2ー18 幻獣の名を持つ少女
「……引き分け?」
会場に広がる光景は同じように倒れている二人。それはダブルノックアウト引き分けを示していた。
「ゆっちっ!!」
「マスターっ!!」
倒れている二人を確認した桜と火燐は観客席から即座に名を呼んだ者のそばに駆け寄るとうつ伏せになっているその体を起こすと優しく抱き寄せていた。
「……あ、れ。桜か?」
「うっ、……火燐?」
それぞれ優しく頬を叩き目を覚まそうとすると目覚めた二人は意識が朦朧としているな駆け寄ってくれた人物の名前を呟いた。
「……俺は気絶していたのか?」
「……うん」
「……そうか……俺は負けたのか」
桜の悲しそうな言葉を聞き自分が負けてしまったと勘違いした結はうつむきながら表情を暗くしていた。
「いいえ。先ほどまで私も気絶していましたので引き分け……ということになりますね」
「引き分け?」
勘違いをして落ち込む結に真実を教えたのは今回の模擬戦の対戦相手である双花だった。
双花の引き分けという言葉を聞いて思わず繰り返してしまう結に弱々しくなっているが綺麗な笑顔を返した双花は桜の腕のなかで横になっている結の手を取ると引くようにして結を立たせた。
「ほら、観客席達に挨拶しましょう?」
「そ、そうだな」
双花に促され試合開始の後ずっと盛大な歓声を起こしそして今この時には盛大な拍手をしてくれている観客の皆に一言お礼を言おうとした時それは起こった。
「くすくす、うわーぉ。ちょっと来てみれば凄いの見れちゃった見れちゃった。やっぱり僕ちんって運がいいのかな?かなぁー?」
突如として聞こえた声に今まで盛大に鳴り響いていた歓声も拍手も消えてしまっていた。声がどこからするのか探すなか双花はある一点を見つめながら呟いた。
「あなたは……」
双花が見つめる先、コロシアムを覆うドーム状の壁の上にはたくさんのフリルのついた黄色のドレスを着た若い少女がいた。
「……麒麟様?」
双花が困惑した顔で麒麟と呼んだ少女は楽しそうな思いをこれっぽっちも隠そうとせずに壁の上から一歩ぴょんっと飛ぶと真っ直ぐに双花の目の前へと向かっていた。
「とうちゃーく、ちゃーくっ」
双花の前に庇うかのように春姫と火燐が前に立つのとほぼ同時に麒麟は双花の正面に無事に着地するとドレスの端をちょこんと持ち上げてまるで貴族のような華麗な礼を披露した。
「双花様、お久しぶりでぇーすでぇーすっH•Gマスター麒麟だよー」
礼儀作法のしっかりしたその姿とは違い口調は完全にふざけていると言ってもいいほど軽い口調で挨拶をする麒麟に対してR•Gマスターであり面識のある双花やその守護者である春姫と火燐を除いた全ての人間が驚きに満ち溢れていた。
(こいつがマスター?F•Gのマスターや双花とは違い軽いというか親しみやすい奴がいるとはな)
責任など知らないとでも言うぐらいマスターという肩書きが似合わないその少女に対して双花は今だに回復していない体に鞭打って話しかけた。
「セブン&ナイツの一つのH•Gのマスターであるあなた様が一体なんのご用意なのでしょうか?」
双花の言葉を聞いて疑問に思う事があった。
それは未だに火燐と春姫が警戒を解いていないという事についてだ。
正体不明の人物が突然現れたのであれば守護者としてマスターを守るように行動するのは至極当然の事だ。しかし相手は同じセブン&ナイツに所属するH•Gのマスターだ。
麒麟がマスターだと聞いてこの二人は驚いたりはしていなかった。それはつまり面識がありあらかじめ麒麟がマスターだという事を知っていた事になる。
本来であれば仲間である麒麟に対して警戒する必要などない。しかし未だに警戒を緩めない二人を見ているとそれはまるで
「んー?用って言っても簡単なことだよぉだよぉー?それはねーそれはねーちょっとR•Gマスターを壊しちゃおうと思ってねっ」
敵対関係にあるようだった。
「春姫っ!!」
「わかっているのっ!!」
麒麟の言葉を聞いて一同が思わず唖然としてしまう中いち早く行動をする春姫と火燐の姿があった。
『水操、水牢縛』
春姫は即座に指揮棒型の法具を取り出すと麒麟を捕らえろうと麒麟を中心とした水で出来た球状の牢獄を発生させると剣を抜いた火燐が次の術を発動させた。
『心装攻式、火輪刃』
『心操、火纏刃』
燃え盛る宝剣と化した火燐の剣は水の牢獄に捕らえられている麒麟に向かって一直線に振り下ろされた。
水牢に当たった瞬間にその熱によって水牢の水が一気に蒸発して多量の水蒸気を発生させてしまい視界を奪ってしまっていた。
「くすくす、僕ちんにこの程度効くと思った?思った?甘い甘いバーカっ!!」
「くっ!?うがぁぁぁぁぉあっ!!」
