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XーXー2 クリスマス特別企画そのいちぃ(後編)


「こ、こんなの屈辱です……」


 憂鬱な表情を浮かべる六花。

 嫌がる六花の制服を剥ぎ取り、無理やり紙袋の中身を着せることに成功した会長は、満足そうにホクホク顔をしていた。


「うー。まだ六花はいいじゃない。ワンピース型のサンタ服で」


 顔を赤くしながら呻く桜は、最近また成長したらしい胸元を強調するようなサンタ服を着させされていた。

 六花は上と下で分けられていない、ワンピースタイプのサンタ服なのだが、


「……桜や真冬と比べれば露出は少ないですが、これは……」


 いつもクールな六花には珍しく、憂鬱そうにしながらも顔を赤くし、ずっとスカート部分を引っ張っておさえていた。

 六花のサンタ服は、おへそが出ていない代わりに、桜や真冬と比べても、さらにミニミニのミニスカートになっていた。


「これ、サイズが合ってないんじゃないですか?」

「あはは……会長のことだからわざとだと思うよ?」

「いえ、スカート丈ではなく、こっちです」


 そう言って六花は組んだ腕の上にある、二つの山を腕で揺らした。

 特盛りとまではいかないが、中学生としては明らかに大きい方であろうそれは、キツそうに自己主張をしていた。


「少し、呼吸が苦しいですね……」

「……なんか、ムカつく」

「そういう桜だって、大きい方だと思いますよ?」

「ふんだ! 駄肉で苦しむがいいわっ!」


 不機嫌そうにそう言う会長は、ちらりと視線を下に向けると、さらに不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「……はぁ。まったく苦しいですね。それに比べ、会長はいいですね? 楽で」

「ちょっ、六花? 油注がないでくれる!?」


 会長の言葉には特に反応を見せなかったのだが、振り返り、視界にいれた瞬間、六花も六花で笑顔なのだが、あまりにもわざとらしく不機嫌だということがわかる。


「喧嘩はだめですぅっ!! 会長さんのサンタ服が普通だからって怒らないで下さいですっ!」


 六花が不機嫌になった理由、それは会長の服装だ。

 ここにいるのはみんな会長が持ってきたサンタ服を着ているのだが、みんなどこか露出が多かったりとしている中、会長ただ一人は普通のサンタ服を着ていたのだ。


「むっ。あたしだってみんなと同じミニスカサンタよ?」

「……そうですね」


 六花はため息をつくと、いろいろ諦めていた。


「……おい。あたしはさすがに怒るぞ?」

「なになにー? 楓は一体どん……なっ!?」


 生十会室の端から繋がる物置部屋。みんかそこで一人ずつ着替えていたのだが、最後の一人である楓が出てくると同時に桜は驚きで叫び声をあげていた。


「ななな、会長!? あれはさすがに……」


 頬を染めるどころか、完全に真っ赤にしている桜の指の先にいる楓。

 その格好はズバリ、


「さすがにってなによ。ただのビキニサンタでしょ?」


 下は一応ミニミニだがスカートをはいている。しかし、上のそれはどっからどう見てもただの下着……いや、水着と言うべきか。

 赤地に白ということで、サンタっぽくはあるのだが、明らかに季節外れな格好だ。


「楓、寒くないですか?」

「ん? ああ。寒いぞ?」

「これは……楓が怒るのもしかたないよ……」

「そうだ会長。あたしは今起こっている」

「ひっ」


 鋭いを目をした楓に、会長は若干怯えていた。


「ご、ごめんなさいビキニはさすがにやり過ぎましたっ!!」

「違うっ!!」

「……へ?」


 怒った楓が怖いということは既に嫌になるくらい知っている。

 そのため、本格的に楓の逆鱗に触れる前に、謝って少しでも怒りを中和させようとしたのだが、予想外の反応に変な声を漏らしていた。


「えーと楓さん?」


 思わず敬語になってしまうほどに動揺している会長は、頭を下げたままちらりと楓の顔を覗き見た。


(めっちゃ怒ってるわよー!!)


