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2ー19 二度目の消失

 消え失せろ。

 麒麟がそう言い終わった瞬間に場の空気が変わっていた。

 正確に言うと麒麟と雰囲気がさっきまでのほわほわとどこか軽いものから全身を針で刺されるような痛く重い殺気を発していた。


「ゆっちと双花様は休んでいてくださいっ……アリスっ行くよっ!!」


「雨宮さん……っそうですわねっ!!」


『心操、火速拳』


 桜は自分のナイフ型法具を取り出すと麒麟に向かって投擲した。すると桜が投げた瞬間にそのナイフの柄頭をアリスが火速拳を発動させた状態と凄まじい一撃で殴りつけることによってナイフは正に弾丸の如く飛んで行った。


『火速』


 桜はさらに自分でナイフの柄頭から火速を発動させ投擲スピードをさらに上昇させた。


「行っけぇー!!」「行けっですわっ!!」


「おっ?」


 ナイフの投擲スピードが思っていたよりも速かったらしく麒麟は防御もなにもしないまま桜とアリスの連携技を直撃してしまっていた。


 桜とアリスは同じ火の属性を得意としている。同じ属性でなら二人の術を合わせて強力な術にする合成幻操という技が発動可能となる。


 桜もアリスも幻操師としては上位なのだが相手は一ガーデンのマスター、本来なら一撃を与えることさえ難しいしかし合成幻操の力によってそれを可能にしていた。


 桜達がやったのは合成幻操だけじゃない。ヒットの瞬間に桜は次の術『火爆』を発動させ麒麟を中心に強力な爆発を起こしていた。


「やったかな?」


「さすがにマスタークラスを一撃は無理ですわ。しかしダメージぐらいなら与えることも可能だと思いますわ」


 桜の楽観的な言葉に少し棘のある言い方で注意したアリスは爆発によって起こった煙の中に意識を集中させていた。


「あまいあまいバーカ。アリスちゃんも楽観的すぎるよ?すぎるよ?このくらいでダメージなんてあるわけないよ?ないよ?」


「……う……そ……」


 煙が晴れていくとそこには無傷の姿でニコニコと何処か不気味に笑う麒麟の姿があった。

 あれだけの威力を込めた合成幻操を直撃したにも拘らず少しのダメージも受けていない麒麟の姿を見て桜はあの時にも感じた感情を抱いていた。


「くすくす、言っておくけど避けられなかった訳じゃないよ?ないよ?避けられなかったんじゃなくて避ける必要もなかっただけのこと……くすくす……」


 麒麟は桜を見つめながらくすくすと笑っていた。


 桜は敵でありこちらをあまりにも明確に敵視し殺気を放つ麒麟に見つめられて全身を思わず震わせてしまっていた。


「くすくす……怖い?」


「ひっ……」


 死。

 生き物にとって共通する恐怖。

 桜はその死の恐怖によって全身を竦んでしまっていた。


「雨宮さん?」


「あ……ぁ……」


 人型イーターと戦った時の記憶が桜の頭に蘇っていた。


 蘇るだけじゃなく結に助けてもらえなかった時に起きたであろう結末を想像してしまいその心は完全に恐怖一色に染め上がっていた。


「雨宮さんっ!!」


「っ!?」


「正気に戻りましたか?」


「う、ん……」


「……その様子では戦えそうにありませんわね」


「……ごめん」


 アリスに喝を入れてもらいどうにか正気を取り戻した桜は自分のナイフ型法具をもう一本取り出し構えるが手が震えてしまいまともに構える事が出来ずにいた。


 その様子を見たアリスは小さく溜め息をつくと仕方が無いといった風に桜を下がらせ一人で麒麟と戦おうとしていた。


「一人、脱落ー」


 麒麟は桜を見下すようにしながらくすくすと楽しそうに笑っていた。


 桜は麒麟の言葉におもわず悔しそうにぎゅっと握り拳をつくるが体が言うことを聞いてくれずなにも出来ずにいた。


「余所見とはいい度胸ですわねっ!!」


 桜を見つめながら笑っている麒麟にアリスは叫びながら業火を纏った拳で殴りかかるが麒麟はちらっと横目で見ると体をそらし簡単に避けてしまっていた。


「そりゃ余所見もするよ?するよ?だって僕ちんは格下に全力を出すほどバカじゃないからね」


「くっ……そうですか。ならっそのまま全力を出さずに倒れてしまいなさいなっ!!」


 麒麟の挑発的な態度に苛立ちを覚えるアリスだったが悔しいことに実力で言えば相手は自分よりも遥かに上だろう敵を前にして相手が油断している今をチャンスだと思うことにしていた。


「くすくす、おいで?おいで?」


『火弾』


 アリスは挨拶代わりと言わんばかりに火属性の基本術である火弾を連射し牽制しながら距離を詰め自分の拳の届く間合いに辿り着くと火速を発動し麒麟の背後へと移動した。


「ありゃ?」


 移動する前にフェイントを入れていたおかげて不意打ちをした時のように業火を纏った拳で攻撃すると思っていた麒麟は急に目の前からアリスの姿が消えて思わず驚いてしまっていた。


 アリスがその隙を見逃すはずもなくアリスは業火を纏った拳を麒麟の背中へと振りかざした。


「んーやっぱり甘いね。甘いね」


『雷操、雷地翔龍(らいちしょうりゅう)


 麒麟は後ろから攻撃を仕掛けようとするアリスに気が付くとニンマリと笑い手をさっと上げる仕草をするとまさに攻撃を当てようとしているアリスの足元より龍の形を模った雷が発生しアリスを感電させていた。


