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8ー31 火種


「急げ陽菜っ!!」


 森の中を疾走するのは望月楓。そして、そのやや後ろからついて行くのは宝院陽菜。

 人型兵器である幻攻機兵(げんこうきへい)の中から出てきた少女、渡辺綾。

 彼女は長い間幻攻機兵(げんこうきへい)の動力源にされていたようでその体は消耗し、酷く疲弊していた。

 楓は人を回復させるような術が使えない。それは陽菜も動揺だ。

 しかし、綾は心臓の動きがいつ止まってもいいくらいに信号が薄れており、応急処置にもならないが少しでも延命させるためにと陽菜の分身が電気を直接体内に送りながらゆっくりとガーデンに向かわせている。

 何故わざわざ分身を使っているのか、その理由は単純だ。

 綾は長い間動力源にされているようだった。

 その期間は少なくとも一週間以上だ。

 ならば、予選の時に結が戦った綾は一体なんだったのだろう。

 楓はとある仮定を立てた。

 あれは偽物なのだと。

 そして、それは十中八九正解なのだと思った。だからこそ楓は急ぐ。あの偽物を捉えるために。


「……楓。結はいいの?」


 本来高速移動している中、それもそれなりの距離が二人の間にあるという悪条件が揃っているというのに、陽菜のような小さい声を聞き取ることは不可能だ。

 楓が拾った単語は一つ。

 『結』という単語に陽菜の言葉の全部を予測し、聞こえるようにと大声を出した。


「結ならもう大丈夫だっ!」

「……どうして言い切れる?」

「だから心配はもうしなくていい。それよりも結が帰る場所、仲間たちを救う方が先だっ!」

「……会長たち?」

「何言ってるかわからん! 急ぐぞ!」

「……ん」


 やっとのことで森を抜け、草原に出た。

 草原まで来れば今までの道のりから考えるとガーデンはすぐだ。


(……結。早く来いよ)







 健二が中央に伝達に行った後、桜たちは警戒を続けていた。


「……ねえ。第二波は?」

「来ないですねぇー」

「来ないなー」


 第一防衛線が突破されたのであれば、第二、第三波と、次々とイーターが文字通り波のように迫ってくると予測していたのだが、拍子抜けするほどに次のイーターは姿を現さなかった。


「もしかして、さっきの五体ってただの取り逃がし?」

「第一防衛線はまだ平気ってことですぅー?」

「そうなのかもしれないぞ。そもそも第一防衛線にはAランクの中でも特に実力の高い者やSランクもいるはずだぞ。そう簡単には突破されないと思うぞ」

「んー。じゃあ健二には悪いことしちゃったかねー」

「……健二……」


 寂しそうな笑みを浮かべる美玲を視界の端に映し、桜も寂しさを覚えた。


「さて、どうしよっか?」

「このままここで待機がベストだと思うですぅー」

「まー普通に考えたらそうなんだけどさ。さっきのが誤報かもってこと中央に伝えないと中央の戦力減らないかな?」

「あっ。あり得るですぅー。こっちの防衛線が突破されたとわかったら中央の戦力の一部をこっちに回すかもですぅ」

「でしょ? だからさ」


 そう言って桜は未だに寂し気な表情を浮かべている美玲へと振り返った。


「てことで、美玲よろしく!」

「へ? 私?」

「そっ! ミレッチお願いっ」

「み、ミレッチ!? で、でも、わかったぞ。行ってくるぞっ」

「よろしくー」

「よろしくですぅー」


 びっくりした様子の美玲だったが、桜が手を合わせてお願いをするとどこか嬉しそうにしながら中央ホテルへと走って行った。


「さて、真冬ちゃん。あたしたちはここで待機だね」

「クスクス。桜ちゃんやっぱり優しいですぅー」

「さーて。なんのことだかわからないね」


 ニカッとした笑みを桜が見せた瞬間、背後から大きな火柱が上がった。


「え!? ちょっ、何これ!?」

「桜ちゃん!!」

「他にも!?」


 ガーデン各地に次々と火柱が上がり始めていた。

 それと同時に今までは聞こえてこなかった各地の騒動が聞こえ始めた。


「うわーー!!」


 男子の声が聞こえたと思ったら数人の男子生徒が走ってきていた。

 彼らの表情は怯えきっており、何かから逃げてきたのであろうことが容易に想像出来た。


「ちょっ! どこ行くのさ!」

「桜ちゃん! あの人たち確か第一防衛線の人ですぅ!」

「ってことは逃げてきたってこと!?」

「桜ちゃんっあれっ!」


 彼らを追いかけるようにして現れたのは五体の中型イーターだった。


「! 真冬ちゃん。行くよ!」

「はいですっ!」


 表情を引き締め、真冬と共に駆け出そうとした瞬間、桜は疑問を感じる。


(前線にはSランクもいるはず。Aランク程度の力しか持たない中型五体であれほど恐怖を覚えるものなの?)


 中型イーターの力はAランクと同等とされている。しかし、知恵がある人間と違い知恵の低いイーターにとってその力を扱い切ることは難しく、戦闘能力で考えればBランク程度だ。

 それが五体いたからと言って、AランクやSランクで構成されているはずの第一防衛線の者たちがあんなにも恐怖を覚えるものだろうか。


「! 真冬ちゃんストップ!」

「え?」


 桜の叫びに真冬は驚きの表情を向けながらながらも立ち止まった。

 その瞬間、真冬の一歩先から火柱があがった。


「ひゃうっ」


 突然立ち上がった火柱に真冬は驚きの尻餅をついていた。その目には確かな動揺が見て取れた。


(真冬ちゃんは少しの間は戦えないかな。しゃーない)


「真冬ちゃん! 下がって」

「は、はいです……」


 真冬は立ち上がることが出来ないようで、赤ちゃんのようにハイハイ歩きで下がった。


「ちっ。いい勘してんじゃねえか」


 火柱の中から出てきたのは長い赤髪の青年だった。


「あんた、誰……」


 桜は袋にしまっていた千針桜(せんしんざくら)を取り出すと、いつでも動けるようにと全身に力を入れ構えた。


「あぁん? なんでテメェみてえなクソガキにんなこと教えなきゃいけねんだ?」

「あっそ。ならいいよ。あとで拷問部伝えに聞くからさ!」


 すみません。体調が……。

 次の更新は1月26日を予定しております。

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