 その顔を見ると同時に会長は視線を下に戻した。

 その顔からは多量の冷や汗が流れていた。


「会長?」

「は、はい……」

「なんで?」

「ふ、服の件はおふざけが過ぎました。反省しています、誠に申し訳ありませんでしたっ!!」


 一旦頭を上げ、再度下げる会長。

 この際プライドなんてクソくらいだ。そんなもの近所の犬にくれてやろう。この時の会長はそんな思いでいた。


「だから、違うって言ってるだろ?」

「そ、それなら何が……」


 再びちらりと楓の顔を覗き見る会長。

 ……はい。真顔が怖いです。


「何が? そんなの決まってるじゃない」


 うつむき、両手を強く握り締めてプルプルさせている楓は、ばっと顔を上げると、大声で叫んだ。


「なんで結がいないんだよ!!」

「「「「「……は?」」」」」


 この叫びには陽菜さえも反応していた。


「ちょ、か、楓!? なんでここの結が出てくるのよっ!」

「ま、まさか楓。その姿をゆっちに見てもらいたいってこと?」


 今の楓の格好はほぼビキニと言ってもいい。それをわざわざ男子に見て欲しいとは……最近の中学生はなかなかにませている。


「ち、違う! そういう意味じゃない!」


 自分のセリフが他からどう思われているのか遅れて理解した楓は、顔をボッと火がついたかのように真っ赤に染め上げると、腕を組んで視線を逸らした。

 ……ちなみに、腕を組んだことで二の腕に挟まれたそれは、ビキニのようなサンタ服を着ているということもあり、谷がすごいことになっていた。


「あたしはただ、ルナたちのミニスカサンタ姿を見たいと思っただけだ……」

「……あっ」


 生十会の女子メンバーはここにいる六人だけなのだが、男子メンバーの一人、音無結。

 彼の能力『ジャンクション』は他人を己に接続、ジャンクションすることによって、戦闘能力を飛躍的に上昇させることが出来る。

 この『ジャンクション』には幾つものバージョンがあり、その中には姿さえも接続するものがある。

 結を介することによって、『カナ』『ルナ』『サキ』『ルウ』という、通称『四人の女神』を顕在させることが出来る。

 『四人の女神』は皆違う戦闘能力を持ち、違う武器を持ち、違う属性を操るのだが、その容姿もてんでんばらばらだ。

 長い赤髪をサイドで括り、燃えるような赤い瞳を持った『カナ』

 水色の長い髪をそのまま背中に流し、邪気を洗い流されるかのような水色の瞳を持っている『ルナ』

 緑がかったセミロングの黒髪に、翠色の瞳を輝かせる『サキ』

 長い茶髪をポニーテールにし、茶色の瞳を輝かせ、四人の女神の中で最も知的で、高い力を秘めている『ルウ』

 皆個性があった可愛らしく、美しい少女そのものだ。


「た、確かに見たい……わね」

「ちょっ会長!? 本気!? ゆっち絶対拒否るよ!?」

「最悪順番に『フルジャンクション』して貰えばいいじゃない」

「それはもっと嫌がりそうですぅー」


 楓の意見を肯定する会長に、桜と真冬は苦笑いを浮かべていた。

 でも、正直見てみたいと思う二人だった。


「……脅す?」

「陽菜。それ怖過ぎっ!」


 真顔で苦無を取り出した陽菜に、桜は顔文字で良く出てくるような、間を無くせばバッテンになる目のようになっていた。


「……そういえば、陽菜も陽菜でその服に抵抗ないんだねー」

「……うん」


 陽菜が着ているのもモチロンサンタ服だ。

 しかし、他のメンバーがスカートなのに対して、陽菜だけはズボンだった。

 とはいえ、その丈はやっぱりと言うべきなのか恐ろしく短く、これまたわざとなのか、上はまるでお風呂上がりでバスタオルを巻いているかのような形になっており、両肩は完全に露出し、山が小さいため本来なら谷は見えないのだが、ずり落ちないようにキツく締められているため、寄せられており谷の上部がちょっぴりのぞいている。

 後ろはまるでドレスのようにぱっかり空いており、綺麗な白い肌が眩しい。

 いつも巻いているマフラーも専用に用意されているらしく、いつものマフラーではなく赤と白のサンタバージョンだ。

 仮称、バスタオルサンタはバストはキツくなっているものの、丈としては長めになっており、ズボンがミニミニ過ぎることもあり、ぱっと見、バスタオルだけのようにも見える。


「……ある意味。陽菜のが一番エロティックだよねー」

「ひ、否定出来ないですぅー」

「……見ないで……」


 桜が文字通り舐め回すかのように陽菜の全身を見続けていると、さっきまで平気そうにしていたのだが、羞恥が芽生えてきたらしく、陽菜にしては珍しく頬をうっすら夕陽色に染めていた。


