天才と呼ばれているんだよ? 良く言うではないか、天才と馬鹿は紙一重とね」

「……はぁー」


 賢一と双花のやり取りを聞いて青龍はたった今渡された指輪の価値を知って目をまん丸にし、桜も桜でそんな高価なものを使い捨てにしようとしている賢一の金銭感覚、ついでに対して動揺していないらしい双花の金銭感覚にも驚き、目を大きく見開いていた。

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