「きゃぁぁぁぁぁあっ!!」


「アリスっ!!」


 アリスは強烈な雷に耐えることができずその場に倒れ込み気絶してしまっていた。それを見ていた桜は反射的に叫びながらナイフを握り締め麒麟に振り下ろそうとするが


『雷操、雷地翔龍』


「あぁぁぁぁぁぁっ!!」


 アリス同様地面から強烈な雷が迸り桜もまた気絶してしまっていた。


「弱ーい、弱ーい。くすくす……トドメと行こうか?行こうか?……っ!?」


 麒麟が二人にトドメをさそうと両手をそれぞれにかざすと麒麟に向かって突如強烈な殺意が浴びさせられていた。


「よ……くも……二人を……」


「へぇーまだ動けたんだ」


 麒麟が殺意の発信源に視線を向けるとそこには漆黒の槍を持った結の姿があった。


 双花と戦い相当のダメージと疲労を負っていたはずの結が立ち上がりそれどころかここまで濃厚で重い殺気を自分に向けているという事実に対して麒麟は驚きを思わず隠せずにいた。


「刈る……私は……あなたを許さない」


「ゆ……う……?」


「っ!?」


 今まで結が殺気を周りにばらまくことはあった。しかし今の結が発する殺気はあまりにも、そうあまりにも純粋過ぎた。


 純粋過ぎる殺意。

 それを感じてしまった双花は目の前にいるのが結だと信じることが出来ずにいや……信じたくなかった。


 いつも自分に優しくしてくれた結。


 いつも自分と共に笑ってくれていた結。


 アノ子と三人で笑い合っていた結。


 どんなに怒っていたとしても双花にはその時の面影を感じることができていた。

 それはきっとまだ短い期間しか共にしていない生十会の皆も同じであり桜が起きていれば自分と同じことを感じていただろう。


 しかし今の結はどうだ?

 双花は今の結から少しの優しささえも感じることが出来ずにいた。あまりにも純粋な殺意の塊。


 双花は結の心が壊れてしまったのではないかとまで思ってしまっていた。


 そしてその結から正に殺気を受けその目を見てしまった麒麟もまた戸惑いを感じていた。


 結の目からはまるで感情を感じることができなかったのだ。


 強烈な殺意を放っているのにその目には殺意の色さえもなにも映ってはいなかったのだ。


 これではまるで……


「……化け物じゃないか」


 麒麟が呟くと同時に結は手に持つまるで闇のようなその槍の矛先を麒麟へと向けた。


「っ!?これはなんかやばい!?やばい!?」


 結の向けた矛先には漆黒の力が集まって行っていた。

 そしてその漆黒の力は徐々に球状を形成していきその姿はまるで漆黒の月のようだった。


「散れ」


「っ!?」


 結が冷たく言い放ち今まさに漆黒の月を麒麟に放とうした瞬間、形成されていた漆黒の塊が崩壊を始めていた。


「……え?」


 漆黒の塊は完全にその姿を崩壊させ終わると結の目に突如感情と言うなの光が蘇りその場に倒れ込んでしまっていた。


「……くすくす。びっくりさせるなって」


 麒麟は結からさっきまでの雰囲気が完全になくなったことを確認すると楽しげに笑い始めていた。


「結、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ……」


 力なく倒れ込んでしまった結を心配そうに見つめていた双花は今だに笑い続けている麒麟に視線を移すと今の状況をどう打破するかを考えていた。


 対して結の頭には混乱の二文字しか浮かんでいなかった。


(俺はなにをしていた?この感じ俺はジャンクションをしていたのか?……でも記憶がない。これは反動による記憶の混乱が原因なんかじゃない。ただ単純に……記憶な無いんだ)


 結が思い至ったのはジャンクションの暴走だった。


「あーあ。面白い物も見せて貰ったしそろそろ退散しようかな?」


「っ!?」


 思考の渦にとらわれていた結の耳に届いたのは退散すると言う麒麟の言葉だった。


 正直な話今の疲労困憊になっている結と双花では麒麟を倒すことは到底出来ない。ここで自分達がやられてしまうと思っていた二人は麒麟の言葉に驚いていた。


「あっでもお土産貰って行こうかな?かな?」


 麒麟は楽しそうにそう告げると一歩、また一歩と双花に近付いて行った。


「なっ離しなさいっ!?」


 麒麟は双花の前に辿り着くと疲労困憊でまともに動けない首根っこを掴むとよっこいしょと言った風に双花を担ぎ上げてしまった。


「双花を……離せ……」


 うつ向けに倒れている結はその様子を見て止めようとするが残酷なことに体が動くことはなく声を発するだけにとどまってしまっていた。


「おいで」


「「「「お呼びでしょうかボス」」」」


 麒麟が楽しそうに呟くと颯爽と四守者が現れていた。


「みんな、帰るよ」


「待てよ……双花を……どうするつもりだ……」


「ん?双花様はお土産としてガーデンに持ち帰るよ」


 双花も担いだ状態で四守者に帰るよと宣言した麒麟に対して苦しそうにそう言った結に対して麒麟はまるで当然の事のように言うと最後に「返して欲しければ僕ちんのガーデンまでおいでよ……あぁどうせならお友達も連れておいで?おいで?」っと残すと結の目の前に五つの指輪を投げ四守者と共にその場から消えてしまっていた。


「双花……」


 結は投げられた五つの指輪を握り締め消えてしまった双花の名前を力無く呟くとそのまま気を失ってしまった。




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