XーX クリスマス特別企画そのいちぃ
本編じゃないです!
「クリスマス記念特別企画ぅー!!」
いつもの……というには、いた回数があまりないのだが、そんな生十会室に集まった生十会メンバー……の一部。
「会長? 一体なんですかこの集まりは……」
なにやらテンション高く宣言した会長こと神崎美花に冷めた視線を送りながら、ため息をつく銀髪ロングのクールな少女こと柊六花。
「ねー。いきなり呼び出されたわけなんだけど、これなに? 茶番?」
ちゃんと着席しているしているものの、両手を頭の後ろで組んでリラックスしている元気っ子こと、雨宮桜。
「え、えーと、クリスマス記念って言っていましたし、何か生十会でやるですかぁー?」
胸の前で両手をもじもじさせながら、どこか小動物を思わせる少女、日向真冬。
その長い銀髪は六花のそれが少し青み掛かっているのに対し、汚れのない雪のように真っ白だ。
「ねえ。帰っていいか?」
机の上に上半身をダラーとさせながら、会議が始まって早々に帰りたいと宣う、長い黒髪の美しい少女こと、望月楓。
「……駄目」
六花以上に表情が変わらずに、淡々と短く言葉を発した常時マフラー装備の黒髪ポニーテールの少女、宝院陽菜。
この六名こそ、この【F•G】中等部二年生十会の女子メンバー一同だ。
「それで会長? どうしてわざわざ女子メンバーだけを集結させたのですか? 今日は会議は無いはずなのですが……」
「ええ。みんなをここに呼んだ理由は他でもないわ」
一旦言葉を切り、静かに立ち上がると腕を組み、目を瞑った会長はバッと目を見開くと同時に大声で宣言した。
「女子会をやるわよっ!!」
「「「「……え!?」」」」
陽菜を除いた他のメンバー全員が驚きの声をあげている中、会長はふふんっと笑いながら続ける。
「真冬ちゃん。今日は何日かしら?」
「ふぇ!? ま、真冬ですか!? え、えーと、今日は確か一二月二四日です!!」
「正解よっ」
会長は深刻そうな表情で真冬を指差し、質問をすると、答える同時にハイテンションに両手で大きく丸を作った。
「なら、今日は一体何の日かしら? はい、桜っ!」
「えっ……あたし!? 今日って、クリスマスイブでしょ?」
「ザッツライトっ!!」
今度はその場でクルッとターンをした後に桜を指差した。
明らかにいつもと違う会長に困惑しながらも、桜が答えると、今度は大声で叫んだ。
「……なあ。会長は大丈夫なのか?」
「……さ、さあ? 流石に病院に連れて行った方が良いかもしれませんね」
「こらそこっ! ばっちりこっきり聞こえてるわよ!!」
ヒソヒソと話していた楓と六花をキッと睨みつけた会長は、いつもは部屋の隅に追いやられているホワイトボードを引っ張り出すと、ペンを取り出して何かをスラスラと書き始めた。
「そうっ! 今日はクリスマスイブなのよ!!」
ホワイトボードにデカデカと『クリスマスイブっ!!』と書いた会長は、バシッとホワイトボードを叩き、皆へと振り返った。
「えーと、会長? つまり何が言いたいんですか?」
会長の行動の意味がわからず、六花がドストレートにきくと、会長は、はぁーっと深くため息をついた。
「まったく。六花、あなたそれでも生十会副会長なの?」
「……とりあえず怒っていいですか?」
「どーどー、六花落ち着いてってばー」
まったく、これだから最近の若い奴らは、などと両手をあげてやれやれと首を振る会長に、軽く殺意を抱いた六花が、頭に怒筋を浮かべて小さな小刀を『氷結』によって作り出していると、桜がそんな六花の腕を掴んでどうにかやめさせようとしていた。
「今日はクリスマスイブ。つまり、リア充の日なのよ!!」
「「「「……は?」」」」
会長の予想外過ぎる発言に陽菜を除いた生十会メンバーが固まっていた。
