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8ー21 マスター会議


 六芒戦の会場である【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】全域に突如鳴り響く警戒警報。

 今の幻操師の主な敵であり、人間にとって共通する敵。

 イーターの出現を表すその音により、ガーデン内は騒乱が起きていた。


「やれやれ。困ったものだね」


 六芒戦に出場する選手たちがこの大会の間宿泊するホテル。

 その中でも各ガーデンのマスターたちが泊まっているのは最上階だ。

 最上階はスイートルームとなっているため、ずるいように思うかもしれないが各ガーデンマスターとは所属する国にとっては大事な戦力なのだ。

 人間国宝。

 それがマスターランクの幻操師たちなのだ。

 スイートルームに泊まるのはごく当たり前のことなのだ。

 そんなスイートルームの一室。

 この【幻理領域(世界)】の創造主であり、六芒戦の責任者である夜月賢一の泊まる部屋に他のガーデンのマスターを含め、合計六名のマスターが集まっていた。


「困ったじゃないわよ。ここの警備はどうなってるのかしら?」


 鋭い目付きをしてるものの、どこか暖かさを感じさせる瞳を持ち、長い黒髪を靡かせる女性。

 『モリアーティ』の二つ名を持った彼女こそ、過去に『ホームズ』の二つ名を持つ夜月賢一と競い合い、互いを高め合った女性、天雲遊佐(あまくもゆさ)


「『モリアーティ』あまり『ホームズ』を責めるものではありませんよ?」

「ねえ『ワトソン』? 私のことを『モリアーティ』って呼ぶのは止めてっていつも言ってるでしょ?」

「フフ。二人ともそう喧嘩するものではないよ」

「原因はあんたでしょ? 『ホームズ』」

「確かにそうだね。私としてもこの襲撃は推理していなかった。つまり

これは想定外のことということだよ。それは二人ともわかるね?」

「『ホームズ』。一体どうするおつもりですか?」

「そうだね。とりあえずは生徒たちの避難だね」

「そうですね。私は先に生徒たちの誘導、及び守護をしてきます」

「一人で大丈夫かい?」

「……お父様? 私はもう(いち)ガーデンのマスターですよ?」

「……そうだね」


 立ち上がった双花に賢一は微笑みかけると、双花は賢一を含め他のマスターたちに礼をすると部屋から出るべく扉に手を掛けた。


「待って双花様ー」

「どうかしましたか? 麒麟様?」


 ドアノブを回し、鍵を開けるのとほぼ同時で麒麟が立ち上がっていた。

 振り返ると麒麟は緊張した表情のまま、ふーと息を吐くとピシッとした表情になり、口を開いた。


「僕ちんも行くー」


 双花はちらりと視線を賢一に向けると、賢一は微笑みながら小さく頷いた。


「……わかりました。それでは一緒に行きましょうか」

「ほーい」


 気の抜けた返事をする麒麟に双花は少し嬉しく思いながらも麒麟と共に部屋を後にした。


「フフ。どうやら麒麟君は完全に吹っ切れたようだね」

「そのようですね」

「そういえば、麒麟ちゃんはずっと双花ちゃんのことを気にしてたわね」

「しかし、それは仕方がないことだとは思っていましたが、流石は若いだけありますね。心の成長の早いこと早いこと。驚愕です」

「フフ。『ワトソン』君。君もまだ若いだろう?」

「いえいえ。私なぞ既に老兵ですよ」

「……ねえ『ワトソン』? それって暗に同い年の私のことをおばあちゃんって言ってるのかしら?」

「いえいえ。そんなことはありませんよ『モリアーティ(・・・・・・)』?

「……『ワトソン』? 喧嘩を売ってるの?」

「いえいえ。【F•G(フォース・ガーデン)】の生徒に我が校の生徒が怪我を負わされたことについてはなんとも思ってないですよ?」

「ふんっ。うちは戦闘特化の子たちばかりだからね。ちょっと荒っぽいだけよ。幻操術の研究ばっかりしてる【S•G(サード・ガーデン)】の子が柔いのよ」

「……ほう。つまり「モリアーティ』は自分のガーデンの生徒もまともに教育出来ないと?」

「二人とも止めたまえ。君たちに喧嘩を避けるために集めたわけではないんだよ?」

「「申し訳ありませんでしたっ」」


 『ホームズ』夜月賢一。

 『ワトソン』雨里重次(あまりじゅうじ)

 『モリアーティ』天雲遊佐(あまくもゆさ)

 この三人は幼馴染なのだが、賢一の実力は三人の中でも最も高く、強いカリスマ性まで併せ持っていたため、賢一は三人の中でずっとリーダーだった。

 なによりも、幼馴染なので怒った賢一がどうなるのかを知っている。

 反省するためにまるまる一日間正座を強要されたの今となっては懐かしい。


(重次、今は休戦よ)

(わかっています。もう正座は勘弁です)

(……そうよ。あれ、最初は痛いくせに、途中から痛みがなくなってホッとしたと思ったら……)

(……動かなくなってるんですよね……)

(いつも動くものが動かなくなる恐怖。あれは想像を絶するわね)

(そうですね。つまり、わかることは)

((『ホームズ』を本気で怒らせてはいけないっ!!))


 賢一に見えないように、二人して頭を下げた状態で、ウインクによる会話『瞬話(しゅんわ)』で相談した二人の思考はこの時完全に一致していた。


「さて、少し外が騒がしくなって来たね……」


 賢一は立ち上がり、窓辺に移動すると外の様子を眺めながら小さく呟いた。


「織斗。行こうか」

「……了解です」


 賢一はこの会議の中ずっと言葉を発さなかった同志に視線を向けるといつも常備装備している微笑みをふっと一瞬強めた。


「君たちはここで待機。必要と己での判断次第で好きに動きたまえ」

「「了解です」」


 賢一は織斗を引き連れ、部屋を出る時に部屋の中に残る二人にそう指示を出すと、織斗と共に部屋を後にした。

 賢一と織斗が部屋を出た後、部屋には静けさが戻っていた。


「ねえ。重次(・・)

「なんですか? 遊佐(・・)


 先に口を開いたのは遊佐だった。

 真剣な表情で『ワトソン』とではなく、本名である重次と呼ばれたことで、重次の中に緊張が走った。


「織斗って、いつから【S•G(セカンド・ガーデン)】のマスターになったのかしら?」

「……確か、先代マスターが急病で倒れてからですね」

「急病ってなんだったの?」

「……さあ? そこまでは知らないですね」

「……そう」


 遊佐はそこにはいない人物のことを思いながら、扉の先を睨みつけていた。

 未だに不調……。

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