明るい麒麟の声が聞こえて即座にその場を離れようとする火燐だったが突然叫び声を出してその場に倒れ込んでしまっていた。
「火燐っ!?」
自分の守護者である火燐がやられ思わず飛び出そうとする双花だったがすでに疲労がピークに達しているその体はいう事をきいてはくれずにその場に倒れ込んでしまっていた。
「マスターっ!?……まずいですの火燐っ!!火燐っ!!起きてくださいのっ!!」
自分の主が倒れて仲間でありこの中でもトップクラスの実力を持つ火燐が一瞬でそれもおそらくはたった一撃の攻撃で倒されてしまったこともあり春姫は完全に慌ててしまっていた。
水蒸気が晴れた先にいたのは明るい声から予測はしていたが完全に無傷で立っている麒麟の姿があった。
麒麟の手には法具だと思われる黄色の宝石の散りばめた杖のような物が握られていた。
「くすくす、次はあ・な・たっ」
「っ!?」
麒麟はニコニコとした笑顔のまま楽しそうにそう言うと杖を春姫へと向けた。
そしてなにがあったのかもわからずに春姫はそのまま倒れ込んでしまっていた。
「う、そ……なに……これ……」
マスターは弱々しく倒れて、そしてそのマスターを守るべき守護者の二人は一瞬の内に倒されてしまうという今の状況を見て観覧席にいたR•Gの生徒達は呆然としてしまっていた。
『心操、火速拳』
「うーん?」
呆然としている観覧席のなかから颯爽と一つの影が飛び出すとそのまま麒麟に対して攻撃をしていた。
「……あ、りす?」
渾身の拳を杖で伏せがれてしまった後双花を守るかのように前に出たのはR•Gの秘蔵っ子、Sランクの少女アリスだった。
アリスは呆然としている他の生徒達を見渡すと大きく息を吸って大声を出した。
「なにをしているのですかあなた達はっ!!私達のガーデンを守るの私達しかいないのですわよっ!!絶望するくらいなら最後まで足掻きなさいっ!!」
アリスの喝を受け、一人また一人と今の状況に絶望してしまい目の輝きを無くしてしまっていた生徒達の目に輝きが取り戻され始めていた。
「雨宮さんっ!!手伝ってくださりませんかっ!!」
「同然ですっ!!」
アリスは近くに桜がいることに気付いていたためAランクというR•G内でも上位に当たるランクを持っている桜に救援を要請すると桜は即座に返事をし抱き寄せていた結に済まなそうに目で謝るとその場に結を横にさせ二本のナイフ型法具を構えていた。
それだけではなくアリスの激励によって活力を取り戻した生徒達はそれぞれ自分の法具を取り出すと麒麟に対してそれぞれ標準を合わせていた。
「んー払う埃が増えてもさほど問題じゃないけど正直言って僕ちん掃除とかめんどくさーい、くさーい。ってことで出でよ四守者」
麒麟が杖を天に翳してそう叫ぶと天から麒麟を中心として四隅に合計四本の光の柱が現れていた。
光の柱が消えていくとその中から四人の少女が現れていた。
少女達はそれぞれ独特の格好をしていた。一人目は青い龍の刺繍のあるチャイナ服をきており、二人目は全体的に真赤で両肩から翼のようにも見える飾りのついた服を着ていたり、三人目は白を基調とした所々金色の刺繍のある着物を着ており四人目に至っては背中に亀の甲羅のようなものを背負い全体的に黒の服を着ていた。
四人は麒麟を囲うように着地すると麒麟の散の号令によって四方に散っていった。
「さーてとこれで邪魔は入らないね。えーと誰だっけ?たしか、たしか、あっそうだ思い出した。アリスちゃんに桜ちゃんに結君、そして双花様……四人の中で誰でもいいよ?いいよ?あっむしろ同時とかでもいいよ?いいよ?……始めよ?始めよ?」
「なんであたし達の名前を……」
双花の名前を知っているのはわかる。それにR•Gで数少ないSランクであるアリスのこともR•Gを壊そうとしているのであれば突起戦力であるアリスのこともあらかじめ調べているのも十分にありえる。
しかし結と桜は偶然ここにいるのであってあらかじめ調べる必要なんてない。そもそも結に至っては書類上はFランク、名前を覚える価値すらないはずだ。それなのに覚えているということは結が生十会メンバーだからなのかそれならなぜ生十会メンバーについて調べているのかその答えは
「R•GだけじゃないF•Gにも攻撃する予定ってこと?」
「んーん?なかなかお利口だね!だね!でもでもー僕ちんを止めることなんてむーりむーり。だって僕ちんは女神の加護を受けているのだからーだからー」
麒麟はニカッと魅力的な笑顔になるとその笑顔には似合わない残酷な言葉を発した。
「だからさっさと消えうせろ」
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