8ー28 前期型の未知
賢一と織斗が話している間に今回出現したイーターを調べていたらしく、その結果ロビーに集まっていた生徒たちで班を作ることになった。
今回は然程強い個体が現れなかったようで、数は前よりも格段に多いがチームでならば安全と判断されたらしい。
それを利用して実戦訓練のようなものを行うことになったらしい。
マスターが六人もいる機会なんてそうそうないため、これほど安全に多数のイーターと戦えるのはむしろラッキーとしたのだ。
「なんか、意外だねー」
「どうしたですぅー?」
桜は同じ班になった真冬と共に指定されだ場所に向かっていた。
「【S•G】のマスター」
「そうですねぇー。なんだがお茶目さんでしたですぅ」
「……あれってお茶目って言うの?」
「えっ? 違うですぅー?」
「おい。お前ら無駄口叩いてないでさっさと走れっ」
「……はーい」「はいですぅ」
並走している真冬と話していると、後ろからついてきている班員の一人が口を挟んできた。
まるでチンピラのような男子生徒だが、どうやら【F•G】のAランクらしく実力はあるらしい。
「こらっ! 健二だめだぞ? そんな威圧的なの。……ごめんね二人とも、この馬鹿には後できっつーく言っとくから許してねっ」
健二の隣を並走しているのは同じく【F•G】の生徒だった。
「……ちっ。いちいち口出すなよクソ女」
「言葉遣い悪いぞー」
「あはっ。気にしてないからいいよー」
「そう? ごめんね」
「大丈夫ですぅー」
「あたしは【F•G】の雨宮桜。Aランクだよ。気軽に桜って呼んでいいよー」
「真冬も【F•G】のBランク幻操師の日向真冬ですぅー。真冬って呼んでくれると嬉しいですぅー」
「うん。桜に真冬ちゃんだね? 了解だぞ。私は【F•G】の西村美玲。気軽に美玲でいいぞ。こっちの名前は東健二。Aランク幻操師だぞ」
「オケー。それにしても二人とも仲良いね」
やけに親密そうな二人に桜は片手を口元に当ててニマニマとした笑みを浮かべた。
そんな桜に美玲は頬を赤く染めて、両手をフリフリしながら首をブンブンと横に振った。
「ちっ違うぞ! 健二とはただの幼馴染みってだけだぞ!」
「へぇー。そうなんだー」
「そ、その顔止めて欲しいぞ! 本当にただの幼馴染みってだけ!」
「まっ。いろいろあるよねー」
否定すれば否定するだけ笑みを深める桜に、美玲は顔を真っ赤に染め上げていた。
二人の会話に真冬は苦笑いを浮かべ、健二はどこか不機嫌そうにしていた。
「あのー【F•G】ってある意味【R•G】と対になっていて、生徒の九割以上が男子って聞いたのですがぁー。……その、いろいろ大丈夫ですぅ?」
ふと思い出した真冬は言い辛そうにしながら、やや頬を赤く染めながら言った。
「あー。そうだよねー。【F•G】って喧嘩っ早い奴が多いって聞くし、美玲みたいな美少女危ないんじゃない?」
「あはは。それ、友達にも言われたことあるけど問題ないぞ」
「なんで?」
「健二がいるからだぞ」
苦笑気味の美玲は微笑み、隣をチラリと見た。健二は相変わらず仏頂面で走っていた。
そんな健二に美玲は少し寂しそうに笑った。
「ふーん。守ってくれるんだ」
「へっ?」
「まるでお姫様と騎士だね」
「えっ!?」
せっかく真冬の話で表情からニマニマが消えた桜だったが、再びニマニマとし出した桜に美玲は慌てるように顔を赤くした。
「……ちっ」
健二の漏らした舌打ちに三人は気付かなかった。
「とうちゃーくっと」
桜たちが受け持ったのはホテルの北西側にある遊戯室正門前だった。
今回の作戦に参加した生徒の人数は然程多くない。
生徒たちが避難しているホテルはこのガーデンのほぼ中央に位置している。
ホテルを囲うように六方に食事処や遊戯室、プールなどの建物があり、さらにその外側には六芒戦で使われている六つの会場がある。
内側にある六つの建物は全て正門がホテル側に向かっている。
どうしてガーデンの周囲に張られているはずの結界を素通り出来るのかはわからないが、イーターが外側から来るのはわかっている。
