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8ー44 守護者の力

「よしっ」


 一体の人型を貫いた桜は小さく歓喜の声をあげるとすぐさま次の標的へと刀を向ける。

 槍のように連なった針たちを一旦針刃へと戻した後、再び千針桜(せんしんざくら)を振るう。

 二度低く動作を合わせて三度刀を振るうたびに人型は一体、また一体と着実にその数を減らしていた。


(……けど、数が多過ぎる。これじゃキリがない)


 空から飛来している人型の数はまさに雨の如くだ。

 すでに桜はその内の二○体程風穴を開けているのだが、見てわかるほどの違いはない。


「……ちっ。……! しまっ」


 空にばかり注意を向けていた桜は背後から迫る影に気付かなかった。

 現れたのはただの小型イーターだったのだが、弱いからこそ内包する力が弱く、その分探知も難しかったのだ。


「はっ!」


 小型相手ならば致命傷にはならないと判断し、どうせ回避なんて間に合わないのだがらと背中に幻力を集めて防御力を上げつつ来るであろう痛みを覚悟してみるのだが、この痛みは一向に来なかった。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。あなたには色々と恩がありますので。ふふ、勿論恩が無くても助けましたが」


 そう言ってニッコリと微笑み掛けたのは【F•G(ファースト・ガーデン)】のマスター、夜月賢一の娘であり、【R•G(ロイヤル・ガーデン)】のマスターである、夜月双花だった。

 両手にそれぞれ愛刀を握り締めた双花は一刀を地面に突き刺すと空いた手を緊張している桜の肩に置いた。


「そう緊張することはありませんよ? あなたは彼の友人なのですから、私にとっても大切な友人ですよ」

「彼って、ゆっちのことですよね?」

「……えぇ。彼の過去については知っているのでしょう?」

「……はい。昔ゆっちが【A•G(エンジェル・ガーデン)】の人間だってことは……」

「……そうですか。桜、一つお願いをしていいですか?」

「……なんですか?」


 真剣な眼差しを向ける双花に桜は思わず息を呑んだ。


「今後、結は大変な身の上となると思います。桜、あなたたち生十会はどうか彼を支えてあげて下さい」

「それってどういう……」

「ふふ。その時がいつかは私にはわかりません。いなくなってしまった彼女ならわかったのかもしれませんが、私はまだまだ未熟者ですので」


 そう言って双花は自虐気味な笑みを浮かべた。

 双花の言う彼女の存在。

 嫌でもそれが一体誰なのか桜には見当がついた。

 結たち【A•G(エンジェル・ガーデン)】をまとめ上げるボス。奏。

 あの時雪羽が言っていた話では一年以上も前に死んでしまったらしい。

 あの時に記憶に混乱があったとは言え、あれ程に取り乱していた結。

 結と奏の関係なんてそれを実際に目にしていない桜でも簡単に見当がつく。

 チクリと胸に痛みを感じた。


「さて、雑談はこれくらいにしてお仕事をしましょうか」


 そう言って地面にさしていた刀を抜くと双花は空へと視線を向ける。


「なかなかの数ですね……。来なさい。私の愛すべき守護者たちよ」


 それは小さなつぶやきだった。

 近くにいる桜がやっと聞こえる程度のつぶやき。

 しかし、その声に反応するかのように二つの影が現れた。


「呼ばれて飛び出でパンパカパーンなの」

「私の力が必要ですか。マスター」


 青空のような長い髪に小柄でフリルがたっぷりと使われたドレスに身を包んでいる河嶋春姫。

 燃えているかのような長い赤髪に長身でグラマーなスタイルの佐藤火燐。

 双花の後ろで従っているかのようち控えている二人はマスターを守る守護者と呼ばれる存在だ。


「春姫、火燐。あれを始末しますよ」

「了解なの」

「了解だ」


 双花の言葉に春姫は柄頭に宝石がついている指揮棒を取り出し、火燐は腰に差していた剣を抜いた。


「久し振りにマスターの元で剣を振るえるな!」

「火燐ちょっとうるさいの。守護者たるもの皆の模範にならなきゃだめなの」


 それぞれ返事をした後、二人はほぼ同時に飛び上がっていた。

 キラキラとした粒子が見えるのではないかと錯覚してしまうほどの笑みを浮かべる火燐に春姫はため息まじりに注意するものの、そんな春姫の表情もまたいつもより柔らかく、火燐と同様の気持ちなのだということがよくわかった。


「マスターの前なのだっ出し惜しみはせん! 『心装攻式っ火輪刃(かりんじん)』」


 心装を経て真紅の刀身を持った素人の目から見ても芸術的だと唸う諸刃の剣を生み出した火燐は、心力を纏い攻撃性能が大幅に上昇している火輪刃に業火を纏わせ、火属性による追加効果をエンチャントする術『火纏刃(かてんじん)』を発動した。


「持久戦は必至なの。最初からそのペースで体力持つの?」

「問題ないっ! 体力が尽きようとも気迫で補うっ!」

「守護者が気合論をしちゃいけないと思うの。……でも、今回は同感なの『心装攻式、明鏡止水(めいきょうしすい)


 火燐の心装が剣の斬れ味を大幅に上げ、同時に心操の業火に耐えうるだけの耐久性を持たせるのに対して、春姫の心装は使える術の規模を拡大させる効果がある。

 正確には一度に操ることのできる水の量を桁違いに増やすことが出来るようになる。

 どちらかと言えば一対一の方がやりやすい火燐と違い、一対多でこそ真価を発揮する幻操師。それが春姫なのだ。


「はっ!」


 空にいる人型の群れへと到着した火燐は先手必勝とばかりに斬り掛かる。

 人型は腕を交差して防御をしようとするが火燐の刃はそんなものを簡単に突破して人型を真っ二つに斬り裂いた。

 後は静かに消えていくだけとなった人型を踏み台して落下を回避した火燐は既に次の人型に斬り掛かっていた。

 斬っては踏み台に斬っては踏み台にを何度も繰り返す火燐を尻目に、春姫は綺麗な透明の指揮棒を振るって水で作られた足場を作ると、その上で何度も指揮棒を振るう。

 指揮棒の動き合わせるようにして大量の水が滝のように人型共を飲み込んでいく。

 翼もないのに空を自在に駆け回る火燐と広範囲攻撃を繰り返す二人の息は合っており、自爆なんてことは起こるはずもなかった。


「す、すごい……」


 空で舞っている二人を見上げながら桜はつぶやく。

 身体能力に優れているとは言っても火燐のようなことはさすがに出来ない桜にとって、この距離から人型を攻撃することはそれ自体が難しいことなのだが、自分はあれだけ苦労してやっと一体だというのに人型を雑兵のように斬り捨てている火燐に憧れにも似た眼差しを向けていた。


 評価やお気に入り登録など、よろしくお願いします。

 私情により次の更新は月曜日を予定とさせていただきます。

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