8ー13 えっ、メタい?
ガレージの上にあった巨大な通気口。
通る者を拒むプロペラを会長と六花、二人の連携によって力の消費を少なく、エコに壊した後、さすがに大きいとは言え、立ったまま入ることは出来ずに、匍匐前進で進んだ。
二人同時に進むのは無理なので、会長が前を進み、後ろから六花が目を瞑ったまま追っていた。
「えーと六花? まあ、あたしも女子だし? スパッツとか、ああいうの好きじゃないから履いてないし、スカートの中身見られるのは恥ずかしい気持ちはあるわよ? けど、あたしたち同性だし、そんなわざわざ目をつぶらなくても良いわよ?」
二人とも着ているのは【F•G】の制服だ。つまり、スカート、それもミニスカートなのだ。
狭い通気口を進むためには、どうしても匍匐前進、というより赤ちゃんがするようなハイハイをしなければならない。
そんな道を列になって進んでいると、後ろの子からは丁度正面に前の子のスカートの中身が見えそうで見えない、そんな光景になってしまう。
後ろで目を瞑りながら進む六花に、会長はうっすらと赤くなりながらも言った。
「会長? 会長は私がレズだとでも思っているのですか? 別に会長の白と赤のストライプの下着が見えたところでなんとも思いませんよ?」
「ちょっ、り、六花!? あたしに気を遣って目を瞑ってたんじゃないの!? 何しっかりと見てるのよ!!」
スカートの中身を実況され、ほんのりどころか真っ赤かに顔を染め上げた会長は、羞恥のあまり、進みを止め、両手でスカートを押さえていた。
とはいえ、格好が格好だ。まったく、完全に、パーフェクトに、無駄だった。
「はぁー。私は幻力感知をしているだけです。私の場合、感知には目を瞑ることは必要となりますが、別に動いてはいけないわけではありません。こんな不自由な通路、敵の有無は常に把握しなくてはいけないじゃないですか」
「そそそ、そうだけど……」
呆れた表情で正論を言う六花に、会長は声をフェードアウトさせていた。
「それから会長。今の所は周囲に誰もいないようですので大丈夫ですが、あまり音を、声も出さないでください」
「そ、そうだけど……」
「はぁー。会長? こういう時の緊急連絡手段もガーデンで習ってますよね?」
「……あっ、あれね!」
「……はぁー」
大声を出すなと言っているにもかかわらず、その直後に大声を出した会長に深い、これまたどこまでも深いため息をつく六花だった。
六花が目を開けると、未だに顔を赤くし、立ち止まりながら六花に顔を向ける会長が見えたため、六花はパチパチと独特なテンポのまばたきを繰り返した。
そんな六花に会長は六花とはまた違うテンポでまばたきを繰り返すと、最後に頷き、再び進み始めた。
こういう時、つまり、音を出すことが出来ない状況での連絡手段とは、まばたきによるモールス信号のことだ。
さっきの二人のやりとりは、
「止まっていないで早く進んでください」
「わかってるわよ」
と、こんな感じだ。
ちなみに、まばたきによるモールス信号、幻操師たちはこれのことを『瞬話』と呼んでいるが、これには日本語独特とも言える個人による言い回しの違いがない。
そのため、本来の会話では
「止まるな。進め」
「わかってる」
という、とても冷めた会話になっている。
『瞬話』では身分も気にせずに、内容を短く伝えることが良いとされているため、『瞬話』の会話をそのまま伝えるとキャラ崩壊が起きるために、というより、キャラが立たなくなってしまうため、ここは自動翻訳させてもらう。
進むこと数分。再度目を瞑りながら進んでいた六花だったが、会長が止まったことで目を開けた。
「どうしましたか?」
「六花。ここ、下が見えるわ」
立ち上がることは不可能だが、ハイハイができるぐらいのスペースはある。会長は少し進んで振り返ると、丁度目があった六花の『瞬話』に『瞬話』で答えた。
ずっと何も見えない一本道だったのだが、どうやら通気のための口をやっと見つけたようで、会長の示す先には網、というより柵があった。
「会長の炎で焼き切れますか? もちろん音無しでですが」
「ええ。これくらいの太さなら片手でいけるわ」
三度『瞬話』で会話した後、会話は柵の一本を片手で握ると、もう片方の手の指をそっと当てた。
すると、会長の指先から光が漏れ指を離すとそこは綺麗に焼き切れていた。
そんか調子で全ての棒を焼き切った後、二人はそうして出来た穴を使って通気口から出た。
「んー。ふぅー。やっと普通に動けるわね」
「はぁー。通気口から出れたからといって、私たちの進入がバレてはいけないことは変わりませんよ?」
「あの後もずっと目を瞑ってたじゃない。この近くには誰もいないんでしょ? それなら問題ないじゃない」
「それは、そうですが……」
「ほら。さっさと結のバカを探すわよ」
「……はぁー。了解です」
警戒心も無く、六花の感知力を信じ切った様子でどうどうと進む会長に、六花は呆れるようにため息をこぼしながらも、その表情は柔らかくなっていた。
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