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8ー20 久し振りの音

「はぁー」


 結が突然いなくなったという情報から既に半日が経っていた。

 第三競技の【リターンフェアリー】は既に全試合が終わっていた。


「桜ちゃん? 大丈夫ですかぁー?」

「あー。真冬ちゃん」


 休憩室でため息をついていると、真冬がトテトテとやってきた。


「大丈夫ですかぁー?」

「うん。大丈夫」


 心配そうにしている真冬を安心させるために、桜は笑顔をつくるもののいつもの笑顔のようにはいかず、逆に真冬の心配を促進させてしまっていた。


「試合で疲れちゃいましたか?」

「あはは。それなら真冬ちゃんもでしょ?」

「おややー? 我らがチームメイトのエレガントガールズ!! こんなとこでどしたのー?」


 やってきたのは今日の競技でチームメイトだった少女。

 ハイテンションが売りの自称みんなのアイドルことアイリスちゃん。本名、宮地愛理だ。


「あっ、愛理……」

「違うってばぁー。あたしはみんなのアイドル、アイリスちゃんっだよ?」

「あはっ。ごめんごめん」

「試合中もなんだがおかしいしさぁー。どうかしたのかい?」

「んー。また、ちょっとね」

「……あっ、そか。音無くんって生十会メンバーだったよね」


 アイリスは二人の前、机を挟んで向かい側に座ると、あっと思い出し、少し気まずそうに頬を掻いた。


「うん。そっ」

「仲間が突然いなくなっちゃったんだもんね。仕方ないか」

「……うん」

「……さ、桜ちゃん?」


 言おうか言わないか、真冬は悩んでいた。

 アイリスのことを一番知っているのは桜だ。だから真冬は桜に判断を委ねることにした。

 桜の顔色をのぞきながら、真冬はできるだけ平静を保とうとするが、明らかに普段とは違う真冬に、アイリスはぎらりと目を光らせた。


「……なんか。あるみたいだね」

「……うん」

「桜ちゃん?」

「真冬ちゃん。大丈夫。アイリスはいい子だよ。それに、元々は生十会に呼ばれてたしね」

「えっ? そうなんですぅー!?」

「あ、はは。ま、まあねー。昔に一度だけだけど」


 アイリスは恥ずかしそうにうっすらとピンク色になった頬を掻いていた。


「生十会メンバーに呼ばれたってことは、実力だけじゃなくて人柄も会長さんに選ばれたってことですよねぇ」

「まっ。そういうことだね。会長、ああ見えて人を見る目はあるし」

「い、いやぁー。そんなに言われるとて、照れちゃうよ」


 ほんのりどころではなく、頬を真っ赤に染めると、アイリスは頭を撫でていた。


「それで、桜? なにがあったんだい?」


 急に真剣な表情になったアイリスに、桜たちも真剣な表情になった。


「なんか、会長たちがいないんだよね」

「えっ? 神崎さんが?」

「そう。それに、六花も……」

「……生十会の会長、副会長共に不在ってこと? なんで突然?」

「……わかんない」

「でも、状況から考えると……」

「……うん。ゆっち関係だろうね」

「ゆっち? あっ、音無くんのことかな?」

「そうですぅー」

「んー。でも、あたしもやっぱりそうだと思うなー。それに、会長と副会長、そんで音無くんの三角関係って噂されてるし」

「「えっ!?」」

「えっ、ちょっ。二人とも? 食いつき過ぎじゃない?」


 二人揃って机の上の乗り出してきたことで、アイリスは目を見開いて驚いていた。


「いや、なにその噂!? あたし初耳だよ!?」

「そ、そうです! 真冬もそんな噂聞いたことないです!」

「二人共とりあえず落ち着こっ!? ドードー」

「うぅー。それで、なんなのその噂」


 アイリスに言われ、渋々席についた二人に、アイリスは話し出した。


「なんか、柊副会長って基本的に無表情でしょ? 男子たちの間じゃそれがいいらしいんだけど、音無くんの前だと表情が変わること多いし、神崎会長は柊副会長が誰かと一緒にいると不機嫌そうにしてるって目撃情報が……」

