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8ー17 ち、違うわよっ!!

(一か八か、やるしかないわね)


 会長は一つの決意をした。


「あんたたち、退きなさい」

「ぐっ……」


 それは賭けだった。

 目を細め、あからさまに怒りをあたりに放出する。

 美人ほど怒ると怖く感じるが、これは美少女にも当てはまる。

 会長ほどの美少女が不機嫌そうに目を細めれば、それだけで見るものは恐怖を感じる。

 短く言った会長に、敵兵は半歩、一歩、二歩と少しずつ、着実に下がっていた。


「お、臆するでない! 相手は所詮小娘だ!」

「で、ですが……」

「隊長はわからないんですか! あの子めちゃくちゃ強そうですよ!? 幻力量が我々とは桁違いです!」

「えっ……。感知タイプの間島(まじま)がそう言ってるってことは確実にやばいですよ! 隊長!」

「だ、だが……」

「そ、それに相手はあんなに怒っているんですよ!? 危険です!」

「なぜあんなにも怒っているのでしょうか……」

「ただ短気なだけではないでしょうか?」

「いや、もしかすると……」

「佐藤、それ以上は殺されるぞ……」

「うっ」


 何かを言いかけた、いや、まだかけらも言っていないのだが、注意されたその兵はしまった顔で口を押さえていた。

 そんなやりとりに会長は疑問符を浮かべるものの、相手が明らかに戦意を失いつつあることがわかり、内心喜んでいた。


(よし……。このままいけばどうにかなるわね)


 とはいえ、まだ油断は出来ない。

 注意を払いつつも、会長は怒気を周囲に拡散し続けていた。


「お前ら、まだまだだな。よく見てみろ」

「な、なんだいきなり」


 後ろの方にいた兵の一人が前の兵に話し掛けていた。


(随分と余裕あるわね……)


 敵の前だというのに雑談を始めている敵兵たちに会長は内心呆れていた。


「よく見るんだ。美少女が二人で抱き合っているんだぞ?」

「……そ、それでなんだ?」

「あの強気そうなお嬢ちゃんが美少女を抱き締め、その美少女は泣いている。これから何が推理できる?」

「一体、なにを?」

「わからないのか! ならばこう言えばいいか! 抱き締められている方は泣き、抱き締めている方は怒っている。ここから何が導き出されると聞いているんだ!!」

「そんなの知るか!!」

「ええーい! この馬鹿どもが! せっかく恋人と抱き合っていたのに邪魔されたらそりゃ泣いたり怒ったりするだろうがっ!!」

「な、なんだってー!!」


(こいつら馬鹿だわっ!!)


 会長は雑談の内容に心の中で絶叫をあげていた。


(ていうか! あたしは女よ!! なんて失礼な奴らなのよ! ……そりゃ、小さいかもしれないけど……でも……あ、あるにはあるんだからねっ!!)


 会長は心の中で叫びながら泣いていた。

 

「だ、だか、お前も言う通り二人とも美少女、つまり女なんだぞ!?」


(……そういえば、言ってたわね。……え、あたしの被害妄想?)


 今度は四つん這いになって落ち込む会長。心の中での行動なのだが、なんとも器用なことだ。


「なにを言う!! 同性だからそこに愛があってはいけないのか!! そうだろ!!」

「……えっ……」

「……まさか、あの噂は本当だったのか?」

「ち、違う! これはあいつが勝手に言っているだけだ! 俺はノーマルだ!」


 雑談をしている奴らは漫才でもしているのだろうか?

 さっきから妙なことを言っている奴がそれを適当に流していた奴の肩に両手を置いて熱く語った途端、二人に向かって周囲から妙な視線が送られていた。


(えーと、どういう…………あっ)


 肩を抱かれている方は否定しているのだが、そこでどういうやりとりがされているのかわかった、わかってしまった会長は、かすかに顔を赤くしていた。


(……って! そもそもあいつはあたしと六花がこ、恋人だと思ってるってわけ!?)


