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8ー18 失うことで強くなるらしい

 今日からは本編です。


 【F•G(ファースト・ガーデン)南方幻城院なんとうげんじょういん】から数時間は移動しなければたどり着かないような距離にある森の中で、連続的に爆音が響いていた。

 大きな音のことを爆音と言うが、今はそういう意味じゃない。

 本物の、爆発音だ。


「ちっ!!」


 森の間を駆ける影が一つ。


「……面倒」


 いや、二つあった。


「陽菜っ! 油断するなよ!」


 森の中を高速で移動しながら隣にやってきた陽菜にそう注意した楓は、視線を後ろに向けた。


「がががぁぁぁぁあっ!!」

「ワォ。理性がないってことは旧型っぽいな」

「……楓。あれなに?」


 逃げ回る二人を追い掛ける大きな影。人の形をしているそれは人としては明らかに大きく、動くたびにガシガシとか、キンキンだとか、嫌な金属音が響く。


「あれか? あれは昔に闇ガーデンの間で作られてた対幻操師の戦闘兵器。『幻攻機兵(げんこうきへい)』。文字通り、幻操師を攻撃するための機械兵器だ!」

「……なんでそんなのがいるの?」


 問い掛けながら視線を後ろに向けると、そこにあるのは全長三メートル程の人間と比べれば十分に巨大な人形ロボット。

 両腕は嫌な音を立てながら回転し続けるチェーンソウ。背中に装備されている二つの大型ジェットによる推進力はとてつもなく、こちらは木々のせいで動き辛いという悪条件があり、向こうは木なんてへし折りながら進んでいるため、直線では二人よりもスピードは上だ。

 しかし、だからといって小回りが利かないわけではなく、脚には無数バーニアエンジンが装備されており、何度も直角に曲がったりしているのだが、多少スピードは落ちるもののしっかりと追って来ている。

 両腕のチェーンソウとそのスピードだけでも厄介だというのに、こいつにはさらなる装備もあった。


「来るぞ!」

「……危ない」


 背後から飛んで来たのは弾丸なんてものじゃない。

 弾丸よりも早く、高威力。楓の感知力が無ければ当たってしまっていたであろうそれを、陽菜は無表情で睨み付けた。


「……圧縮粒子砲なんてズル」


 背中に背負っている大型パーツから肩の上で固定されている二つの巨大な銃口。背負っている大型パーツの内部で機体内部にある幻力を高速回転させ加速させていき、十分なスピードになるとそれを発射する。