「ほう。どうやらみんな乗り気のようだな」

「あたしは嫌だよ!?」

「ま、真冬も反対ですぅ」

「へー。じゃあ二人は帰っていいぞ? あとはあたしたちだけで楽しむから。なー会長ー」

「そうね。結のあんな姿やこんな姿が見たくないのにそれを無理やり手伝わせるわけにはいかないわ。その服はあげるから帰ってもいいわよ?」


 楓のアイコンタクトを受け取った会長は、帰るなんて許さないわ、というセリフを飲み込み、ニヤニヤと笑いながら言った。


「……うっ」

「悩むなら帰れーですぅー!!」

「真冬ちゃん!?」


 いつの間にか真冬は楓サイドに移動していた。

 そんな真冬に桜は驚くものの、ため息をつき、


「わかった。手伝うよー」

「流石は桜ね。物分りがいいわ。……アホの子のくせに」

「誰がアホの子だぁぁぁぁぁあっ!!」


 両手をあげて叫ぶ桜。

 その姿は可愛らしいのだが、どこかアホっぽい。


「あれ? 楓はさっきから何を弄ってるですぅー?」

「ん? ああ、ただの携帯だよ」


 携帯。ここでの携帯とは【幻送受機(げんそうじゅき)】という法具だ。

 電気ではなく、幻力で動いているという点を除けば、その機能は【物理世界】の携帯電話とまんま一緒だ。

 結にサンタ服を着させたいと言い、それに会長がノッたあたりから、ずっと携帯を弄っている。


「誰と連絡とってんの?」

「ん? 気になるか?」

「えっ……ま、まぁ?」


 ニヤリと笑う楓に桜は疑問調になっていた。


「結だ」

「……へっ?」


 ずいぶんタイムリーな相手と連絡をとっているなーっと思う桜だが、相手は楓だ。嫌な予感が頭を過ぎた。


「そろそろだな」

「まさかっ!!」


 携帯に視線を落とし、静かにつぶやいた楓の言葉に、桜は顔を真っ赤にすると扉へと振り向いた。

 その瞬間。

 ガチャリと音を鳴らし、扉が開いた。


「え!? あたし鍵閉めたわよ!?」

「あたしがさっき開けといた」

「なんで!?」


 一人だけ普通のミニスカサンタなのだが、この姿はどうであれ、ぶっちゃけただのコスプレだ。

 何故会長が男子メンバーを呼ばなかったのか、そんな理由単純だ。

 男子にこの姿を見られるのが恥ずかしいから。

 それに、女子メンバーだけなら、多少露出が多く、エロティックな衣装でみんな恥ずかしがりながらも、なんだなんだ言って着てくれると思っていた。

 会長がこんなエロティックな衣装を用意したのはそこに男子の目がないと言う前提があったからだ。

 だから扉も鍵を閉めていたのだが、それを楓が開けていた。

 会長の顔は男子に見られるかもしれないという羞恥から真っ赤に染まり、こんなあわれもない姿を男子たちに見せることになる他のメンバーたちを思い、蒼白になった。


 他のメンバーも突然扉が開こうとしているのを見て、顔を真っ赤染め上げていた。

 ただ一人、楓だけは楽しそうに笑っていたが。


「なんだ楓? 用っ……てっ?」


 山梨の方言でえっ? のことをてっ? と言うらしいのだが、まさしく彼の心は「えっ?」っでいっぱいだった。


「おっ。ナイスタイミングだな結」

「か、楓!?」


 現れたのは、結だった。

 楓にメールで生十会室に来いと呼び出され、来てみるとそこに広がっていたのは合計六人のサンタ。

 それも、みんな普通のサンタコスではなく、改造しているのかエロティックな衣装となっていた。

 思わず固まってしまう結だが、楓に呼ばれ、楓に視線を向けると、叫んだ。

 望月楓。

 そこらへんにいるアイドルなんかよりも数倍、いや数十倍は可愛らしく、スタイルだって中学生ながら大抵のモデルも泣いて逃げるレベルだ。

 Dカップはあるであろう二つの山に、見ていて気持ち悪いと思わないくらいのくびれ。

 最早芸術の域で美しいバランスの取れている体型を一切隠さないビキニサンタという格好によって、フリーズしていた結の思考は覚醒し、一瞬にして顔を真っ赤に染め上げた。


「ななな、なんで結がいるのよ!!」

「あたしが呼んだ」

「か、楓! どういうつもりなのさーっ!!」

「そそそ、そうですぅっ!! やっていいイタズラと、悪いイタズラがあるですぅっ!!」


 結の登場で固まっていたのは何も結だけじゃない。

