追憶のエピローグ
「ククク、ゆくぞ?小娘」
九瑠実は楽しそうに笑うと七実に向かって一直線に走り始めていた。
「速っ!?」
九瑠実のスピードは九実とは比べものにならないくらい速く七実は刀でガードするのが精一杯になってしまい大振りで横薙ぎにされた大鎌によって体を大きく弾き飛ばされてしまっていた。
「ククク、この程度ではないじゃろ小娘っ!!」
吹き飛んだ七実を追う様にして走り出した九瑠実は強烈な風圧によって空中で体制を整える事が出来ずにいる七実に向かって再びその大鎌を振り下ろした。
「うっ!?」
七実はなんとか腕を動かし刀で直撃だけは防ぐ事に成功していたがその衝撃まで防ぐ事は出来ずに地面に叩きつけられてしまっていた。
七実を中心にして出来上がった小さくないクレーターの真上へとやってきた九瑠実は手に持つ大鎌の槍の部分に力を集中させると心操術と呼ばれる技を発動させた。
九瑠実の持つ大鎌は正直な話普通の大鎌の形状をしていなかった。
漆黒の棒の先に伸びる槍の様な刃。
その刃と垂直に伸びる二本の日本刀の峰を合わせたような諸刃の刃。
そしてその反対側に漆黒の棒と並行に曲線を外側に向けた状態で付いたまるで三日月の様な刃。
さらには三種類の刃の合流点には銀色の円の中に六芒星が描かれている模様があった。
槍状の刃に力を込められた瞬間六芒星の輝きが一瞬強くなるとその輝きが槍の刃へと移って行った。
「小娘、まだまだ朽ちるではないのじゃよ?『千天』」
九瑠実は空中から七実に向かって槍で刺すかのように大鎌を突き出すとその瞬間に無数の針の様なものが矛先より放たれた。
「ちょっ!?」『月読=半月=十連式』
七実は再び月読の防御技を発動し針の雨から身を防ごうとしていた。
「ふぅー、危ないなー」
「ほぅ、妾の六天を防ぎ切るとはのぉ。九実が妾を呼び出すほどに認めているだけはあるようじゃな」
「ん?九実と九瑠実だっけ……は別人なの?」
七実は可愛らしく首を傾げると九瑠実に説明を要求していた。
「……はぁー。戦っておる相手に質問するとは小娘変わっておるの」
興味津々な風にしている七実に若干呆れつつ戦意が削がれていた九瑠実は大鎌を地面に突き立て棒の部分の中心を曲げるとその上に腰を下ろしていた。
「へぇー、その大鎌そんな事も出来るんだ」
「まあの。この大鎌は圧倒的な潜在能力と才能を併せ持つ格で出来ておるからの」
あまりにも変幻自在な大鎌について質問すると九瑠実は大鎌を優しげに撫でながら答えるととても優しい微笑みになっていた。
七実は九瑠実のそんな様子を見ながら「へぇー」っと呟き納得したような顔になるとまた質問をした。
「九瑠実は九実と違ってやけに話が通じるね」
七実は「九実は話をせずにずっと戦おうって感じだったしね」っと続けると九瑠実の返事を待っていた。
「それは最初の質問の答えと同時に話したほうが良さそうじゃの」
九瑠実は一旦そこで話を止めると大鎌をさらに変形させ即席の椅子をもうひとつ作るとそこに七実を座らせた。
「おっありがとっ」
七実が座るのを確認すると九瑠実は話を再開した。
「まずは一つ目の質問の答えじゃが妾と九実は別人であって別人ではないのじゃ」
「……へ?」
初っ端から矛盾している事を言われ混乱する七実に苦笑いしつつ落ち着く様に言う九瑠実は七実が取り敢えず落ち着くのを待つとまた話を再開した。
「そうじゃのぉ。どう説明すればいいかの?」
「えぇー」
ジト目で見てくる七実に「そんな目で見るでないのじゃ」っと文句を言うと九瑠実は大鎌の上に寝そべりながら答え始めた。
「記憶は共有してるのじゃが思考や理想、好みや技などが大きく違っておっての、そうじゃのぉー」
「機嫌が悪い時や寝起きじゃと性格がいつもとまるで違う奴がおるじゃろ?」
「妾達は正にそれじゃ。妾達はそれを強制的に起こしておってのそれぞれ特徴があるのじゃ」
「九実は戦闘以外に必要のない他を全て捨て去った者じゃ。じゃから九実は戦闘を得意としその才能の全てが戦闘というベクトルに変更されておるのじゃ」