「……えーと、会長?」
どうやら六花は先ほどの怒りもどこかに行ってしまったらしく、こめかみに指を当てていた。
「六花。あなた、彼氏はいるの?」
「……え?」
「どうなのよ」
「い、いませんが……それがなにか?」
「なんでよ!!」
「……はっ?」
突然、机を両手でバシンと叩きながら叫ぶ会長に、六花は目を丸くしていた。
六花だけじゃない、他のメンバーも各々で違いはあれど、共通して驚きを示していた。
真冬は驚きのあまり、さっきからちびちびと飲んでいた湯呑みを膝に落として溢してしまい、猫舌なのが幸いしてぬるかったため火傷はしなかったが、アワアワとあたふたしていた。
桜も未だに六花の手を押さえながら目をまん丸にし、楓はちょうど欠伸をしていたため大口開いて固まっている。
陽菜は最も変化が少ないが、いつもよりも若干目が大きくなっていた。
「だから、なんで彼氏がいないのよ!!」
「えーと、そんなことを言われましても……」
出会いが無いと言ってしまえばおしまいなのだが、六花としては誰かと付き合うと恋人になるとか、そういうのは考えられなかった。
(まあ、結と話しているのは楽しいですが、これはあくまで友人として……ですしね)
「うぅー。会長さんが変なこと言うので溢しちゃいましたですぅー」
「うわっ! 真冬ちゃんビショビショじゃん! ハンカチ一枚じゃ足りないでしょ? はいこれっ」
涙目になっている真冬の声で硬直が治った桜は、真冬の膝、というより、太もも近くなのだが、そこがお茶でビショビショになっているのを見て、真冬の持っているハンカチだけでは足りないだろうと思い、スカートのポケットから自分のハンカチを差し出していた。
真冬はポンポンとスカートを叩きながらお礼と共にハンカチを受け取ると、「洗って返すですぅー」と変わらずの涙目でフキフキしていた。
「真冬に桜? ハンカチだけでどうにかなる量ではないと思いますよ?」
「うぅー。そうかもですぅー。あぅ、下着までビショビショですぅ」
とりあえずポタポタと水滴が落ちない程度までは拭いた後、真冬は立ち上がり、スカートの中に手を下から入れて下着の確認をしていた。
「でも、真冬ちゃん着替えとかあるの?」
「体育着くらいあるんじゃないですか?」
「あぅー。体育着持ってきてないですぅー」
「あちゃー」
「真冬ちゃん。ならこれを着なさい」
今日は体育着を持ってきていないらしく、涙目になっている真冬に、会長は椅子の下に置いていた複数の紙袋の内、その一つを真冬に渡した。
「会長さん? 何が入ってるですぅー?」
「服よ」
「えーと、会長さん?」
「……真冬。どうやら諦めた方が良さそうですよ? こうなった会長は意地でも言いそうにないですし」
紙袋の中身は状況的に衣服だということはわかっているのだが、どうしてそんなものを持っているのか気になり、どんな服なのかを聞いたつもりだったのだが、会長は何故か答える気が全くないようだった。
六花の言葉に真冬は困り顔を見せるものの、このまま濡れているのは気持ち悪いらしく、あぅあぅいいながらも、紙袋を受け取った。
「着替えてくるですぅ」
「い、行ってらっしゃい」
まるで戦地に赴くかのような表情になっている真冬に、桜たちは苦笑いをしていた。
(まあ、会長のあの感じ、嫌な予感するよねー)
心の中で真冬にお祈りを捧げる桜だった。
「えーと、それで会長? 突然どうしたんですか?」
真冬の一件でスルーされつつあった会長の最初の言葉に、六花が割と嫌そうに反応を見せると、会長は花が咲いたかのように笑顔になった。
そして、すぐに不機嫌そうな表情になった。
「クリスマスイブっていうのはね。リア充の日なのよ?」
「た、確かに。クリスマスイブを恋人と過ごすような人もいるらしいですが、一番多いのは家族と過ごすことらしいですよ?」