「貴様らっ! くだらぬ問答はよせ!」

「ですが隊長! 奴を見てください! 明らかに動揺しています!! 図星だという何よりの証拠です!!」

「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」


 堪忍袋の緒が切れた会長は片手を六花から離すと、その手を愛剣、『緋緋斬心(ヒヒザンゴコロ)』を抜くと、がむしゃらに何度も振るった。


「ひっ!! 隊長! 逃げましょう!! あの女、絶対やばいです!」

「ぐっ、し、しかし……」


 最初の会話からして感知タイプらしい兵の言葉を聞き、隊長らしい奴は考え込むと何かに気付いたように目を見開き、ニヤリと笑った。


「貴様ら。構えよ!」

「なっ!! 隊長!?」


 隊長も怯えているようだったため、退散するのだと思っていた兵たちは、まさかの命令に動揺が走っていた。


「恐るでない! あの者の足元を見るのだ!」


 隊長の言葉に兵たちは会長たちの足元にあるもの、そう、既に氷は砕け散り気絶して倒れる二人の男に目を向けた。


「隊長! あの二人は隊の中でもいつも真ん中くらいの実力を持った者たちですよ! やばいです! 逃げましょう!」

「恐るな! よく見るのだ! 確かに二人はそこに倒れている、しかし、倒れているのだ!」


 隊長の言葉に兵たちはハッとしたように目を見開く。


(ちっ……。不味いわね)


 会長は状況が変わったことを悟った。


「倒れている?」

「そうだ! 二人はまだ消滅していないのだ! つまり、トドメを刺されておらん! この小娘どもは戦士になりきれていない甘ちゃんなのだ! 加藤の言っているような理由で泣いているのではない! 覚悟がないが故に泣いているのだ!」


 隊長の言葉に会長は心が冷たくなるのを感じた。


(六花のことを何も知らないあんたが六花を軽んじるな)


 殺しはしない。

 消滅はさせない。

 こんな奴の心は背負わない。

 だが、こいつは今すぐ斬って捨てたい。

 そう思う会長だが、状況はより悪くなってしまった。


「この小娘はただ威嚇しているに過ぎん! つまり、それだけこの状況を脅威と捉えているのだ!」


 バレた。


「皆の者! かかれっ!!」

「おおおおっ!!」


(仕方ない。どこまでやれるかわからないけど、六花だけは……)


 前と後ろ。

 両方から敵が迫るのを見て、会長は覚悟を決めた。


「逃げるのですぅー」

「!」


 どこかからか声が聞こえた。


(そうよ。この危機から脱せるのは何も戦うだけじゃないわっ)


「暴れないでねっ!」


 会長は剣を鞘に戻すと六花の膝の裏に腕を滑り込ませて、俗に言うお姫様だっこをした。


「おお!! やはりカップルではなきか!!」

「加藤黙れっ!」


 先ほどの男がなにやら興奮しているようだがそんなことは知らない。

 戦う以外にも選択肢はある。庭側に逃げるのは悪手だろう。ならばと思い、会長は戸を押し破ると屋敷の内部へと進入した。

 戸は全て手が使えない以上足で開ける。はしたないが今はそんなことを言っている場合ではない、回し蹴りをするかのように戸を開けて次々と進んで行く会長だが、何かに気付き、眉をひそめた。


(しまったわね。忘れてたわ)


 どうして自分が屋敷の中に逃げようと思わなかったのか、その理由を会長は思い出した。

 立っていた縁側の両サイドから敵は来たのだ。ならば、屋敷の中に逃げれば良い。そんなことはわかっていた。

 しかし、しなかったのだ。

 会長が感じていたのは複数の雑魚の気配だけではない。

 たった一つ、他の雑魚共とは別行動を取っている様子の強者の気配。

 その気配は、たった今会長が向かっている屋敷の中から向かってきていたのだ。


(正面は強者。後ろは雑魚の群れ。あたしは戦闘不可……。あら、これって既に積んでるんじゃないかしら?)