外側の六つの会場は正門がホテル側とは真逆にあり、そこに一チームずつ、内外合わせて合計一二チームが待機している。
ホテルにも六つの出入り口があり、そこにはマスターが一人ずつ待機しているため、第一、第二防衛線が共に突破されたとしても避難している生徒たちに被害はいかないようになっている。
そのため、各チームは無理と判断したら迷わず撤退しても良いことになっている。
桜たちがいるのは第二防衛線だ。
そのため、戦闘までまだ時間がある。
「あっそだ。連携のためにも二人の戦闘スタイル聞いていい?」
「あ? なんで教えなきゃいけねえ」
「だーかーらー。連携のためだって……」
「付け焼き刃の連携なんて意味ないだろ? むしろ危なっかしい」
「そーかもだけど、一応知っておいた方がやりやすいでしょ?」
「知らん。俺は俺で勝手にやる」
「こーらっ健二! わがままはダメだぞ!」
「……ちっ」
美玲が間に入った瞬間、健二は元々不機嫌そうだった表情をさらに歪めていた。
「もう。仕方ないなー。……ごめんね?」
美玲は両手を腰につけてやや前のめりで頬を膨らませると、申し訳なさそうな顔で桜の方に振り返った。
「いいっていいって。あずっちの言ってることも理にかなってるしね」
「……ありがとう。えーと、あたしの戦闘スタイルはこれだぞ」
そう言って美玲が取り出したのは二個の饅頭のようなものが合わさった物体だった。
「……それ、もしかしてヨーヨー?」
「そうだぞ。これがあたしのメインウエポン。ナイト&スカイ、六六六の未知の一つ。前期型のキメラウエポンなのだ」
「……六六六の未知? それが?」
ジャジャーンと効果音が出ていそな感じでヨーヨーを掲げる美玲だが、正直手に持つそれはただのヨーヨーにしか見えない。
六六六の未知には世代というものがある。
六六六の未知というものが既存のものを改造して作られたということは割と知られているし、世代がその改造回数を表していることも知られている。
しかし、一般的に六六六の未知の第何世代という者は少ない。大抵の者は二つに分けて話す。
それが、前期型と後期型。
具体的にどう分けられているのかは特に決まっていない。この呼び方は六六六の未知の使用者たちが勝手にそう呼ぶようになったからだ。
曖昧になるが、法具としていろいろバランスというか、パワーバランスが破滅しているのが後期型と呼ばれ、それ以外が前期型と呼ばれている。
そもそも、売り出されているのはこの前期型だけであり、前に【R•G】で鏡が買ったキメラウエポンも前期型だ。
後期型は非売品なのだ。
しかし、それの使用者は少数だが確かにいるのだ。
後期型はその性能があまりにも高過ぎて、持っているものは『未知持ち』と呼ばれている。
「そうなのだ! これはヨーヨーと火器のキメラウエポンなんだぞ」
「へぇー」
近くで見るとわかるのだが、ヨーヨーの側面には小さな穴がたくさん空いていた。
「ねえ。この穴、銃口にしては小さくない? それに、穴多いし」
火器とはつまり銃のことだと思うのだが、空いている穴の直径は一センチもない。それに、穴の数は一面だけでも軽く数十はある。
桜が疑問符を浮かべ、傾げていると、美玲はふっふっふっと笑みを浮かべていた。
「火器って言っても銃だけとは限らないのだぞっ。火器とはつまり火薬を使う道具の総称なのだ。つまり、正確に言うならばこれはヨーヨーと爆弾のキメラウエポンなのだ!」
「爆弾!? 爆弾ってボムのことでオーケー?」
「うん。そうだぞ。このヨーヨーの紐は二重になっていて中の紐を引くことでヨーヨー本体の引き金が引かれて内部の火薬を炸裂させる。ヨーヨーを投げて相手に当たる瞬間に引けば側面にある大量の穴から爆風と熱を吹き出して追加ダメージを与えるのだっ!」
デデーンと育ちつつある胸を張る美玲に、桜と真冬はおおーっと思わず拍手をしていた。
割と時間が掛かるのはサブタイトルだったりします……。
とはいえ、三○分くらいですけど。
……はい。次の更新は19日になります。