 圧縮粒子砲というよりも、圧縮幻力砲だ。


「さすがにこれ以上逃げ回るのは面倒だな」

「……壊す?」

「……いや。力技はだめだ」


 苦無(くない)を取り出して眼つきを鋭く陽菜を楓は止めた。

 陽菜は首をこくっと傾げるものの、反論することなく「わかった」と返した。


「あの幻攻機兵(げんこうきへい)は色々タイプがあってな、大きく分けると二つある」

「……二つ?」

「そうだ。具体的には理性の無い旧式タイプ。それと理性のある現式タイプ」

「……理性? ロボットに意識がある?」

「そういうわけじゃない。あれの中には人が入ってるんだ」

「……!」


 あのロボットの中には人が入っていると聞いて驚く陽菜は、楓の顔を見て嫌な予感がしていた。

 楓の表情。静かだけど、それは確かに怒っていた。

 そして陽菜は理解する。


「……無理やり?」

「……そうだ。何故旧型に理性がないのか。それはこれの原型が人の命を動力源にしていたからだ」


 人の命を動力源として動く兵器。

 命をかけた幻操師の強さは計り知れない。心の強さ、意志の強さ、覚悟の強さがそのまま戦闘能力に直結するからだ。

 それを無理強いする兵器。それは、あまりにも非人道的な兵器だった。


「……酷い」

「……ああ。新型では命じゃなくて幻力を使うだけだから組織のものがそのまま乗り込む。無理やりじゃないから中で気絶させておくこともないから意識が、つまり理性がある」

「……どうする?」

「中にはきっと敵とは関係ない奴が無理やり乗せられているんだろうな。救出するぞ」


 命を吸って力とする兵器。

 コントロールは機械で出来るのだ。ならば、わざわざ中に仲間を入れる必要はない。

 敵をあるいは何も知らない一般人を気絶させ、中に入れる。

 一般人を動力源にして、コントロールは遠距離から、または自動操作だ。

 だからこそ、楓は怒っていた。


「……失われた光(ロストブレイズ)新真理(リトゥルース)だったか? どちらにせよ、もう許さん」


 楓は木の側面に着地すると同時に蹴った。

 ずっと逃げていたにもかかわらず、突然自身に向かって飛んできた楓に、幻攻機兵(げんこうきへい)はチェーンソウが装着それている腕を振り下ろす。


「おっそい!」


 座標指定で小さな足場を一瞬にして作り出した楓は、その足場を使って振り下ろされるチェーンソウを紙一重で躱し、すれ違い様に突撃の最中に作り出していた『氷結=刀』を一閃する。


「ガガガッ!」


 腕を斬り落とされたことでエラーが発生したらしく、口に内蔵されているスピーカーから、まるで悲鳴かのように音がもれた。

 重い音を立てて落ちたチャーンソウを幻攻機兵(げんこうきへい)は一瞥すると、怒ったかのようにもう片方のチェーンソウを振り上げる。


「……相手は楓だけじゃない」


 振り上げられたチェーンソウの真横に突如として現れた陽菜は、苦無に電気を纏わせるとそれをチェーンソウに向けて振るう。


 ギギギギギンッ!


 回転する刃と苦無がぶつかり合い、たくさんの火花が散る。

 チェーンソウと苦無。普通に考えればチェーンソウが勝ちそうだが、ここは【幻理領域】。そんな常識は通用しない。


 ギンッ


 甲高い音が鳴り響き、地面に何かが突き刺さる。

 その音とともにチェーンソウと苦無による鍔迫り合いは終わり、陽菜は近くの木々の枝の上に着地した。


「……」


 陽菜はチラリと自分の武器である苦無に視線を向ける。

 そこにあるのは酷く刃(こぼ)れをしている苦無だった。

 舌打ちと共に陽菜は視線を今度は地面へと向ける。


「ナイスだ陽菜っ」

「……ん」


 地面に突き刺さっているのはチェーンソウだった。

 楓は陽菜の隣に着地すると賞賛の言葉を掛けた。


「……でも武器をダメにした」

「あたしとしては良くそんな普通の苦無でチェーンソウに勝てたなって聞きたいんだが?」

「……気合い?」

「気合いって……」


 首をコクッと傾けながら言う陽菜に、楓は苦笑いを浮かべていた。


「来るぞ!」

「……ん」


 急に真剣な表情になった楓の言葉に、反射的に飛び上がる。

 その後、ほぼノータイムで二人がいた枝、いや、木そのものが吹っ飛んだ。


「そーいや。あれがあったな」


 空中で楓が鋭く睨む先にあるのは幻攻機兵(げんこうきへい)の肩から伸びる二つの銃口。

 圧縮幻力砲だ。


「ちっ!」


 さっきまで背中の大型ジェットを使った突撃ばかりしていたのに、両腕のチェーンソウを失ったためなのか、この度はバーニアを使って上手く木々の間に身を隠すという器用なことをしながらも、何度も肩の圧縮幻力砲を連射してくるという、とても厄介な戦術を取るようになっていた。


「! 陽菜っ!」


 陽菜は感知タイプではない。

 今までは楓の掛け声や、目視で常に銃口から体を外すことによって避けていたのだが、木々に隠れられ、見失った後の後ろからの不意打ちには反応が間に合わなかった。


「……!」


 楓の叫びに陽菜は何かしらの防御をしようとするが、無慈悲にも陽菜を中心に爆発が巻き起こった。


「陽菜ぁぁぁぁぁあっ!!」


 森の中。楓の叫びがこだましていた。


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