 次の戸を開けた瞬間、会長はとうとうそれを目視した。

 同じような和室が続いていたが、これまた同じような和室。その中心に立っているのは小柄な少女。

 生十会の中でも小柄な真冬と同じ、もしかするともっと小さいかもしれない。

 セミロングの茶髪と頭のサイドから伸びている尻尾が特徴的な可愛らしい少女。

 小柄で愛くるしい容姿をしているため、見ているだけで癒されるようだ。

 しかし、会長の表情には緊張が走っていた。


(な、なにこの子……)


 この少女を見た瞬間。会長は悟った。この世の広さを知った。


(……あたしは、思い上がってたみたいね)


 会長は天才だ。

 会長自身、それは自覚していた。

 しかし、目の前にいる少女はおそらく同い年、または一つか二つ下。少なくとも年上ではないだろう。

 この少女は、明らかに自分よりも格上だと、悟ってしまった。


「はじめましてなのですぅー」


 会長がその少女にどこかで感じたような思いを抱いていると、少女はニッコリと微笑みかけた。


「あれあれー? 生十会副会長、柊六花さんはやられちゃったのですかぁー?」

「……違うわ」


 会長が抱えている六花に視線を向けた少女を驚いたように言った。返答をしつつも会長はほっと息を吐いた。


(この子、敵意はなさそうね)


 もしこの子に敵意があるとすれば、心装をしていない自分なんて一瞬でやられてしまうだろう。

 笑顔で気さくに問い掛ける少女を見て、敵意はないのだろうと判断する会長だが、すぐにそれをあたらめる。


(……いえ、実力差がわかってるからかしら)


 その気になれば一瞬。

 それがわかっているからこんなにも敵意を感じないのではないのか。会長は少女への警戒心をあげていた。


「あっ。そんなに警戒しなくても大丈夫なのですよぉー? 輪廻。それが輪廻の名前ですぅー」


 輪廻(りんね)と名乗った少女は自己紹介をするとまたニッコリと微笑んだ。


「さてと。二人は先に言って欲しいのですぅー」

「えっ?」

「ここは輪廻に任せるのですぅー」

「で、でも……」

「早く行くのですぅー」


 会長には輪廻の心の内が読めなかった。だけど、輪廻は力の差をきっと、いや絶対に理解している。ならば不意打ちや罠ってこともないだろう。


「あ、ありがとう」

「はいっなのですぅー」


 疑問はあるものの、会長は礼を言うと輪廻の横を通り過ぎ、元々空いていた戸の先へと走った。

 会長が通った瞬間、空いていた戸は勝手に締まり、同時に輪廻の笑顔が消えた。


「ふぅー」


 輪廻が一息つくと同時に、会長たちを追っていた雑兵たちが到着した。


「こんにちはなのですぅー」

「だ、誰だ貴様っ!」

「輪廻の名前は輪廻なのですぅー。早速で悪いのですが、消えてくださいなのですぅー」

「なっ!!」


 輪廻が指を鳴らすと同時に、目の前にいた大勢の雑兵たちが文字通り、

 消えた。


「ふぅー。さーて、そろそろ帰るのですー? でもー、久し振りにお師匠様に会いたいのですぅー。でもでもーそれは命令違反になっちゃうのですぅー」


 輪廻は腕を組んで独り言を繰り返すと、ポンっと手を叩いた。


「決めたのです! ばれなきゃいいのです! ばれなきゃオーケーなのですっ!」


 輪廻は両手で小さいガッツポーズをすると瞬間、その場から消えた。





 

 昨日ぶりです!!

 今回書いてて思ったのですが……これってガールズラブに入るのでしょうか?

 うーん、別にそういう描写があるわけじゃないのですが、ラインがわからないです。

 それでは、また明日お会いしましょう!

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