「ちょ、ちょっと待って!? まさか、その三角関係ってゆっちを巡ってじゃなくて……」

「え? うん。柊副会長を巡っての三角関係だよ?」


 そんな当たり前のことを、とでも言いたげな顔で言うアイリスに二人は愕然とした。


「……えーと、なんでそんな話に?」

「だーかーらー。神崎会長と柊副会長がラブいみたいな?」

「いやいや、それはいろいろおかしいでしょ!?」

「えー。そうかなー? 美少女かける美少女とか最高だと思うけど?」

「な、なんか……。アイリスの知っちゃいけない趣味を知っちゃったような気がする……」

「そ、そうですぅー」


 二人が苦笑いを浮かべる中、アイリスはさぞ愉快そうにえへへと笑っていた。


「まー。噂は横に置いといてー。二人は本当のところなんだと思う?」


 笑顔から急に真剣な表情になったアイリスに、二人もつられるようにして真剣な表情を浮かべた。


「うん。冗談抜きでゆっち関係だろうね」

「真冬もそう思うですぅー」

「ふーん。やっぱそっかー」


 アイリスは考え込むように顔を伏せると、小さく頷き顔を上げた。


「よし。ちょっと望月さんの所に行ってみよっか」

「ふえ? どうして楓ちょんのところですぅ?」

「んー。なるほどねー。あたしもそれ賛成だね」

「ふえぇ? 桜ちゃんもどうしてですぅー?」

「ちっちっちっー。マフッチよく考えてみ? 最近のあのふったっりぃー」

「うっ。た、確かに最近なんだか……」

「よしっ! それじゃー望月さんのとこにゴーゴーだねっ!」

「おー!」

「お、おーですぅ」


 元気よく片手をあげて先頭を進むアイリスを、桜もまた両手をあげて元気良く、真冬は片手をあげながらも少々恥ずかしさがあるのか、ほんのり赤く頬を染めて追い掛けていた。






「なんでいないのさーっ!!」


 数十分後。桜たちは再び休憩室にいた。

 テーブルの上でいつも楓がなっているようにグデーっと、まるでスライムのようにとろけながら桜は文句を叫んでいた。


「あららー。こりゃもしかして望月さんも神隠し?」

「でもさー。いつからー?」

「試合の時は観客室にいたと思うですぅ」

「んー。そういえばあたしも見たね。黒髪ロングの眠たそうにしてた()でしょ?」

「そーそー。それそれ」

「い、いつも眠たそうにしてるはちょっと失礼だと思うですよぉー?」

「でも事実じゃん」

「ひ、否定出来ないですぅー」


 真冬は楓の姿を思い描いてみるのだが、何回脳内で描いてもそこ映る楓は欠伸と共に涙目でいる姿だった。


「でしょ?」

「んー。でも、望月さんもどこいったんだろうね?」

「……どうしたの?」

「おっ? 柊副会長と肩を並べるクールガールっ! 宝院陽菜ちゃんじゃないですかっ!!」


 ふと現れたのは生十会のクールガールこと、陽菜だった。

 陽菜を見つけるや、アイリスのテンションがいよいよやばいことになっているのだが、これはもう救いようがないかもしれないな。


「あっ。陽菜ちゃんですぅ」

「……真冬。何かあった?」

「はいですぅー。結さんに続き、会長に六花ちゃんに楓ちゃんまでもいなくなっちゃったですぅー」

「……楓も?」

「あれ? もしかして楓見た?」


 楓の名前をつぶやきながら首を傾げる陽菜に聞いてみる桜だったが、どうやらビンゴのようだ。

 陽菜は首を縦に振っていた。


「おっ。縦に振るってことはそうってことだねっ」

「……ねえ。今、宝院さん首振った?」

「ふえ? はい、振りましたけど……あっ、陽菜ちゃんの頷きは慣れてないとわからないですよねぇー」

「そ、そういうもの?」

「そーそー。付き合いが長くなれば自然とわかるようになるって」


 笑いながらそう言う桜に、アイリスはそうかなーっと疑問に思いつつも、今はいいかと思い横に置いた。


「それで、楓のことどこで見たの?」

「……部屋」

「部屋? 自室のことですかぁー?」

「部屋なら行ったけど、いなかったよ?」

「……違う」

「じゃーどこ?」

「……私の部屋」

「へ?」

「……私の部屋で寝てる」

「なんで陽菜の部屋で?」

「……遊びに来た?」

「なんで陽菜まで疑問系なの?」

「?」


 何故かテコッと陽菜までも首を傾げていたため、桜がツッコムと陽菜は反対側にテコッと首を傾げていた。


(うわー。これ、無限ループって奴だー)


「ほら。陽菜の部屋行くよっ」


 これ以上陽菜に聞いても無意味だと悟った桜は、ため息をつくと三人を連れて陽菜の部屋へと向かった。


 陽菜の部屋に向かっている途中。

 それは起きた。


「ちょっ! この音って!」


 サイレンにも似たその音。

 【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】全体に鳴り響く耳に残る鋭い音。


「なんでまたイーターが出てくるのさっ!!」


 イーターの出現を知らせる緊急警報だった。

 ただいまです。

 一日空けます。

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