「そんな集計あてにならないわよ! クリスマスイブはリア充の日なの! これで決定なの!」
「……は、はあ。それはわかりましたが、それがどうかしたんですか?」
「六花。あなたはこのリア充の日をどのように過ごすつもりだったのかしら?」
「え? そうですね。ケーキでも作ってささやかに過ごそうかと思っていましたが……」
「ハッ! この非リアがっ!!」
「……なんでしょうか。この気持ちは」
偉そうに仁王立ちしながら叫ぶ会長に、六花は拳を握り、引きつった笑みを浮かべていた。
「あたしたちは中ニなのよ!? 普通なら恋愛道まっしぐらなのよ!?」
「恋愛道とやらは知りませんが、つまり会長はこの仮称リア充の日をリア充したいと?」
「そういうことよ!!」
自信満々にそう宣言した会長に、皆、あの陽菜さえも深いため息をついていた。
「な、なによ!」
「会長? キャラ、変わり過ぎじゃないですか?」
「そ、そんなことないわよ」
会長はそっぽを向いて吹けもしない口笛を吹いていた。
「会長は彼氏が欲しいんですか? それとも、この日をみんなで楽しく過ごしたいだけですか?」
「最初の言ったじゃない。女子会よ」
「……つまり後者ということですか……」
「なあ、会長。このリア充の日とやらは女子だけで集まっててもリア充してると言えるのか?」
「……むしろ、悲しいような、虚しいような気もするのですが……」
「うっ……。い、いいじゃない、そんなことはっ」
会長が顔を赤らめ、そっぽを向いていると、ドタバタ誰かがこちらに向かって走ってくる音がした。
「か、会長さん!! なんですかこの服はっ!!」
扉をバンっと開けて登場したのは、先ほど着替えのために席を外していた真冬だった。
「何って、可愛いでしょ? ーー」
赤地に白い縁取りのある服。
つまり、
「ーーサンタ服」
サンタクロースが着ているといわれるアレだ。
恥ずかしそうに自分の体を抱きしめる真冬は、涙目で訴えていた。
「サンタ服は百歩譲っても良いです! でも、このデザインはなんですか!!」
両目を大なり小なりの記号のようにしながら叫ぶ真冬。
着ているサンタ服は一言で言ってしまえば、布地がやけに少なかった。
肩から先ははタンクトップのように全て露出しており、上半身を覆う生地も範囲が小さく、胸元がチラチラと覗き、おへそは完全に丸出しだ。
それに、サイズが合っていないのか、下から覗くと二つの白い山の下部が見える。
下も女子用のサンタ服だからなのか、スカートになっている。もちろんただのスカートではなく、超が付くほどのミニスカートだ。
赤いブーツに白のソックス、絶対領域と呼ぶにはスカートが短過ぎるため広いのだが、白くやわらかそうな太ももは男子の目を集めるだろう。
「なによ。ちゃんと着てるじゃない。帽子まで……」
恥ずかしそうに文句を言っている割に、真冬はウサギの耳のようなものがついているサンタ帽をしっかりと着用していた。
「そ、それは……」
「可愛いでしょ?」
「うぅー」
「可愛いでしょ?」
「は、はいですぅー」
恥ずかしいのは本当のようだが、男子がここにいないため、コスプレのような感覚で楽しんでいるようだった。
「あぅー。真冬だけこんなの恥ずかしいですぅー」
「あら、安心しなさい真冬ちゃん」
「ふえっ?」
「……えっ……」
モジモジとしている真冬の両肩に手を置き、満面の笑みを見せる会長に、みんなは嫌な予感がしていた。
六花はちらりと会長の椅子の下に置かれた、紙袋たちに視線を向けた。
「か、会長? もしかして今回の目的って」
「ええ。そうよ。さっ、着替えましょ?」
「い、いやぁぁぁぁぁあっ!!」
満面の笑みで紙袋を持った会長に、六花は叫び声をあげていた。




