8ー29 無茶なのだぞ!
「それで、健二のスタイルはねーー」
「! ちょい待ち美玲」
美玲が続けて、今も不機嫌そうにし自分から話しそうにもないため、代わりに健二のスタイルを話そうとした瞬間、桜は目付きを鋭くして止めた。
「どうしたのだ? ……ん?」
一瞬疑問顔を見せる美玲だったが、ハッとするように桜が見つめる方角に振り返った。
(……あっちって、ガーデン外だよね……。つまり……)
「三人とも雑談はこれで終わり、戦闘準備」
「! 了解ですぅ!」
「わかったぞ」
「……」
真剣な桜の声に真冬は表情を引き締めて、ブレスレット型の法具を起動しながら返事をした。
美玲もその気配に気付いたらしく、さっきしまったヨーヨーを再び取り出した。
健二は無言で元々キツイ目をさらに鋭くしていた。
桜が袋から愛刀である千針桜を抜いた瞬間、それは現れた。
「わお。第一防衛線はもう突破されちゃったかー」
「避難してくる生徒が見えないですぅっ!」
「も、もしかして全滅なのか!?」
「……ちっ」
現れたのは中型イーターが五体。
この量、北西側の第一防衛線が突破されたという証拠だ。
それだけじゃない。前線を破棄したのであればさっきまで戦っていたはずの生徒たちがここまで来るはずだ。
しかし、その様子はない。これはつまり避難することさえ出来なかったことを示しているのだろう。
桜はその事実に、六芒戦で競い合ってきたライバルの誰かが消えてしまったかもしれないという事実に思わず舌打ちをした。
(戦闘スタイルが不明の健二とは連携は無理。それに、美玲はあたしたちのスタイルを知らない)
「真冬ちゃん! まずはあたしたちからいくよ!」
「了解ですぅ!」
「地面っ!」
「はいです!」
桜の呼び声で真冬は法具を付けた方の手を正面のやや下に翳した。
「いくです! 『氷操、氷結』」
真冬の氷結によって正面の地面がピキピキと音を立てて凍り始めた。
それは正面から迫るイーターたちの元まで届き、イーターたちの足と地面を凍らせることによって貼り付けることに成功していた。
「ナイス!」
桜は愛刀を構えて飛び上がる。まず狙うのは一番近い奴だ。
五匹のイーターは横一列に並んでいる。桜は真ん中のイーターに向かって飛ぶと下降の勢いのまま愛刀を振り下ろす。
「はいっ! まず一匹!」
「右はやるぞ!」
「よろよろ!」
美玲の声に桜は右側の二匹を無視し、左を向いた。振り向くと同時に刀を横薙ぎにしてすぐ隣にいた昆虫に似たイーターの上半身と下半身を別れさせる。
それとほぼ同時に美玲はヨーヨーを投げた。
やはりヨーヨーをメインウエポンにしているだけはあって、狙い違わずにヨーヨーは吸い込まれるようにして一番右側にいたイーターの胴体に当たる。
「爆ぜろ!」
当たる瞬間に二重紐の中紐を引っ張ることで引き金が引かれた。
そうすることによって中に仕込まれた球状の火薬が一つ機構の奥に装填させる。ほぼ同時に内部のハンマーが落ち、火薬を炸裂させる。
側面についた大量の穴から熱と爆風が溢れ出し、火薬の勢いにヨーヨーの質量と遠心力が加わりそのイーターの胴体には大きな穴が開いていた。
「ナイ、スッ!」
背後から聞こえた爆発音を美玲の法具によるものだと判断した桜は背後にいるイーターの存在を頭の中きら消し、奥にいる蛞蝓型のイーターに迫る。
その瞬間、横から聞こえた爆発音に怯えたイーターはそちらから逃げるように寄った。そして、目の前で背中を見せる桜を発見した。
ゴリラの姿をしたイーターはニヤリとした笑みを浮かべるとその豪腕を桜の背中に突き出した。
桜にそれを避ける手立てはない。何故なら、桜はこのイーターの存在を頭の中から完全に消していたからだ。
つまり、気付かない。
しかし、それは悪手とは限らない。何故頭の中からわざわざ敵を消したのか。
その理由は簡単だ。そのイーターは既に敵ではなかったからだ。
既に死んでいる敵に意識を持つことなど戦闘ではそれこそ悪手だ。
「とりゃぁっ!」
桜はゴリラ型に気付かぬまま愛刀を振るい蛞蝓型を断絶する。剣を振るい無防備になる一瞬。ちょうどその一瞬を狙ったかのようにゴリラの豪腕が桜の華奢な背中に迫った。
「ゴガッ!?」
桜はニヤリと笑った。その瞬間二つの音が響く。
一つはゴリラ型の悲鳴。もう一つは爆発音。
「サンキュー。美玲ぃっ」
桜が美玲に振り向くと同時にゴリラ型は二つになって地面に倒れた。
「わぉ。そのヨーヨーの威力、想像以上だね」
桜は視線を反対側へと向ける。そこには腹部が消滅し、上半身と下半身が分かれて倒れるゴリラ型が徐々に消えていた。
「ふぅー。まったく、びっくりしたぞ!」
「あはっ。美玲なら問題ないかなってね」
「うっ。信じてもらうのは嬉しいが……でも、だからって意識から完全にまだ生存している個体を外すなんて無茶が過ぎるのだぞ!」
「あはは」
「笑い事じゃないのだぞぉ!」
大声をあげて笑う桜に美玲は両目をくの字にしながら叫ぶ中、つられるようにして真冬もクスクスと笑っていた。
「真冬は安心して見ていられましたですぅー」
「なんで!?」
「少し考えればわかるですぅー」
「……まさか……」
「あはは……」
苦笑している真冬を見て美玲はため息と共に項垂れていた。
「いつもそうなの?」
「そうなんですぅー」
「イエース」
ドヤ顔で親指を立てる桜に二人のため息がハモっていた。
「さて、ここまでイーターが来ちゃったこと報告しなきゃね」
「でも、誰がいくですぅー? ここを破棄は出来ないですよぉー?」
「んー。ねえ健二ー」
「……なんだ」
「報告お願いだぞ!」
「なんで俺がそんな雑用をしなきゃいけねんだよ!」
「なんでって、今ので二人のスタイルはわかったけど、健二のスタイルはまだ二人がわからないからだぞ? ここは連携出来る三人で残るべきだと思うのだぞ?」
「……ちっ」
美玲に論破されてしまった健二は舌打ちを最後に去って行った。
「……いつから健二は変わってしまったの?」
「美玲? どうかした?」
「いや。なんでもないぞ!」
「そう?」
美玲は桜に笑顔を見せると小さくなった健二の後ろ姿を見つめていた。
サブタイトル……。
次の更新は1月21日を予定しています。




