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8ー43 針から槍へ


「なにあれ……」


 真冬やアイリスと再会し、ホテル地下に入ってマスターたちに襲撃について話をした後、再び地上へと出てきた桜は不自然なものを見た。

 無数にある黒い影。

 イーターは影から産まれるという話もあるが、そこからイーターが這い出てくるような気配はない。

 しかし、それらは少しずつたが着実にその大きさを増していた。


(この音は何?)


 何かを切り裂くような……そう、空気を斬るような音がいくつも桜の耳に届いていた。

 音の発信を探す桜は視線を上空へとやる。


「なに……あれ……」


 空を見た桜は言葉を失った。

 遅れてホテルから出てきた真冬がそんな桜に首を傾げていると、桜が空を見て唖然としていることに気付き、追うようにして空を見た。


「……ふぇ?」


 影とはなんだ?

 影とは光が遮られた時に生まれるものだ。

 地面にあった少しずつ大きくなっていく無数の影、それはつまり空から大量の何かが降っているということだった。

 空から降ってくるそれはまだ遠い。ここまで到着するのにまだ少し猶予があるだろう。

 先にあれがなんかのか確かめようと、目を細める桜はそれの正体に青ざめる。


(あれってっ! 人型イーター!?)


 空から無数に落ちてくるそれは人型イーターだった。

 姿からして中央ホテルで桜が対峙した人型と同ランクだとは思うが、それでもアリスに大ダメージを与えるだけの戦闘力はあるのだ。

 それがまるで雨のように降ってきている。


(これって、やばいんじゃないの?)


 過大な焦りをその顔に浮かべ、桜は地下ヘと引き返す。

 今、中央ホテルの地下には上で起こっている襲撃から逃げるために避難した大勢の生徒たちがいる。

 幻操師の見習いといえばある程度の戦力になるように思えるが、実際には全くならない。

 Cランクからプロとして、一人前として判断されるが、今の生十会メンバーのようにその全員がこのランクを超えているということは異常だ。

 まだまだ中学生という子供でしかないため、ガーデン内で教わることも基本であり、本物のイーターとの実戦は通常高等部からだ。

 中学生たちの平均ランクはズバリ、Eランクだ。

 その総生徒の九割以上がEランクであり、残りの一割に満たない者がDランク。さらに限られた者がそれ以上、今の生十会やアイリスなどの例外なのだ。


 高等部なら自衛ぐらいは出来るかもだけど中等部じゃ一般人が幻操についてちょこっと知ってるくらいでしかない。


 その事を良く知っている桜は迷う。


 このことを下に伝えても生徒たちの不安を悪戯に助長(じょちょう)してしまうだけではないのだろうか。

 しかし、空から飛来するあれらのことをマスターに伝えることは間違っていないはずだ。

 おそらくだがマスターたちはこのまま生徒たちの守備に入るだろう。

 ならば攻撃は誰がするのか。

 その答えは簡単だ。戦力になり、なおかつマスターではない集団。

 そんなの、生十会しかない。

 空のアレに注意が行き過ぎていたが、既に地上にいる敵たちの殲滅はまだまだ終わっていないのだ。


「真冬ちゃんはアレのことをマスター方だけに報告してきて」

「桜ちゃんはどうするですぅ?」

「見張りが全員いなくなるわけにはいかないでしょ?

 あたしは周囲の警戒及びアレの監視をする」

「わ、わかりましたです! すぐに戻ります」


 真冬が地下に向かうのを尻目に桜は愛刀を袋から取り出す。


(到着まで後数分って言ったところかな?)


 落下のスピードから到着までの時間をなんとなく計算した桜は愛刀に幻力を注ぐ。


(んで、あたしの間合いまで後……数秒かな)


 鞘の無い抜刀術の構えを取る桜。……いや、鞘ならある。

 桜の愛刀、千針桜(せんしんざくら)は断面が六角形の鞘に収められているため切断能力を持っているというだけで、それはまだ納刀状態なのだ。

 刃鞘の斬れ味が良くなっているのは先端につれてだ。柄に近い部分ならば例え握っても血が出ることはない。

 目を細め、頭にあるイメージを幻力と共に全身に伝えていく。


(今地下にいるのは非戦力とマスター方だけ。生徒の数が数だし、マスター方には守備に徹して欲しい。だからと言ってあたしたちに攻撃を任せるのも不安だろうから、まずはその不安をぶち壊す!!)


「はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 桜は気合いと共に咆哮をあげる。

 何故その刀が千針桜(せんしんざくら)と呼ばれているのか。

 それは細い針で彫られたかのような細かく、見事な装飾があるからではない。

 その()はそのままその刀身の有り様を示しているのだ。


「桜花流っ『千斬一閃』」


 鞘から真の刃を解き放ち、その刃を大きく振るう。

 それと同時に空に向かって何かが向かって行く。

 それは平行に何本も連ねられた細い針だった。

 針と針を連結している鋼糸が伸びて行き、まるで刀身が延長されたかのようなその一撃は鞭のようなしなりを持って空の人型へと迫る。

 平行に並べられた大量の針が同時に飛んできたかのような斬撃に人型は気付かない。

 針たちは細く、目視し辛いように細工がされており、それらを繋ぐ鋼糸もまた同じだ。

 つまり、高速で抜刀された千針桜(せんしんざくら)の刀身は強大な力を持っている人型といえど、そう簡単には感知すること出来ない一閃となる。


「ほいさっ!」


 ただ見え辛いだけの一撃では硬い人型相手に意味などない。

 伸びた針刀身(しんとうしん)が人型へと当たる瞬間に桜は手に持った柄を軽く引く。

 刀身の中でも最高の斬れ味を持っているとされているのは日本刀だ。

 そして、知っているだろうか。日本刀が本来の斬れ味を見せるためには、引く事が必要なのだ。

 日本刀とは押して斬るのではない。引いて斬る。どうやら日本人は元々押す力よりも引く力の方が強いらしく、そのため他の国の押して押し切る剣ではなく、技術で、斬る日本刀になったらしい。

 しかし、桜が今柄を引いた理由はそうではない。

 柄を引くと同時に平行に規則正しく並んでいた針たちはその向きを変え、針の一本一本が一ミリたりともズレることなく人型の一点に向かって突き刺さろうとした。

 雨粒が何度も落ちることによって岩を削っていくかのように無数の針たちは人型の向かっていく。

 最初は針の全てが人型の硬い装甲に弾かれていたが、徐々に亀裂が走る。

 そしてついに一本が突き刺さった後は早かった。

 刺さった針の尻に次の針が突き刺さり、それが連鎖するように連続し、細く、小さな針だったそれば、長い槍のようにも見えた。


「貫けっ!」


 掛け声と共に桜がもう一度柄を引くと同時に少しだけ突き刺さった状態で止まっていた針は一気に人型を貫通した。

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