「圧倒的な潜在能力と圧倒的な才能を併せ持つ天才を象徴しておるのじゃ」
「対して妾は九実が捨てた全てを圧縮した存在じゃ。悪く言えば九実の残りカスの様なものじゃ」
九瑠実はそう言うとどこか悲しそうな顔になっていた。
「えーと自虐ネタ?」
割と真剣にシリアスな事を言ったと思っていた九瑠実はその発言を話のネタにするかのように軽く返事をした七実がツボに入ったのか大笑いしていた。
「えぇー自虐の次はなに?」
「済まんの。やはり七実は面白い奴じゃの」
「あっ……名前」
「それだけ七実の事を妾も認めたということじゃ」
九瑠実があまりにもストレートに言うせいで七実は急に恥ずかしくなり思わず赤面させてしまっていた。
赤面している姿を見られ九瑠実にまた笑われている七実は大声で「話の続きはっ!!」っと叫ぶと涙目になりつつも続きを催促していた。
「一つ目の人格をまるで複数あるかのように偽り他者もそして己さえも幻術にかけてしまう妾の固有幻操術それが幻人格クルミ&クミじゃ」
「へぇー、幻人格クルミ&クミねぇー……ん?二人とも幻人格なの?」
七実はあれ?っといった表情になると大鎌の上に寝そべってくつろいでいる九瑠実に質問をした。
「んーまぁそうじゃの」
「へぇー、なら幻じゃない本当の九瑠実達に会ってみたいんだけどダメ?」
七実は大鎌から立ち上がると九瑠実の前まで移動し両手を合わせてお願いをしていた。
九瑠実はそんな七実からそっぽを向くと小さな声で「嫌じゃ」っと呟くともうその事は言うなといった雰囲気を醸し出していた。
「そういえばさっきまるで九瑠実のほうが九実よりも弱いみたいな事は 言ってたけど実際どうなの?」
七実は大鎌の即席椅子に再び腰を掛けるとさっきとは違う質問をしていた。
「誰もそんな事は言っていないと思うのじゃが?」
「だって九瑠実は九実の残りカスみたいなものって……」
七実はそう言いながら「まずったっ」っと言いたげな顔になると少し困った顔で九瑠実の返事を待っていた。
九瑠実はそんな七実の心の内を正確に読み取ると小さく溜め息をつき突然大鎌の上から起き上がり七実の前に立った。
九瑠実が片手を上げていき頭の上にまでいったところで七実は思わず殴られると思い目を瞑ると頭の上にぽんっと優しげに手を置かれていた。
「へ?」
「七実は良い子じゃ」
九瑠実はそう言うとそのまま七実の頭を撫で始めた。
殴られると思っていた七実はそんな九瑠実の頭を撫でるという行動に困惑を隠せていなかった。
「な、んで?」
「妾を気遣ってくれたのじゃろ?」
九瑠実はニカッと笑うとまた七実の頭を優しく撫でた。
「さて、質問の答えじゃ九実が天才だと言う事は理解したかの?」
「うん」
「それに対して妾は秀才、九実の捨てた全てを圧縮したと言ったがその中には経験や時間というものも存在するのじゃ。妾達の肉体年齢はまだ一桁代の若者でしかないが妾が過ごした時間、つまり妾の精神年齢という奴はすでに三桁を軽く超えておるのじゃ」
「……だからそんな喋り方なんだ」
九瑠実の答えを聞いて目を見開き驚きをあらわにしていた七実はすぐに呆れたような表情になりそう言う九瑠実は「そうじゃ」っと答えその答えを聞いた七実は力が抜けたのか大鎌の上に力なく寝そべってしまっていた。
「つまり九実は潜在能力のチート。妾は経験や知識のチートという訳じゃ」
「へぇー、なるほどねぇー」
九瑠実は説明を終えると七実に大鎌から降りるように指示をし七実が降りると同時に自分も降りて大鎌を最初の形へと戻していた。
「さて、七実の質問にも答えたのじゃからそろそろ続き……と行こうかの?」
「……なんとなくそう思ってたけどやっぱり?」
七実は背伸びをしながらそう言うと九瑠実は首を縦に振り大鎌を構え始めていた。
「それじゃ第……三?ラウンドと行こっかっ!!」
「行くぞ。七実っ!!」
七実VS九瑠実は終わらずに九実VS七実から始まった戦いは第三ラウンドへと突入していた。
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