 女子一同も楓を除いて固まっていた。


「エスケープっ!!」

「逃がさんっ!!」


 みんなの注意が楓にいっている間にこの場から立ち去ろうとする結だったが、後ろを向くと同時に腕を掴まれていた。


「かかか、楓さん!? 手を離してくださいませんか?」

「結。なんで敬語なんだ? それと、こっちを向け」

「……全面的に拒否します」

「……そうか。なら」


 ぷにゅり。

 背中に何やら柔らかくて、弾力のある二つの何かが触れた。

 ……はい。アレしかないですごめんなさい。


「楓!?」

「視覚が嫌なら触覚で奉仕してやるぞ? ご主人様」


 甘ったるい声で囁く楓に、今の楓がどういう格好なのか、既にバッチリ見てしまい、知っている結は背中に触れる気持ち良い触覚や、この通常ならありえないような格好をしている女子たちに囲まれているというシチュエーションのせいで、荒ぶる気持ちをおさえきれなくなりそうになっていた。


「なんなら……してやるぞ?」

「!」


 ニヤリとさらに続けた楓の言葉に、結の我慢は限界に達していた。


「おりゃっ!!」


 楓の腕を振り払うと、結は両手の平を合わせた。


 『幻体接続(フルジャンクション)=結花』


 変わる瞬間。結は確かに見た。

 まるで、計画通りと言わんばかりにニヤリとした笑みを浮かべる楓を。


「……やられましたね」


 『幻体接続(フルジャンクション)』が完了し、長い金髪を靡かせ、黄金の光をその瞳に宿した美少女へと変貌した結は、ため息を一つ。


「イタズラが過ぎますよ? まったく、結の時に下手に性的興奮を与えないでください」

「あはは。まあまあ。ならなかったからいいじゃん」

「……はぁー。もういいです」


 まったく悪びれる様子がない楓に、結は諦めるようにため息をついた。


「それで? わざと私にジャンクションを使わせた理由はなんですか?」


 結は楓に……ではなく、会長の方に振り向くと、そう聞いた。


「えっ? え、えーと」

「やっぱり、私たちを呼んだのは楓の独断だとしても、みんなグルですか。……いいですよ、怒らないので言ってみて下さい」

「あ、はは。やっぱり結花は結より数倍心が広いわね」

「サモンじゃなくてフルですので、後で覚えておいてくださいね?」

「……えっ……」


 気まずそうに苦笑する会長に、結は無表情のままそう淡々に語ると、会長は顔を真っ青にしていた。


「結花。これ着てくれないか?」


 楓は会長が予備として持って来ていた他の紙袋を拾うと、それを結に差し出した。


「これは?」

「ただのサンタ服だ」

「……ただの?」


 結は楓にジト目を向けた。

 つま先から頭に向けて、視線を巡らせる結だが、今の楓の格好。それに、他の女子メンバーたちの格好を見て、結は疑問符を浮かべていた。


「……これ、フルっていいましたよね?」

「そうだな」

「……私たちの能力がどういうものかもうわかってますよね?」

「当然だ。この数ヶ月間でほぼ全て話して貰ったからな」

「それなら、今楓の言っていることがどういうことなのか、わかっていますか?」

「わかってるが?」


 フルはあくまで容姿と性格を接続するだけであって、そこにいるのは結花ではない。結なのだ。

 つまり、これは結にミニスカサンタ服を着てと言っているに等しい。

 楓はそれをわかった上で結花が何を言っているのかわからないとでも言いたげに、首を傾げていた。


「……はぁ。こうなったら身代わりを提供するとしますか」


 楓が意見を変えるつもりが全くないと見るや、結はため息と共に妥協案を提示した。


「身代わり?」


 楓の眉がピクリと動いた。

 結はその時ため息をついていたため、それを見逃してしまっていた。


「彼女たちに着せてあげてください」


 結がそう言って両手を合わせると、ジャンクションを発動した。


「それでは」


 結はそう言い残すとさっさと部屋を出て行った。

 ちなみに、何故かその後、生十会室からは一○名の声が聞こえてきたらしい。




    とぅーびぃーこんてにゅぅ?

 以上。クリスマス特別企画でした。

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