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8ー33 テメェにゃ斬れねえ


 ニヤリとした笑みを浮かべた赤髪は、嫌な笑みを浮かべたまま両手を背中に入れた。

 見た目からではわからないのだが、今の幻操師の大元になっている団体の基本装備が拳銃に刀剣で、それを隠して装備するために拳銃を女子ならばスカートの下、男子ならば脇の間にしまい、刀剣は背中に収納するのが基本だった。

 幻操師とはゲームである魔法使いに近い。イーターとの戦いならば中距離や遠距離で戦うのが常なのだが幻操師同士の場合に近接戦になることが多い。

 何よりも高ランクで無ければ使えない詠唱短化が無ければ知性のある対人ではまともに使えないため、サブウエポンとして刀剣類を装備しているのは基本だ。

 そのため、多くの幻操師は防弾チョッキとしての役割もプラスされている収納ケースを背負っていることが多い。


(背中収納ねぇー。あたしは若干動き辛くなるから嫌いだけど、重みはほぼ無いに近いから便利だよねー)


 背中収納は特に使用者の動きを阻害はしないようにうまく設計せれているのだが、厚着すればするだけ動き辛くなるのと同じ理由で桜はこれを嫌っていた。

 桜はその代わりに両腕にリストバンドのような収納器をつけている。

 いつもは長袖の制服で見えず、背中と比べればしまえる刀剣類は小さいものになってしまうが桜の場合メインウエポンである千針桜(せんしんざくら)はどっちにせよ収納出来ず、サブウエポンは短剣を使っているため困ってはいない。

 赤髪が背中から抜いたのはその髪色と同じ真紅に染まったニ振りの小太刀だった。


(……あれって)


 その二振りの小太刀を見た桜は微かに表情を崩していた。


「あぁん? テメェ、これを知って嫌がるな?」

「…………」

「ハッ! だんまり決め込んだところでバレバレなんだぜ?」


 楽しそうに笑みを深める赤髪に桜は呆れたようにため息をついた。


「……それ、桜花刀でしょ?」

「そうだ! 数ある桜花刀の中でも対人に特化された『血塗れの双牙(ブラッドファング)』。俺様の相棒だ」

「…………」

「ずいぶんと表情が固くなってるじゃねえか。これの能力に怯えてんのか?」

「…………」


 桜は何も返さない。

 それを怯えからだと認識した赤髪は得意げに話し始める。


「こいつは桜花刀の中でも珍しい法具と剣のキメラだ。こいつに込められた幻操式は一つ。『血塗れの呪い』。効果は血を吸わせれば吸わせる程切れ味を増していく。正に人斬りの刃だっ!」

「なんですって?」


 だんまり決め込んでいた桜はひどく低い声を発した。

 その声には明らかに怒気が含まれており、赤髪は一瞬驚くもののすぐに楽しそうなそれに変わった。


「あんたには加減しない。次は斬るよ」

「ハッ! だから言ってんだろうがよ! テメェに俺様は斬れねえよ!」


 二人は同時に走り出した。

 赤髪はさっきまでやっていたような瞬間移動にも似た速度の高速移動をしてこなかった。

 またそれで突如として現れてその双牙を振るうと思っていた桜は驚きながらもそれを表情に出さない。

 いつも笑顔を絶やさない桜はひどく冷静に、無表情を貫いていた。

 得物のリーチは桜に利があった。


「はっ!」


 間合いに入ると同時に千針桜(せんしんざくら)を振るう。

 赤髪は上段から振り下ろされた刃を左太刀(さだち)で左に受け流すと同時に右太刀(うだち)を横薙ぎに振るった。

 桜は左足で右太刀(うだち)の横腹を蹴り上げて軌道をズラすと軽く飛ぶようにして右足を鎌のように振るう。


「ちっ」


 赤髪が右足を上げて桜の蹴りを受け止めると同時に桜は腰を思いっきり回転させて千針桜(せんしんざくら)を横に薙ぎった。


「けっ」


 赤髪がバックステッブで躱すと同時に桜は前に出る。


「はっ! 『火爆』」


 桜は突撃しながら左手を剣から離すと、掌を赤髪の胸にそっと当て、式を起動する。

 桜の掌から爆発が起こり、それを胸にゼロ距離で当てられた赤髪は煙に包まれた。

 即座に右手一本で持った千針桜(せんしんざくら)を振おうとするが、桜の頭の中に何が走る。


「!」


 それをあえて言葉にするのであれば嫌な予感とでもいえばいいだろうか。

 第六感、いや勘などではなく、意識内でもない。無意識に感じ取った小さな違和感が発した赤信号だった。

 桜は予感に任せて絶好の攻撃のチャンスを無為にして後ろへ飛び下がる。


「ちっ。野性の獣並みだな」


 煙が晴れていき、中から現れたのは無傷(・・)で不機嫌そうにしている赤髪の姿だった。


「……なんで……」


 無傷の赤髪に桜の無表情が崩れた。

 当然だ。

 『爆』シリーズはその名前の通り各属性を宿した爆弾を炸裂させる術だ。それはつまりゼロ距離で爆弾が爆発したのと同義だ。

 しかし、服まで無傷で立っている赤髪に動揺するのは仕方がなかった。


「ハッ! 世間を知らねえクソガキはすぐに質問するんだな。甘ったれってんじゃねえぞクソガキ」

「うるさい」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべる赤髪の挑発に、桜は短くつぶやくと再び表情を消して剣を構え直す。


 『火速』


 両足の裏で小さな爆発を起こし、その爆風を利用して行う高速移動。

 赤髪の意識が一瞬緩んだ瞬間を狙って桜は初めて『火速』を起動する。


「!」


 不意のタイミングを狙うことで赤髪の反応が遅れていた。

 千針桜(せんしんざくら)は巨大だ。そのため攻撃までの予備動作が大きくなってしまう。そのため、抜かずに扱う際に千針桜(せんしんざくら)を相手に当てようとするのであれば隙を作るしかない。

 先ほども千針桜(せんしんざくら)ではなく素手を最短距離で突き出したから当たったようなものだ。

 ダメージはほとんど……というかまったくなかったようだが、あの一連で赤髪の反応速度は理解した。

 反応速度を計算した上で振るわれた千針桜(せんしんざくら)は赤髪に見事直撃する。

 少女が扱うには巨大な大太刀。少女どころか大人の男性が使ったとしても一般的な刀剣と比べれば大きいだろう。

 桜自身の腕力というよりも、剣そのものの重さのままに振り下ろされたその一閃は、戦斧の如く絶大な断絶力を持っている。


「なん……で……?」


 剣で防がれたのではない。

 そもそも、その一撃にはそこらへんの剣ならそれごと叩っ斬る。

 『血塗れの双牙(ブラッドファング)』はそこらへんの剣などではないがそれを使われることもなく、赤髪を肩から別けるはず刃は、服に傷を入れることもなく、無防備な赤髪の肩に触れてピタリと止まっていた。


「……だから、言ってんだろうがよ。テメェに俺様は斬れねえてよっ!」


 勝ったという確信があったにもかかわらず、当たっているにもかかわらず、傷一つ与えられなかったという驚愕の事実に桜の動きが止まった。

 その瞬間。赤髪の狂剣が振るわれた。



 30日は私情により休載となります。そのため、次の更新は2月2日を予定しています。

 どうか桜の安否を気づかいながらお待ちください。

 これからも天使達の策略交差点をよろしくお願いします。


 ……あっ。桜の安否が変わることはないです。

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